【ミルコのひかり(ROSSO COME IL CIELO)】 2005年 五感を澄ませてはじめて見えるもの
(あらすじ) 1971年、イタリアのトスカーナ。銃の暴発で両目の視力を失ったミルコが、古いテープレコーダーとの出会いによって、新しい世界への扉を開いていく――。 イタリア映画の得意とする、少年を主人公にした小粒の良作。ことし公開となったイタリア映画『人生、ここにあり!』は、1978年の精神病院廃絶法の制定で起こるドラマを、ユーモア交えて描いている。 本作は、盲学校廃止の法律ができる、すこし前が舞台。イタリアの70年代はこんな時代だったんだ。伝統を重んじる盲学校で、次第に心を閉ざしていくミルコを変えたのは、彼の感性にいち早く気づいたジュリオ神父と、神父がこっそり与えてくれたテープレコーダーだった。ミルコは、管理人の娘フランチェスカやクラスメイトと共に、自然の奏でる音をレコーダーに記録していく。風の音、雨の音、鳥の羽音、手に入らない音はじぶんたちの手で作った。いつしかほかの生徒たちも加わって、声と音の小さな物語ができあがる。しかし、ミルコの行動に理解を示さない校長は、彼からテープレコーダーを取り上げて退学処分にしてしまうのだった、、。からだは五感のひとつが壊れるとそれを補うようにできています。演奏家が目を閉じるのは視覚以外の感覚を鋭くしているのです――そんなジュリオ神父のセリフが好きだった。テープレコーダーで音を集めるシーンを見ながら、わたしは『イルポスティーノ』を思い出していた。イタリアを舞台に、亡命詩人と郵便配達夫のこころの交流を描いたこの作品は、マッシモ・トロイージがレコーダーにナポリの島の音を集めて、詩人に思いを伝えるシーンがあったのだ。同じく、目の見えない彼らが学校を抜け出して映画を観に行く場面など、映画への郷愁があちこちに散りばめられていた。ひょとすると『イルポスティーノ』や『ニュー・シネマ・パラダイス』へのオマージュだったのかな。イタリア映画界で活躍する、盲目の音響技師の自伝小説が基となった物語。人生のターニングポイントに、良き導き手に出会えた幸運や、盲目であることを障壁としなかった秀でた感性にジーンときた。耳を澄ませて観たい、いい映画だった。† † † 監督 クリスティアーノ・ボルトーネ 脚本 クリスティアーノ・ボルトーネ パオロ・サッサネッリ モニカ・ザペッリ 音楽 エツィオ・ボッソ 出演 ルカ・カプリオッティ シモーネ・グッリー アンドレア・グッソーニ (100min)