第1章ベトナム編 窮地を救ったのはやはり飲食
新しい街に着いて早々雲行きが怪しくなってきた。今晩の寝どころが危うい まあまあとりあえずお昼ごはんを親戚の家で食べようということになり、荷物をすべて持ったまま親戚の家へ。 そこに家族がほぼ集まっていて、これが家の主のおじさん、おばさん、これが兄 お父さんと一人一人紹介され、食卓に着く。 いっせいに好奇の視線が僕に注ぎそして少しがっかりした表情を浮かべるのはどこも同じだ。何故ならどういうイメージを日本人に求めているかわからないが、僕のその容姿は紛れもなくベトナム人に近いものなので、本当に日本人なのか?冗談じゃないのかというのをみんなの顔から推測することができる。 それは一種の僕の特技?なのかもしれないが、しばらくその国の空気を吸うとその国の人になりきってしまえるらしい。 しかし、正月の質素でシンプルだが、素材の良さをいかしているベトナム料理やベトナムのビール、バーバーバーが目の前にあるのをだまって大人しく見ていられる僕ではなかった。これは何だろうこれはどんな味がするんだろうと今度は僕が食べ物に対する好奇の目線はごまかしようがなく、「こいつは食べれるぞ」とまた思われてしまい、食べろ食べろ攻撃がはじまる。 そして、僕の隣に座ったこの家の主のすさまじい飲みっぷりにだまって見ている僕ではなかった。 他の男たちは早くもギブアップして、ベトナム的ごまかし飲みでやっているのを横目に主のおじさんと同じペースで一気飲みの連続。 お父さんだんだん上機嫌、周りからはもっと食べろといろいろな食べ物が周ってくる。 飲めとビールがドンドン出てくる。 負けじと飲み食べる。そして、僕も負けじと日本的飲みの席での礼儀の一つ 主と奥さんに対する礼儀、感謝を忘れない ニコニコしながら品がよく、よくいろいろ気を利かしてくれる奥さん 僕は旦那に向かって「こんなきれいで気がきき優しい奥さんをもらってあなたはすごく幸せものだ」と言ったら、一同大爆笑。 奥さん照れながらニコニコ、旦那は誇らしげにビールをさらにあおる その後もさらに飲みすっかり主とお前なかなかやるなーとすっかり打ち解けて、 言葉は全然わからないが何故だか肩を組んで、「すごく気に言ったって言ってる」と友達から通訳してもらった。 一通り飲み食いが終わり、変な日本人を囲んだ楽しい昼食は終わり 散々飲んで主は昼寝に行ってしまい、おのおの好きなことをやっている。 僕も優しい奥さんの勧めで今日朝早く起きたのもあり、その家で昼寝をさせてもらうことになった。 それにしても何とも贅沢な時間だろうか、昔の日本の正月もこんな感じだったろうなー と、今年は元旦のみ休みで大晦日まで働いた僕にとっては何よりも贅沢で至福の時を思いながら眠りについた。 夕方近くになり目覚める。 奥さんがいつものニコニコ顔で出迎えてくれ、これ食べなさいとお菓子とコーラを持ってきてくれた。 そういえばもう夕方になるし、ベトナム正月だしホテルを探しに行かないと部屋がいっぱいの可能性が高いと不安になってきた。 友達に何気なくあいまいな感じに「今日私はどこに泊まればいいの?」と聞くとさっきとは違い意外な答えが、ここでも良いし、私の家でもいいよと やったーと思うと同時に何故だ?のクエスチョンマークが頭に浮かんだ、 やはり同じ食卓を囲み、同じものを食べ同じものを飲み、その文化に臆することなく触れることができると、今までどこの馬の骨ともわからない人間が自分達の同胞に思えてくるのだろうか。 後から聞いたことだが、最初会った時に友達のお母さんが家に泊めることはできないと言った理由は、家が狭いので日本人には合わないのではないかと、そんな狭い家に泊めるのは恥ずかしいと思ってのことだったらしい。 しかし、何にも臆することがなく、食卓に溶け込み自分達が食べるものとまったく同じものを食べているところをみて考えが変わったのだろうか、こいつなら大丈夫かと思ってくれたことが僕には嬉しく感じた。 これから泊まるところが決まり僕は正直ほっとして、見える風景すら違って見える気がした。昼寝から起きてきた主が僕の近くに座り自らお菓子や飲み物を勧めてくれる。 ニコニコと優しい微笑みをくれる奥さんも隣に座っている。 不思議と何を言いたいのかわかる気がするし、そこには言葉すら必要のない深い 愛情表現が含まれていた。 ふと友達を通して、この二人は僕のベトナムのお母さんとお父さんだと言うと、 お父さんはそうかそうかと満足そうに僕の肩をたたき、お母さんはより愛情深い微笑みをくれた。 日が暮れかけてきたので、再び荷物を背負いベトナムの優しいお母さんと、おちゃめなお父さんの家を出てビーチのすぐ近くにある友達の家へ向かった。 友達のお母さんが心配していたその家は確かに小さかった。そして、トイレとシャワーを浴びる場所が一緒になったお手洗いは電気がつかず真っ暗やみの中、手探りで水浴びをすることになったが、僕は何だかそこに受け入れてもらった気がして嬉しかった。 寝る時は寝るスペースがないので、友達は親戚の家に行って寝て、僕とお父さんと二人で寝ることになった。 お父さんに蚊帳をつけてもらい、夜と朝はお父さんと二人、言葉がまったく通じない奇妙な共同生活がはじまった。