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[鈴木藤三郎] カテゴリの記事

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• 実に人間仲間に、一貫した人生の大目的

  二宮先生語録巻の１【６２】およそ人たる者、父母・兄弟・妻子無きあたわず。 すなわち衣・食・居の道一日も無かるべからざるなり。 それ一家を治むるや、易きに似て難し。 伝にいわく、 一家仁なれば一国仁に興り、 一家譲なれば一国譲に興る　と。 仁・譲は国家を治る本なり。 人の初めて生まるるや、生まるるゆえんの恩無きあたわず。 その既に長ずるや、長ずるゆえんの徳無きあたわず。 その恩を念いその徳に報いる者、人の道なり。 才学・技芸、田禄・職業皆これ一家を経理するゆえんの資なり。 その資財を私し、独りこれを一家に用いて、これを人に推さずんば、すなわち何の仁譲かこれ有らん。 その分内を約しもって余財を生じ、これを推し、もって人をすくう。 これをこれ仁譲という。 すなわち我が生長の恩愛に報いるなり。 王侯これを行い、士民これにならわば天下太平なり。【62】の注には、鈴木藤三郎の「職務本位」を載せました。藤三郎は「現代の人間は天地の恵みと祖先の遺徳で開明に浴している。だから人たるものは勤労し人の幸福となるべきことを開拓し、全世界が楽土となるよう努めなければならない」と説いています。「たらいの水」とは「天地の恵みと先人の遺徳」でいただいたもので、私たちは後の世の人に、この水を満たすよう努めなければならない、これが報徳で、人間の道であるということになります。１　「金次郎の教えで有名な「たらいの水の話」というのがありますね。水を自分のほうに引き寄せようとすると向こうへ逃げてしまうけれども、相手にあげようと押しやれば自分のほうに戻ってくる。だから人に譲らなければいけないと。けれども、この話には実は前段があるんです。人間は皆「空っぽのたらい」のような状態で生まれてくる。つまり最初は財産も能力も何も持たずに生まれてくるというのが前段にあるのです。そして、その『たらい』に自然やたくさんの人たちが水を満たしてくれる。その水の有り難さに気づいた人だけが他人にあげたくなり、誰かに幸せになってほしいと感じて水を相手のほうに押しやろうとするんです。そして幸せというのは、自分はもう要りませんと他人に譲ってもまた戻ってくるし、絶対に自分から離れないものだけれども、その水を自分のものだと考えたり、水を満たしてもらうことを当たり前と錯覚して、足りない足りない、もっともっととかき集めようとすると、幸せが逃げていくんだというたとえ話だと教わったんです。」（「二宮尊徳の残した教え」中桐麻里子「致知二〇一三年九月号」）２　「今日世間に現存している人間はいかなるものでも、天地の恵みと祖先の遺徳とによって現代の開明に浴しているのです。すなわち学問でも、教育でも、政治でも、宗教でも、また農工商その他人間社会における一切の事物はことごとく我らの祖先が数千年前の有巣時代穴居時代より今日までに、経験工夫のかずかずを積みて遺されたる賜物であることは、だれも熟知のことです。然らば天地の恵みは申すまでもなく、祖先の遺徳の大なることは、到底言葉で言いあらわすことのできることではない。故に人たるものはこの大恩徳を報いる心がけが必要であることを了知すると同時に、その実を挙げなければならない。これがすなわち報徳の行いである。然らばいかなることを為してこの大恩徳に報いることができるかと申せば、現代の我々は倍々勤労を積んで、人の幸福となるべきことを拓（ひら）き、祖先の遺徳に加えてこれを後代に譲り、子々孫々、またかくのごとくにして、数百千代の後には、この世界をして、ついに円満無欠の楽土となすようにつとめること、これがすなわち右申す大恩徳に報いるゆえんでして、また、実に人間仲間に、一貫した人生の大目的でなければならない。」（「職務本位」鈴木藤三郎）

  2020年11月15日

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  「技師鳥居信平著述集」出版に向けて　その１

  「技師鳥居信平著述集」を初めてクラウドファウンディング方式で12月～２月行い、出版するべく準備中である。着々と「技師鳥居信平著述集」のクラウドファンディング用のプロジェクトの編集が進みつつある。一人でコツコツやるのではなく、世代の違う若い人のデジタル技術を借りることができると作業がスムーズにはかどる。「 飲水不忘掘井人」という中国語の言葉があります。「水を飲むときには、井戸を掘った人のことを忘れてはいけない」という意味だそうです。鳥居信平氏の台湾での地下ダム（二峰圳）の原点が徳島県技師時代の研究と耕地整理事業にあることを知っていただき、顕彰していただければと思っています。===「二宮尊徳の会」ではこれまで、「報徳記を読む」全5集、「ボーイズ・ビー・アンビシャス」全5集、「八田與一と鳥居信平」等を刊行し、全国の大学図書館。公共図書館に寄贈し、東京大学附属図書館など多くの図書館で蔵書となっているところです。　また北海道立図書館企画の「時代を駆け抜けた“civil engineer” 廣井勇と北海道』」では「ボーイズ・ビー・アンビシャス」第１集、第２集、第4集及び「八田與一と鳥居信平」が資料として展示されるなど、その資料的価値を評価していただいているところです。　鳥居信平氏は、台湾製糖株式会社として台湾南部に地下ダム（二峰圳（にほうしゅう））を建設し、灌漑施設を作り、それまで不毛地であった広大な土地を大規模な耕作機械の導入により豊饒な土地にしました。　鳥居信平氏は台湾国立屏東科技大学の丁澈士（ていてつし）教授 などが専門的に研究されています。また現在でも台湾の現地住民の皆様に感謝され、銅像を建てるなど顕彰されています。　鳥居信平氏の著作および口述記録等を一冊の本「技師鳥居信平著述集」に収録し、全国の大学図書館および鳥居信平の郷里遠州、農業技師時代の徳島県など全国の公共図書館に寄贈し、鳥居信平氏の顕彰及び学術の増進に寄与するとともに、さらに本会の掲げる「報徳の精神」・「ノーブル・アンビシャス（気高い志）」を後の世代に伝えたいと願って作成しています。　今回、初めてクラウド・ファンディング方式にチャレンジします。予定金額を上回まった場合は、新発見の「板野郡中島耕地整理組合事業誌」から転載する工事写真などをカラー化し、また寄贈予定を増加することを考えています。すでに台湾の協力者から台湾の大学等に寄付したいので100冊送ってほしいなど、出版前からエールが送られています。ご協力をお願いします。===

  2020年11月14日

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  「世評正しからず」岩下清周と子息壮一氏

  「世評正しからず」は、海原卓氏が銀行家・岩下清周氏の人生について綴ったものである。鈴木藤三郎が小名木川で醤油の促成醸造法を確立し小規模の工場で好評を博していた時、岩下清周氏が来て広く資本を集めて大規模に会社を興すことを勧めた。そこで鈴木藤三郎は一千万円という当時未曾有の規模で日本醤油醸造株式会社を創立した。後にサッカリン事件を契機に会社が破綻した時に、藤三郎は、二宮先生の教え「積小為大」を忘れ、「速やかならん」と急いだことが失敗の原因だったと留岡幸助に語っている。（「斯民」第８編第７号）「小名木川では、３００万円の資本で、好評を博したのであったが、岩下清周氏がやって来て、君一個の事業として小資本でやるよりは、他の資本をも集めて、一千万円の資本としてやったらよかろうと勧誘したのに、つい乗ったのが、そもそも失敗の原因であった。３００万円にするのには、多くの年月を要して少しずつ基礎を固めつつ進んで来たのであったが、一躍して７００万円を増資してにわかの成長をしたのが自分の失敗であった。今度は実に地雷火にかかったようなもので、粉微塵にされてしまった。」　そして、岩下清周氏自身も藤三郎と同じく、興味本位の大衆新聞で生駒トンネルの崩落事故に発した過剰融資について連日報道され、銀行の取り付け騒ぎを起して失脚し、余生を鈴木藤三郎が創設し、謹慎中過ごした静岡県の鈴木農園、後の不二園で晩年を過ごしたという不思議な縁がある。「世評正しからず」に「日本人名大辞典」第１巻から岩下清周について引用している。「岩下清周（いわした きよちか　1857年 - 1928年）明治大正時代の実業家。安政４年５月２８日信州松代藩士族左源太の二男に生まれる。商法講習所などに学び、一時母校に教鞭を執り、明治11年三井物産会社に入り、米・仏各国に在勤、のち辞して品川電灯会社の創立などに尽力し、ようやく財界に認められた。明治24年三井銀行に入り支配人に進み、各地に歴任したが、またこれを辞し、明治30年北浜銀行専務取締役に挙げられ、ついで頭取となり、北浜銀行経営にはまた軍部の巨頭と交わり、40年には衆議院議員に選ばれ、いわゆる政商として政界に出入した。従来の銀行営業方針の旧弊を脱して盛んに企業に対し融資を行った。従って幾多企業会社の重役として縦横に手腕をふるったが、同行の急激なる膨張は世人の一部にその前途に懸念を抱かしめ、大正３年２回の取付に遭い、彼自身また背任横領の罪に問われ投獄された。彼の援助により今日盛大を成せる企業会社は一二に止らず、その功績は到底没することを得ない。大正１３年恩典に浴して出獄し、また他日の雄飛を期したが、昭和３年３月１９日歿した。年７２」海原卓氏が、岩下清周に興味を抱いたのは「岩下清周が若年のころアメリカ・フランスに在勤したこと、北浜銀行の経営方針が、従来の銀行経営と異なって、企業に対して熱心であり、彼の援助によって、今日隆盛をみているという事実、しかしまた、銀行の取り付けと彼自身が背任横領の嫌疑を受けて失脚し、獄舎の身となって再起をみることなく没したということであった。岩下の銀行経営に軍部の巨頭がどんな影響を与えたのか。また彼自身が衆議院議員となったのはなぜなのかについても関心を持ったのである。」とある。　岩下清周については、「岩下清周伝」があるが、なかなか手に入りにくい書物で、海原卓氏は、企業関係人の資料を集めている県立川崎図書館で閲覧したという。　子息の壮一氏はカトリックの司祭となった。鈴木藤三郎の二男、三男が、「一燈園」という実業界と全く方向の違う道へと進んたことと思いあわされて感慨を覚える。　父親が世間から指弾され、袋叩きにあったことは子の心に大きな傷となったのであろうか。岩下清周氏は昭和３年３月１９日心臓麻痺で亡くなった。壮一氏が司祭として一人で葬儀を司会した。清周氏は聖公会の信者であったことから壮一氏は聖公会の葬祭文で司会した。そして式後、壮一氏は遺族を代表して挨拶したが、父親への敬いと父親の罪があれば自らが犠牲になって購いたいという真情があふれていて、とても心を打つ。「父は信州一藩士の家に生まれ、少壮学に志して東京に出で、故矢野先生の門に馳せて商業学を修め、卒業の後三井に入って世間人になったのであります。その間学生としては、学業の傍らキリスト教の伝道に従うたこともあり、米国への渡航の際、海上に一船の漂流するのを発見してこれを助けるなど、天を畏れ義を重んずる人であったのであります。のちに北浜銀行を創設して、財界に独立するに至っても、常に世のため人のためということを先にして、自己の功名を後にした精神は、これをうかがうに足るものがあります。　その後年のことは、皆様のご記憶に新たなるところで、あえて申し上ぐるの要もありませんが、元来、父は善を喜び善を行わんとして鋭意致したもので、決して私利私欲を営んで他人のご迷惑を顧みなかった者ではなりません。しかし父は直情径行で、自ら善と信ずることは忌憚なく行いましたためにそのわがままが世人をして父を誤認させる原因となりましたから、皆様もまた、父のわがままのために幾多のご迷惑を蒙られたかもしれぬと存じますが、とにかく父は思うがままにこの世に処して一生涯を送りました。もしも父の施し為せる所において、世間多数の方々のご迷惑となることが仮にあったと致しましても、それは父に代わって私がその罪を購いたいと存じます。　ご覧のとおり、私は一僧侶として現世に立っておる者であります。この僧侶となるについても、もとより父と相談の上に決したのでありますが、父は私の志に対して、おまえ自身それをもって生涯の幸福と思うならばと、その私情を排してこれを容れてくれたのでありました。万一、父が生前の所業から世間にご迷惑をかけたものがありましたならば、私は私の一身をなげうって進んでその罪を購いたいと思います。　私は終生めとらず、終生家をなさず、心身を神にささげ、頂天立地わが道とする所によって、国家人民の福利のために最善の力を致したいと思っております。そして、私のこの志に対して、必ず世間が父の過ちを忘れるに至る日のあることを期しております。」

  2020年11月08日

• 事を為す猛志あり、堅行あり。博大なる精力を以て、絶えず力行し、黽勉(びんべん)し、一歩は一歩より一尺は一尺より、やがては山倒海立の偉業を企つ

  ◎二宮尊徳先生と余が欧米観　　鈴木藤三郎　抜粋（「二宮翁と諸家」（留岡幸助編）　明治３９年６月▲牧草青々　農業は、余の専門以外であるが、多少見聞したこともある。余がスコットランドを巡遊したのは、時あたかも初冬に際し、汽車に搭じて行く行く、丘陵起伏せる処に、一望の青色書けるがごとく、牛羊自在に或いは立ち或いは臥するを見た。余思へらく英国商工業の隆盛けだし偶然にあらず。見渡す処の原野丘陵、すべてこれ牧草にあらざるはなし、食すでに足る、国正に富まざるを得ない。すなわちこれを傍らの一英紳士に語ると、紳士答えて云うには、君まことに妙所を穿ち得た。けれども君はいまだ５０年前においてこの原野が、ただ雑草茫々として荊棘（けいきょく）生い茂り、狐兎昼夜を分かたず跳躍したる状況を知るまい。それ幸いにして今日のごとくなる所以は、実に我ら先祖の丹精の結果であって、決して天然が恵与してくれたものばかりではないと。然らば即ち英国の牧草もまた実に歴史的に発達したものである。その農業の進歩せる元より怪しむに足りないではないか。しかしてその工業や農業の製産物が一にロンドンに輻輳(ふくそう)せらるるのである。かく観察しきたると、英京ロンドンの隆盛が天下に冠たる所以も、なるほどと合点せらるる訳で、初め米国を見て、とても日本などでは及びも付かないと失望した余も、英国の遣り方を見ては再び希望の蘇（よみがえ）った次第である。即ち英国の万事はすべて二宮先生の小より大に及ぶ主義である。この主義を執って行くならば、日本の百事もまた敢えて英国を駕御し得ない理由はない。果然この一道の光明は、余を絶望の淵より救い上げた所のものであった。▲英米の総合的観察　ところが、余が今までの英米観は、なお甚だ狭隘であった。これは米あれは英と別々に観察すればこそ、いろいろの迷いも生ずるなれ。試みにこれを総合して観察した時にはドーダ。英国がその漸進主義、その積小成大主義を以て蘊蓄（うんちく）した精力を、米国が胆大気豪なる方針を以て発散しているものと併観すれば、何にも驚くべきほどの事もないではないか。英国は人種的に自ずから米国の基礎を作っている。その人種的性質は即ち小を積んで大を為すので、二宮翁の言を籍（か）って云うと、本を尊（たっと）んでこれを進化さすのである。これ実に天地の化育を賛するの途(みち)にして、併せてまた永遠に富強を致す方法である。▲ドイツ観　ドイツにおいて余はハノーバー府という都会を去ること約２里ばかりの処にある「ケールチング」工場を見舞うた。ここは「ケールチング」工場の職工を以て、実に５００有余戸の一村落を形成しておる。ケールチングは当時６４歳の矍鑠（かくしゃく）たる老人であったが、この翁の一生も優に立志篇中の材料を供給するに足るので、聞くところに由ると、彼は２５歳まで鋳鉄職工であったが、その年「ケールチング」式暖房室機を発明して、財産を作り、遂に工場を起こして、今日では世界的にその工業を拡張し、万事よく整頓してほとんど間然する処を見出さないほどである。余はハノーバー府の旅館より通って１週間ばかりこの工場を視察したのであったが、ある日彼れ余に問うて曰く『君は欧米各国を歴遊して来(き)たられたから、定めし見聞が広いであろう、余不幸未だ米国を見ず、我が工場また終に固陋の弊あるを免れざらん。乞う我が為めに我が工場の欠所を語れ』と。余曰く『なし、されどもし強いて言わば、余にただ一の疑問あり、貴場の盛大完備せる。これを英米の工場と比較して毫も遜色なし。ただ貴場の設計室極めて壮観を呈し、かつ聞く所によれば技師は３１名の多数に上れり。けだし英米においてかつて見ざるの現象たり、知らずこれ何の故ぞ』と。彼拍手して曰く『善いかな言や、君の疑問まことに理りあり。されど我が工場に有給の技師は、たった一人である。その他は皆な工科大学卒業生が、実習の為めに来場せるものであって、彼らは自費自弁であるいは３年あるいは５年、実地の練習をここに試み、然る後他の工場より招聘し来たるを待っておるので、設計室のごときも余が国家に対する義務なりとして、多少装置を施せる次第である』と。総じてドイツにおいては工学士が大学卒業後、４，５年実地練習を試み、その上なお有給の技手となってから、特別なる功績あるにあらずんば容易に技師長となることが出来ないのである。即ち一人前の人物となるには、少なくとも大学卒業後１０か年を要するので、余はケールチングが余に語る所、及びその実際の状態を見て、ドイツ工業の発展する所以、決して偶爾にあらざるを悟った。▲余の疑問　これを要するに、泰西人の事を為す猛志あり、堅行あり。博大なる精力を以て、絶えず力行し、黽勉(びんべん)し、一歩は一歩より一尺は一尺より、やがては山倒海立の偉業を企つの概がある。あたかも我が二宮尊徳翁の精神を学んで、その通りをするのではないかと思われるほどであるが、元より彼らが二宮翁の精神を学んだはずはない。然らば即ち彼らは如何なる精神を学んでここに至ったのであろうか。これ実に余が為めに大なる疑問である。

