貴方の仮面を身に着けて

[短編・詩・短歌など] カテゴリの記事

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  指輪はいらない

  私を繋ぎ止めたいのなら指輪なんていらない貴方のつけた傷痕が二人の証になるのだから消えてしまう未来には何も持ってはいけないから私の心に刻んで欲しい貴方のそのまなざしで誰にも言えなかった本当の言葉だけを!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/09/04

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  自動人形

  青いサテンのリボンをつけてこの手足をすんなりと動かせる機械を仕込みネジを巻くのは貴方の手特別製のゼンマイは天使の羽根で作ったとマエストロは笑ってみせた踊る踊る赤い靴金の髪をなびかせて水の上にも爪先立ちでドレスは雲を千切って作るマエストロは裁縫師つららの先は針になる喜びも哀しみもゼンマイひとつで調整出来る私は貴方の自動人形!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/31

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  キミの行きたい場所

  「キミはどこへ行きたい？」あの人の声は金色をしている。初めてあの人の声を聞いた時、私はそう思った。年代者の古い回転木馬は、何度修理されても、もはや軋む音を消す事は出来なかった。繊細な細工も塗り重ねた塗料に埋もれていた。それでもそれは夢の乗り物で、夜の遊園地の中で一際明るく、派手で楽しげな音楽を奏でながら果てしなく回り続けていた。「ハワイかな」飾り立てた木馬で上下しながら彼は笑った。妖精のふりまく粉が舞い散るように。「それならいつでも行ける。今しか行けない場所だよ」気が利いた返事がしたいと思ったが、良い答えが見つからない。私はそういう事は苦手だ。私の木馬の首輪にはcandy stormと刻まれていた。この馬の名前なのだろう。それを指でなぞりながら、私は言った。「じゃあ、世界の果て」何とありきたりなのだろう。私は少し悲しくなった。だが、彼は上機嫌で叫んだ。「よし、そこへ行こう」可笑しな人。私達はさっき出会ったばかりだった。係員が事務的に聞いた。「何名様ですか」私はおずおずと指を一本立てた。係員は無言でうなずいた。平日の夜の遊園地に一人で来るなど、幸せな人間のする事ではない。事実、私はずっと一人で恋人もいないままに、二十も半ばを過ぎようとしていた。「あ、僕も一緒です」後ろから豊かな声がした。私は暖かい光に包まれたように感じて、振り返った。そこに彼がいた。背が高く、広い胸を白いシャツが包んでいた。「二人分ね」彼はチケットを千切って係員に渡した。係員に誘導されて、二人は並んだ木馬によじ登った。彼は何もかも自然で、私に身構えさせる物は何もなかった。時折声を掛けて来る、やたらと思わせぶりな仕草や目付きをする、自分をカッコイイと思っている安っぽい男達とはまったく異なっていた。染めてもいない洗いざらしの髪、どこにでもあるようなシャツにズボン。けれども彼は私の見た事のない種類の人だった。そして彼は言ったのだ。あの金色の声で。「キミはどこに行きたい？」回転がゆるやかになり、軋みが大きくなり、木馬は止まった。私達は木馬を降り、出口から外へ出た。「着いたよ」彼はそう言って、私を見下ろした。私は彼の肩のあたりまでしかなかった。さりげなくエスコートするように、彼は私の腕を取った。「どういう場所か、楽しみだね」ここは遊園地なのだ。前と変わらぬはずなのに、彼は妙に真面目な声でそう言った。私はそれがおかしくて、調子を合わせるように言った。「楽しみね」園内は私達以外は誰もいないかの様だった。並んで歩く遊歩道も、営業を終えた乗り物の黒い影も、ひっそりとしていた。どこへ行くのかわからなかった。けれども黙って歩いていた。建物の間に入った。そこには扉があった。彼はその扉を開け、片腕を私の背中に回し、うながすようにして中へ入った。そこは倉庫のようだった。古ぼけた人形、壊れた乗り物、パレードで使われるたれ幕や、傘。積み上げられた色とりどりの衣装。「ここが世界の果てだよ」「ここが？」彼はうなずいた。「ここから夢の世界が作られるのだ」彼はモールをからませた輪を手に取った。「大人も子供も楽しめる夢が、ここで作られ、世界へ旅立っていく」彼は輪を放り投げ、器用に受け止め、何度かそれを繰り返した。「貴方も夢を作る人？」私は聞いてみた。彼は悲しげな顔して、向こうをむいた。「そうじゃない、僕は夢を欲しがる側の人間だ」彼は輪をぽんと衣装の山の上に投げ上げた。「けれども、僕の欲しい夢は、ここにはないようだ」建物を出ると、出口まで無言で歩いた。外へ出て、大きな道まで来ると、彼は言った。「ありがとう」私はどう返事をして良いのかわからなかった。良くわからないままに、言ってみた。「もう少しだけ、世界の果てにいたい」彼は困ったような顔をして、そして笑顔になり、うなずいた。タクシーを止めると、二人で乗り込んだ。小さなホテルについた。暗い部屋の中で彼がいった。「ここは夢ではないよ、本当の世界の果てだ」私はうなずいた。それきり、会う事はなかった。それから何年も経ち、私はあの人の事をすっかり忘れていた。或る日ＴＶを見ていた。見覚えのある顔の写真が映っていた。あの人だった。訃報・・アナウンサーが彼の略歴を話していた。画面が切り替わった。ホームビデオで撮られたらしい、あの人の姿が映っていた。音声はなかった。船の上で、笑顔で何かを掴んでいる。誰かと話している。それがあの人の最期の姿だった。あの人の声は金色をしている。初めてあの人の声を聞いた時、私はそう思った。音がなくても私にはわかる。きらめいてささやく、あの人の声が。それはきらきらと夏の日の木漏れ陽のように降り注ぎ、私は涙で一杯の目で、画面を観ていた。（終）・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。掲載された小説はこちらでまとめてご覧になれます・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  2006/08/31

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  星が壊れる

  語る事の無意味さに森は不意に口をつぐんだ世界の終りがそこにある燃えるのは明日を作る為ではなく今日を限りに滅ぼす為に悪意も善意も飲み込んで世界は死に絶えていった生きとし生けるもの消えてしまった哀しみに空は瞳を閉ざしてしまった誰か・・呼びかけても答えはないそして呼ぶ者すらそこには存在しなかったでは・・これを書いているのは誰？嘆いているのは誰？そこにいるのは誰？!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/28

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  言葉なくして

  どんな事でもいい何か言って欲しいのですあとは消えるしかないと分かっているから無為な時が流れ取り残された場所で私は立ち尽くし光とは何であったのか思い出せずにいるのです!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/25

