【ジェリーフィッシュ(MEDUZOT)】 2007年 幻想の力をかりて、過去と現実に向かい合う
ステキな映画でした。それぞれに思いを抱えた女性たちの物語が、キラキラした優しい光に包まれた、テルアビブの美しい海辺の街で描かれます。結婚式場で働くウェイトレスのバティア。結婚披露宴の最中に足を骨折した新婦のケレン。フィリピンからの出稼ぎ労働者ジョイ。さりげなくすれ違いながら、登場人物たちはそれぞれの問題に向かい合う。悲しみも、幸せも、悩みも、過去の傷も、、、。やまない雨はないように、希望の灯は、日常に灯る。 恋人と別れたばかりのバティアは、海辺で浮き輪をつけた迷子の少女を拾う。両親が離婚してからは、父親とは疎遠で、ボランティアの仕事が忙しい母とは、電話で話すだけの仲。長い孤独を抱えていた彼女は、両親の見つからない浮き輪の少女に、過去の自分の面影を見る。この、バティアが感じているそこはかとない孤独は、心にすごく伝わってくる。足の骨折で新婚旅行がダメになり、市内のホテルに泊まることになった新婚夫婦の物語も忘れ難い。夫マイケルは、スイートルームに一人で泊まっている謎めいた女性に出会う。新婦ケレンはヤキモチを焼くけれど、詩人であるという女性の密かな孤独が、後にふたりを驚かせるのだった――― 出稼ぎ労働者ジョイのお話もそうだけれど、みんな、一番身近な人への思いやりを怠ってばかりいるようだ。一番見ていなくちゃいけないものを、見ていない。一番守らなくちゃいけないものを、守らない。それで上手くいかなくなって、つまづいて、孤独に沈むけれど、掛け違えたボタンをひとつずつずらしていくだけで、きっと幸せは近いような気持ちになれるのがいい。新婦ケレンの綴った、何気ない劇中詩が、とてもステキだった。たった80分で、この充実。 脚本がいいのもあると思う。役者さんの演技も自然で素晴らしい。イスラエルという国は、争いの歴史が今もなお続いているけれど、ここ数年で観たイスラエル映画は、ユーモラスなものが多い。ユーモアのわかる中東の国、っていいね。しかも今度のは、幻想と映像美を駆使していて魅力的。監督は恋人同士だという、エトガー・ケレットとシーラ・ゲフェン。現実と幻想の交差する、不思議な全体の雰囲気が大好きでした。● ● ● ●監督 エトガー・ケレット 、シーラ・ゲフェン 脚本 シーラ・ゲフェン 撮影 アントワーヌ・エベルレ 音楽 クリストファー・ボウエン 出演 サラ・アドラー ニコール・レイドマン ゲラ・サンドラー ノア・クノラー (カラー/82分/イスラエル=フランス合作)