  2020年11月03日

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  鈴木藤三郎小伝－顕彰と温故知新－その6

  鈴木藤三郎小伝－顕彰と温故知新－斎藤伊知郎（いわき短大地域経済研究所長）その6

  2020年11月03日

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  観音像修復

  2015年06月06日中日新聞観音像修復　森町見守る町出身の実業家・鈴木藤三郎建立森町出身の実業家、鈴木藤三郎（一八五五～一九一三年）が町内にある庵山（あんやま）公園に建立した観音像を、町が修復した。欠落していた衣部分も復元した。高さ１８２センチの青銅製で、１９０７年に建立された。奈良・薬師寺の聖観音菩薩像がモデルとされ、１９７４年に町が文化財に指定した。台座の腐食など老朽化が進んでいたため、町が昨年１２月から修復を始めた。総事業費３５１万円のうち町内外の有志でつくる保存会が７２万円を負担し、藤三郎のひ孫にあたる手島肇氏が５０万円を寄付した。庵山公園で5月に開かれた式典には手島氏も出席して「さらに森町との絆が深まった」と話した。村松藤雄町長は「末永く町の発展を見守ってほしい」と述べた。日本農学会　様　お世話になっております。　別添のとおり「日本農学会第７回大会講演集,1936」に掲載された鳥居信平氏の「伏流水利用に依る荒蕪地開拓」(全文)の引用転載について掲載の許可を頂きたく申請申し上げます。　技術者の著述を一冊にまとめたものは、日本ではまだ類例が少ないように思いますが、台湾で地下ダム(二峰圳)を建築し、現在でも現地で感謝されている鳥居信平氏の著述を収録した「技師鳥居信平著述集」は本人の顕彰とともに、今回新発見の徳島県技師時代の論述及び貴学会誌掲載の論文など時系列に資料を収録することによって、鳥居信平氏の台湾における偉大な事業は、徳島県技師時代の研究・実績をベースにしたものであることが判明することを資料をもって語らせることができるものと存じます。　また鳥居信平氏が手掛けた「板野郡中島耕地整理組合事業誌」の工事写真を収録することにより、明治後期から大正にかけての農地整理事業を知る貴重な資料集となるものと存じます。　どうぞよろしくお願い申し上げます。

  2020年10月27日

• 台湾製糖株式会社と鈴木藤三郎初代社長

  台湾製糖株式会社と鈴木藤三郎初代社長鈴木藤三郎は鳥居信平の故郷袋井市に隣接する森町の出身です。一八五三年遠州地方の代表（遠州報徳七人衆）が日光で二宮尊徳に面会し遠州の報徳が公認され、遠州から三河にかけて報徳が広まりました。藤三郎は一八七六年（明治九）正月に実家で『天命十か条』という本を見つけ、二宮尊徳の報徳の教えを研究し、その「荒地の力をもって荒地を興す」の方法を家業の菓子製造販売業に適用し五年で十倍の売り上げとなったことから「二宮尊徳の報徳主義は人間万物に応用して最も有効に活用できる」と確信します。後に氷砂糖製造法を発明したり、精製糖工場を設立するなど、「発明王」、「砂糖王」と称されました。一八九五年（明治二八）台湾が日本に帰属し、井上馨(かおる)、児玉総督、後藤新平による台湾の振興政策として台湾製糖株式会社が設立されます。一九〇〇年（明治三三年）創設発起人会が開催され、それに先立って鈴木藤三郎と山本悌(てい)二(じ)郎(ろう)による実地調査が行われます。創設発起人会で鈴木藤三郎が台湾製糖の初代社長に選任されました。工場地は藤三郎らの調査の結果、台湾南部の高(かお)雄(しゅん)「橋(きょう)頭(とう)」が最適地として選ばれました。藤三郎は社有地農場の買収を提案し、報徳の教えに則(のっと)って、両(りょう)得(とく)農業法を案出し、会社と農場の農民双方が得をする農業法を目指しました。藤三郎自ら工場建設に従事し、また修理工場の建設＝自助の精神による会社運営を行いました。台湾製糖は台湾最初の近代的製糖会社でした。『台湾製糖株式会社史』には、次のように記されています。「鈴木藤三郎氏は、工場建設地選定その他の要件取調のため、山本悌二郎氏を同伴、明治三十三年(一九〇〇)十月一日、新橋駅を出発し、三日神戸出(しゅっ)帆(ぱん)、七日台北(たいぺい)に到着した。十三日まで同地に滞在の上、総督初め諸官に面会し打合せを行い、十月十四日基隆(きーるん)出帆、安(あん)平(ぴん)に上陸し十六日台南到着、三日間同地に滞在後、実地踏査にとりかかった。初めは工場を麻(ま)豆(とう)付近に置く予定であったが、先ず高(かお)雄(しゅん)に出た。次いで鳳(ほう)山(ざん)に至り、それより万(ばん)丹(たん)、東港を経て、糖業地の南端の枋(ぼう)寮(りょう)に到着した。当社は当時既に土地を所有し、自ら耕作する目(もく)論(ろ)見(み)を立てていたから、枋寮以北の大原野について、特に注意して踏査検分した。枋寮と石(せつ)光(こう)見(けん)との間には蕃界(ばんかい)に接して原野があり、石光見より阿(あ)緱(こう)街（現屏(へい)東(とう)市）付近にかけても大原野が横たわっている。この大原野を通過し阿(あ)里(り)港(こう)に出で、下(か)淡(たん)水(すい)渓(けい)を渡って手巾寮に至り、蕃(ばん)薯(しょ)寮(りょう)を過ぎ、山を越え関(かん)帝(てい)廟(びょう)に出で、台(たい)南(なん)に帰着したが、この行程に費した日時は二週間に及んだ。更に北上し、大目降、曾(そ)文(ぶん)渓(けい)を経て･･･それより塩(えん)水(すい)港(こう)に出で新(しん)営(えい)商に至り、軽便鉄道で台南に帰着した。この間十一日を要し、前後を通じて二十四、五日間にわたる踏査に、一行の苦心は実に容易ならざるものであった。その踏査区域は、現在殆んど全部が当社の採取区域となっている台湾南部の糖業中心地帯である。その上、当時の石光見、阿緱付近の大原野、即ち現在当社の阿(あ)緱(こう)及び東港両製糖所区域たる万(まん)隆(りゅう)及び大(だい)晌(しょう)営(えい)その他の大農場付近を特に注意して検分している先見の明に対しては、われわれに驚きの眼をみはらせるものがある。以上の如き実地大調査を終えて、鈴木藤三郎が帰京したのは明治三十三年十二月二日であった。」工場は最初、総督府の調査に基づいて麻豆付近が考えられていましたが、鈴木、山本の踏査の結果、曾(そ)文(ぶん)渓(けい)、橋(きょう)仔(し)頭(とう)の二か所が候補地となり、運搬及び水に便利がよいことから橋子頭に決定しました。一九〇一年（明治三四）二月一五日建設工事に着手します。工場の設計設備に最も力を注ぎ、その実行を指揮したのは鈴木藤三郎でした。藤三郎は欧米諸国の技術者の助言援助等に頼ることなく、北海道紋(もん)鼈(べつ)の甜(てん)菜(さい)糖(とう)工場で製糖技術を修得した齋(さい)藤(とう)定(じょう)雋(せん)氏らを用いて実際の仕事を進めました。「鈴木社長の英断にはまことに感慨深いものがある。」と『台湾製糖株式会社史』」に記されています。「建設工事　創立の二箇月後、即ち明治三十四年二月十五日、早くも建設工事に着手したが、工場の設計設備に、最も力を注ぎ、かつその実行を指揮したのは当時の社長鈴木藤三郎氏であった。氏は我が国に於ける新式糖業のなお渾沌(こんとん)たる時代に斯界(しかい)に身を投じて刻苦勉励、遂に我が国製糖界に於ける最高の権威者と称せられるに至った人である。即ち明治十年頃氷糖製造に志し、次いで精製糖製造の研究に進み、自ら精製糖工場を創設し、漸次発展して明治二十八年、日本精製糖株式会社となるにあたり、その専務取締役兼最高技術者として重きをなしていた。氏の砂糖精製に関する知識と経験とは、当社の事業たる甘蔗分蜜製糖にも役立つ訳ではあるが、何分甘蔗を搾って分蜜糖を製出した経験は全然なく、かつ又工場建設に参考となるべきものは何もなかったので、西暦一八八八年、ロンドンにおいて出版されたロック、ニューランド共著「砂糖論（シュガー）」一冊を得て、その中にある一小図版を参考として設計図を作成し、しかも当時一般の習わしであった欧米諸国技術者の助言援助等に頼るが如き策を採らず、ただ北海道紋鼈の甜菜糖工場に於て製糖技術を修得していた齋藤定雋氏、その他を用いて、実際の仕事を進めたのであるが、鈴木社長の英断にはまことに感慨深いものがある。」　原料のサトウキビの買入は、当初から懸念されていました。工場付近には旧来からの現地の人が経営する製糖所が三十数か所あり、その所有者は農民をそそのかし会社にさとうきびを売ることを妨害したりしました。　藤三郎は両得農業法を考え、会社も農民も共に利益となることを会社の方針としました。「サトウキビ栽培については、農民を誘導して品種の改良、肥培耕作方法の改善を講じようとして、並々ならぬ苦心を払ったが、旧来の習慣を墨守する頑迷固陋な彼等は容易に之を実行せず、従って土地を所有しても、その効果は直ちに顕れ難かった。ここにおいて鈴木社長は、農民にも利益を与え、同時に当社も利益を挙げつつ甘蔗農業を進歩せしめようとするいわゆる「両得農業法」を案出した。明治三十四年十二月付の「両得農業法草案」は次のような語を以て結んでいる。「この方法を実行すれば、会社及び農民の両者間において二万六千円の実利を生ずる。もしそれこの方法を会社は今後買収した土地にあまねく施すときは、その利益はますます大きくなるであろう。二宮先師訓に曰く、『天地が和して万物が生ずる、男女が和して子孫が生ずる、貧富が和して財宝が生ずる』と、まことにこの言葉の通りである。元来会社はこの趣旨にのっとって、人民と共に天地の間に充満する、いまだに所有者がない財宝の開発に勉めて、会社のため、国家のために鋭意専心実行していくことを希望する。」このように、台湾製糖株式会社は創業の初めから農民との共存共栄を図りつつ、土地所有を社是として進んで来たが、現在では約五万甲に垂んとする広大なものとなり、いよいよその真価を発揮せんとしている。創立当初に樹立せられた大方針を顧みれば、今更ながら当路者の先見卓識に敬服せざるを得ない。」「当時、資本金百万円を超える事業会社は、内地においても大会社の部に属していた。いわんや台湾においては、かかる資本を擁するものは未だ類例を見なかったのであるから、当社経営の成否は、ただに新企業たる新式糖業の将来、ひいては国家経済の上に大なる影響を及ぼすのみならず、新領土経営上の試金石ともなり、台湾統治の上にも密接な関係を持つものとして重要視されていた。従って児玉総督初め官辺においても、その経営に対しては少なからず後援斡旋された訳で、当社の負える使命はまことに重かつ大であった。かかる使命と期待とは幸いにして着々その実を挙げ、台湾新式糖業の先駆会社としての目的を十分達することが出来た。」とあります。『台湾製糖株式会社』の結語（三四四頁）に、「当社は明治三十三年、砂糖の輸入防止と、将来自給自足を達成するという国家大局的な立場から日本最初のサトウキビ製糖の大会社として設立された。農事方面では、原料のサトウキビの獲得を安全、有利にするため、土地を社有にし、各製糖所に農場を付設し、サトウキビ農業の進歩改善に努力した。工場方面でも、機械・製糖方法において発明考案を実施し、早くから科学的な工場管理法を実施した」、「創立当初より本島人との間に共存共栄の実を挙げることを大方針とした」とあります。鈴木藤三郎が台湾製糖株式会社に「報徳の精神」「発明考案」の実施をもたらしたのです。2020（令和2）年10月28日 日本農学会　　御中（申請者）団体名：　二宮尊徳の会氏　名：　  転載許可願 　下記の利用について、転載許可をいただきたく申請いたします。利用に際しては、出典を明記するとともに、指定された条件を遵守いたします。 記 記 １．利用の目的、転載を予定している申請者の著作物 編集者名　　編集書名　　『技師　鳥居信平著述集』2021年3月刊行予定利用目的　　鳥居信平氏の著作物等を収録するため ２．転載したい日本農学会の刊行物　１）伏流水利用に依る荒蕪地開拓　日本農学会第７回大会講演集,1936 ２）掲載箇所：全文　 ３．担当者・氏　名：（二宮尊徳の会）　・連絡先：　　住所　　　TEL.：　　E-mail：

  2020年10月27日

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  「鈴木藤三郎小伝－顕彰と温故知新－」その１

  森町のMさんから「鈴木藤三郎小伝」の新発見資料が送られてきた。副題に「－顕彰と温故知新－」とある。斎藤伊知郎（いわき短大地域経済研究所長）が昭和５０年５月１０日発行の「６号線（創刊号）」に投稿されたものである。鈴木藤三郎は「製塩工場」をこの地に建造しており、そのためにひいた鉄道路線はいまでも地域に役立っていることを考えると、いわき市で顕彰活動が行われても不思議ではないのだが、とても嬉しい。藤三郎の出身地森町の皆さんや台湾製糖工場のあった台湾高雄の皆さんにも知っていただきたいと願う（＾＾）