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  短歌覚え書き<5>

  遠雷を聞きしは震える我が心言葉なくして雨降り止まず水よ水姿変えては喜びも悲しみもまた内に含みて ともしびに揺らぐ短き魂を語るは蝉の甲高き声熱含む風に南の夢を見て砂踏みしめる果て無き孤独夏疲れ進まぬ箸の食卓に秋刀魚の載りて秋の恋しき出来合いの浴衣の丈を母気にす纏う娘は意味も分からず軒先に青き竹割る香りして君を思うや故郷の家夕陽より赤き西瓜を抱えゆく道は何処へ我進むべき遠雷の届かぬ果てに逃げ延びて掴める明日を捨て去りし夏青蛙葉陰に居りて見上げるは広き世界に慄しき我!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/24

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  小鳥たち

  こんな風にお前を追いかけちゃいけないと最初から分かっていたはずなのに千切れた鎖の先に錆びた記憶がぶらさがっている味気ない煙草をふかして傷つかないふりをしてみる軽やかな足取りでお前は逃げていったまだ穢れを知らぬままにどこまでも行けると（そんな真実はどこにもないのだ　　思い込みの中で　　お前は汚れていくのだ）失ってから大事だと気がつくものばかりがポケットに詰め込まれているのに誰も確かめようとはしないうつむいたままで空だけが青いままだなんて誰も信じてはいないのに・・・!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/24

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  乱されて

  心が泡立つその時に目を閉じ唱える言葉が欲しい乱されて壊れてしまうその前に穏やかに暮らしていたいと思うのに賑やかな手がやって来て昨日を取り上げ去って行く報われぬ思いばかりが泡になり私の中で立ち上るさあ世界を統べるというのなら私に言葉を教えて欲しい乱されてすべてが消えるその前に!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/24

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  Arcadia

  たとえ神がいてもいなくても希望はどこかにあるだろうそれはきっと空をよぎる翼だけが知っている事!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/22

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  海が夢をみている

  誰かが海を呼んでいる白い波間に飲まれた声はゆっくりと海の底に落ちていくその声はまろやかで落ちてゆきながら輝いて回りながら真珠になった海の底にたどり着き真珠は静かに砂に埋もれ潮の流れにゆらゆらと呼び声を繰り返す誰かが海を呼んでいるその声は波に飲まれては真珠になって消えてゆく海が夢をみている誰かの声が海に落ち真珠になってゆく夢を!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/19

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  琥珀の中の水

  閉じ込められた数億年琥珀の中の止められた時その一滴は誰よりも長い夢をみているそれは原初の夢幸せも悲しみのないままに生きる事すらさだかでなくて私達はその一滴の水に失われた世界を求めているわけではないのだ閉じ込められたその夢がたとえどんなに甘美だとしても戻るには遠すぎる数億年のその先に・・!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/17

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  星の階段

  繰り返す夢の中でいつも何かを観ようとすると決まって呼ぶ声がするのだ薄水色のその声は藍色の髪をして僕を呼んでいる通り過ぎた日々にその面影はなくアルバムのページをめくっても見出せない思い出ばかりがその声に語られる夢の中で一歩一歩階段を登りながら僕はいつの間にかあの声を待ち望んでいる自分に気付く薄水色のその声は藍色の髪をして僕を呼んでいるその髪は星を浮かべる夜空の色に似ているいつか僕がいく空に!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/13

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  短歌覚え書き<4>

  食細り細き麺さえ難儀する身に耐え難き蝉時雨次の夏鳴く蝉の夢かなわねど深き地中に願い残して枝豆の青きを意地に噛み砕き飲み干すビール今宵は苦し悉く壊れゆく日に風鈴の音色静かに遠ざかる夜目の前の儚き命の虫さえも生きる思いはこれほど強し遠雷に怯える土地の子は神に何を祈るや夏祭りの夜夢に聴く蝉の空音はうつつにも移りて響くまだ白き朝朝顔のしおれたわけは夏になく身のうち焦がす太陽にあり緑濃きひとすみあればそれ自然恩恵ありと騙す都よ!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/12

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  紙の舟

  覚えておけば良かったはいいいえこんにちはそして、さようならどこへ行ってもそれだけは誰もが歌うように言うはいいいえこんにちはそして、さようならやはりあんまり遠くへは行けないのだね、このままで!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/10

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  そして消え去る哀しみに

  空を映した泉があった涙が落ちて水面（みなも）がゆれたひろがる波紋は幾重にも重なりながらゆれていき渕に茂る草むらに当たって砕け輪は消えたそして壊れた哀しみの欠片（かけら）だけがきらめいて世界にかすかな傷をつけ弱きもののささやかな復讐を遂げさせた空を映した泉があった涙が落ちて水面（みなも）がゆれた何を哀しむ涙かは尋ねるものはどこにもおらず誰の流した涙かも泉は知らずにゆれていた!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/09

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  引き裂いたのは

  白い絹を引き裂いてキミは表に飛び出した遠い空から落ちてくる希望を拾いに行く為にそれは赤と青の実でどちらも苦い味がしてどちらも渋い味がして怖いものだと知っている危ないものだと知っているそれでも拾いに行くのだろうキミは自分で引き裂いた白い絹を拾い上げ手にした希望をこすりつけたそれは赤く汚れただけでかなう夢にはならなかったその実を捨ててしまわねばそれでも希望は希望だとキミは笑っておどけてみせたそしてキミは自分の未来を掴み出し空高く放り投げそのままどこかへ行ってしまったキミの旅は続くのだ今度は青い実を探し捨てなくてすむ未来を探しその手で自分を引き裂いて!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/07

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  月はみていた

  出会いのあの日の空の上月はみていた二人の想いからみついて交わり合ってその想いはただひとつ同じものになりたいとひとつのものになりたいと月はみていた二人の想い願いをみていた遠い月時は流れて通り過ぎ二人の願いはかなえられ二人はようやくひとつになったそれは漆黒の柩罪びとたちの安らぎの逃げることを選ばなかった二人はそこでひとつになった二人の入った漆黒の柩は海に流され月はみていた輝きながら潮に揺られる道行きをせめて明るく照らすように月はみていた二人の想いあの日出会った魂の行き着く先を知りながら輝いて輝いて照らすことしかできなくてそれでもみていた哀しみに月は次第に細くなりやがて姿を隠してしまった今宵はしばし哀しみの涙に濡れたその顔を隠した月の心を汲んでしばし静かに空をみてしばし静かに目を閉じてどこかに消えた柩の中で二人の願いがかなったと二人の願いがかなったと月にそっと呼びかけようそれは私、私だから願いはかない私が生まれ今度は私が月をみている見下ろす月見上げる私どちらも同じに切なくてどちらも同じに夢を見て明日の晩は少しだけ月も姿を見せるだろう止まらない海鳴りに耳をすませ終わらない波の押し寄せる　この場所に!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/06

