古酒におぼれて
ついでに先月の京都ディープツアーのご報告もしておきましょう。前回は「三条会商店街の巻」のプレツアーで、京町家ひよりでの「古酒の会」がメイン。商店街の様々なお店や喫茶さらさ、おもちゃ映画ミュージアムなどを巡り、夕方からは七夕夜店を楽しみました。(*ひよりさんのHPから写真をお借りしました)「古酒の会」の古酒とは日本酒を熟成させたもの。日本酒は新しく造られた新酒が普通好まれますが、室町時代には3年以上寝かした成熟酒が尊ばれたという記録が残っているそうです。宮廷内でも9年酒が造られ、重要な儀式に用いられたとか。なので江戸期までは高価な古酒がつくられていました。しかし財政に困った明治政府がかけた重税のため、この古酒は作られなくなります。戦後にその税が撤廃されてもなかなか復活出来なかった古酒でしたが、近年ようやく出回り始めたそうです。その悪税とは「造石税(ぞうこくぜい)」これは日本酒をしぼった瞬間に課税対象にするというもので、一旦税を収めた酒を、腐らせる危険性を冒してまで古酒に成熟させようとする酒造がなくなったからです。また明治政府は西洋化を進めるため日本酒有害論を持ち出し、宮廷内での酒の製造も禁じます。なので皇室の婚礼の儀には、9年酒の代用の「黒豆を酒と味醂で煮た煮汁を、半分程度に煮詰めたもの」を用いることになったとか。(つまり皇室の伝統ある儀礼も、政府の意向でなんとでもなるのです)この「古酒の会」を主催されたのは伏見の酒屋・中畝酒店さん。酒は放っておくと酢になるというのはウソで、慎重に寝かせた日本酒はまろみと味わい深さが高まるとのこと。熟成古酒の定義は「3年以上蔵元で熟成させた、糖類添加酒を除く清酒」。清酒は頭で酔い、古酒は身体で酔うとも言われます。成熟することでアルコールの分子が水と馴染み、刺激が和らいでまろやかになると考えられています。色も琥珀色で、ちょっと中国の紹興酒みたい。肉や濃い味のつまみにしっかり合うんです。だから清酒とは飲み分けるのがよさそうです。縁側にすだれ、座敷には簾戸(すど)がはめ込まれた町家には、10名程の参加者が集まりました。年齢層も幅広く、若い女性もおられます。浴衣姿の中畝酒店の中畝さんが巧みな話術とパソコン画像でいろいろと説明されるにつれて、3年もの、5年ものと次々と古酒の瓶が廻って来る。それぞれ仕込む原酒も異なるので、味も香りも様々。用意された各種の料理との相性も比べながら一同、あれこれと歓談するひととき。さすがは酒好きの皆さん、見事な飲みっぷりと的確な評価。深い経験が感じられ、大変勉強になりました。結局、熟成3年のダルマ正宗、洞窟低温熟成酒の熟露枯(うろこ)、うなぎのねどこや五人娘、などなど10種もの古酒を味わいました。そして最後に、予告編として中畝酒店さんが現在、取り組んでいる海中熟成酒のご紹介。これは駿河湾の海底に沈めて数年寝かした酒で、温度と海流の振動などで独特の成熟が進むのだそうです。話を聞くだけでワクワクして美味しそう。男の人ってこんな話題がお好きですね。と隣のお嬢さんがくすりと一言。そうだね、男はこんなロマンにコロッといく。意外に女性の方が舌でクールに判断するのかもねえ。などとワイワイやりながらお開き。楽しく興味深いひとときでした、が、その時気づきました。しまった、飲みすぎた。とりあえず酔いを醒ましながら、商店街を歩いでおもちゃ映画ミュージアムへ。友人たちに自慢の手回し蓄音機でビング・クロスビーを聴いてもらったりして過ごし、その後はもはや飲み会に移る元気もなく、商店街の夜店を散策し、ひよりまで戻る。先程の参加者の方々やおつまみを用意された業者さんらも集っておられ、縁台でビールで乾杯。限度を超えるまでの私は楽しく飲むんですが、それがいけない。天国から地獄に一気にドボン。家にたどり着いた私は、もはや限界オーバー。古酒は悪酔いしないそうですが、私は先に胃腸がやられるタイプなので、腹をかかえて悶絶。とうとう洗面器を抱えて朝を迎えました。そして数日はお粥や麺類の毎日。のち1ヶ月は尾を引き、気力の失せた夏となりました。 ほどほどがいいですね、何でも。