  2020年10月23日

• 「森町史」通史編下巻より

  ※「森町史」通史編下巻より森町報徳社の設立　一八五二年（嘉永五）閏二月、庄七の指導により森町報徳社が結成された。ただ「森町報徳社」という名称はこの時点では使われておらず、報徳を信奉しようとする仲間が数人集まったという程度の組織であったと思われる。１８５２年閏２月の「勤行義定連印帳」には「休」や「病死」の抹消を除くと、８人が銘記されている。そこには、里輔（里助）、常造（常蔵）の名も見える。連印帳によれば、彼らは毎月３日、１３日、２３日に集うこと（参会）にした。参会の日は、朝から心がけて７つ時（午後４時）には仕事を終えるようにし、暮れ前に余業を行って、夕飯後集まるようにした。参会では、重立った者が「御報書」の読み聞かせをしたり、「勤行之図」を見て感服したり、農業や家業の「勤方」などが話し合われたりした。また、「義定一札之事」として、無駄な出費をせず余業に励みできたものを日掛けにして積み立てておくこと、公儀法度を守ること、天照皇太宮ならびに氏神への拝礼、困窮者には「窮民撫育金」を入札により「無利足年賦」で貸し付けること、休日には早朝から昼まで村内の道造りをすることなどが決められた（資料編４、148号）。この「勤行義定連印帳」には、里助、常蔵のほかに「勘左衛門」の名が見える。山中勘左衛門である。山中家の当主は代々勘左衛門を襲名しており、この勘左衛門は九代目山中勘兵衛で、新村里助の兄にあたる。勘兵衛も里助同様報徳に熱心であった。勘兵衛は森町村の名主も勤めた人物である。・・・山中勘兵衛や里助の父豊平（とよひら）は「遠淡海地志」をはじめ多くの記録を残している。　尊徳との面会　一八五二年（嘉永五）の暮、佐野郡成滝村（現掛川市）の平岩佐兵衛は、旧主の病気見舞いのために江　戸に向かったが、その際二宮尊徳が相馬藩の中屋敷に滞在していることを聞きつけた。佐兵衛はさっそく訪問したが会えず、二度目にも会えず、明けて正月七日三度目にして面会することができた。その時尊徳は遠州の報徳の重立った世話人たちを当方に呼ぶよう取り次ぐことを、佐兵衛に指示した。勇躍遠州に帰郷した佐兵衛は、それを遠州の報徳人に知らせたのである。一八五三年春の報徳大参会は山名郡高部村（現袋井市）の高山藤左衛門方で開かれた。ここで遠州報徳連中四百十九人の総代として日光にいる尊徳のところにだれがいくかが議せられ、七人が選ばれた。佐野郡影森村（現掛川市）内田啓助、倉真村岡田佐平治、気賀郡竹田兵左衛門、同町松井藤太夫、森町村中村常蔵、同村山中里助、下石田村神谷久太郎の七人である。同年八月十日一行は安居院庄七に連れられ出発した。一行は二手に分かれ、佐平治、里助、常蔵、久太郎の四人は、途中十日市場にある安居院家を訪れたり、曽比村（現小田原市）の剣持広吉のところで報徳の資料を写したりして、尊徳のいる桜秀坊を訪ねたのは九月に入ってからだった。九月四日一行は揃って桜秀坊を訪ねたが、尊徳は多忙のため会えない。やむなく一行は仕法書を写しつつ逗留を続けた。待つこと一週間以上に及び十三日にやっと面会することができた。庄七にとっても尊徳に直接会うのは初めてであり、一行の感慨はひとしおであったろう。一行は「報徳安楽談」などの報徳書を頂戴して、面会の二日後帰途についた。桜秀坊では里助も多くの仕法書を写した。既述のように、報本社には多数の仕法書の写本が残されているが、その一部はこの時写されたものと思われる。安居院庄七の死と福山滝助の来遠　一八六三年（文久三）八月十三日庄七は、浜松宿の門人田中五郎七方にて没した。享年七十五歳であった（鷲山恭平「報徳開拓者安居院義道」）。師を失い、報徳にもかげりが見え始めたとき、遠州の報徳人たちは庄七の三回忌を機に新しい報徳の師を求めることにした。一八六六年（慶応二）里助の弟で浜松の商家を継いでいた小野江善六は、相州前川村の滝沢庄右衛門に推薦を依頼した。庄右衛門が選んだのは小田原報徳社員で菓子商の福山滝助、しかし滝助は辞退した。翌六七年尊徳の晩年の門人でもあった岡田佐平治の息良一郎は、同じく尊徳門人の福住正兄に相談した。正兄が推したのも滝助であり、意を決して滝助は秋葉山参詣を名目に遠州に旅立ったことにした。　福山滝助（一八一七年（文化十四）～一八九三（明治二十六））は小田原町古新宿の菓子商の子に生まれ、一八四四（弘化元）に独立、小田原報徳社には、一八四三年（天保十四）の設立から参加した。尊徳に初めて面会したのは、一八四三年八月で、その後「道ニ篤キヲ以テ、余暇アレバ東都ニ出デ、二宮先生ニ随身シ教ヲ受ケ、或ハ日光ニ行キ帳簿ヲ納ムル等独特ノ行」をしたといわれる。家業は一八六一年（文久元）に隠居し、以後報徳の道に専心していた。　その滝助は、一八六七年三月、小田原町を出発する。遠州に入り、同月二十八日、早速岡田佐平治に面会した。当時岡田佐平治は掛川藩地方御用達として、藩の力を背景に尊徳が行ったような荒廃村の立て直し（行政仕法）を行っており、名実とともに庄七以後の遠州報徳の中心人物であった。倉真村の佐平治宅に一泊してのこの面会は、しかし不調に終わったようである。これは両者の立場の違いや報徳に対する考え方の違いから生じたものと思われる。佐平治は掛川藩の大庄屋で、上からの報徳の推進者であったのに　　対し、滝助は一介の菓子商に過ぎず相互扶助の結社である小田原報徳社で報徳の実践を積んできた人であった。佐平治は庄七から先進的な農業技術とともに窮民撫育手段や褒賞手段として報徳金貸付を位置づける方法を学んでいた。これに対し滝助は報徳金貸付を仕法として重視する小田原報徳社の方法を経験していた。このように両者は相違し、以後それぞれの報徳をめざすことになる。とりわけ、報徳金の問題は重要で、後の報本社独立はこの問題と深く関わっていたのである。森町報徳社再興と遠譲社の設立　岡田佐平治とこのように別れた福山滝助は、佐平治の紹介で翌日の三月二十九日、森町内に行き新村里助宅に逗留した。滝助はここで「無利息貸付の雛形六十箇年分を製し」里助に示し、里助も大いに感じ入って森町報徳社にこの方法をあてはめたいと願ったが、今回は秋葉山参詣が目的であると断られ、他日を約束したといわれる。滝助は四月四日まで里助宅に逗留し、三日には秋葉山に参詣した。その後、浜松宿の小野江善六、天神町中村五郎七、都田村金原孫四郎などを訪ね、四月十七日には再び里助方を訪問し、二十二日まで逗留している。この間に滝助は森町報徳社の「無利息貸付の仕法を組立」たものと思われる。この後、滝助は西遠、三河を中心に広く報徳の指導をしていくことになる。（略　安居院庄七亡き後、わずか四、五年で報徳運動が急速に衰退していたことを森町史は「福山先生一代記」を引用して述べる。）　結社といっても未熟で脆弱なものであり、それゆえ指導者を失って急速に衰退したのではないかと思われる。　滝助は、「各社を巡回したまふや、いと懇切周到をきわめ、或は一社の仕法に数十日を要し、或は一人の家政に数日を費し給ふこと珍らしからず」といわれる。　一八七一年（明治四）滝助により指導された報徳社は九社になっていた。　一八六七年（慶応三）　森町社、天神町社、浜松社、気賀社　　　六八年（明治元）　都田社　　　六九年（明治二）　刑部社　　　七一年（明治四）　寺島社、石原社、和地社　ここにおいて各社を統括する本社設置の議がおこり、気賀町鈴木徳右衛門方にて本社秋期の会が開かれ、社名は「遠譲社」とされた。本社には「世話人重世話人」が置かれることになったが、新村里助は「重世話人」となっている。　「遠譲社」の「世話人重世話人」は次のようであった。（「静岡県史」資料編16）　重世話人　森町村山中理三郎（新村里助）、気賀町鈴木徳右衛門、浜松田町小野江善六、都田村金原孫四郎、　世話人　　森町村中村常蔵、気賀町豊田小伝治、浜松宿田町田中五郎兵衛、都田村坂本佐五平、天神町中村五郎七、刑部村内山伊和太郎、同内山健蔵、同植村与一郎、同今泉鍋十郎、石原村小栗九郎、寺田村桑原清吉、和地村牧田猪太郎、同牧田伊平遠江国報徳社の設立と遠譲社の設立と遠譲社の分離　一方、安居院庄七在世当時から行われていた報徳大参会は、庄七没後岡田佐平治の主宰により行われていた。一八七五年（明治八）庄七の十三回忌を兼ねた大参会を機に、各社の連絡や指導、統括、報徳の研究、普及を目的とする本社を設立することになり、同年十一月「遠江国報徳社」の設立総会が浜松町の玄忠寺において開催された。ここには、各報徳社の代表者九十五人が参加したが、遠譲社所属の報徳社からも参加していた。総会の結果選任された役員は次のようである。　　社長　　岡田佐平治　　副社長　森町村新村豊作（里助）、浜松町小野江善六、深見村伊藤七郎平、下右田村神谷与平治、気賀町鈴木得三郎　　幹事　　神谷喜源治、名倉太郎馬、伊藤七郎平、小野江善六、新村里三郎このように遠譲社所属報徳社は、遠江国報徳社にも所属することになったが、一八七九年（明治十二）三月遠譲社所属報徳社のうち一部が遠江国報徳社に残り、あとは分離独立するというかたちで両社は分離した。同年三月の遠譲社春期の参会では、一八七七年、二宮尊親、富田高慶が創立した興復社を本社として、その下に立つかどうかが論議された。遠譲社所属報徳社はその時点で二十九社であったが、滝助創設にかかる十九社が興復社の下に立つことを主張し、安居院庄七により創設され、のちに滝助の指導を受けた十社が反対した。これ以前一八七八年（明治十一）一月、遠江国報徳社社長岡田良一郎は「報徳社会本分社之説」なる説明を行い、興復社の下に立たないことを明言していた。そのため、興復社の下に立てば遠江国報徳社の下に立てないことになり、離脱するほかはない。結局反対派十社が遠譲社を離脱した。遠江国報徳社から分離した遠譲社十九社は、新たに七社を加え、初めて社則を制定し、十一月に県の認可を得て、社としての体裁を整えた（足立洋一郎「報徳遠譲社の成立」）。森町報徳社は遠江国報徳社の所属社となったが、十六年後報本社として再び分離する。

  2020年10月11日

• 宇都宮の宿屋での二宮神霊のお教え

  宇都宮うつのみやの宿屋やどやでの二宮にのみや神霊しんれいのお教おしえ　二宮にのみや神社じんじゃの建立こんりゅう以前いぜん、明治めいじ一五年ねん一〇月がつ、栃木県とちぎけん今市いまいちの如来寺にょらいじでは二宮にのみや尊そん徳とくの二十七回忌かいきの法要ほうようを終おえ、その帰かえり途みち、宇都宮うつのみやの宿屋やどや稲屋いなやに一泊いっぱくした。その夜中よなかの事ことであるＡ　　　　砂糖さとうはいくら固かためようと思おもっても外そとからの力ちからで固かたまるもんじゃあないよＢ　　　　どうすりゃ固かたまるんだＡ　　　　結晶体けっしょうたいの自然しぜんの法則ほうそくというものがあるのだいＢ　　　　その結晶けっしょうってのは何なんだＡ　　　　砂糖さとうは純粋じゅんすいになればそのとき自然しぜんに結晶けっしょうする自然しぜんの法則ほうそくで純粋じゅんすいな砂糖さとうは自分じぶんで固かたまるのだＢ　　　　それでは混まじりものを取とることに苦労くろうすればいいのかＡ　　　　そうだ不純ふじゅんなものを取とり去されば、砂糖さとうは自然しぜんに固かたまるのだＢ　　　　不純物ふじゅんぶつを取とり去さるーＡ　　　　そうだ砂糖さとうが純粋じゅんすいになったときパッと美うつくしい光ひかりを出だす。その光ひかったときから砂糖さとうは結晶けっしょうしはじめるのだ藤三郎　　誰だれの声こえだろう、この夜中よなかに。砂糖さとうが純粋じゅんすいになれば自然しぜんに結晶けっしょうする美うつくしい光ひかりを出だして結晶けっしょうをはじめる。不純物ふじゅんぶつをとれというのだ。そうか、俺おれは今いままでこの法則ほうそくを逆ぎゃくにやっていたか、今いままでは自然しぜんの結晶けっしょうを妨さまたげていたのだ。ようし解わかった、いけるぞ

  2020年10月01日

• 職業に貴賎なし　「職務本位」　鈴木藤三郎

  職業に貴賎なし／二宮尊德一日一言0919人皆その職を貴ぶべし。家老が代々官録を以て勤仕するも、豆腐屋が豆挽（ひ）くも同じことなり。然るに豆腐屋は恥（はず）かしと思ひ、家老は楽なりとするは誤なり。（金言集)【註】「職業に貴賎なし」。その職に対する誠心誠意の如何こそ一番大事である。「斯民」第２編第７号（明治40年10月7日）＜読みやすくするため漢字、ふりがな等改めた＞　（同13ページ）（本稿は小田原講演会第２会場における第２日の席上に述べられし講演の概要を筆記したるものなり。）　諸君私は二宮尊徳翁崇拝の一人であります。二宮翁と最も縁故の多いこの小田原の地で、二宮翁の遺教を慕いつつ四方より集合せられた諸君と、今日一堂に会合してお話を致すの光栄を得ましたのは私の大いに愉快とするところでございます。私は元来浅学短才で、いまだこのような席でお話するほどの境遇に達しておりませぬが、本会の幹事諸君より強いてお勧めを受けましたので、身分をも顧みずお話をするようになりましたのであります。　私の演題は職務本位というのであります。この名目は固より私が工夫して勝手に付けたので、本来、人間に一貫せる大目的を達せんとする手段の標榜に過ぎませぬ。その主意は読んで字のごとく、人たるものは上は一国の帝王より、下は一家の下男下女に至るまで、職務を本位として誠心誠意、力のある限り、各自の職に尽くすべきものであるという意味であります。　まことに単純な事で、誰にも分ることでありますが、この単純な言葉の中に、報徳の訓え一切を包括している。また国の東西、人類の異同、男女の別を問わず、すべての人がこれを守るべき義務を自然に有するものと私は信じます。　よりて、これよりなぜに人はことさら、職務を本位とせねばならぬかという、その理由に対する卑見をなるべく簡単に述べたいと思います。　このように申しますれば、諸君は鈴木が報徳の道を離れて新説を立てると思召すかも知れませぬが、自分では決してさようなつもりではないのです。元来私が始めて報徳の教えを信じましたのは、明治９年でありまして、それより以来先輩諸氏について、いささか研究致しました。その結果、私が管見をもって、報徳を無造作に考えましたのがすなわち職務本位ということに帰着したのであります。報徳訓は諸君の御熟知の通り。　父母の根元は天地の令命にあり　　身体の根元は父母の生育にあり　子孫の相続は夫婦の丹精にあり　　父母の富貴は祖先の勤功にあり　吾身の富貴は父母の積善にあり　　子孫の富貴は自己の勤労にあり　身命の長養は衣食住の三つにあり　衣食住の三つは田畑山林にあり　田畑山林は人民の勤耕にあり　　　今年の衣食は昨年の産業にあり　来年の衣食は今年の艱難にあり　　年年歳歳報徳を忘るべからずの１２句でありますが、この句には過去現在未来を一貫し、道徳経済を一括して、最も深遠なる意味を包含せるものであります。　故に私のごとき浅学のものには、詳細に了知することも、説明することも、固より難事でありますから、それらの事は学者先生がたの任務として、私は自分だけの卑見をもって、極めて簡単に、実用的に解釈をしたのであります。それゆえ、世間に対して公に開陳したことは、いまだかってありませぬが、今日はここに卑見を述べて、同志諸君の叱正を請うのであります。　さて、今日世間に現存している人間はいかなる身分のものでも、天地の恵みと祖先の遺徳とによりて、現代の開明に浴しているのであります。すなわち学問でも、教育でも、政治でも、宗教でも、はた、農工商その他いやしくも人間社会における一切の事物は、ことごとく、我らの祖先が数千年前の有巣時代穴居時代より今日までに、経験工夫のかずかずを積みて遺されたる賜物であることは、誰人も熟知のことであります。然らば天地の恵みは申すまでもなく、祖先の遺徳の大なることは、到底言葉で言いあらわすことのできることではない。　故に人たるものはこの大恩徳を報いる心がけが必要であることを了知すると同時に、その実を挙げねばならぬ。これがすなわち報徳の行いである。然らばいかなることを為してこの大恩徳に報いることができるかと申せば、現代の我々は倍々勤労を積みて、人の幸福となるべきことを拓き、祖先の遺徳に加えてこれを後代に譲り、子々孫々、またかくのごとくにして、数百千代の後には、この世界をして、ついに円満無欠の楽土となすようにつとめること、これがすなわち右申す大恩徳に報いる所以でありまして、また、実に人間仲間に、一貫したる人生の大目的でなければならぬ。（ちょっと、ここにお断りしておきたいことは、私が今日いう祖先または子孫という語は、通常、血統の上より称する狭義のものではなく、我々より前の人は皆祖先、後に生まれ出ずべきものは、皆子孫とする広義の見解によるものであるということであります。）　人々がこの大目的を達せんとするには、もとより方法と手段とが必要でありますが、これはさほどにむずかしく考えるにも及ばぬ。人間仲間には古よりそれぞれ職務を分担するという最も便宜なる習慣が自然に成立しておりますから、人々が銘々にその職務を完全につとむるというだけの事であると私は存じます。なおこの意味を細説しますれば、およそ人として職務のないものはない。而してその職務というものは皆、直接自己のために勤めるように心得るものもありますが、その実は左様で無い。何の職務でも、自己のためには間接であって、まずもって、他人のために勤めることに事実がなっている。その証拠は一国の帝王は民を恵み、政治家は国のために政事を講じ、教育家は人の子弟を教え、医者は人の病気を治療し、実業家は需要者のために農工商の業をつとめ、車夫は客のために車をひき、下女は雇い主のために飯を焚き、その他一切の職務が、皆他人のためにつとめるようにできていることが、何と妙ではありませぬか。それ故に一般の人々が職業を本位として職務のためには、一切の私事を犠牲として、誠意専心、勤労をなすときは、自ら人間仲間に、一貫した前述の大目的に適うようになってくる。　職務を本位として勤労を尽すことが、人生に一貫したる大目的に適うが故に、自然の報酬としてあるいは立身出世をなし、あるいは富貴福徳を得、あるいは名誉尊敬をうけ、遂に万世に不朽の令名を伝えるなど、その形は種々かわるが、ともかくも、その人の勤労に対して、尊ぶべき報いが期せずして来ることは、古来の歴史に明らかなので、すなわちその勤労の副産物である。而してこれに反するものは、必ず人生の発展を害し、自己が一時、幸いなようでも、いつか知らず、自己もまた、必ず損害を受くることの例は、私がここに列挙しないでも、世間にいくらでもあることであります。要するに職務を本位として勤めるものは、自ら人生の大目的に適うて、自己の幸いは自然に期せずして来り、これに反するものはいつか反対の結果を受けることとなるのであります。されば人の踏むべき道の大本は、実にここにある。これ以外にことさら、人が善と称するものは皆この大本幹に付きたる枝や葉のごときものに過ぎないのである。　故に人たる者は何はさておき、自己の職務を本位として、一生懸命に働かねばならぬ。これがすなわち報徳訓の義に適うものであると私は考えまして、既に３０年間、この主義をもって、馬車馬的に、一直線に進行して来たのであります。しかしながら前にお断り申した通り浅学なる私の卑見でありますから、果して報徳の道に適うや否や。もし間違いならば、諸君のご叱正を得て速やかに改める覚悟であります。　なお一言、職務本位の主義を実行する上につきての心がけを申上げたいと思います。職務本位主義を実行しまするには、大いなる決心覚悟が必要であります。元来いずれの職務でも順境にのみ進行することは望みがたいことで、必ず逆境に立つ場合があるものと覚悟せねばなりませぬ。そこで逆境に処する工夫が最も必要であります。それには初めから大決心がなくてはならぬ。この大決心は一種の悟道より生ずるものであります。それですからこの悟道について、私が感じました要点を簡単に申し述べます。　悟道と申せば、すこぶる高尚なやかましい問題で、哲学か禅学を修めなければ、得ることのできぬように、むつかしくお考えになるお方もありましょうが、私の陳べまする悟道は、左様な高尚深遠なものではありませぬ。至極平易なもので誰にも直に了解のできる実用的悟道とでもいうべきものであります。二宮翁夜話に「夫れ人、生れ出たる以上は死することあるは必定なり。長生と雖もど、百年を越ゆるは稀にして限のしれたる事なり。若死と云も、長寿と云も 実は毛弗の論なり。譬へば蝋燭に大中小あるに同じ。大蝋と雖も、火の付たる以上は、４時間か５時間なるべし。然れば人と生れ出たる上は必ず死するものと覚悟する時は一日活れば則ち一日の儲け、一年活れば一年の益なり。故に本来我身もなきもの、我家もなきものと覚悟すれば、跡は百事百般皆儲けなり。云々」とあります。これがすなわち私の申しまする悟道の法で、すなわち二宮翁の遺教であります。　なんと諸君、この道理は実に簡明で誰人にも解し得らるることではありませぬか。元来一度生じたものは３歳で死ぬも一生、50歳100歳で死ぬもまた一生であります。然れどもいつ死するということが、自分にもわかるものは天下にないのであります。それで「今日また今日と生活している限りは幸福であり、儲けである」と覚悟し、いかなる逆境困難に出会いましても「もともと、死すべきものが生活している。その幸福に付帯せる年貢なり」と思えば、「いかなる困難でも、一切が丈けの知れたことである」と一大決心をなし、而して職務を本位として誠意専心勤勉するときは、最愉快にこの世に処することができる。この道理が会得せらるれば、胸中豁然として一点の汚物なきに至ること必定であります。されど、ただ了解せられたばかりで、実行が伴わねば何の用にも立たぬ。そこでなおこの上にも必要なものは強固なる意志であります。すべて人が一たび決心をした以上は永久かわらぬようにするのに、意志が強固でなければいけない。また善（すなわち人生終局の目的を達するためになること）と知りては直にこれを行い、悪（すなわち、人生終局の目的を達する妨害となること）と悟りては直にこれを去るということも、強固なる意志に基くのでありますから、強固なる意志を有するということも、また肝要なことであります。　以上申し述べたことは、私が平素の持論で、常に自ら遵奉していることでありまするが、今一応、概括して要点を申しますると、第一、 人は人生に、一貫せる大目的を認めてそれを目標として進行すべきものなること。第二、 この大目的を達する手段方法としては職務本位ということが必要であるということ。これが、今日の本論でありましたが、なお職務本位を実行しまするには、第一、死をも恐れず、艱苦にも堪うべき大悟道の必要なること。及び、いわゆる悟道の方法。第二、強固なる意志を有すべきこと。に論及したのであります。

