つばさを広げる
誕生日。ぴかぴかの秋晴れ、小春日和の一日。仕事もたまたま休みが重なったから、今日はもうゆっくりしようと決めて、のんびり布団を干したり、ジョギングの代わりにカメラを持って散歩したり。日付が変わるころ、妹たちからメールが届いたのを皮切りに、友達から嬉しい小包を受けとったり、家族が電話をくれたり、地面に敷き詰められたふわふわの落ち葉みたいに、幸せが降り積もっていく。色づいた木の葉が青空に映えるようすをぼんやり眺めながら、最近のわたし、自分でも気づかないうちにあちこち力が入っていたなあと思う。力が入っているときって、体や心があちこちぎくしゃくするのだけれど、自分では力んでいることに気づきにくい。肩がこったり、頭痛がしたり、小さなきっかけで感情が暴走することがいくつか重なって、ようやく握りしめたこぶしに気づく。爪が手のひらに食い込むほどこわばった指を、家族や友達のやさしさが、一本ずつ、ゆっくりほどいてくれる。ひらいた手の中に、探していた宝物がのっている。ずっとここにあったのに、遠くを見ることにばかり気をとられて、わたしはばかだなあ。と毎年思う。懲りないわたしに、何度でも、大事なことを思い出させてくれるみんなに感謝。夜はくまが、隣町のレストランに連れていってくれる。ランチでは何度か訪れて、料理のすばらしさと雰囲気のよさは確認ずみ。食材が新鮮で、味付けは完璧。ボリュームもたっぷり。しかも日曜の夜だったためか、店内に客はわたしたちだけ。これが東京だったらきっと満席で、予約をとるのもたいへんだね、と田舎ぐらしの贅沢をよろこびながら、ゆっくりと味わう。くまと結婚して、わたしは前よりも自由になった。不安やおそれから、自分を縛ることが少なくなった。自由に振る舞うことで、自分が傷ついたり大切な人を傷つけてしまう。と以前は信じていたんだと思う。でも、ほんとうは逆だった。きみのつばさをぐるぐる巻きにしているそのひもをほどいてごらん、とくまが根気づよく呼びかけてくれたおかげで、ようやく飛行訓練を始めることができた。あせらずゆっくり、でもたゆまずにつばさを動かして筋力をつけ、ふらつきながらでも自分の力で空を飛ぶことを、この一年の目標にしようと思う。