【風が吹くまま(THE WIND WILL CARRY US)】 1999年 神様のいたずら
――――山あいの小さな美しい村にやってきた、TVクルーたち。彼らの目的は、この村で行われる葬式の珍しい儀式を取材すること。もちろん村人には本当の目的は内緒にしている。しかし、もうすぐ死ぬはずだった病気のおばあちゃんはなかなか死なず、クルーたちのイライラは募るばかり・・・・。 いつか中古のビデオを買ったまま、ずっと放置してあったキアロスタミ監督の代表作。この監督のロングショット長回しは、こころに余裕のあるときでないととても気が向かなくて、今までずっと後回しになっていた。やること成すことなかなか上手くいかない、主人公の苦悩と焦りを眺めていると、風が吹くまま、のんびり構えていなくちゃいけない時が人生にはあるのだと、思う。この物語の場合、主人公が待っているのは人の死だから、なおさら人知の及ばぬ領域なのだった。携帯が鳴るたび、電波の届く小高い丘まで、くねくね道を何度も行き来する。そんな不便さを、主人公が「風まかせ」と笑っているなら別だけれど、いくら心得ている彼だって、テヘランから何百キロも離れたこの村で、儀式が行われるのをただなにもせずにいつまでも待っているのはツライ・・・・。単調な場面の繰り返し、いつになくシンプルな構成、持て余しそうなくらい緩やかな時の流れ。半ば諦めて待つうち、物事は突然動きはじめて、思いもよらない結末を迎える。入り組んだ造りや、白い壁に映える青など、不思議な構造の家々が画的にとても魅力だった。まるで『望郷』にでてきたアルジェリアの"カスバ"のようで。---------------- 監督・製作・脚本 アッバス・キアロスタミ 撮影 マームード・カラリ 出演 ベーザード・ドーラニー ファルザド・ソラビ バフマン・ゴバディ (カラー/118min/イラン=フランス合作)