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  生きるのはいつも

  汗を流す身体のどこかに深い泉があるのだろうかこんなにもあふれてくる生きているからだよと塩辛いのは泉ではなく海なのですねと遠い問答が聞こえてくる世の中は良い事も悪い事も同じ様にそ知らぬ顔で流れ落ちるしずくの先に川があるかどうか知らなくても良いのだ海に注ぐ川はどこから私の中に流れ込むのだろうそして海は私のどこにあるのだろうか冷たい涙は熱い汗と同じ海にいるのだろうかそれはどこかで分けられるのか分け隔てなくいられるものなのか水のようにとらえられない想いばかりがあふれては流れて落ちる今・・夏の午後!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/05

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  かなしきものよ

  灯台の遠い灯りが見える頃海は波の音だけを残し私の前から姿を消した繰り返す出来事はいつも不意に謎に変ってしまう気が付くと海は私の後ろで凪いでいた灯台は何を照らすのか滲む光の中に浮かぶのは過去でも未来でもなくそこにたゆたう思いだけなのだ海よかなしきものよ姿を消したまま嘆くものよお前の願いは空しいままに鳥に食べられてしまったあの灯台の光の届かぬ先へ飛び去ったあの鳥に朝になれば探せるとお前は愚かに考える朝になればと海よかなしきものようつむいたままの形無き隣人よまずは朝を探さねばならないとあの灯台が叫んでいるその声が聞こえないかお前の優しきその耳に!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/04

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  しゃぼん玉

  どこか頼りない透明な壁がそこにある思い切って手を伸ばし壊してしまえば壁がなくなれば「外」も「内」もなくなるよそういう声はどこからでもするでも誰も外と内の違いについて話してくれる人はいない思い切って手を伸ばし壊してしまえば私がいるのは外？私がいるのは内？!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/03

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  短歌覚え書き<3>

  我もまた今と変わりて生きたしと蝉の抜け殻踏み砕く朝つかの間の晴れ間に布団干しつつも夢の名残を手触りに追う晴天に吸われる如き蝉の声響く空には青き静けさ濡れそぼつ鳥の姿を幻に見る川跨ぐ鉄橋揺れる梅雨明けて五月蝿き程に睦言を囁く舌も早や乾き果て長梅雨の空に轟く紫の光今宵も憂し夜となるか花枯れの紫陽花の背を抜きん出て向日葵誇る空の眩しき金柑のほろ苦き実を思いやり喉につかえし言葉を流す昼の月異国の神の教会に祈る言葉は木霊して消ゆ白き道ゆきて眩しき太陽の果てに葉落ちる月の音聞く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・夏も本格的になれば、今度は秋の足音が聞こえて来ますね。日本は四季の国だと、灰色の建物に囲まれていても感じるのです。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/01

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  愛を越えて

  手を差し伸べる事はかなわず草を過ぎる風に想いは消えてゆくどこまでも追いかけられるならこの足が傷ついてもその痛みに耐えてみせよう繰り返す時の過ちが世界を痛めつけるとしても癒すすべを探せるなら命は紡がれていくだろうこの大地に満ちるもの達よこの太陽の下に集うもの達よ星はその胸の内に宿り導きの音を奏でる願いを捨てるなかれうつむく事はせずにその目を遥かに向けよ物語は語り継がれ風に連れ去られた想いに追いつける時がいつか来るこの胸の愛を越えて!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/08/01

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  涙が止まらない夜は

  眼を閉じるのをやめて、空を見ていよう・・・やがて訪れる静寂と沈黙の為に私は耳をすましている時は遥かに流れ去り人はそこに取り残された進化という樹を登りつめたのに樹を登るすべを失ってしまった私達もはや何も変えられない壊れていく星の音がここまで聴こえてくるだろうか!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/07/30

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  見上げて、空

  どこまで・・それは空しい言葉空を見ていると思う果てはない空しいという言葉さえ空を含んでいるその空しさを仕舞い込んだ心の広さを思いやる!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/07/30

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  甘い実食べた

  実り多い樹の下で甘い実食べて寝転んで生き過ぎない行き過ぎない明日はここから立ち去ろう次の人がすぐに来て実をもぎ取っていくだろうから生き過ぎない行き過ぎない今日だけ共に過ごすこの樹の事を忘れる時があるとすればそれは心を捨てた時生き過ぎない行き過ぎない何時か来る終りまで歩いていくのも悪くない!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/07/29

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  私は花を見たことがなかった

  わき目もふらず振り返る事もせずどこへ行くのか行方など思う事さえ捨ててしまい最初に地図をもらったはず最初に切符を買ったはず荒れた大地などはなく灰色の街角で悩んでいる暇もなく哀しむ涙すらなく空の色など知らぬままに私は花を見たことがなかった!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/07/27

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  やがて消えゆくとしても

  立ち止まらずにいよう冷たく銀色に輝く道はそのまま凍てついてしまうかもしれないから足元から忍び寄るのは身体を冷やす寒さではないそれは唇を凍らせて二度と言えないようにする為だ希望がそこにあるなんて!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/07/25

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  すれ違う枷

  すれ違う枷何を謝れば良いのだろう言葉少なに繰り返す覚えのない謝罪ばかりをどうして何でも自分のせいと感じてしまうこの世界の隅々までは私の物ではないと言うのに謂れのない罪覚えのない贖罪私は何に囚われている私は如何に解放される両手に見えない枷があるならこの手を空に差し伸べても逃げる鳥には届かない私の罪は何？私の罰は何？!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/07/25

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  短歌覚え書き＜２＞

  背伸びして隠れた人を探せども玉蜀黍の葉音のみする泣き濡れて雨に降られて濡れた身の心にも降れ夏の夕立やるせなき耳に残るは暑き夜の眠れぬ犬の哀しき遠吠え轟くは我が胸ならずや目を閉じて稲妻を聞く夏の日の午後心あらば我の名尋ねよ夏の野の風携えて道を行く君蓮花の席取りしとくと足弱の祖母に言い置き祖父は逝き蓮の葉に落ちるしずくのまろやかな玉の涙を今日の手向けに雨落ちる空を見上げし向日葵の隠せし涙我が胸に降る不貞寝する背中に蚊遣りの煙流れ晴れぬ間も無き心も梅雨も溜め息の尽きぬ日ばかり続けども我が営みは慌しく過ぐ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・梅雨がまだ開けないので、雨の歌が多いですね。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜皆様の応援が励みになります。クリックよろしくお願い致します。!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜!。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜゜

  2006/07/22

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  ヒーローにさよならを（ウルトラマン40周年に）

  その駅のホームから見える夕焼けは、いつもきれいだった。電車から吐き出された会社員やＯＬが、時折ちらりとそれを見上げる。いつか見た覚えがある、彼等の顔にそんな影がよぎる。つられて私も見上げてしまう。暮れなずむ赤い空の中に、私は銀色の巨人の幻影を見た・・子供の頃は、沢山のヒーローがいてくれた。遠い星から来たり、太古の命が目覚めたり・・彼等は私達を守ってくれた。人類の英知を結集した武器があっても、最後に勝利の地に立ち尽くすのは彼等だった。強くやさしい心を持ったヒーロー達。けれども時には守るべき私達人類からうけた仕打ちに、彼等が涙した事に気がついたのは、ずっと大人になってからだった。大人になると少女達は、少年達の中に等身大のヒーローを見出し、彼等の事を忘れてしまう。けれども何かの拍子に思い出すのだ。緑の血を流して、私達を守ってくれた者の事を。空に響きわたる叫び声を聞いた。まるで泣いている怪獣の様な。何かの物音が木霊して、そう聞こえたのかもしれない。帰宅間際の買い物に賑わうデパートその向こうに、哀しげな大きな影が見え隠れする気がする。エスカレータを登りつめたその奥に、彼等を愛してやまない人がその姿を描きとめた絵が並んでいた。彼等の名前を叫ぶ甲高い子供の声と一緒に、私も彼等の名前を胸の中で繰り返す。懐かしい呪文の様に・・私は思い出す。空想も科学もこの世界の不思議も、何の違和感もなく溶け合っていた頃の事を。あの頃からとても遠く、遠くまで来てしまった私に、彼等は絵の中から限りなくやさしい目を向けている。私の胸にそのまなざしが、ことんと落ちる。その音に思い出から目が覚めた。そして気がついた。彼等の守ってくれたのは、私の心の世界だったのだ。その心を持って、ここに立っている私。私は少しあらたまって、光の国から来た人に挨拶する。ありがとう・・そして、さよなら。大人になった私の声は、子供達と同じにはあなたの名前を呼べなくなってしまった。けれども、声に出さずとも、あなたに届けたい思いがある。さよなら、私の愛したヒーロー達。私の手はあなたたちよりずっと小さいけれど、この手でひろえるだけの平和はひろっていきたいのです。どうか、そのあなたたちの長い命で見守っていて下さい。かつてあなたたちにあこがれて胸を躍らせた、私達の未来を。彼等に背を向けて歩きだしたのに、私の背中にはやさしいまなざしがある。私の脳裏には、何度も頷いてくれる彼等の面影と、私の行く末を真っ直ぐに差してくれる銀色の指先があった。・・・・・・・・・・・・・・・・・「ウルトラマン」４０周年に寄せて私の愛した銀色の巨人に捧ぐ

  2006/07/18

• 空は見ている

  空は見ている哀しい時も青く寂しい時も青くうれしい時ほど灰色でたのしい時には雨降りでそれでも空はそこにあり溶かしてしまえば水色の絵の具程にも透明で広がる　広がる　広がる空は私の心を染めていく

  2006/07/18

• 短歌覚え書き

  文月の星に願いをかける日の空の機嫌を予報図に見る月冴える梅雨の合間の夜空にも心は晴れぬ物思う我雨音を子守唄に聞く枕濡らすは今宵の雨ならましを紫の柔らかき星手に取りて貴方に望む桔梗かな翼持つ身なれど浮世に繋がれてあの果て知らぬ二羽の燕よ定めとは知れども雨の疎ましき一夜の夢に川渡る身は物思い煙の先に見えるのは雨降り止まぬ薄色の庭探し人見つからぬまま俯きて横顔見せる向日葵の花・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・また少したまって来たので、補完、保管・・

  2006/07/11

• 今だから言えること

  今だから言えること貴方を愛そうと思わなかったわけではない愛する前に壊れてしまったなにもかもすれ違うのも出会うのも恐れていたわけではない歩いていくのに必要な足がなかっただけなのです今だから言えること色褪せた壁の向こうに貴方が消えてしまってからそれを臆病というのならどうかこのまま思い出も拾わずに何処かへ流して下さい誰にも見られぬ遠いどこかへ・・

  2006/07/08

• 立ち尽くす事が明日ならば

  立ち尽くす事が明日ならばどこにも行き場がない時は　その場に座り込んでみる乾いた道は冷たくて　真っ直ぐに　空の向こうへ消えてゆく生きているのは辛いこと　息をするのは辛いこと繰り返す胸の上下運動は　今にも止まってしまいそう薄くて大きな手のひらが　助けるように圧すけれど間に合わないかもしれないよとんとんと叩くのは　何も扉だけでなくその樹の幹を叩いたら　知らない声が返事する君だけは来ないと思っていたよだって君は苦しくて　それどころでは無いのだろう？清冽な一滴の水が落ち　季節の閉じた目を覚ます風はいつでも心根は やさしいままで凍てついて誰の助けも振り切って　あの果てまで翔けて行くとんとんと叩くのは　何も扉だけでなく赤いレンガを叩いたら　知らない声が返事する君だけは行かないと思っていたよだって君は錆びかけて　それどころでは無いのだろう？どこにも行き場がない時は　その場に座り込んでみる乾いた道を潤して　流れる河は　足元にある

  2006/07/02

• 書く事を忘れないために

  書く事を忘れないために言葉というのは不思議なものでいつもそこにあるようでいきなりいなくなってしまうから私は探しに行かねばならない言葉は身軽に出かけてしまう瓶に詰めても 箪笥に入れても無駄な事だと知りながら そうしたくなる心を抱え新しい靴と鞄を用意して 旅立つ朝を待っている鉛筆を削る ペンを磨く パソコンに電源を入れるどんな道具を使っても 本当の言葉を残す事は出来ないのに空しい徒労と知りながら 私は文字を並べてしまう書く事を忘れないために書く事を忘れないために