  2020年09月20日

• 人間の心得は、我々は既に恩を受けているのだから、謝恩のために働かねばならない。これをよく尽くすときは、自然の反響として自分の身は立つ。恩を多く謝した人は、随って反響も大きい。

  この時、実家から借りて帰った本はかの「天命十箇条」(＊)でありました。これを読んで見るとすこぶる心を動かすことが多い。それからようやく報徳社に出入りして話を聴くようになったのであります。この頃郷里森町の報徳社の社長は、安居院翁の門人で新村豊助という人でありました。私は最初は正社員ではなく、客分ということで出席しておりましたが、段々と様子がわかって見れば、報徳なるものは、かつて想像しておったものとはまるで違ったものである。これは何でもとくと腹に入るまで研究してみたいものだと思いまして、それからは諸方に行って師を求め説を聴いてあるきました。藤三郎は次のように回想している。「製茶の仲買いをしておりましたことが４～５年ありました。その当時、私の心得は、手段のおかんを問わず、自分の利益になり自分の富を増し、金を作り得るならばそれでよい、というものでした。　それから、明治８年のころ、親戚へ参りましたら、「報徳」と記した本がありまして、そのそばに「二宮」と書いてありました。写本でしたが、どんなことが書いてあるかと尋ねますと、「天命十カ条」という貴い教えである、見ようと思うなら持って帰って見てもいい、ということでしたから、私はこれを借りて帰って読んでみました。これが報徳についての縁の初めでした。　それから私が意外に思ったことは、私の最初の考えは存外の望みを抱いておったことでした。この時分から報徳社というものがありましたから、私は毎月その集会へ参りまして報徳の道を聞き、また写本を読むなどして報徳を研究しましたが、これまで自分の思っていたことの間違いであることが分かりました。それより一年の間、営業をなげうち、報徳のことを調べるために奔走しました。そしてようやく報徳の大体をやや悟了した、と思うようになりましたのが、明治８年の末です。そして、どのようなことを感じたかと申すと、前申したごとく、私は身分低く、これを恥ずかしく思いましたのと、自分の金儲けのためには手段のいかんを問わず、と思いましたことの、間違いであることが分かりました。　さて、報徳の道によって考えますに、我々の安全に暮らして行けるのはなぜであろうか？　我々は、百事整頓した時代に生じ、すべての幸福を受けつつある。要するに、2,500年間に出て来ました幾百幾万の先人が、代々積み遺された賜物です。　しからば、人としてそれらの人の恩を受けつつあるものなることを知るならば、これに向かって謝するの道なかるべからずです。どうしたらよいであろうか。いかにしたら恩に謝することになるであろうかと申すと、謝恩のためには現時及び将来に向かってますます（人々の）幸福を図ることにすれば、これ実に徳に報いるに徳をもってするゆえんで、すなわち人類の道です。もしそうでなかったならば、禽獣に等しいのです。　禽獣においては、今日のものと、数千年前のものと、異なるところがない。すなわち彼らは、己れの欲をほしいままにして死するばかりですから、恩に報いるという必要がないのであります。従って彼らに謝恩の念がない。しかるに人には謝恩の必要があるのが、これすなわち禽獣と異なる所以です。人には各々、行いの大小・上下の区別がありますけれども、人の働くということは全く謝恩の念から出たことであります。報徳の道より考えますれば、私の前に思うておりましたことは禽獣の道です。　行いの大小・上下を問わず、社会の幸福を図ることにすれば、それが謝恩の道である。すなわち、人類の道です。この心あれば、一本の楊子を削るもこの道に叶うのですから、天分に随うて、謝恩のために働かねばなりません。人間の心得は、我々は既に恩を受けているのだから、謝恩のために働かねばならぬということであります。これをよく尽くすときは、自然の反響として自分の身は立つのであります。恩を多く謝したる人は、随って反響も大きいのであります。」（第１集p197-198）＊佐々井典比古先生の「天命十訓考」（「かいびゃく」昭和56年10月号２ページ巻頭言）によると、「天命十箇条」又は「天命十訓」には二種類ある。　一つは小田原の下新田の名主小八に与えた『取直（とりなおし）相続手段帳』（天保９年）のものと、駿州駿東郡（御殿場）藤曲村の『難村取直相続手段帳』（天保１１年）のそれである。この両者は違いがあり、実は後からできた藤曲村のものは９訓しかないのに対し、下新田のは十か条ある。　最初の第１か条は次のようである。聖語曰、天命之謂性、率性之道、脩道之教。道也者不可須臾離。可離非道也。（聖語に曰く、天の命これを性と謂う、性に率（したが）う、これを道という、道を脩（おさ）める、これを教えという。道なる者は須臾（しゅゆ：少しも）離るべからず。離るべきは道にあらざるなり。）天命当時富貴也。富貴なれば富貴なる処、則天性自然也。天性自然の富貴に随て、天を頂き、身を慎み、礼法を不犯〔おかさず〕、分度を守りて、驕奢弊風に流れず、又は衣服、飲食、居住、に至るまで、万端手軽にいたし、貧賤を恵む、是を道といふ。此富貴の道は須臾（しばらく）も離るべからず、はなるるゝ時は富貴の道にあらず、富貴の道を勤めずして、富貴の所行に怠れば、果して富貴の道に背く、富貴の道にそむけば、富貴を守る事こと不能〔あたはず〕、富貴を守ことあたはずして、後悔せざるものは邑里（いうり）に鮮（すくな）し又曰、素富貴、行乎富貴、君子無入而不自得焉。（また曰く、富貴に素（そ）せば富貴に行う。君子入って自ずから得ざることなし。）下新田村の天命十箇条は、この聖語に囲まれた、太字の文言が２　天命当時貧賤也３　天命当時患難也４　天命今朝は快晴なり５　天命今朝は雨降なり６　天命下新田村、高弐百六拾四石六斗六升七合弐勺、家数（やかず）弐拾軒の邑方(むらかた)に生るる輩は、高弐百六拾四石六斗六升七合弐勺、家数弐拾軒の邑方に生るゝ処則天性自然也。７　天命当時大高也８　天命当時小高なり９　天命当時家株田畑反別拾町五反四畝拾歩、高百六石三升三合、親先祖より伝え受たる所、則天性自然なり１０　天命当時大借なりとどのような境遇におかれていても、それを天命とうけとめてそこから出発して生活を前向きに向上させる道を教える。尊徳先生の教え方の特徴は、大学、中庸などの難しい言葉や概念を農民、庶民の身近なことにおきかえて解き明かすことである。中庸にとく富貴や貧賤や艱難、夷狄（いてき）だけが天命ではない。今朝の快晴も雨降りもこの村に生まれたということもまた天命にほかならない。

  2020年09月15日

• 鈴木藤三郎と寺子屋、「時は命だ。命は、金では買えない」、「二宮先生は人間以上の、神のようなものに思われて来た。」

  東大日本史2001年度第１問次の文章は，1770年代に生まれたある村の知識人が1840年代に村の変化を書き留めた記録から抜粋し，現代語訳したものである。これを読んで，下記の設問に答えなさい。昔，この村には無筆（読み書きのできない）の者が多かった。今では，そのようなことを言っても，誰も本当のことだとは思わないほどである。もっとも，老人にはまだ無筆の人もいるが。以前，たいへん博学な寺の住職が隠居した後に，儒教の書物などを教授することはあったが，そのころは村の人々に余裕がなかったためか，学ぶことは流行しなかった。しかし，そのうちに素読（儒教書などを声を出して読むこと）が流行し，奉公人までが学ぶようになった。さらに現在では，学問，俳諧，和歌，狂歌，生け花，茶の湯，書画などを心がける人が多い。この村では，まことに天地黒白ほどの変化が生まれたが，この村だけではなく世間一般に同じ状況である。設問上の文章のような変化が生まれた背景を，化政文化の特徴にもふれながら５行以内で説明しなさい。p.199解答例（相澤氏）19世紀半ばには、商品経済の発展によって力をつけた豪農層が、実用的な読み書きを学ぶ必要から寺子屋が村にも普及した。化成文化は江戸の経済的発展を背景に開花した町人文化だが、出版の発達や商人・文人の交流の活発化などにより経済的に余裕の生じた豪農層に受容され、学問や芸道も地方で楽しまれるようになった。鈴木藤三郎と寺子屋才助（鈴木藤三郎の幼名）は６歳になると寺子屋へ上げられた。まだ学校というものはなく、多くはお寺の坊さんが、読み書きソロバンを教えたのだ。（略）　才助は強情だが、学問好きであったから、寺子屋のお師匠様からは可愛（かわい）がられた。しかし寺子屋の子供仲間からは、貧乏人の子であるとして、とかく馬鹿にされがちであった。負けん気の才助はひどくそれが癪（しゃく）にさわって、嫌（きら）いだった。　それでも通わされていればまだしも、家が貧しいために、１１歳になったばかりの、慶応２年の暮れで下ろされて、翌３年の春からは家業を手伝わされることになった。「報徳実践談」より「十九歳のとき初めて、将来いかにするべきかということを考え始めました。また、当時養父（鈴木伊三郎）が雑菓子の商売をしておりましたから、それを手伝っていましたときに、私は心喜ばしく思わなかったことがあったのです。寺子屋時代に親密にしていた朋友、いわゆる竹馬の友は、私の十七、八歳のころには立派な人となりました。これは、財産があり名誉がある人の息子だったからです。しかし、私は毎日わらじをはいて菓子の行商をしておりました。それで私は、いくらか恥ずかしく思いまして、いかにも自分の境遇を嘆き、なるべく避けて人に逢わないようにしました。すなわち、朝は暗いうちに起き、また日が暮れてから帰りました。これは、朝遅く起きれば人に逢う、人に逢うのが恥ずかしいということから、早く起きて出たのであります。また、日が暮れて帰りましたのも、早く帰れば人に逢うのが恥ずかしかったからです。　それで、このような恥ずかしい境遇を脱するにはどうしたらよかろう。これは金さえあればよい。ほかの友人は金のある人の息子であるから、あのように立派にやるのである。それで、私も金儲けをしなければならない。何か、一攫（かく）千金というようなことをしなければならない。ただ恥ずかしい、恥ずかしいと思うだけではつまらない、というところから、一つ考えました。　当時私の郷里は、横浜の開港以来、製茶の貿易が盛んになりましたから、茶が一番よかろうと思いまして、わずかの資本を借り、製茶仲買いとなり、三河から伊勢、四日市の辺まで買い求め、帰って横浜へ売りに行く、というようなことをやりました。四日市あたりへは一年に三度や五度参りました。このようにして製茶の仲買いをしておりましたことが四～五年ありました。その当時、私の心得は、手段のいかんを問わず、自分の利益になり自分の富を増し、金を作り得るならばそれでよい、というものでありました。」菓子製造などは、男子一生の仕事とするに足らない。実業家として大成功をするには、大金もうけのできるような事業でなければしがいがないと、家業を捨てて、製茶貿易といえば聞えはいいが、茶の思惑に走った。それが今、尊徳の残した「報徳訓」には、『誠心を本とし、勤労を主とし、分度を立てるを体とし、推譲を用とする』とあって、人間の尊さは、まず第一に誠である。世の中を、本当に幸福にしようとする真心である。これさえあれば、仕事はなんであろうと、大した違いはない。本当の高貴さは、それに従事する人の心であって業ではないということを知らされて、今までの考えが、迷いであったことがハッキリと分った。それで、その夏ころには、藤三郎は、再び家業に帰ろうと決心した。しかし、この両三年、製茶貿易に従事している関係から、もう仕入れた手持ちの新茶も大分あるので、それを売ってしまわなければ、やめる訳にもいかない。そこで藤三郎は、その荷を持って横浜へ売りに出かけて行った。ところが、その時は、あいにく茶の相場が非常に暴落していたときなので、諸国からこの港へ集っていた製茶貿易商は、みんなこの地に滞在して、相場の上るのを待っていた。彼もそうするよりほかに仕方がなかった。･･････子供が読本のおさらいをする声が、高々と初秋の空に響くように聞えてきた。それはなんだか、自分の思い切りの悪い態度を叱責する、天の声のようにさえ思われた。　自分が２０歳の半ばを過ぎるまで、人生の目的は金もうけにあるもののように思いこんで平気でいたのは、小さい時から家業にばかり熱中していて、少しも読書するとか、修養するとかいう機会がなかったからのことだ。現に今まで、同じ町内に報徳社があるということは薄々知りながら、『報徳』などというものは、朝早く起きたり、金をケチに溜めることだくらいに考えて、こんな手近にありながら、深く研究してみようという気さえ起さなかったのは、みんな文字の道から遠ざかってしまっていたからだ。このごろは、文明開化の世の中になって、あんな子供さえ一生懸命で勉強している。このままでいたならば、自分は、全くこれから先の長い生涯を、こんな非常な勢いで進んでいる世の潮流から取り残されてしまうのだ。今の自分の一時間は、あんな子供達の百時間にも千時間にも当るのだ。時は命だ。命は、金では買えないのだ。鈴木藤三郎は父の許しを得ると、近くに住んでいる町の小学校の訓導の青木露生という先生に夜学の個人教授をしてくれるように頼んでもらった。ところが、その返事は「あのくらいの年になって夜学をやろうなんて、それはとても続くものではない。･･････中年者の夜学のお世話はマッピラご免だ。」藤三郎はすぐに青木先生のところへ、今度は自分で押しかけて行って、なぜ自分が夜学を志すようになったかを、二宮翁の書物を見た時から始めて、今度横浜で決心するなり、時は命だ、命は金では買えないと、損得かまわず持荷を処分して汗ふく間も惜しんで帰って来たまでのことを、熱情をこめてつぶさに物語った。その熱心さに青木先生もようやく承諾された。藤三郎は青木先生といろいろ研究した結果、まず９ヶ月でどうにかやれようという見込みがたったので、夜学の期間をこの１０月から来年の６月までということにして、その間にできるだけ能率をあげるように細かいプランを立てて始めた。この９ヶ月の間というものは、一日の家業を終ると夜学に行って、それから帰るとまた復習をし習字をして、一晩もかかしたことなく、毎晩１２時前には寝たこともなかった。青木先生も父の熱心に心から感動して、実に親身になって教えてくれたので、この短い期間としては驚くほどの進歩が見られた。翌１０年の６月、予定以上の成績で課業を終ったので、父は形を改めて青木先生の所へ行って心から礼を述べた。先生も世話のし甲斐のあったことを真底から喜んでくれた。余の理想の人物（「実業の日本」明治40年1月1日号）　神のごとき二宮先生　この書（二宮尊徳の説を書いたもの）を読んで、私は豁然（かつぜん）として悟った。今まで金さえ貯ればよしといた思想は全く誤りであることを発見し、報徳主義の甚だ大切なことを知ることができた。自分は、ここに初めて人間の道ということを知ることを得た。まさに大河を渡らんとしたときに船を得た心地がしたので、今度はいかにしてこの道を進むべきかという問題を解くこととなった。　それからは、毎月開かれる報徳の集会には出席する。会日以外にも行って種々なことを質問し議論する。狂熱のようになって報徳主義を研究した。報徳記も当時は僅かに写本ばかりで、それすら容易に見ることはできなかったが、特に読まして貰った。　同時に他の方面の研究をする必要もあったので、また書見を始めた。１２歳から以来全くやめていた経書などを漁（あさ）り読み、２３歳の時には夜学に通うて勉強し、研究すればするほど他と対照して報徳主義が立派な教えとなり、ついには二宮先生は人間以上の、神のようなものに思われて来た。」https://plaza.rakuten.co.jp/jifuku/diary/200910240007/

