無限循環の論理
2017年11月11日、S君に車を出してもらい、日光今市で開催された報徳サミット日光市大会の大藤先生の基調講演を聞きにいってきた。二宮尊徳の論理は自然を教本として組み立てられている。したがって「荒地の力をもって荒地を拓く」も「無利息貸付法」の報徳仕法の原理も無限循環の論理であり、理論上はそれは日本国内ばかりか、世界人類をも救済する原理なのである。帰りの車の中で、S君と話した「S君は大藤先生の講演で何か心に残ったものがある?」「大藤先生はもともと別の学問をされていたんだね」「大藤先生は民俗学が専門で、著書『二宮尊徳』の著書の中でもその知見を生かした視点が示され勉強になるね。今日の講演でも「家」の思想は江戸時代中期にできた。後期には篤農が各地に輩出し日々の生産の中で自然界と人間界の真理を自得する『自得の精神』があり、二宮金次郎もその流れにあるとおっしゃっていたね。 私が印象に残ったのは『無限循環の論理』でね、『荒地は荒地の力を以て起こしかえす』と『無利息貸付法』は無限の循環の論理で地域を超え時間を超えた原理だというところでね、鈴木藤三郎は荒地開拓法で砂糖製造業を興し、福山瀧助は無利息貸付法を遠州三河に広めた。遠州という地は、報徳仕法の二つの原理が実際に意識的に実行された地でもある。私が思うに、この時空を超えた二つの論理は、南アメリカやアフリカにも適用できる、人類が幸せの境地に至る方法と成りうることを示唆すると思うんだ」「もう一つ、大藤先生は講演で触れていなかったけれども、報徳の方法として『元値売り』というのがあり、安居院(あぐい)庄七はこの考え方を秦野の家業の米屋の復興に適用して成功した。鈴木藤三郎や福山瀧助、安居院庄七は報徳の方法を自分なりに家業等に適用して「報徳はどんな事業でも適用できる」と「自得」し確信して、「報徳」、人のため世のためにと、精神変革をして、その後の一生を地域社会や国のために推譲し続けたということなんだろうね。『元値売り』は遠州地方で報徳商いとして普及した。二宮金次郎は成田山失踪事件の折、実は小田原の母の実家の墓参りに行っているんだ。そして母の実家が衰えたのを嘆いて、実家の跡継ぎに『資金を融通するから、今、飢饉だから山家で麦を求め、元値で売りなさい。それが先祖供養になる』と助言したことに由来するように思う。袋井講演で『八田與一と鳥居信平』をテキストとして配布するのも,、ある意味、元値売りにあたる、200円の受講料に対して216ページの本を全員に配布するのだから、聴衆にとっては得した気持ちになる。」「そうだろうね。」「なぜ、それが可能になるかというと、放送大学のI先生が『広井勇と青山士』を講演テキストに使用してくださっていて、その収益を新たに本を刊行する費用にあてているからということもある。『荒地の力を以て荒地を起こし返す』の仕法原理を『刊行物の力を以て刊行物を興す』として適用することは、私がやりたかったことの一つで、「無限循環」の原理が万分の一でも実行できたことが何よりもうれしい。庄七、瀧助、藤三郎に及ばなくても、わたくしなりに「自得」ができたことがね、嬉しいんだ。二宮尊徳の考えを一つでも自得できれば、一生を通じて活用できる。報徳の考えはそれほど広大無辺なんだ。それにね、Mさんが有志に呼び掛けていただいて、有志の皆さんが推譲してくれたことも大きい。『八田與一と鳥居信平』もまた『刊行物の力を以て刊行物を興す』のパワーと、森町の有志の方々の推譲でできたんだ。」《大藤先生のレジュメより一部抜粋》5、無限の循環の論理・「荒地は荒地の力を以て起し返す」・報徳金融 無利息で貸与し、5カ年賦、7カ年賦、10カ年賦で返済させた後、5、7カ年賦の場合は1カ年賦、10カ年賦の場合は2カ年賦分を「報徳冥加金」の名目で差し出させる ⇒「報徳元恕金」を増殖し、さらに多くの荒地を開き、人々を救済してゆく ☞支配領域を越えて運用 ※一つの実から草木を生じ、それが成長してさらに多くの実を結び、草木を増殖させていくという自然の摂理からヒントを得る[「百草百草の歌」]=無限の循環の論理おわりに―尊徳の思想と実践に学ぶべき点・人間を過去―現在―未来という時間軸に位置付け、家と社会・国家を存続・繁栄させることが、 先人の徳に報いるとともに子孫に徳を及ぼすことになると説いた点 =過去と未来への責任意識・人間を他者および自然との関係においてとらえ、それぞれの固有の長所=徳を発揮して調和すべきことを説いた点 =近代の個人主義の超克・私欲を抑え公共の福利への貢献を説き、「推譲」の規範を定立した点 =現代の市場原理主義の超克