  2006/07/02

• 久しぶりの短歌など

  掲示板の方の短歌がたまって来たので記録用に、こちらで一度まとめてみようかと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・梅雨浴びて色鮮やかに紫陽花の影なす角に新しき顔水鏡乱れし髪に手をやりて想い捨て去る夏待てぬ蝶梅雨に生き空に伸びたる竹垣の指したる先に我が想いあり枯れてなお命残せし花々の種を拾いて過ごす夕暮れ顔みせて雲隠れせし夜半の月紅滲む醒めぬ唇紫陽花の褪せるか変るか色恋の定めであれど夏は短し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  2006/07/01

• 赤い小瓶

  赤い小瓶赤い小瓶に香水詰めて薔薇の香りの香水詰めて少し生きて少し死んで遥かな西の夢を見るあまりに儚い夢だから小瓶の蓋を開けたならそこには何も残っておらずいつかの夏の夕暮れに過ぎてしまった風だけが赤く染まって揺れていた赤い小瓶に香水詰めて薔薇の香りの香水詰めて少し生きて少し死んで今度は何を夢見よう

  2006/06/12

• monotone

  monotone遠くへ行こうと　声がする生きる事も死ぬ事も　どちらも同じに魅力的迷って彷徨う　そのうちにいつのまにか　遠くへ来ている白にも黒にも　なれないままに灰色の　私のままで

  2006/05/28

• 「忘れたい日があるとしたら」小説同盟Authors参加作品

  小説同盟Authors参加作品です。直接リンクを貼るのも気がひけるので・・こちらに。テーマは「雨」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・忘れたい日があるとしたらサクランボのジャムは甘酸っぱいけれど、これと言って特徴はなかった。ラズベリーのような鮮烈な色と酸味も、ママレードのような穏やかな苦味も。桜のジャムのような香りを期待していたけれど、それもなかった。砂糖なしの紅茶でトーストを流し込むようにして食べた。昼までには起きようと努力して、今は午後のニュースの時間だ。僕の体内時計は時差があるのだと思ってみる。いつの頃からこんな生活になってしまったのだろう。フレックスという仕事の形態にも問題はあるのだろうか。少し前まで、僕は朝が来るのが好きだったと思う。隣に誰もいないけれど、自由で幸福な朝が。彼女がやって来たのは雨の日だった。小さくドアを叩く音がした。壊れそうな心を抱いて来て、そのまま壊れてしまった。彼女はそのまましばらく、僕の部屋にいた。僕は彼女を哀れだと思ったし、好意も感じていたけれど、でも愛せないと思っていた。どこか、僕らは同じ世界に住めない気がした。それでも彼女は僕の子供がお腹に出来た。「大丈夫、何とかするから」彼女は最初から産まないつもりだった。（後でそれは違うと知ったけれど）二人で育てようという話はしなかった。僕はお金を渡して、それで彼女は病院へ行って、青い顔をして帰って来た。大儀そうに横になり、それきり物を言わなくなった。ちょうど深夜に古い映画をやっていた。同棲しているカップルが親族に引き裂かれる話だった。女の方が騙されて子供を・・あっと思った時、彼女はあの日と同じような真っ青な顔をして、テレビを観ていた。そして表へ飛び出していった。だから・・嫌なんだ。でもそれは僕に何の咎も無いのかと言えば、言い切れない。僕はお金を渡しただけで、全部体験して来たのは彼女だけだったのだから。沢山のケンカをした。失った未来だけが彼女を捕らえ、僕はないはずの未来など問題にしたくなかった。彼女が体力を取り戻すと、僕は彼女を追い出した。償いはしたと思った。いつまでも僕を一人にしてくれない権利はないと思ったから。僕だって幸せになりたいと。彼女は大人しく鍵を置いて出て行った。彼女の残したものは全部捨てた。気楽な暮らしのはずだった。僕は長い夜を過ごすようになった。雨の夜は嫌だ。ドアを叩く音がしそうな気がする。そんなはずはないのだ。彼女が今どこでどうしているか、僕は良く知っているのだから。彼女は故郷で暮らしている。窓から見ると昼の街に雨が降っていた。べたべたに甘いジャムの蓋を閉めて、僕は立ち上がった。会社に行かねばならない。着替えてネクタイを締めた。レインコートを羽織った。昨夜、玄関の傘立てに乱暴に投げ込んだ傘を取り出した。アパートの入り口を出ると、僕は傘を広げた。心に降る雨に、差す傘はない。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