  2020年09月13日

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  徳島県立図書館に「報徳産業革命の人 報徳社鈴木藤三郎の一生 「二宮尊徳の会」鈴木藤三郎氏顕彰第１集」が蔵書となっていた。感謝します。

  徳島県立図書館に「報徳産業革命の人 報徳社鈴木藤三郎の一生 「二宮尊徳の会」鈴木藤三郎氏顕彰第１集」が蔵書となっていた。感謝します。村松梢風は、「鈴木藤三郎伝」（鈴木五郎著）に「発明王の面影」という序を呈している。梢風には鈴木藤三郎について記した本がある。「梢風名勝負」（読売新聞社）の「砂糖と醤油」である。村松梢風は、「鈴木藤三郎伝」（鈴木五郎著）に序文を寄せられている。それによると、鈴木藤三郎と福川泉吾氏が創設した「私立周智農林学校」で教員をされていて、修学旅行で生徒を引率して上京するときに鈴木農場に一泊し、その際鈴木藤三郎を見たとある。「　発明王の面影　私は鈴木藤三郎氏を一度見たことがある。明治４２年頃と思う。鈴木氏が創立者の一人である静岡県の周智農林学校に奉職していた私は、生徒の修学旅行に付き添って東京へ行く途中、当時鈴木氏が隠棲していた富士の裾野の農園に生徒と共に一泊させて貰った。主人は上京して不在であったが、翌日私たちが佐野駅（現在の裾野）から汽車に乗ろうとしていると、ちょうど東京から着いて下車した鈴木氏と駅でお目に掛ったのだ。頭髪はほとんど白く、でっぷりとした温顔の紳士だった。それが私がこの偉人を見た最初であり最後だった。　鈴木藤三郎は、発明王として、大事業家として、中央に雄飛した存在で、地方的関係は少なかったが、それでも郷党の間では憧憬の的で、ほとんど神様くらいに思っていた。実際普通の人間業であれだけの発明をしたり、あれだけ先覚者的事業をなしとげられるものではない。政治家や世間並の実業家とちがって、ほんとに根底から、第一歩から、自己の創意を生かしていった大事業家であった。鈴木の発明や事業については本書に詳しいから贅言しないが、彼こそは明治が生んだ最大傑物の一人であった。　彼の最後の発明、事業となった日本醤油会社の、早造り醤油なども、現在では皆それを実行している。時代が早過ぎたために、反って神秘化されて、それが彼の失脚の因となったとは皮肉である。その成功を恐れる一派の卑劣な陥穽があったという説もあるが、ここでは言わない。　この偉人の伝記が今度嫡子五郎氏によって、正確に、客観的に書かれたことは、故人を追慕するばかりではない。これによって感激奮起する人が必ず少なくないことを確信する。　昭和３１年１０月　　　村松梢風」」郷土遠州の偉大な先輩について綴る村松梢風の目は温かい。

  2020年08月09日

• 鈴木藤三郎は宣言します。 「報徳の心を心として、この方法に則ってやりましたら、大きく申せば、天下の事業、すべて成らないものはない。 事業のみではない、報徳の精神で活動すれば事として成らないことはないと思います。」（報徳の精神）

  広島のEさんからメールがきた。「報徳記を読む第4集」を早速お送り下さり、有難うございます。次の輪読用として、「二宮先生語録4冊」注文します。E様　「二宮先生語録」４冊同封します。　報徳仕法は「荒地は荒地の力を以て起こす」という荒地開拓法と「借財は借財の利子等の費えをもって元金返済に向ける」という借金返済法にあります。　日光サミットの大藤修先生の基調講演の折に、荒地開拓法と無利息貸付法という報徳仕法は「無限循環の理」にあると指摘されました。　4冊のうち2冊は大学等に寄贈したうち、蔵書としていただけなかった本を返却していただいたもので「無限循環の理」にあたるものです。　私たちの読書会の輪読の方法で皆様の読書会が「報徳記を読む」シリーズを輪読していただける、まことに喜ばしくありがたいことです。　私の亡き友人木谷文弘は湯布院の街づくりに参加していて、「記録せよ発信せよ」が湯布院の街づくりの理念であると教えてくれました。　皆様の読書会もまた「記録と発信」により全国の読書会での実践につながることを期待します。鈴木藤三郎は宣言します。「報徳の心を心として、この方法に則ってやりましたら、大きく申せば、天下の事業、すべて成らないものはない。 事業のみではない、報徳の精神で活動すれば事として成らないことはないと思います。」（報徳の精神）　今後のさらなる発展を祈念いたします。

  2020年08月05日

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  聖心女子大学図書館が「補注鈴木藤三郎の『米欧旅行日記』 蔵書としていただいていた。感謝します。

  聖心女子大学図書館が「補注鈴木藤三郎の『米欧旅行日記』 : 明治29年(1896)7月24日-同30年(1897)5月8日　鈴木藤三郎[著]」を蔵書としていただいていた。2016年8月24日に寄贈していたものである。資料的価値を認めていただいて有難い。鈴木藤三郎が静岡県裾野市に開設した鈴木農業はほぼ当時のまま不二農園となっている。ある意味、日本国内で森町の観音様、今市の報徳博物館の報徳全書とともに最も鈴木藤三郎の事業を偲ぶことのできる遺蹟ともいえる。と同時に台湾高雄で台湾の人々が台湾製糖会社と工場をほぼ原形のまま保存してくださっていることに心から感謝します。聖心女子大学図書館の鈴木藤三郎関係図書遠州報徳の師父と鈴木藤三郎 2016/12補注鈴木藤三郎の『米欧旅行日記』 : 明治29年(1896)7月24日-同30年(1897)5月8日著者名 鈴木藤三郎[著]2015シナリオで読む 砂糖王鈴木藤三郎の報徳2018/12鈴木農場（現「不二聖心女学園　不二農場」）見学会関係資料（鈴木藤三郎氏顕彰会）2012年12月26日藤三郎、富士の裾野、桃園に鈴木農場を開く明治３５年(1902)藤三郎は、静岡県駿東郡富岡村桃園に鈴木農場を開いた。御殿場線佐野駅（現裾野駅）から北へはいった所で、前に黄瀬川の清流を控え、近くに愛鷹、はるかに富士の山々を仰いだ眺望絶景の仙境である。長男嘉一郎が経営に当った。農場の面積は、約百町歩の大農場で、茶園16町歩、果樹園14町歩（桃、柿、りんご、ぶどう、おうとう、みんな、びわ、くりなど）、野菜園12町歩、山林約50町歩があった。牧畜部には、乳牛60頭、馬11頭、鶏500羽などが飼育されていた。11戸の農大家族が農場内に住み、農繁期には男女約100人の農夫や茶師が働いていた。　藤三郎は、商業、工業、植民地農業に報徳の仕法を応用し、非常な効果をあげた。そこでこれを内地農業に応用し、わが国全産業に対する報徳の経営の規範を完成して、尊徳の遺徳に報いたいという念願を起した。明治３９年(1906)１１月９日藤三郎を会長とする佐野実業会は、冬季大会を静岡県駿東郡佐野町尋常高等小学校で開催した。駿東郡の重立った人々が来会し、協議後、藤三郎と留岡幸助が報徳に関する講話をした。その夜、留岡は藤三郎の鈴木農場に宿泊し、その夜から翌日午前にかけ趣味ある談話を交わした。藤三郎が老後の精神的本陣として経営する農場を一巡し、藤三郎と留岡は、１０日午後１時の汽車で帰京している。また明治４０年(1907)１月３日、４日にかけて中央報徳会の一行が鈴木農場に宿泊し、農場を視察した。その模様は「斯民」で「駿河土産」（本書p214）として国府犀東氏が紹介している。（略）裾野市に現存する大規模茶園（不二農園）について　（不二聖心女学院資料）　不二農園はどうしてできたのだろうか。今から130年前、明治8年（1875年）1月に還禄士族７名が、政府に払い下げ運動を起こした時にさかのぼる。この士族は、松平正修、御殿医者津田実、岡田シュン三、古山欽三、高橋次郎、鈴木芳郎、和田正蔵の７名である。当時、静岡初代県令の大迫定清宛の払い下げ申請関係文書に、元定輪寺領上地、35町歩、この地代875円。払い下げの範囲は「元定輪寺領字　東ハ御嶽森より　西ハ弓張松迄　南ハ沢境より　北ハ大畑村境迄」と記されている。払い下げを受けた7名の士族は大畑村に住みつき、農場を開墾し、茶を播き、造林を行った。この他にも２、３名の士族が開墾に参加していたという。開いた畑に茶を播き、山には杉、ヒノキ、松、栗を植えて長期計画を立てて、生活も安定していったが、明治の中ごろになって茶の市況が急転、暴落を続けた。収入は不安定となり、生計をたてることが次第に困難となっていった。この士族たちの困難を見かねたのが遠州森町生まれの実業家、鈴木藤三郎であった。鈴木氏は明治32年10月、農場全部を肩代わりした。* 「駿河土産」には「農場の説明を始む。まずこの地何の処かと問えば、静岡県駿東郡富岡村字桃園という、それより反別などを語りしを記さんに、総反別78町9反1畝13歩　内　田8畝11歩　畑14町7反9畝21歩　郡村宅地1反19歩 山林63町9反2畝22歩 この買入価格１万８千円にて爾来開墾等に要したる経費を合すれば、３万１千円に及びしとの事なり。（相田氏の手帳による）」「鈴木氏の語る所によれば、この地はもと幕臣黒田久綱氏ほか４名が共同して、明治６年頃より開墾し始めたるものなりしが、黒田氏はその後東宮武官として久しく在職したるも、他の人々はいずれも零落したるがため、漸く黒田氏の補助によりてこの地の開墾を経営したりしに、漸次に困窮して事業ますます振るわず、さればとてこの地面を分割して売却するにも忍びずとて、いずれも困じあえりしより、明治３２年駿東郡長の交渉もありて、ついにこの地を買い入れ、開墾に従事することとしたりという」とあり、購入に当って、駿東郡長の斡旋があったようである。当時、岩下氏は北浜銀行の頭取であった。鈴木農場を引き継いだ岩下氏は、農場の名前を「不二農園」と名称を改めここに「不二農園」の歴史は始まったのです。不二農園は、富岡村大畑、桃園にまたがる75町歩の膨大な地域を占め、そのうち56万町歩は山林、16町歩は茶畑、他は果樹蔬菜園、住宅地等です。敷地内には10家族の農夫が常駐して仕事を分担し、茶園の手入れ製茶から季節によって植林、果樹蔬菜の手入れまでしていました。茶の品種は主に「やぶきた」「おおいわせ」「ただにしき（紅茶専用茶）」です。昭和50年頃までは製茶時期になると、隣接する千福の人々を始め、百人余りの男女を増員し茶摘をし、畑からケーブルカーを使って製茶工場に運んだ。製茶工場の方は昼夜兼行で玉露、煎茶、紅茶等を製造する。その額は年約一万貫を超えたという。製茶工場は現在の場所より下の方にあり、東名高速道路が建設された時に現在の場所に移設されました。製品の大部分は静岡市場卸とするが、一部分は再生され、マーケットや小売店を通して直接需要家の嗜好を満たしている。農夫の労賃は日給制度であって、四大節はその子弟と共に、現園主の設立された私立学校温情舎の儀式に出席し、毎日曜は休養日として精神講話等を聞いて、その本来の意義に添うように勤めている。昭和20年、約21万坪に及ぶ農園が聖心女子学園に寄付されて今日に至っています。現在、この不二農園（現３町歩）は、隣接する不二聖心女子学院の生徒による茶摘の体験実習、植生研究の場として活用されています。加工された茶葉は紅茶、緑茶、ほうじ茶として学校で飲用される他一般販売されており、自園自製のお茶として全国各地の同校卒業生、保護者を中心に幅広く愛されています。昭和22年不二農園の農作業の姿を描いた絵（古桜作）が現存していますが、現在の地形とそんなに変わっていない事がわかります。

  2020年07月07日

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  一関市立図書館で「補注鈴木藤三郎の「米欧旅行日記」」が蔵書となっていた。感謝します。

  岩手県の一関市立図書館で「補注鈴木藤三郎の「米欧旅行日記」」が蔵書となっていた。2016年4月14日に寄贈していたものである。感謝します。一関市立図書館６件1 報徳産業革命の人 20112 補注鈴木藤三郎の「米欧旅行日記」 鈴木　藤三郎／著 2016043 ボーイズ・ビー・アンビシャス　第1集 2013034 ボーイズ・ビー・アンビシャス　第３集 2014025 ボーイズ・ビー・アンビシャス　第4集 2014076 ボーイズ・ビー・アンビシャス　第5集【一関市のニュース】４００種類４万株「みちのくあじさいまつり」／岩手･一関市一関市舞川のみちのくあじさい園は、およそ１５ヘクタールの広大な山林に４００種類４万株のアジサイが植えられていて、今は２００種類以上の早咲き品種が見頃です。こちらは早咲きのクロヒメ。もともとの色は青ですが、土のアルカリ度が強くなると花が赤くなりやすいという特徴があります。園内では新型コロナウイルス感染防止のため、他の来園者と距離を取り観賞するよう呼びかけられています。みちのくあじさいまつりは来月２６日まで行われます。

  2020年07月04日

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  静岡県の菊川市立図書館が「鈴木藤三郎の米欧旅行日記」を蔵書としていただいていた。感謝します。

  静岡県の菊川市立図書館が「鈴木藤三郎の米欧旅行日記」を蔵書としていただいていた。2016年4月9日に寄贈していたものである。「鈴木藤三郎の米欧旅行日記」も再度、「二宮翁と諸家」（留岡幸助編）収録の鈴木藤三郎の「二宮先生と余が欧米観」を収録したものを世に送り出し、「報徳講座」で講義したいと思っているが、クラウドファウンディング方式で刊行できないものであろうか。一度小さいもので試してから、これまでの絶版の本を再編集、増補版を再度、世に送り出せればとも思う(^^)菊川市20件二宮先生語録 第5集 齋藤髙行著 読み下し全ルビ原文・現代語訳2018.12シナリオで読む砂糖王鈴木藤三郎の報徳2018.12八田與一と鳥居信平 台湾にダムをつくった日本人技師2017.12遠州報徳の師父と鈴木藤三郎2016.12報徳記を読む 第4集 二宮尊徳の報徳の教えが世界に広まり真正の文明の実を見ることを2016.09鈴木藤三郎の『米欧旅行日記』 明治29年 (1896) 7月24日-同30年 (1897) 5月8日米欧旅行日記日本精製糖株式会社専任取締役鈴木藤三郎鈴木 藤三郎/[著]2016.04報徳記を読む 第3集 報徳は国を興し民を安んずる大業である2016.03二宮金次郎の対話と手紙 第一小田原編(少年・青年期) 中学生からお年寄りまでよくわかる2015.02報徳記を読む 第2集 『報徳記』巻の二、『報徳論』(『報徳要典』準拠全ルビ)、報徳本教・青木村治蹟2014.11ボーイズ・ビー・アンビシャス 第5集 不敬事件とカーライルの「クロムウェル伝」2014.08ボーイズ・ビー・アンビシャス 第4集 紳士の工学の系譜2014.07報徳記を読む 第1集 『報徳記』第一巻(『報徳要典』準拠全ルビ原文(朗読・輪読用)、現代語訳、資料集)2014.03ボーイズ・ビー・アンビシャス 第3集 新渡戸稲造の留学談・帰雁の蘆藤沢:二宮尊徳の会2014.02砂糖王鈴木藤三郎 氷砂糖製造法の発明二宮尊徳の会/〔編〕2013.06二宮尊徳と日本近代産業の先駆者鈴木藤三郎2013日本近代製糖業の父台湾製糖株式会社初代社長鈴木藤三郎2010.10ボーイズ・ビー・アンビシャス 《クラーク精神》&札幌農学校の三人組(宮部金吾・内村鑑三・新渡戸稲造)と広井勇2013.03報徳産業革命の人 「二宮尊徳の会」鈴木藤三郎氏顕彰 第1集2011.09報徳産業革命の人 報徳社徒鈴木藤三郎の一生2011鈴木藤三郎 日本近代製糖業の父 台湾製糖株式会社初代社長

