【ブンミおじさんの森】 2010年 森や丘を前にすると 動物や他のものだった 私の前世が現われる
不思議なおはなし。監督の観念が脈々と流れるエイガは、おのずと解りにくくなる。けれども、村と都会を対照的に描いたやさしくも真摯な眼差し、漂う無常感は親近感が持てる。深遠な森の息づかい。目には見えない大切なもの。(あらすじ) タイ東北部のとある村。腎臓の病気で死期の迫ったブンミの元に、ある夜、死んだ妻フエイと、行方の分からなくなっていた息子が不思議な生き物の姿となって戻ってきた。やがてフエイに導かれ、彼は深い森の奥へと足を踏み入れていく――。ブンミの物語を軸に、さらに二つのストーリーがさりげなく交差する。彼の見舞いに訪れた妹と、その娘が暮らす都会の息吹、そして、老化したわが身を嘆く王女さまの物語。鳥の声、虫の音をBGMに、自然の青と黒に縁どられた、不思議な死生観が作品全体を包み込んでいく。たぶん異世界への扉は、いつもすぐ傍で開かれている。輪廻する森は、いとも簡単に人間を飲み込んでしまう。だからこそ、大切なことを見失ったようなタイの都会での暮らしが、そっけなく侘びしく思える。ブンミの葬式を終えて、お金の勘定をする妹は、ホテルの一室で白けた雰囲気を纏っていた。テレビからは不穏なニュース、信仰心の薄い若者・・・・そこはかとない虚無感は、よくわからないなりにこころに沁み込む。 監督・脚本 アピチャッポン・ウィーラセタクン 撮影 サヨムプー・ムックディープロム 出演 タナパット・サイサイマー ジェンチラー・ポンパス サックダー・ケァウブアディー (114min/イギリス=タイ=フランス=ドイツ=スペイン)