  2006/05/18

• 「キミの行きたい場所」小説同盟参加作品

  小説同盟「心を言葉に」参加作品です。５月のお題は『金』同盟の作品はこちらでご覧になれます。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。「キミの行きたい場所」「キミはどこへ行きたい？」あの人の声は金色をしている。初めてあの人の声を聞いた時、私はそう思った。年代者の古い回転木馬は、何度修理されても、もはや軋む音を消す事は出来なかった。繊細な細工も塗り重ねた塗料に埋もれていた。それでもそれは夢の乗り物で、夜の遊園地の中で一際明るく、派手で楽しげな音楽を奏でながら果てしなく回り続けていた。「ハワイかな」飾り立てた木馬で上下しながら彼は笑った。妖精のふりまく粉が舞い散るように。「それならいつでも行ける。今しか行けない場所だよ」気が利いた返事がしたいと思ったが、良い答えが見つからない。私はそういう事は苦手だ。私の木馬の首輪にはcandy stormと刻まれていた。この馬の名前なのだろう。それを指でなぞりながら、私は言った。「じゃあ、世界の果て」何とありきたりなのだろう。私は少し悲しくなった。だが、彼は上機嫌で叫んだ。「よし、そこへ行こう」可笑しな人。私達はさっき出会ったばかりだった。係員が事務的に聞いた。「何名様ですか」私はおずおずと指を一本立てた。係員は無言でうなずいた。平日の夜の遊園地に一人で来るなど、幸せな人間のする事ではない。事実、私はずっと一人で恋人もいないままに、二十も半ばを過ぎようとしていた。「あ、僕も一緒です」後ろから豊かな声がした。私は暖かい光に包まれたように感じて、振り返った。そこに彼がいた。背が高く、広い胸を白いシャツが包んでいた。「二人分ね」彼はチケットを千切って係員に渡した。係員に誘導されて、二人は並んだ木馬によじ登った。彼は何もかも自然で、私に身構えさせる物は何もなかった。時折声を掛けて来る、やたらと思わせぶりな仕草や目付きをする、自分をカッコイイと思っている安っぽい男達とはまったく異なっていた。染めてもいない洗いざらしの髪、どこにでもあるようなシャツにズボン。けれども彼は私の見た事のない種類の人だった。そして彼は言ったのだ。あの金色の声で。「キミはどこに行きたい？」回転がゆるやかになり、軋みが大きくなり、木馬は止まった。私達は木馬を降り、出口から外へ出た。「着いたよ」彼はそう言って、私を見下ろした。私は彼の肩のあたりまでしかなかった。さりげなくエスコートするように、彼は私の腕を取った。「どういう場所か、楽しみだね」ここは遊園地なのだ。前と変わらぬはずなのに、彼は妙に真面目な声でそう言った。私はそれがおかしくて、調子を合わせるように言った。「楽しみね」園内は私達以外は誰もいないかの様だった。並んで歩く遊歩道も、営業を終えた乗り物の黒い影も、ひっそりとしていた。どこへ行くのかわからなかった。けれども黙って歩いていた。建物の間に入った。そこには扉があった。彼はその扉を開け、片腕を私の背中に回し、うながすようにして中へ入った。そこは倉庫のようだった。古ぼけた人形、壊れた乗り物、パレードで使われるたれ幕や、傘。積み上げられた色とりどりの衣装。「ここが世界の果てだよ」「ここが？」彼はうなずいた。「ここから夢の世界が作られるのだ」彼はモールをからませた輪を手に取った。「大人も子供も楽しめる夢が、ここで作られ、世界へ旅立っていく」彼は輪を放り投げ、器用に受け止め、何度かそれを繰り返した。「貴方も夢を作る人？」私は聞いてみた。彼は悲しげな顔して、向こうをむいた。「そうじゃない、僕は夢を欲しがる側の人間だ」彼は輪をぽんと衣装の山の上に投げ上げた。「けれども、僕の欲しい夢は、ここにはないようだ」建物を出ると、出口まで無言で歩いた。外へ出て、大きな道まで来ると、彼は言った。「ありがとう」私はどう返事をして良いのかわからなかった。良くわからないままに、言ってみた。「もう少しだけ、世界の果てにいたい」彼は困ったような顔をして、そして笑顔になり、うなずいた。タクシーを止めると、二人で乗り込んだ。小さなホテルについた。暗い部屋の中で彼がいった。「ここは夢ではないよ、本当の世界の果てだ」私はうなずいた。それきり、会う事はなかった。それから何年も経ち、私はあの人の事をすっかり忘れていた。或る日ＴＶを見ていた。見覚えのある顔の写真が映っていた。あの人だった。訃報・・アナウンサーが彼の略歴を話していた。画面が切り替わった。ホームビデオで撮られたらしい、あの人の姿が映っていた。音声はなかった。船の上で、笑顔で何かを掴んでいる。誰かと話している。それがあの人の最期の姿だった。あの人の声は金色をしている。初めてあの人の声を聞いた時、私はそう思った。音がなくても私にはわかる。きらめいてささやく、あの人の声が。それはきらきらと夏の日の木漏れ陽のように降り注ぎ、私は涙で一杯の目で、画面を観ていた。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

  2006/05/13

• 心の視野

  眼鏡をはずした時その視界のあまりの不確かさに不安になる失われた本来の能力を　補うだけのはずのものにその補強された世界の方に　しがみついてしまう真実と事実の境界のように　曖昧な目の前の世界それが今の自分の精一杯の視野なのにそれこそが偽りだと思いたくなるのだいつのまにか眼鏡に自分の見るべき世界を支配されてしまっているそしてそれは知らず知らず心にまでも　及んでいるのかもしれない私はずっと見て見ぬふりをして来たのかもしれない・・多くの大切な事さえも

  2006/05/12

• 無限旋律

  私の中の旋律は　いつも繰り返し　過去を奏でている明日を歌う時も　短音のままに　穏やかにゆるやかに忘れたい事も　木霊のように　心の壁に響きながらいつまでも　いつまでも　繰り返し　流れている庭の薔薇は咲いたろうか門の閂は錆びただろうか窓を見上げれば　雲は流れ　時の過ぎるままに踊りながら　踊りながら　朽ちてゆく心の弦を張りなおしても　弓はなくガラスの如雨露に　水を組んでも　誰も　気がつこうともしない覚えていたい事は　羽根のように　心の空を舞いながらいつのまにか　いつのまにか　消えてゆき　戻らない私の中の旋律は　いつも繰り返し　過去を奏でているやがて　私自身が朽ち果てて　乾いた大地の還るまで

  2006/05/05

• 小説同盟企画参加作品「ガラスの目蓋」

  ４月のテーマは『目覚め』です。今回は詩で参加してみました。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。ガラスの目蓋君のその羽根が光を運ぶなら僕はいつまでも夜明けを待つよ重なる闇から飛び立つ幻は立ち止まる前の遠い約束もしも愛さえも　捨ててしまえるならば閉ざした心を悔やむのは止めて　探しにゆこうたとえそれが　儚いとしてもガラスの目蓋で明日を夢見れば七色の虹　流れゆく目覚めにいつかたどりつけると信じて何度も口にするから壊れてゆくのさ触れるたびに消えてゆく世界を取戻せるなんて言い出してしまう傷ついた羽根の痛み感じてもしも君さえも　失なってしまうならば駆け出す心を見ぬふりはやめて　探しにゆこうたとえそれが　戸惑いとしてもガラスの目蓋で明日を夢見ればきらめく星が　手招きする目覚めにいつかたどりつけると信じて。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。作詞みたいになってしまいました。たぶん今書いている小説のエンディングテーマのつもりかもしれません。小説同盟の作品はこちらから

