火のそばで(川辺でキャンプ)
鮎が暮らす清流のほとりで、キャンプをしてきました。高原では何度かキャンプをしたけれど、河原は初めて。かまどの設備があったので、焚き火にも初挑戦。火は、きれい。燃え上がる炎は、一瞬も同じ場所にとどまっていない。ちろちろと舌をのばしては、引っ込める。うちわで風を送ると、炭の内側で、遠い街灯りのように埋み火が光る。くまとふたりで、コーヒーを飲みクッキーをかじりながら飽きずにながめる。薪と炭が燃えつき、くすぶるだけになっても、手をかざすといつまでもあたたかい。頭をそらせば、満天の星。月がしずむと、暗くなった夜空に、天の川がくっきり見える。火には、人の心をひとつところに集めるふしぎな力がある。焚き火の後は寝袋にくるまって、川の音を聞きながら眠る。聴覚が敏感になって、遠くの音もすごく近くに感じる。くまは、「第六感がひらかれる気がする」と言っていた。朝、目がさめたら、ふいに物語のアイディアが降りてきて、足だけ寝袋に入ったまま手帳を広げて書きとめる。氷山のうかぶ暗い海に、一年に一度の明るい光が差し込んで、ふだんは見えない水面下の全体像がぱーっと見えたような感じ。くまがいれてくれたコーヒーを飲みながら、河原で一気に書き上げる。キャンプの魔法がとけないうちに。キャンプの朝の明晰さは、すごく集中できたヨーガの後の瞑想に似ている。自分が透明な導管になって、体の中をきれいな水がざーっと通りぬけてゆくような。これからキャンプに行くときは、潜在意識にたずねてみたいことをひとつ、用意しておくことにしよう。アクセスしやすくなる、扉が開きやすくなる機会をむだにする手はない。河原のキャンプ場にはチェックアウトタイムがないので、朝霧に濡れたテントをゆっくり乾かし、その間にフライパンでピザを焼いて食べる。ピザ生地はヤミーさんのサイトを参考に、上に塗るトマトソースは、高山なおみさんの「今日のおかず」からいただいたレシピ。アウトドアで粉ものを焼くのがひそかな夢だったので、夢が叶ってうれしい気持ち。川では釣り人が鮎釣りに興じ、セグロセキレイが水面をスキップするみたいに飛んでゆく。水のある場所で過ごす時間は、心身の詰まりをとって流れをよくしてくれる。山もいいけど川もいい、今度は海にも行きたいね、と話し合いながら清流を後にする。回を重ねるごとに新たな魅力を発見して、ますますキャンプにとりつかれるわたしたちなのでした。