百パーセント、ここにいる
ヨガをする。最近身体がすっきりしないので、いつもより時間をかけて、ていねいに。妊婦さん用のゆるやかなプログラムだけど、前傾ぎみの姿勢など、ずいぶん動きにくくなってきた。それでも、1時間ばかりつづけたらだいぶ気持ちが落ち着いた。芯が通ったというか、重心が下がったというか。家事でも、食事でも、読書でも、今やっていることにじっくり向き合える感じ。それで、このところ、何かしながら常にほかのことを考えていた(テレビを見ながらごはんを食べる、さんぽしながら晩の献立を考える、読みかけの小説を放っておいて買ってきた雑誌を読む)と気づく。思うように動けなくても、身体の感覚に耳を澄ませフォーカスしようとする、その時間が大事なんだろう。「百パーセント、ここにいる」という言葉を思い出す。梨木香歩『不思議な羅針盤』のなかで、『日日是好日』の著者、森下典子さんの言葉として引かれていた。孫引きになるけれど、さわりだけ紹介したいと思う。25年間お茶を習いつづけている森下さんは、20代のころ、「自分だけ、人生の本番が始まらないような気がした」という。お茶のお稽古に行っても、「こんなことしている間に、みんなはもっと先に行ってしまう」と思う。先生に「あなた、今どこかよそに行っちゃってるでしょ」と言われる。ある日、いつものように濃茶を練っているとき、森下さんは「今、お茶の葉が目覚めた!」という感触を得る。気がつくと焦りは消え、心のすべてを傾けてお茶を練っている自分を発見する。「その時、私はどこへも行かなかった。百パーセント、ここにいたのだ。」(森下典子『日日是好日』より)そう言えば、敬愛する詩人メイ・サートンも、『海辺の家』の中で書いていた。「中心を失わないための秘訣は、あらゆることを絶対の集中力でやってのけることだ。庭づくりをするときはそれがいちばん大事なことのように、書くときにも同じこと、友達に会うときにも、彼らのもたらすものに心を完全に開いていること」目の前にあること、今やっていることがもっとも重要であるかのように振る舞う。百まではいかなくとも、百に近づける努力をすることが、「日日是好日」、宝物を見落とさずに暮らす秘訣かもしれない。ヨガはその、いい練習になるみたいだ。