  2006/04/20

• リレー小説『桜舞い散る君の横顔』第一回

  「心を言葉に　～小説＆詩同盟」のリレー小説です。今回のテーマは『別れ』です。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。紅茶に砂糖の塊を放り込むと、シュワシュワと音を立てて溶けた。ナチュラル志向の淡黄色の奴だ。厚手のガラスのティーカップは立ち上る泡が良く見える。ガラス窓の向こうに暮れて行く街がある。約束の時間からすでに一時間過ぎている。僕は二杯目の紅茶を飲んでいる。「人様に迷惑かけちゃいけない」と良く母親に言われた。今時珍しい事だ。それだとしたら僕を待たせている彼女は、僕に迷惑をかけているいけない子だ。僕の大学生という立場と彼女の社会人という立場を考えても、約束は約束だ。むしろ社会人なら守って欲しい。誕生日が同じだった。四月一日という嘘みたいな日だ。それが解った時、彼女はさらさらの黒い髪（染めていないのが僕はとても気に入っている）をゆらして笑った。僕らは同い年で、この世界を同じ時間の中を同じ速度で歳を取っていくのだ。同じＴＶ番組を観て同じ音楽を聴いて。違ってしまったのは高校を卒業してからだった。僕は志望校に受かって、彼女は大学へ行かなかった。「行っても仕方ないもの」本心なのかはわからないが、そう言って就職口を捜して来た。小さな会社の事務員らしい。大学へ行っても仕方ないと言ったのに、そこでの仕事は仕方なくないのだろうか。僕の疑問に彼女は答えを提供してくれた。僕が二年になった時、彼女はその会社をやめてしまった。それからフリーターと呼んで欲しいと、冗談ぽく言うようになった。週に一回、どこかで逢う。それが僕らのパターンだった。何が面白いのか分からないままに、僕らは同じ時間を共有した。どんどんと話題が尽きて来るのに気が付いても、僕らは逢い続けていた。それは春になれば花が咲くような、それと同じ事だと思いたかった。今年も又、桜の咲く頃が近付いて来た。毎年、花見をするのが僕らの数少ない決め事のひとつだった。二人で桜を見に行く。近所の公園の時もあったし、親を騙して泊り掛けで吉野まで千本桜を観に行った事もある。今日はその相談をしようと、珍しく彼女から誘って来たのだった。最近はいつも僕が電話かメールで逢う日時を決めていたのだ。すっかり夜の闇に包まれても、ネオンに明るい街。彼女は来ない、メールも来ない、電話もかかって来ない。僕からは連絡はしない。すると不愉快な顔をされるのは解っていたから。去年の桜は小さな寺で観た。どこにでもある、お墓を分譲しているような名刹でも観光寺でもない、町中の寺だった。どこでそれを見つけてきたのか、彼女はそこに綺麗な桜があると言った。行って見るとコンクリートの塀の向こうに桜が見えた。彼女は勝手を知っているそぶりで通用門を開け、中に入った。真新しい墓石の奥に桜の古木があった。ねじれたような幹は貫禄があり、枝ぶりも見事だった。そこだけ昔話の舞台のように思えた。老人の桜の精でも出て来そうだった。彼女はその桜の真下に立ち、木を見上げていた。昔よりスリムになった身体に淡いベージュのシャツがぴったりと張り付いているようだった。踊るような手つきで、彼女はひらひらと宙に手を伸ばしていた。「何をしてるの？」「桜・・はなびら・・」こちらを振り向きもせず、彼女は言った。舞い落ちる花びらを掴もうとしていたのだ。そのあまりにも熱心な様子で儚いものを掴もうとする彼女を見て、僕はそれ以上何も言わなかった。誕生日が同じなのに、誕生日を一緒に祝った事もプレゼントをした事もなかった。お互い嫌な思い出ばかりがある日だった。エイプリルフールという奴だ。僕らの誕生日は嘘つきの誕生日だと言われた。同じ傷を持つ僕らは誕生日なんか忘れたふりをしていた。思えば、桜を見に行く事が、そのお祝いの代わりだったのかもしれない。ちりん、と扉を開けると鳴る鈴の音がした。鳴るたびに見ると失望を味わうので、僕は見ないようにしていた。「ごめーん」聞き慣れた声がした。僕は彼女を見て曖昧に笑ってみせた。三杯目の紅茶の茶碗が空になっていた。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。次は堂馬 一狼さんです。よろしくお願い致します。

  2006/03/09

• リレー小説『素敵な恋のはじめ方』第4話

  ヴァレンタインデーのリレー小説です。みえさん。から回って来ました。最初から読む事をご希望の方は拓海1016さんまでどうぞ。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。 リレー小説『素敵な恋のはじめ方』第4話「恋に恋しているだけでは、本当の僕は完成しないのだよ」チョコレートケーキが言った。三人はぽかんと口を開けて、チョコレートケーキを見た。「僕を誰に渡したいの？それをまず考えてご覧よ」私はあの人の事を思い出した。はちみつ色の肌をして、細い指をしていた人。どんなに騒がしい中にいても、その人の周囲だけは静寂が支配しているような人。私は彼のそばでその静けさに包まれてみたかったのだ。いつも何かを語りかけているような瞳を間近で覗いてみたかったのだ。そして同じ方向へ一緒に歩いて行きたかった。彼となら、そう出来る気がしたのだ。「その人に伝えたい想いで心を一杯にするんだ。それから粉をふるい、卵を混ぜる。想いがそこにこめられるように。君の切なさの分量だけ砂糖を入れておくれよ、そうすれば程良い甘さになるはずだ。その人を想って眠れなかった夜の色になるまでチョコレートを加えてご覧。本当の僕が完成する」他の二人の事は忘れてしまった。あの人の事を想い、私は作業を進めた。人を愛するときめきはチョコレートの甘さ、恋をする痛みはチョコレートのほろ苦さ。どちらも欠けてはいけないのだ。私は焦げて苦い味ばかりに囚われていた。それに気がついた時、私の手の中でケーキは完成した。出来上がったチョコレートケーキは正しくハートの形をしており、艶やかに輝いていた。「君は合格だ」チョコレートケーキはうれしそうに言った。他の二人はまだ悪戦苦闘の最中だった。「渡してくるといいよ。送ってあげる、その人の所まで」ふわりと暖かい風が吹いた。私は砂糖菓子と薄荷の香りに包まれて気が遠くなった。「どうしたの？」目の前にあの人が立っていた。「急に黙ってしまって」「ごめんなさい」あの人は少し背が伸びて、髪も長くなっていた。けれども何かを語りかける瞳はそのままだった。どうやって私は彼を見つけ、彼と再び出会ったのだろう。私の手にはあのチョコレートケーキがあった。そんな事はどうでもいい、これを渡さないと・・「これ」私はケーキを差し出した。「僕に？」私はうなずいた。「ありがとう」彼は手を伸ばしてそれを受け取った。甘い魔法が効き目を表したのだろうか。誰かに想いを受け取ってもらうとは、何とうれしい事だろう。そのうれしい気持ちが私の目からあふれ出た。「泣いてるの？もしも誰かの為に泣くのなら、これからは僕の為に泣いて欲しい」「そうやって女の子を口説くの？」「いや、こんな事は君にしか言わない。君にしか言えない」「じゃあ、何故あの時・・」「僕は自分に自信がなかったのだ。あれから僕は成長した。今なら君の思いを受け止められる。だからこれを受け取った。チョコレート色の君の心を」私は二年前の私ではない。そして彼も変っていた。もう一度作ったケーキも同じようでも過去のケーキとは違う。ケーキの確かな重みは時の重みでもあったのだ。（ほら、君はすでに変っているのに、気付かなかっただけなのだよ）明るい声がどこからか響いた。（僕はそれを教えたくて、君にメールを出したのさ）「どうして私に？」笑い声がした。（だって、僕は君が作ったチョコレートケーキだもの）。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。次は京架　優樹葉さんです。よろしくお願い致します。

