わかりやすい認知行動療法20(セルフトークの作成)
セルフトークとはもともと、自分の心の中で無意識的・意識的につぶやいてしまう言葉のことです。そしてセルフトークはあなたの気持ちや感情にとても大きな影響を与えます。例えば「どうせ今回も失敗するに違いない」というセルフトークをつぶやくAさんと、「今回も最後は成功するに違いない」というセルフトークをつぶやくBさんでは、感情や結果に大きな差が出てしまいます。Aさんの感情は恐らく、恐怖、失望、不安などでしょう。行動面も、消極的、行動的になれないなどになります。一方Bさんの感情は、希望、挑戦心、あきらめない気持ちなどでしょう。行動面も積極的、行動的などになることでしょう。ここまで読んだあなたは、「ネガティブなセルフトークを良いトークに変えられたら、人生バラ色じゃないの?」と思うかもしれません。もちろん、ネガティブなセルフトークを変えるのは簡単ではありません。なぜならセルフトークは養育者(両親など)をはじめ、長年あなたがいろいろな要因から偏った影響を受け続けてきた結果、自然と頭に浮かぶようになったひとりごとだからです。ではセルフトークはどんな工夫をしても、変えられないのか?そんなことはありません。仮につらい目に遭うのが運命だったとしても、それを改善・緩和・解消していくことは十分に可能だと断言できます。その為に、今回紹介するセルフトーク作成に是非ともトライしてもらいたいと思います。セルフトークは、長期間の育成歴から影響を受けて自然と作られることは先ほど説明しました。そんなセルフトークには、次の6つの傾向があります。【第1傾向:完璧主義】あなたの養育者などは、ありのままのあなたを受け入れませんでした。または愛しませんでした。だからあなたはこう感じます。「完ぺきにすれば怒られないはずだ。受け入れてもらえるはずだ。愛されるはずだ!」と。ですが、それは間違いです。人間はそもそも不完全なのです(そのかわり、一人ひとりに個性がありますよね)。にも関わらず、完ぺきを目指そうとする姿勢はあなたを苦しめます。 【第2傾向:失愛恐怖】あなたは相手から愛されなければ、自分はおしまいだと思っています。なので相手から愛されるために、全力を尽くしてしまうのです。確かにかつて(乳幼児期等)はあなたの養育者のように、あなたにとって絶大な影響力がある人から愛されることは必要不可欠でした。ですが、あなたが大人になるにつれ、次第に自分自身で生きる力が増えていきます。その事実にあなたは目を向けていません。しかもあなたが愛されようとする相手は、もしかしたら、どうしようもない人間、邪悪な人間かもしれないのです。 【第3傾向:自立恐怖】あなたは養育者などから、いつまでも子供でいることを強いられた面がありそうです。養育者の思い通りにふるまうことを強制されてきたわけです。しかも幼少期にそうした理不尽な養育者の希望に反抗することは「死」を意味しました。成長するにつれ、あなたには自立して人生を主体的に生きる力が備わっているにもかかわらず、あなたはいつまでも養育者の言いなりに子供であり続けようとしているのです。 【第4傾向:幸福恐怖(罪悪感)】これは第3傾向と似ています。あなたの養育者などは自分自身のことを不幸だと思っています。自信がなく、他人を愛することができません。だから当然、最も身近な存在であるあなたが、幸福になるなんてことは許すはずがないのです。子供の頃から、あなたはそんな養育者などの気持ちを、あまりにも的確にとらえたことでしょう。幸せになってはいけないし、悪いのは私なんです…といつも思ってきたわけです。養育者から見捨てられたり、攻撃されないように。 【第5傾向:人間不信】人間が信頼関係を獲得していく上で、最も大切なのは養育者との信頼関係の構築です。とりわけ乳児時代に母親的存在から尊重され愛されることは重要です。また幼児以降も、両親等から愛されつつ健全に教育されることは重要です。そうしてこそ、健全な人間への信頼関係は生まれてくるのです。ですがあなたはそうした環境に恵まれませんでした。あなたが悪いのではありません!あなたを育てた人間・環境に大きな原因があったのです!もう自分を責めるのはやめましょう。そのかわり、その事実に気づいたあなたは、あなた自身の努力によって「植え付けられた人間不信地獄」から抜け出ればよいのです。あなたの人生の質を高めていく為に。認知行動療法によって勇気を持ち、ソーシャルスキルトレーニングで、具体的なノウハウを学び・練習すればよいのです。 【第6傾向:ナルシスズム(自己愛性)からの未脱却】人間は幼い時ほど、自分が世界の中心であると思い込んでいるものです。そして多くの人と関わり、多くの出来事を経験して「自分は世界の中心ではない。すべてに万能でもない。強みもあれば弱みもある。好き嫌いもある。一人の個性ある人間である。そして相手にも、私と同じように相手自身の人生があるのだ」という事実に気づいていきます。