  2020年06月27日

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  佐賀県立図書館が「鈴木藤三郎の米欧旅行日記」を蔵書としていただいていた。

  佐賀県立図書館が「鈴木藤三郎の米欧旅行日記」を蔵書としていただいていた。2016年1月12日に寄贈したものであるが、見落としていたのであろうか。

  2020年06月26日

• 吉村知事「『薩摩の教え』も好きです」と鈴木藤三郎「いにしえの道を聞いても学んでも　身の行いにせずば益なし」

  ・大阪府の吉村洋文知事は5月１５日、ソフトバンクグループ（ＳＢＧ）の孫正義会長兼社長（６２）とのオンライン会議で、新型コロナウイルス抗体検査キット１万個の無償提供の申し出を受けた。府は医療従事者と府民向けに５０００個ずつ活用する。孫会長「吉村知事に申し訳ない。医療現場でマスクや防護具が不足してるとの事で少しでもお役に立ちたいと私が協力を申し出た事が逆にご迷惑をかけているのではないかと心配です。」吉村知事「孫会長、お気になさらず。批判は僕に向けられたものです。府では医療物資調達班がおり、性能と値段をチェックしてます。医療用マスクは最終確認中、防護具は不成約と聞いてます。税金ですので。厳格な手続きがあります。先日発表した大規模抗体検査も、国との共同実施です。抗体キットは使いません」吉村知事5月16日「孫会長が坂本龍馬好きなのは有名な話です。僕も龍馬ファンです。『薩摩の教え』も好きですね」」☆「薩摩の教え」って初めて聞いたなあ(^^)「薩摩の教え」男の順番一、何かに挑戦し、成功した人二、何かに挑戦し、失敗した人三、自分では挑戦していないが、挑戦する人を手助けした人四、何もしない人五、何もしないが、他人の批判だけをする人鹿児島では「日新公いろは歌」が著名であり、あるいはこれをベースに作られたものかもしれない。い　いにしへの道を聞きても唱へても　わが行に　せずばかひなし☆鈴木藤三郎は、この「い」の歌を本歌取りしたような歌を「報徳実業論」の最後に載せている。　　いにしえの道を聞いても学んでも　　　　　身の行いにせずば益なし二宮翁夜話巻の４【６】翁曰く、我が道は至誠と実行のみ、故に鳥獣・虫魚・草木にも皆及ぼすべし、況んや人に於けるをや、故に才智弁舌を尊まず、才智弁舌は、人には説くべしといへども、鳥獣草木を説く可からず。鳥獣は心あり、或（あるひ）は欺くべしといへども、草木をば欺く可からず。夫れ我が道は至誠と実行となるが故に、米麦（べいばく）蔬菜（そさい）瓜茄子にても、蘭菊にても、皆是を繁栄せしむるなり。仮令（たとひ）知謀孔明を欺き、弁舌蘇帳を欺くといへども、弁舌を振つて草木を栄えしむる事は出来ざるべし、故に才智弁舌を尊まず、至誠と実行を尊ぶなり、古語に、至誠神の如しと云ふといへども、至誠は則ち神と云ふも、不可なかるべきなり、凡そ世の中は智あるも学あるも、至誠と実行とにあらざれば事は成らぬ物と知るべし。「斯民」第１編第１号（明治39年4月26日）「報徳実業論」　鈴木藤三郎一、報徳。　報徳は人間の大道にして、太古人類始めてこの世界に生出したる時代より今日に至るまで、この道に適うものは栄え、背くものは衰う。あえて二宮先生の新たに作為したる道にあらざるなり。然りといえども特に報徳の本義を闡明（せんめい）し、身自らこれを実践躬行し、しかして道徳を経とし、経済を緯とし、興国安民の活訓を後世に垂れたる者は二宮尊徳先生なり。国として治者この道にのっとれば政綱挙り、人民この道を勤むれば産業振興し、治者人民ともにこの道に励めば国家の富強期して待つべきなり。一、貧国強兵。　このごろ、我が国は人道の大義に考え、東洋永遠の平和を確保せんがため、やむを得ず干戈をとりて露国と戦端を啓きしが、幸いに忠勇なる陸海軍将卒の奮闘と誠実なる国民一般の奉公とにより、我が国連戦連勝の結果、露国の屈譲となり、栄誉ある平和を克復して、遂にその目的を達することを得たり。その結果、世界各国はいまさらのごとく我が国の強勇なるに驚倒し、いずれも口を極めて本邦の兵力と義侠心とを賞賛せり。然れども富力の点に至りては、未だ一も我が国を賞賛するものあるを聞かず。有体にいえば、我が国は遺憾ながら、目下貧国強兵の状態に在るを免れず、是をもって、国民一致全力を注いで富国の策を講ずるは、本邦焦眉の急務たること贅言を費やさずして明らかなり。一、富国の要道。　それ興国安民、国を富ますの要道は報徳に在り。あえて実業と言わず、教育と言わず、政事軍事より宗教文学に至るまで、およそ一切の事業に関与するもの、もし報徳の道を修養し、この道の精神をもって各種の事業に応用するものあらば事として成らざるなく、業として成功せざるなし。故に予は今、時勢の必要に鑑み、ここに報徳に関する所信の一端を述べんとす。然れども深遠なる斯道全体の本義を詳細に解説するは素より不肖予輩のよくする所にあらず、またかくのごときは世間自らその人のあるあり、予はただただ多年経験に基き、ここに卑見の一部を開陳してあまねく生産の業に従事する者の参考に供し、あわせて大方識者の示教を乞わんとするに過ぎざるなり。一、報徳の本主体用。　それ報徳の教えは、天徳、皇徳、親徳一切衆庶の徳に報ゆるに己の徳行をもってするの義にして、その道たるや誠心をもって本と為し勤労をもって主と為し分度を立つるを以て体と為し、推譲をもって用と為す。これ報徳の本主体用として洵（まこと）に斯道の綱領たり。　　　　以誠心為本　　以勤労為主　報徳　　　　　以立分度為体　以推譲為用一、誠心。　およそ事業を興さんとするもの、ないし事業を経営せんとする者、まず誠心をもって本元とせざるべからず。然らば誠心とは何ぞ。その義を明らかにせんと欲すれば、まず善悪の本義を講究せざるべからず。善悪とは何ぞ。按ずるに、宇宙元来善悪なるもの無し、善悪は作為の道にしてこれを天理に需（もと）むるも得べからず。すなわちおよそ一切のもの、いやしくも生気あるものは動物たると植物たるとに論なく、皆生成し一定の期をもって死滅するがごとしといえども、本来生死は循環往復の名にして、その理一定不変、現在過去未来を通して同一なること、これ天理自然の道にして、天道元と善悪の差別あるものにあらず。而して人道もまた一種の動物たるに過ぎず。然るに太古、聖賢なる者、輩出し、人類を糾合して、団体を組織し、治者被治者の別を立てゝ独立の社会を形成せる所以のもの、これ天理に基き我が人類仲間の繁栄幸福を図らんがためなり。しかして聖賢は実にこれら社会の強固を図り、もってますます、人類の幸福を増進せんがため、始めて人道を創定して善悪を別ち、社会に益ある事を善と称し、害ある事を悪と称し、悪を懲らし善を勧めて、人類社会の安泰幸福を企画したり。故に社会興って人道あり、人道興って善悪あり、善悪は作為の道にして自然にあらず。ただただ社会の幸福なるものを標準として便宜のため区別を立てたる人事行動の称号なりと、いえども善は人類繁栄の基にして、悪は人類滅劣の主因を為す。果して然らばおよそ人たる者身分の上下を論ぜず、進んで善を行い、退いて悪を去るは、人間当然の義務たることを論ずるまでもなき所なり。然るに世間往々善なるものをもって、あるいは一局部の称号なりとし、あるいは天の命なるやに心得、僅かに小善を行いて自ら満足し、自己一身は飽食暖衣、職業を放てきして顧みざる者少なしとせず。ことに上流社会において、この種の人物多きを見る、社会の進運これがために阻害せらるゝ誠に少なしとせざるなり。あに惜しむべきの至りならずや。元来社会は職業を分担して成るものなれば身を職業に委ねて全力を尽くすは善の最も大なるものなり。何となれば、およそ職業は単に自己糊口のために勤めるものにあらずして、広く社会に貢献し天徳、皇徳、親徳、一切衆庶の徳に報ゆるを主たる目的とすればなり。たとえば農家が得る所の収穫を自家の衣食に供するのみならず、その大部分を挙げて、広くこれを市場に販売し、もって他人の衣食に供給するがごときは、すなわちその適例にあらずや。工業商業その他一切の職業皆然りとす。故にこの理に適うものは反報に因て富栄を得れども、もしこれに反して職業を蔑視するものは貧衰に陥るこれ理の当然にして怪しむに足らず、然れば職業はその原理において、素より上下の区別あることなく、ただ克くこの理を弁知して、勤むる者を尊しとなす。よって想う。満天下の人、もしこの義を体して、各自その職業に全力を注ぐあらば、社会の文明幸福を増進すると同時に、自家の繁栄を併せ得ること明白にして疑うべからず。実に職業は善の最も大なるものにして、また誠に人道の要務たり。故におよそ人たるもの各自その職業に対し、確乎不抜の覚悟をもって一意専念全力を注いで、その職に尽瘁するその決心を称してこれを誠心という。誠心は万業の根本にして勤労、分度、推譲のよって生ずる所なり。一、勤労。　報徳の道、勤労をもって主となすは、およそ百般の人事、勤めて成るものなればなり。たとえ学識、才智、万人に卓絶するあるも、理想を主として勤労せざるときは、社会に何らの利益を与えざるのみならず、かえって人世の厄介物たるを免れず、すなわち人いかに農学の知識に富むも、農事に勤労せざるは生涯を得る能わず。工業、商業その他皆然り。先師曰く「人道は勤めて成るものなり。故に一日怠れば一日廃す。例へば道路橋梁の如し。道路橋梁は落成の時より時々刻々廃棄す。また原野を開墾して田畑となすも耕耘を怠るときは元の原野に帰す。人事百般皆然りとす。故に人として勤労せざるものは人道の罪人なり。」と宜（むべ）なるかな、言や、これ、人道は勤労をもって主義とする所以（ゆえん）なり。而して勤労は専ら各自その職業に尽し職業はまず他人を益するをもって要義となす。故に克（よ）く勤労するものは、その反報によって富貴を得、これ人道の妙用にして報徳の意義ここに在り、然るに世間往々職業は直接自己を益するものと誤認し、他を顧みざるものあれども、かくのごとき輩は決して成功あることなし。たまたまこの種の輩も富を得ることありとするも、この場合においては必ず他に財を失うものあり、果して然らばこれ貧富にして、社会の目的に対し何の益かあらん、この故に職業は勤労をもってまず他を益するものにあらざれば、真の富貴を得ることなし。一、分度。　報徳の道、分度を立つるをもって体と為す。分とは、各自現在の身分境遇にして、これを天分という。この分に基きて、度を制する、これを立度という。例えば、収入を計りて経費の支出を節約して制するなり。およそ事業を経営するもの、分度確立せざれば、独立自営の体を為すあたわず。たとい誠心、勤労、もって業を励み、その得る所多きも、みだりにこれを私消し、または他方の用途に使用するあらば、本業の発展得て望むべからず。これにおいてか、分度を確立し、純益の全部あるいは幾分を度外となし、職業の根本を培養するの資に供するは、最も肝要にして、これすなわち、この道における積極的に事業を発展せしむるの原則にして、先哲未発の要法なり。然るに世間往々この分度の法をもって保守消極の制なりと誤認するもの少なからずといえども、元来報徳の教えにおいて分度の制を尊ぶ所以は事業として積極的に発達せしめんがために外ならず、世間にいわゆる、単に勤倹貯蓄と称するが如き、消極の主義と、素より同日の論にあらざるなり。一、推譲。　報徳の道、推譲をもって用となす、それ譲道は万善の本源なり。先師の訓に曰く、「天地相和して万物生ず、男女相和して子孫生ず、貧富相和して財貨生ず、」と、また曰く「人道は譲て益あり、奪て損あり、譲る者は天理に適ふが故に栄ゑ、奪ふ者は天理に背くが故に衰ふ、」と、宜なるかな、今この理を卑近なる例をもって説明せんに、およそ農夫が、田畑に対し、多く肥培を譲るものは収穫多く、これに反して、収穫のみ奪い肥培の譲をなさざる者はついに収穫を滅するに至る。広くこの理を応用すれば、商工その他百般の人事皆然りとす。故に報徳の教えにおいて、推譲をもって用となすは、専ら進んで譲るの意義にして斯道運用の最大要旨なり。分度既に立ち、度外の財を生じなば、富豪はよろしくこれを推譲して、一般社会の福利を図るべし。その反報や自家の長久を得るに至らん。また貧者はこれによって独立自営の基礎を立つべし。農業、工業、商業、その他事業を経営するもの、またよろしく純益の全部または幾部を度外となし、これをその事業の元本に推して譲るべし。先師の訓に曰く、「荒地を開くに荒地の力をもってす、」　と、実例をもってこの訓義を解説すれば今ここに金１円を元資として、荒地１反歩を開拓し、収穫米１石を得るときが、その１半すなわち５斗をもって来年の食となし、他の５斗を分外となし、これを推譲して、更に５畝歩の田地を拓くべし。然るときは１石５斗の収穫米を得べく、さらにその７斗５升をもって、来年の食となし、他の７斗５升を度外として、新田７畝１５歩を拓かば、収穫米２石２斗５升を得べし。かくのごとくして年々歳々勉めて怠らざれば、６０年にして、２４億４,４０３万４，７５１町９反２畝１９歩の田地を元資金１円をもって拓き得べし。これすなわち度外推譲の妙用にして、荒地の力をもって拓くものなり、実に推譲の道は開国の要道にして、事業を積極的に発展せしむるの最大要義なり、然りといえども、これ豈独り荒地開拓の事に止まらんや。いずれの事業といえども報徳の教えに従い本主体用の主旨にのっとり純益を制し度外の財を推してこれを事業の根本に譲らば何の業か発達せざるものあらんや。農業において、度外の財を肥培その他に推譲して、年々止まざるときは、人工をもって天然に勝ち、地質変換のごときも、また容易の業ならん。工業において度外の財を機械の改良発明の資とし、または職工の訓練奨励に推譲し、商業において商品売価の低廉または買客の便利に推譲し、かくて年々歳々絶えずこれを実行するときは発展の大なる真に計り知るべからざるものあらん。これ事業は事業の力をもって発展せしむるものにして、要は推譲にあるなり。然るを従来、農工商の生産業を経営するもの、分度を確立して推譲を事業の根元に行うもの稀にして、ややもすれば小成に安んじ、純益は家計その他に浪費する者あり、かくのごときは、ついに本業の衰微を免れず、あるいは家計の節約は確守する者ありとするも、純益をして事業の根本に推譲するを為さず、他の方向に向って放資するものあり、かくのごときは本業の大成を為すあたわず、而してたまたま譲道の善美を講ずる者あり、またはこれを行う者あり、可はすなわち可なりといえども、その効や社会の一小局部に対する小恵的行為に外ならず、その結果たるやこの道における推譲と固より同日の論にあらざるなり。（略）　いにしえの道を聞ても学んでも　身の行ひにせずば益なし

  2020年05月17日

• 「翁の余徳」５６ページに💛鈴木藤三郎が出てきた(^^)