  2006/02/11

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  リレー小説「クリスマス・パズル」(3)

  ブルータス・平井さんからリレーいただきました。.............................................................................................................................................................................クリスマス・パズル(3)「キミはどこへ行くの？面白いものを持っているね」三枝に声をかけたのは青い服をまとった少年だった。三枝は思わず足を止めた。「面白いものって、これかい？」三枝はポケットからあの用紙を取り出し、少年に差し出した。少年はそれを覗き込み、興味深そうな顔で三枝を見た。「これをどこで見つけたの？」「これを知っているのか？」疑いのまなざしを向ける三枝に、少年は微笑んで見せた。天使の微笑がそこにあった。「そうだね、ゆっくり話せる場所へ行こう」少年は歩き出した。三枝は慌てて後を追った。路地を抜けると静かな住宅街に出た。その片隅に古い洋館があった。外見は朽ちかけていたが、いにしえの豪奢さが偲ばれた。少年は錆付いた門を開け、中に入った。「おいでよ」少年に促されるままに三枝は門をくぐり、伸び放題の薔薇の間の小道を抜け、玄関にたどり着いた。少年は玄関に入らず、建物の横手へ三枝を導いた。冬枯れの蔦をからませたベランダがあった。少年はベランダへ上がり、仏蘭西窓を押し開けた。「こっちだよ」中は応接間の様だった。英国を思わせる重厚な調度が並んでいた。どれもが時を経て飴色の光を含んでいた。色の褪めかけたビロードの張られたソファに少年はちょこんと座った。「ねえ、こっちへおいでよ」三枝は少年の隣へおずおずと腰を降ろした。屋敷の豪華さに何となく気後れしてしまう。「さっきの紙を見せて」三枝はソファの前に置かれたテーブルにあの紙を広げた。少年はしばらく黙ってそれを眺めていた。三枝は何か手がかりが欲しいと思ってはいたが、この少年の事を信用したわけでもなかった。新納の事も気掛かりだ。「識別は第一の美徳・・って知ってる？」「いや」「そうか、キミは何も知らずに生贄になってしまったのだね」「いけにえ？」「ベツレヘムの空に星が輝いてから、すでに二千年の時が流れた。次の契約が必要なんだ」「何だよ、それ」少年は三枝の問いを無視して、話を続けた。「この２０のピースは、オツ・ハキイム、生命の樹に対応している。古い魔法だよ」「おいおい、魔法なんてあるわけないだろ」少年は身体の向きをかえ、きらりと光る目で三枝を見た。「キミの友人がこの中に吸い込まれたのを見たのだろう？」「う、うん」三枝はうろたえたようにうなずいた。あの目は、何だ、あの深いまなざしは・・「じゃあ、黙ってお聞きよ。生命の樹は１０のセフィラで出来ている。そしてそれぞれに対応した性質がある。１０の色があると思えばいいよ。キミの友人は緑だったね」少年は新納が吸い込まれた箇所を指差した。「うん」「生命の樹には表と裏がある。だから全部で２０のピースがいる」「それを集めないと、世界が崩壊するって言われた」「そうだ、生命の樹が無ければ、世界はなくなってしまう。これはあらゆるものの根源だから」大きな話になりすぎて、さすがの三枝も戸惑うばかりだ。「どうやってそれを見つければいいんだよ」少年は真面目な顔をしていた。何かを考えているようだった。そして決意したようにうなずき、少年は三枝の手を取った。白く小さな両手が三枝の右手を包み込んでいる。少年の天使のような顔が三枝を見上げた。何故かどぎまぎして、三枝は赤くなってしまった。「な、何だよ」「キミに僕の力を預けるよ」「力？」「そう、セフィラはそれぞれの色に対応している。同じ色が２ピースずつあるんだ。そのカケラをその身の内に持つ者を見分けられるようにしてあげる」三枝は頭の回転が速い。「じゃあ、俺にそんな力をくれなくても、君が探してくれれば・・」少年は首を振った。「それは出来ない。だって僕も”カケラを持つ者”なんだ」やっぱり俺がやらないと駄目なのか。三枝は落胆した。少年は三枝の手を握りなおした。「さあ、目を閉じて、気持ちを楽にして・・」暖かい何かが三枝の手に流れ込んで来る。それは全身に心地良く広がってゆく。「目を開けて僕を見て」三枝は目を開けた。目の前の少年は青い光に包まれて見えた。「見えているね、僕の色が」「ああ、青い光だ」「キミはこうやって”カケラを持つ者”を見つける事が出来る。その者はそのカケラの色の光に包まれて見えるはずだ」少年は立ち上がった。「じゃあ、僕は行くね。後は頼んだよ」少年の身体が白く透き通ってゆく。「おい」三枝は慌てた。「僕は慈悲の名を持つ者、キミの成功を祈っているよ」少年はテーブルに広げた紙に吸い込まれるようにして消えた。ひとつのピースが又埋まった。三枝は紙を折りたたみ、ポケットにしまった。来た時と同じ様にベランダへ出て庭を回り、門から外へ出た。とりあえず方法は解った。後はそれが間に合うかどうかだ。三枝は人通りの多い場所まで戻る事にした。その方が”カケラを持つ者”を見つける確率も高いかもしれないと考えたからだ。歩いてゆく三枝の後ろで、あの洋館が忽然と消えてしまった事に、三枝は気づかなかった。.............................................................................................................................................................................次は翔0126さんです。クリスマスリレー小説はこちらでまとめて読めます。

  2005/12/22

• サイモン＆ガーファンクルが流れてた・・

  助手席を倒して　上にいた人が　ふと動きを止めたカーラジオから　低く透明な歌声が流れていた身体を起こして　煙草に火をつけ　その人は語り始めた北の地の貧しい牧場に生まれ　その暮らしが嫌だった高校の途中で家を飛び出し　都会で左官屋の下働きになった絶縁状態の実家から　或る日１本の電話があった父の死を知らせる電話だった・・・いまさら帰れるわけもなく　どうする事も思いつかずただ　ラジオから流れる音楽を聞いていた「それがこの曲さ・・・」その人は苦く笑ってラジオを止めたいつもより激しく　さらに深く私の背中にシートの硬さが痛みを与えたけれどその人は　自分が痛いような顔をして　目を閉じていた

  2005/09/19

• 役者は舞台の上では何でも出来るけれど

  舞台を降りたら　実生活では大根なんだよ・・・甘い声で女性を魅了する役を得意とするその人はぶっきらぼうにそう言った

  2005/09/16

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