しかしこのナルシシズムからの脱却が十分でないと、全てに対して自分が強く影響を与えてしまうという感覚に襲われてしまいます。相手にも相手なりの考え、受け止め方、自由、責任等があるにも関わらずです。以上の6つが主なネガティブなセルフトークの傾向と背景でした。次にあなたは取り組むのは自分自身のネガティブなセルフトークに気づくことです。本来ならば無数にあるネガティブなセルフトークですが、まずは6傾向に絞ってチャレンジしてみましょう。 自分のセルフトークに気づいていく際に、役立ちそうな観点(ポイント)があります。以下にそれを列挙したいと思います。第1に自分を頼りにする姿勢に欠けていないかな?と振り返ってみる点です。第2に人間はどうしようもなく醜い、生きる価値もないような存在だ!などと「誇張しすぎたレッテル」を貼っていないか?という点です。(誇張しすぎるのはハリウッドザコシショウで十分です 私はザコシさん大好きです)第3に自分にはとにかく相手(周囲)から、承認されたくて仕方がないという気持ちがないかな?と振り返ってみる点です。第4に自分には業績(例:勉強・仕事・異性にもてる等)を上げたらはじめて自分には価値があるという考え方があるかな?と振り返ってみる点です。第5にもしもあなたが認知行動療法をやったことがある場合、結局役に立たないのではないかと疑ってないかな?と振り返ってみる点です。私も含めて殆どの人は、十分に認知行動療法に取り組めていません。やるほどに効果が高まるのが認知行動療法の強みです。もう1つの非常に有効な観点は「認知のゆがみの12の定義」からチェックしていくことです。これはかつて「悪い認知パターン12」で紹介した内容でしたね。1.全か無か思考2.一般化のしすぎ3.心のフィルター4.選択的に取り出す・注目する5.マイナス化思考6・結論の飛躍(心と先読み)<心の読みすぎ>&<先読みの誤り>7.拡大解釈と過小評価8.感情的きめつけ9.すべき思考10.レッテル貼り11.個人化12.自己予言 今までの説明で、あなたは自分のセルフトークに気づき、それがネガティブなのかどうか検討する観点が分かったと思います。今度は、フィクション(一部実例)の具体例を挙げたいと思います。セルフトークの効果の上がり方を確認してみましょう。(NGは悪いセルフトークとなります。良いセルフトークは修正の部分です。) 【傾向1:完ぺき主義のカテゴリー】NG:私は今度の昇進試験で絶対に合格しなければならない。今までさんざん頑張ってきたのだ。みんなも私のことを優秀な人間だと思っているに違いない。だから私は周囲の期待に応えなければならない!優秀な成果を出すべきなのだ!NGの結果:仕事に加えて昇進試験勉強にのめりこんだ結果、睡眠時間の激減、胃痛や頭痛の常態化、家族との絆が疎遠になるなどが起きてしまった。つらい。修正:確かにいつも仕事を頑張ってきたし、今度の昇進試験に合格できればそれにこしたことはない。でも絶対に合格しなくてもいい。昇進すれば職責や仕事量が更に増えてしまうデメリットもある。そもそも私が本当に大切にしたいのは、自分が幸せだと感じる時間を長くしたり、家族との交流や幸せだったな。昇進試験が仮に不合格でも、今後また実施されるだろうし、気楽にいこう。そもそもマイペースで学ぶ方が力まず効率的に勉強できる。気分が楽になる上、それでも合格の可能性はある程度見込めるな。ここがポイント!「修正」した上記セルフトークを、1日数回。じっくり味わいながら、受け入れながら何度も読み返す作業を行います。これにより、ネガティブなセルフトークを、意図的にポジティブなセルフトークへと変換するのです!修正結果:試験が無かった時期と比べると、睡眠時間が少し減少したままだ。しかし、心身症(頭痛など)の症状は起きていない。休日には家族との交流も楽しめている。その結果、良いコンディションで勉強できるようになって、学習効率が上昇。無事合格することができた。さらに意外なことに、後日「トップ合格じゃなかったな?」との役員からの問いかけに対して、私は笑顔でマイペースで対応できた点を報告した。家族との楽しい交流のエピソードも話した。すると「上司としての余裕を感じる」と役員陣から高評価されるようにもなった。 【まとめ】効果的なセルフトークを作成して何度も自分の心の中で唱えるようにすることで、自分が苦しんでいた状況を好転させたり、つらかった気持ちを良い方向へと変えていくこと。そのためには、認知行動療法の実践=考えて行動しなくてはなりません。現実を幸せに生きるためには、「Thinker(考えるだけの人)」ではなく「Doer(行動して変えていく人)」として生きる姿勢が大切です。私が尊敬する國分康孝先生の教えです。【注意】わかりやすい認知行動療法シリーズは1からはじまっています。本格的に学びたい方は、1からはじめてみてください。