  「翁の余徳」５６ページ目白梅やあたら盛りを山おろし　　　　世田志満太郎灯し火のさへて猶さら寒さ哉　　　　　　自　　耕惜まれて散るか誉れそ松の花　　　　　　鷗　　夢　　　　　　　〇　　練精翁建設寄付人名一金拾円　松島藤太郎　　　一金一円　鈴木円宗松島藤治　　　　一金一円　日下部現七松島五郎　　　　一金一円　村井政一郎一金一円　袴田鹿太郎　　　一金一円　吉川為龍一金一円　金子伊平　　　　一金一円　内田友治一金一円　伊藤豊太郎　　　一金一円　鈴木伊平一金一円　本田佐平　　　　一金三円　山本島蔵一金一円　鈴木浦八　　　　一金三円　鈴木藤三郎「伊平の松島授三郎」とシナリオ「菜の葉虫論」で出てくる。菜の葉虫論藤三郎：それでこの菜の葉の虫の問題で面白いことがありましたよ。三遠農学社の松島さん御存知でしょう。遠州伊平の松島授三郎さん、あそこで遠譲社の大会がありましてね。新村豊作さんが、一緒にゆこうといわれたのでお供していったわけですが、報徳の羅漢（らかん）さん達が一堂に集って、四日も五日も続けて報徳の講義をやり、議論をたたかわすのですからね。しょっちゅう夜明けまでやったもんです。その松島さんところの大会の席でした。あのときは例の平岩佐兵衛さんが座長をされたっけなあ･･････Ａ：森の才助さが、意見があるそうだ。Ｂ：何だ遠慮なし言いないＡ：才助さ、言いない。Ｃ：誰だぃ誰だぃＢ：森の才助さ。平岩、松島、Ａ、Ｂ、Ｃ：言いない、言いない。藤三郎：実は例の二宮先生のおっしゃった、菜の葉の虫は菜の葉を己れの分度とし、煙草（たばこ）の虫は煙草の葉を己れの分度とする。このところの分度といわれますのが、どうも納得がまいりませんのでご説明を願いたいと思いましてＡ：うーむ、分度の問題か？Ｂ：藤曲村（ふじまがりむら）のご仕法帳（しほうちょう）でも言っておられる、あそこだ。まず菜の葉に生れた菜虫は、菜の葉に生れたのが、すなわち天命、山に生れたさる、くま、しし、しか　は、山に生れたが天命、そこに分度があるという問題だな藤三郎：私は三年も考えておりますが、いまだにがってんがいきませんのでＡ：わしゃあね、二宮先生が分度といわはれるのはのう、人の職業、その人の身代（しんだい）の分度、いわば、百姓には百姓の道、十石とるものは十石の身代この身代をさしたもんだと思っているがのうＢ：まあ、そうだろう、それを勤め人で言えば、五十円の給料取りは五十円の身代、それに相応する生活を守れと言う意味だろうなＡ：自分の分度を考え、それを守ることが大切、他人はどうだ、こうだ、と他人をうらやんだり、心をまよわせてはいけない。己れの身代をしっかり守ることが大切だと言うのだろうＣ：先ず、そう言うことだな藤三郎：いや実はどなたにうかがっても、そのようなお話しなのですが―そうしますと、どうも人間というものはまことにつまらぬものだということで、いつでも人間というものは、その人の置かれた身分というものから脱け出ることが出来ないＣ：才助さは若えからのうＡ：なあ才助さ、それが迷いというものじゃあねえのか、他人を羨んじゃあいけねえ、先ず自分の身代を考えろってことじゃあねえかい藤三郎：そうでしょうかねえ平岩：ううむ、才助さの考えは、中々いいことを言っていると思うが、わしゃあのう、この分度ってものは人の身代とか、その人の身持ちとか、他人のことを羨むなとか、そういう生活上のことばかしを言っているものじゃないと思うよ。二宮先生の言う分度ってものはその形で考えるもんじゃあねえと思うＢ：じゃあ、平岩さのお考えは平岩：こりゃあな、つまり人は銘々個人個人、その人、その人の才智というものがある。その人だけの特徴、特異というものがある。その人の持って生れた性分と言うか、持ち前というもの、これを生かしこれに生きること、その人の天分の理というものが大切だ、これが第一だ。こう言う意味合いのものだと思うのだが―Ｂ：というと銘々が一人一人の持ち味がちがうってことを言っているわけですかい平岩：まあ、いわば、そういう意味じゃあねえかのう、ねえ、松島さ松島：うむ―藤三郎：平岩さ、ただいまのお説は私も初耳で大へん味のあるお考えだと思いますが―ただね、それだけでは人一人一人が違うものだというご説明だけで平岩：人は一人一人が違う、人は同じじゃない、違うのが原則だ、この考えが大元になるんじゃあないか藤三郎：それは解（わか）るんですが平岩：それでも納得いかなえというのかい藤三郎：どうもＡ：才助さ、お前さん三年も考えているんだからお前さんの考えもあるだら、お前さんの考えを言っちゃどうだい藤三郎：私もね、ただ自分の考えていることもあるけど、ただ皆さんのお考えと合わなえと、わしみてぇな若僧の勝手な考えになっちまうと思いましてね平岩：才助さ、かまわねえ、お前さんの考えを言ってみない、みんな報徳の衆だで藤三郎：私しゃあね、菜の葉の虫もはじめは菜の葉にいるが、その菜の葉を食い尽しちまえば、自然と煙草（たばこ）の葉に行かれる。そして煙草の虫になる。しかし自分のただいま置かれた境涯、その身分をやりつくさないで、そのつとめを尽さないうちに新しい境涯を求めてもいけない。いや求められるものではない。二宮先生は決して、虫が新しい葉に移ることを禁じたのではなくただ小さい菜の葉の虫でありながら、身分を忘れて一足とびに大きな葉の虫になろう。大きな煙草や、芭蕉の葉を求めてはならぬ。こういましめられているのではないか、しかし小さい虫も、その分度を守ることによって願わずして大きい葉に移れるものだということーまあこんな風に考えちゃあいけないもんでしょうかねえー平岩：なるほど！Ａ：うーむＢ：なるほど松島：平岩さ、こりゃあどうも、負（お）うた子に浅瀬を教えられたようなことになった。才助さ、平岩さの言うことが大元だがお前さんの言うとおりそれでいいだ平岩：才さ、それでいいだよ松島授三郎が逝去した明治31年享年63歳、鈴木藤三郎は43歳で明治28年資本金30万円で日本精製糖株式会社を創設し、明治29年7月31日～翌30年米欧旅行に出かけ、世界の最新の製糖業を視察し最新機械を購入し、また原料のさとうきびの生産地も視察してきていた。明治32年には会社は資本金200万円の大会社となったところである。明治31年には『糖業政策談』、明治32年に『日本糖業論』を刊行し、名実ともに日本の製糖業の第一人者、砂糖王となっていた。

  2020年04月16日

• 「南方農地開発の問題」より

  「南方農地開発の問題」より　「南方農地開発の問題」は「農林水産技術協会」において講演した記録で昭和19年（1944年）10月25日発行とある。鳥居信平は1938年台湾製糖株式会社の取締役を退任・帰京した。1939年「興亜院技術委員会」水利関係の委員会委員となり、1940年台湾製糖の特別参与として東京支社長を務めた。さらに1941年には「農地開発営団」副理事長に、1942年に「科学技術審議会」に就任している。文中「大東亜戦の幕が切って落とされた」と時代的背景がうかがわれる一節がある。信平は、大正7年にフランス領インドシナ、オランダ領ジャワ、イギリス領ビルマなどの水利施設を視察し、大正8年から9年にかけても視察している。「話は多少古びておりますが」とあり、その時の視察をベースに、台湾の農地開発50年とタイ、ジャワの農地開発事業、南方諸地域における新たな農地開発について「一考察」を話したいとする。　台湾の農地開発について、糖業改良の水利事業、河川整理、蓬莱米の生産、製糖会社の農地改良農場建設、大農具の使用、嘉南大圳水利事業について述べ、製糖会社の農地改良農場建設では「サトウキビ耕作地の排水量決定や灌漑用水量の決定は重要で、我が国では水稲用水量の研究は見るべきものがあったが、サトウキビの用水量については研究もデータもなかった。各製糖会社の試験の結果、台湾としての標準をまとめた。」と述べる。大農具の使用では「土地開墾、土地改良のためにスチームプラウやトラクターを用いて成績を上げたのは台湾が第一」とする。嘉南大圳では、「農業土木工事としては屈指の事業」で「三年輪作を灌漑水の理論的配分によって、計画的農業生産を遂行」し「農地の開発利用という見地から実に立派な事業」と評価する。　タイの農業開発事業については、大河川と農業発達、豊凶常ならざる米作などについて述べ、「自然条件に関して深い考察が払われて経済的に経営されている」と観察する。ジャワの農地開発事業では、「私がジャワを視察したのは大正7年」とある。台湾製糖の山本悌次郎に随伴で、ジャワ島の水利及び農業施設を視察した。ジャワの農業水利は世界的に完備していて、農業水利、制度等を視察した模様が詳しく報告されている。人材の項目では、水利開発については調査、設計、工事に関係する技術者はヨーロッパ本国の大学出身者で技術者・研究者として優秀な人が配置され、各試験場では学術だけでなく応用についても立派な仕事をしている。特に土壌学者が基礎研究を行い、土地利用の基礎的化学技術に参画している。「特に学者も技術家も研究家も世界有数の人たちをこれに当たらしめた」と指摘しつつも「根本問題として、白人自体の利益のための計画開発」とし、日本においては「先住民と農業開発による共栄の目的を貫徹できる施設」を設けるべきと言及していることが注目される。鈴木藤三郎が台湾製糖会社に残した「両得農業法草案」の考え方を受け継いでいることがわかる。

  2020年03月20日

• 「欧米において貧困より身を起こし、終に偉大な人物とやった人のやり方が、二宮先生と同一の思想を呼吸したものではないかと感想を抱くこともしばしばあるので」「ヨーロッパの偉大な人物と我が二宮先生とはどんな差があるのであろうか」

  鈴木藤三郎の米欧旅行（『日本近代製糖業の父』p.93）より鈴木藤三郎は明治29年（1896）7月14日に横浜港から太平洋汽船会社のベルジック号でアメリカに出発し、翌明治30年5月8日に横浜に帰国まで、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツと米欧旅行を行い、その間「米欧旅行日記」を記した。藤三郎は明治28年（1895年）12月7日に日本精製糖株式会社を設立し、翌29年6月5日には資本金30万円を増資し60万円とした。この増資で多額の資金を新設工場に投じなければいけないが、この際、先進国の製糖業を視察し、最新の製糖機械を買い入れるとともに、南洋方面の原料糖の産地も視察しようというものであった。驚くべきことに、藤三郎は通訳は同行せずに単独で旅行した。「機械の買入れはどうするのか？」「機械の構造やいい悪いは眼で見れば分る。こっちは買手だから先方で分からせるよう努力するだろうから心配ない」と答え、同じ船で藤山治一陸軍大学教授が行くので船中からアメリカまでは案内を頼み、イギリスでは今井友次郎氏に通訳と仕様書契約役書等の翻訳を依頼して大量の最新機械を購入し、目的を果たして帰国した。『二宮尊徳先生と余が欧米観』によると「欧米において貧困より身を起こし、終に偉大な人物とやった人のやり方が、二宮先生と同一の思想を呼吸したものではないかと感想を抱くこともしばしばあるので」「ヨーロッパの偉大な人物と我が二宮先生とはどんな差があるのであろうか」ということを観察したいというひそかな目的もあったという。アメリカに行くと工場は壮大で、その進取の猛志、偉大な財力に圧倒され、このように物質的に偉大な文明を日本で実現させることができるだろうかと、藤三郎は失望のうちにアメリカからイギリスに移った。藤三郎は、イギリスの社会は「ぐずぐず」した状態だが、偉大な点はその理論に潜んでいることを発見した。イギリスは二宮先生の「小を積んで大に及ぶ」方式で、多くの事業は初め一人が小さい規模で起こし、次の代で合名会社、合資会社、終には株式会社となっている。この主義をとるならば、日本もまたイギリスを超えない理由はないと一道の光明が藤三郎を絶望の淵から救い上げた。ドイツにおいてはハノーバーのケールチング工場で、工科大学卒業生が最初無給で研修し、後に有給の技手となることを、ケールチング氏が国家に対する義務として設計室など装置を施していることを聞いて、企業内教育の必要性を教えられる。藤三郎が台湾製糖株式会社に設置した工場では、機械等を自前で修理する工場を併設し、企業内教育を重視した。藤三郎が台湾に残したものは、「両得農業法草案」に見られる報徳思想とともに企業内教育である。

  2020年03月20日

• 報徳の心を心として、この方法に則ってやりましたら、大きく申せば、天下の事業、すべて成らないものはない。事業のみではない、報徳の精神で活動すれば事として成らないことはないと思います。

  鈴木藤三郎「報徳の精神」（『報徳産業革命の人』p.181）より私は多年二宮尊徳先生を尊信する者です。私は19歳の時「人と生まれたからには立身出世がしたい、金持ちになろう」という考えが起こりました。富者となるためには、自分を土台として自分の利益になるなら何でもするがよいとあちこち飛び回りました。ところが明治9年の頃、ふとした機会に二宮尊徳先生の報徳教を知りました。先輩について報徳の教えを研究すると、私がこれまでよいとしていた主義ははなはだ人道にそむいている。報徳の精神とは先輩に聴きますと「人たるものは自分は虚にして、すべて世のため人のために勤めるべきである。」すると、これまで「自分のために勤める。自分のために働く。すべて自分さえよければよい」と思っていたことと反対になる。けれども私は一概にそれをもっともだと考え、実行する勇気がありませんでした。何のために人は自分を虚にして、世のため人のためにしなければいけないのか。そこで先輩に教えてもらい、自分でも研究してみました。「要するに人が今日社会にいるのは、天地の恵みや皇恩、父母の恩、先人の遺徳によって、このようにしていられるのである。大学者がここにいても、先人から学問を遺されていなければ学ぶことはできない。政治や実業でもそのとおりである。人は生れながらにして既に大変な恩を受けている。故にその恩に報いなければならない。それが人の道である。ただ自分のためにするということはいけない。既に受けている恩沢に報いるということを生涯勤めなければならない。これがすなわち報徳である。」当時私が思った事はこのようです。二宮先生の教えは実行を貴ぶ。私は報徳を自分の身分相応に自分の仕事に実行したいという考えが起こりました。二宮先生は小田原侯から命ぜられて桜町に行かれた時「金はいりません。荒地は荒地の力を以て開きます」と言われた。年々得られた利益を資本に推譲すると非常に大きな開墾ができる。私はこれは農業だけではあるまい。天下の事業すべてこの通りでなくてはならない。この精神でこの報徳の方法に基づいて自分が実行したいと思いました。明治10年から14年の5年間の予算をたてまして、1月1日から実行しました。5年後には、売上高が十倍、資本金が五倍になりました。岡田良一郎先生にお話しすると「荒地開拓法をこのように応用したのはお前が初めてである」と言われました。私はその後、砂糖やいろいろやりました。すべてどんな事業でも、報徳の心を心として、この方法に則ってやりましたら、大きく申せば、天下の事業、すべて成らないものはない。事業のみではない、報徳の精神で活動すれば事として成らないことはないと思います。

  2020年02月24日

• 一橋大学図書館が「報徳産業革命の人: 報徳社徒鈴木藤三郎の一生」を蔵書としていただいた。

  一橋大学図書館が「報徳産業革命の人: 報徳社徒鈴木藤三郎の一生」を蔵書としていただいた。寄贈した記憶はあるが、いつのことか記録がない。感謝します。＜一橋大学のニュース＞マッキンゼーが30代のうちに｢もう来なくていい｣と通告するワケ【山口周（コンサルタント）】先日お会いした時、楠木さんは「人生最大の危機に直面している」とおっしゃっていましたけれど、その危機もまさに「仕事ができるできない問題」にかかわることだったようですね。【楠木建（一橋大学大学院 教授）】いきなり極私的な話（笑）。僕はこの危機を「逆白い巨塔」（『白い巨塔』は大学病院の医局を舞台にした権力争いを描いた山崎豊子の小説）と呼んでいるのですが、僕ぐらいの年齢（55歳）になると、大学を経営する側の仕事をやることを求められる場合があるのです。ディレクターとかね。ところが僕はマネジメントにはまったく向いていないし、ずっと現場の仕事だけをやりたいと考えています。自分の仕事を「学芸」を提供する「芸者」だと心得ておりまして、大学という組織はさまざまな芸で食っている芸者が身を置く「芸者置屋」みたいなもの。僕としては一生一芸者として芸事に精進していきたい。置屋のお母さんの仕事は「ヤダ」と断ったわけです。いろいろありましたが、上層部に掛け合ったらなんとか受け入れてもらいました。僕はこの「逆白い巨塔」作戦を継続するつもりです。なぜかというと『「仕事ができる」とはどういうことか？』にも書いたとおり、向いてない仕事をやることほど自他を不幸にすることはないからです。しかもこのフィット感、つまり向いている仕事をやっているかどうかって、中年も後期に入ってくると、若いころに比べてはるかに大切になってくるのです。【山口】加齢とともに可塑性を失っていきますからね。【楠木】変わらなければいけないとか、自己変革せよとか、そういうことを言われるのが僕は一番いやなんです。せっかくこの歳までこの芸風でやってきたのに、自己変革だけはカンベンしてくれと（笑）。このあたりが、「逆白い巨塔」作戦のベースにある考え方ですね。【山口】篠田真貴子さん（長銀、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経てほぼ日CFO。2018年に退任）のブログに、マッキンゼーで「あなたにはこれ以上成長の余地が見込めないから、もう会社に来なくていい」と言い渡された話が出てきます。コンサルの世界はとても厳しいんだと。でも、彼女はそれを30代のうちに指摘されているわけで、50歳で「あなたはもうおしまい」と言われるより、ずっとましだと思うのです。（略）【山口】僕は社会学者にはセンスが重要だと思っているのですが、たくさんの社会学者がいる中で、なぜかマックス・ウェーバーはずぬけた存在で、現在でも読み継がれていたりします。彼のようにセンスのある学者って、問いの立て方が鋭かったり、解法のアプローチが鮮やかだったりして、著書を読んでいると思わず「そうきたか！」と言いたくなってしまう。『イノベーションのジレンマ』を書いたクリステンセンの切り口の鮮やかさなんかも、まさに「センスがいい」としか言いようがありません。（略）【楠木】僕の専門である競争戦略という分野の創始者、マイケル・ポーター先生は非常に影響力のある人でありながら、アカデミズムの世界では「業績のリスト」が短い方なんです。【山口】『競争の戦略』って、すごい影響力がありましたけど……。【楠木】いまから20年ぐらい前になりますが、僕はアカデミズムの世界の息苦しさに耐えかねて、「ポーター先生の仕事はアカデミズムのフォーマットに必ずしも即していませんけど、いったい何を仕事のゴールにしていらっしゃるんですか」と尋ねたことがあるのです。答えは「インパクト！」でした。「アカデミズムのインナーゲームに付き合う必要はない。学者はとにかく自分の考えを世の中に伝えることからすべてが始まるんだ。書いたものが世界に何らかのインパクトを与えられればそれでいい。見てみろ、学術論文なんて誰も読まないじゃないか」と。【山口】いいお話ですね。これは「価値の本質とは何か」という話でもあると思うのですが、ある行為の価値って、世の中に富を生み出すとか、課題を解決するとか、つまりはインパクトがあるかどうかにかかっていると思うのですが、ひとつのシステムが価値を生み出すまでにはいくつかの連鎖がありますよね。たとえば、経営学という学問の外側に出版機能があったり研修機関があることによって、経営学は初めて価値を生むわけです。【楠木】クリステンセンのバリューシステムのように。【山口】そのシステムの内部にいる人のパフォーマンスを計量しようとするとき、本来ならば「価値の連鎖」にどのようにつながっているかが重要なはずですが、それを計量するのが難しいケースが多いので、いったん鎖を断ち切って、あるわかりやすい指標、いまのアカデミズムの議論で言えば論文の数や引用回数といった分かりやすいものをメジャーメントにしようということになってしまうんですね。【楠木】そして、分かりやすいメジャーで測定できるスキルを磨こうとする行為が、結果として、センスを殺してしまうことになるのだと僕は思うのです。

  2020年02月14日

• 駿河みやげ　一行皆列りて汽車の発すること間髪をいれず。『サヨナラ』の一声、車轆々たり（をわり）

  駿河みやげ（国府犀東　斯民第１編第10号明治40年1月23日発行　３８ページ～　） 駿河みやげ（報徳行脚）　その１駿河みやげ（報徳行脚）　その２駿河みやげ（報徳行脚）　その３駿河みやげ（報徳行脚）　その４  駿河みやげ（報徳行脚）　その５駿河みやげ（報徳行脚）　その６駿河みやげ（報徳行脚）　その７◎朝食を追えて服装を理（おさ）め、玄関に出れば、農場をめぐるの用意にとて、馬４頭静かにわれらを待つ。大鈴木氏その一に乗り、岡田氏その次の一に乗り。われまたその次の一に乗る。馬背得々として出で立つ。◎さきに登りし丘に行き、南方なる一丘に馬をつなぐ。小林ありて林外に一亭あり、林中に小神祠を置き、そのかたわらに古石碣（いしぶみ）あり、『柾薗貞純親王塔』と鐫（せん：彫る）す。更にそのかたわら近くに一碑を建て、鈴木氏その由来を書してこれに刻す。白石氏そを写し取れるに曰く、『古塔発見記。明治三十七年十月。余初巡視農園。距御嶽神社二町。得一大石于竹林中。抜地五寸。則令人発掘、陰々有文。桃園貞純親王塔七字。或曰此石元在神社境内。或曰昔時有計埋塔者。今不知其何故。然至塔之為神社域中之物。復実不可争也。則更移之于茲云。明治三十八年四月鈴木藤三郎』と。◎前宵桃園貞純親王の事、端なく話頭にのぼる。中川望氏曰く、『我が家、もと中川瀬兵衛に出づ。系図によれば遠く貞純親王に出でぬという』と。奇なるかな、期せずしてその後裔たる中川望氏が端なくもその祖先の古塔に礼するの機を得たらんとは。◎農場を望めば、茶圃つゞき、茶圃連なり、上に富士の霊山厳然たり。丘下に瀑園の流崖に迫って急灘（きゅうたん）を激せしむ。再び馬に登って農場に向かう。途中、鈴木氏その馬をとめて下方を指し、『定輪寺の旧地域は、昔時この辺にも及びしが、今は挙げて農場の中に入る』といいて、寺が一山を隔つるを指し教ゆ。◎宗祇法師が終焉の地は、桃園山定輪寺に在りしと聞きしが、さてはこの地すなわちこれなりしか。たゞ赴きてその墳を弔い得ざりしを惜しむのみ。宗祇の辞世に曰く、『はかなしや鶴の林の煙にも立をくれぬる身こそうらむる』と。自画賛に曰く、『うつしをくは我影ながら世の憂きも知らぬ翁のうらやまれぬる』と。俳諧に曰く、『世にふるはさらにしぐれのやどりかな』と皆定輪寺に伝えられぬべし。義経の頼朝に対面したる黄瀬川も、程遠からぬ地なるべきか。※定輪寺(じょうりんじ)は、裾野市桃園にある。弘法大師空海が開創したとされ、清和天皇の第２皇子貞純親王が桃園山定輪寺と名付けた。当初は真言宗の寺だったが、永享１２年（１４４０年）に曹洞宗に改宗した。寺は室町時代の連歌師宗祇と深い縁があり、箱根湯本で客死した連歌師宗祇の墓や句碑が置かれ、直筆の写経も伝わっている。◎馬隊は先に立てよという。予ら馬背の一群先に立ちて農場をめぐる。一小屋あり四面ガラス戸にて、報時鐘（ほうじしょう）などをもそこなる尖頭にかけたり。牛舎をもめぐりしその小屋ある処に憩う。農場監視の場なりとか。茶圃の間を行きぬ。黄牛斑牛そこらに遊び、桃林牛を放つの趣きあり。行き行きて地ますます高し。宛然たる裾野なり。農場の最高処にあたる。地を界するに桜樹一列をもってす。旧この地を経営したる静岡武士が武士の誇りとして植えたるものならめ。右に大野が原を望む。茶褐色にして林木薄黒し。上に富士山咫尺（しせき：距離が非常に短いこと）の前に直立して手に攀（よ）づべきを覚ゆ。馬背得々として引き返す。◎午餉（ごしょう：昼飯）をおえぬ。汽車発着の時刻も迫りたればとて、倉黄(そうこう：慌てて)暇を告げて立ち出ず。鈴木氏馬背に鞭を横えて来り送る。我が馬その後に従い、一馳せすこぶるはやし。心もとなき馬術なれば、跳ね落とされんとするもの数回、瀑園の南、橋上馬を立てゝ劉備の渓関を飛び越えし当年を想う。馬一散に駆け出して停車場近し。一行皆列りて汽車の発すること間髪をいれず。『サヨナラ』の一声、車轆々(ろくろく:音を立てて走るさま)たり。　　　　　（をわり）

  2020年02月04日

• 「二宮先生五十年祭講演　第六席」　衆議院議員　鈴木藤三郎君（明治38年4月2日）

  「二宮先生五十年祭講演　第六席」（明治38年4月2日）　衆議院議員　鈴木藤三郎君　諸君、今日は二宮先生の五十年祭を御執行になる、実に御盛大の御祭典で私もここにおいて末席を汚すことを得ましたのは誠にありがたい仕合せでございます。それで今晩は岡田先生が折角遠方から来たから何か話をしろというおすすめを受けましてございます。然るに私はご承知のとおり当時遠方におりますし、又諸君のごとくこの会堂に毎回出席してあらゆる先生のご講話を聴聞する事は出来ませんが、然し私は以前は時折この報徳社にまいりましてこの道を聞いたこともあります。今日別に諸君にお話を申し上げるような種は元よりないのでございます。しかしながら誠にこの有難いところの祭典に列した光栄として何でもよいから是非話すがよいというおすすめを受けましたから、私も元よりこの報徳の教えを熱心に信ずる一人でございますから自分の不才を顧りみず今晩一言お話いたしたいと存じます。どうか暫くおききを願いまする。　それで私は今晩ちょっとお話を申し上げたいのは、もう昼間のうちに報徳の大体の上よりかわるがわる諸先生方が種々お説がございまして私は先刻申す通り不才なものでお話を致す力はございません。ただ二宮先師の教えにつきまして、もっともこの報徳と申しましたなれば実に大きなこと、どうもどのくらい大きいか分りません。これを天下に行いまする時は天下を経営する事が出来る、天下の治乱にも関係する、戦国にも応用できる、又これを教育の一般にも応用しましたなれば天下の教育という事になりまする。人類一般の事が則ち報徳ということになりましょうと存じます。このごとくなれば実に大なるものでございますから、その全体の事は到底かれこれ云う事は固より申し上げ得ません。ただ自分が実業に身を投じておりますから、大いなる報徳の教えより云えば、一節、報徳の一節という法が是が実業と申しても宜しいことでございますから先ず直接実業に従事する所の実業の経営の上にこの報徳を以て参ってただこの方面の所感をお話致します。で、この二宮先師の教えの内に荒地を開くに荒地の力を以てするとこういうことがございます。諸君はご承知の事でございますが、さてこの意味を私は広く実業の何れの方面にもこれをよく咀嚼しまして何事にも応用したなれば、最も今日の日本に適するものではないかとこう思います。それはどういうことかというに、もう先生が荒地ということをいわれましたが、これは一つの例でございます。未墾の地を開く、荒蕪を拓く、荒蕪の力を以てするこうある、誠に意味のある所と考える。然ればどういう訳かというに、その事について一言申しますれば荒蕪の力で荒蕪を開く。一番最初に荒蕪を開く資金を得にゃならん。それは手間取りをしても一反歩くらいの資本はこれは容易に得られるもので勤労すればきっと行われる。初めにかかる資本を以て一反歩の土地を開きまして、しかしてその一反歩の土地を開いて余った所の収入をまず善い塩梅に豊年と云うて空しくしてしまったなれば、荒蕪の力で荒蕪を開くことは出来ない。そこでどういう風に荒蕪の力で荒蕪を開くかというにその開くことは一つの手段でございますと思う。それにその道がなくてはならん。それはどうかと云うに報徳の道を一つ応用して見ますると誠心を以て本とする。勤労を以て主とする。分度を守り推譲を要とする。これが報徳の道でござります。何事もその道が土台になっておらにゃならん。その道を土台にしておきまして、しかしてそのなす仕事に現れて荒蕪を開く。荒蕪を開くに仮に一反歩を開いて五斗の米が獲れるとすればその半ばを以て明年の開墾の資本とする。それには分度を立てる。もし分度を立てませんと５斗獲る、その獲ったものを食うてしまう。５斗のものは２斗５升剰して明年の資本として、また一反歩の荒蕪を開く。又今度は一石獲れる、一石獲ればその五斗を以て資本とする。そうなれば二反三反と開けて往く。こういう仕組みにして段々やりますれば、何千町歩でも開けるという事に聞き及んでいます。これは一つの例でございます。然ればこれは荒地を開くことばかりであれば荒地のない所はいかんともすることは出来ない。この方法は荒地を開くのみの小さな方法ではない。この道とこの手段をすべての方面、何事に用いても農工商三業でもあるいは何事業に応用してもその効績はある事と思います。　それで私が今晩申し上げますることはお断りして置きますが、教えがこうであるという事を申すじゃございません。そもそも私が報徳の道を耳に致したのは明治８，９年頃でございます。段々この教えを聞いて研究しているうちに、いわゆる今の荒地を開くの力を以てするということが、私の脳にしみまして･･････非常に感じました。その感じ方がただいまの様なものになった。どうかこれを外の仕事に用いてやったならば、やはり功績があろうと考えた。その当時私は菓子商をしておりました。それにこれを応用して見ました。その仕方は細かな事を申す必要はございません。とにかく応用しまして５か年を期して明治１０年より明治１４年までこの事を実行しました。この事は外の方面にも応用が出来るか出来ないか試そうと思うて５か年やってみました。やってみましたところが、誠に歴然としてその効が顕れました。というものはその１年の初年は明治１０年の1月1日を以て初年と決しました。それ以前は捨てまして全くその道を開きまして、これにのっとりてやろうと決心しましたが、明治１０年の１月１日、満5年やりました。　ところがその最初の時の資本は２６１円でございました。それが１４年になってみました時に１万円を越しました。その当時はこの節と違いまして、とにかく駄菓子を１万円売るという事は大変でございます。信州辺りにてお得意が出来まして、その５年前までは３００円ほどしか売れないものが１万円余にもなった。もっともそう売れるようになったのは廉（やす）く売ったから売れたに違いない。かように自分の営業に実験をしまして、それで誠にこの荒地を開くに荒地の力を以てすることが、独り荒地のみならず何れの道にも用いる事が出来るという観念が堅くなりました。けれどもそれで許す訳にはまいりません。その５年目に私はその証拠書類を提げまして倉真（くらみ）村にまわって、岡田先生にお目にかけました。こういう事をえましたと云うてお目にかけました。岡田先生それを見てなるほどよくやった。こういうように応用することは面白い結構であると。師匠と云うべき岡田先生にとにかく許しを受けました。そこで私ますます自分の決心が堅くなりまして、どうも私はそこで金力であると思うのは分度と云うものを確乎と立って、それで例えば自分の財産が幾らあって幾ら資本がある。その半ばを取って分度を立って明年の営業の方に回して荒地を開く。それは荒地の力を以てする。これが土台になる。こう私は信念を固めました。少しは報徳の道を味わいかけた。これを味わいかけたのでその当時駄菓子を１万円売った。これもなかなか容易な事ではない。いやしくも国民としてこれを我が国家に一つ応用してみたい。出来るだけその方面に向かってやってみたい。こう心を起こしました。それからその菓子業は雇い人に任せまして、専ら砂糖業を起こす事にかかりました。その初年は氷砂糖でございます。それをやはり同じ筆法でよろしいものとこう自分は決心しました。それからして東京に行きましてこれも段々拡張してやりました。それゆえに事業は多少大きくなる。大きくなれば力も大きくなる。そこで東京に移りました。東京に移りましてますます節約勤倹をしてその余裕を皆事業の拡張費に充てました。それでございますから、その間には種々な事もございますが、しかし今日に至るまでやっておりまする。それでまずそういうふうにして参ったおかげで、とにかく今日では東京に参ってもどうかこうか一つの仕事がまとまりました。それから明治３３年に台湾にまいって砂糖業を起こしました。これは随分困難でございましたが、ようやく昨年より確かになりまして、まず安心する事業となりました。一の営業となったのであります。これもいわゆる言い換ゆれば、経済は経済の力を以て開く、砂糖業は砂糖業の力によって発達する。何でもそのものから出たものはそのものにかける、儲けで何事も出来る。お百姓なれば今年の儲けを明年の肥料に充てる。何事業もその通り制限を立て分度を立てて翌年の業に充てる、一つの営業をなすのにもその営業者が金さえこしらえればよろしいのじゃない。どうかその事業を発達して拡張する、それが一つの土台でございます。これを名付けて誠心という。細かく云えば限りはございませんが、この誠心と勤労、分度、推譲この四つは前にもお話がございましたから私は略します。何事もこの四つが備わらにゃ営業の発達はできないでございますから、ただ何事をする場合にもそれだけのものが並び行われんければ、それだけのものであります。この四つのものが備われば、およそ天下の事業としてならざるものはないと信じております。この道、この法を以て行ったなれば、いかなる事業といえども必ず成功するものでありますと。こう自分は考えております。ただ儲からんでは困る。あの業はあわん。この業は得だという決して営業はこれは得な業、これが損なことという業はない。何でも差支えない。例えば酒屋をして身上を興す、又身上をへらす。必ず興すとも果たすとも罪はその業にない。その人にある。事業そのものに成敗はない。事業は人によって興りもし衰えもする。その興す人はどういう人であるか。この報徳の道を守り実行するとせん人であり、これによって成敗が分かれる。これが大体原則であると考える。それで今日は不景気で仕方がない。こうどこでも云う。どうも私はそういう事はないと思う。天則から云うと日本の人は今５千万人、統計家の話で聞けばある。それに年々１万について１３０人の割に人が殖える。１か年６０万人の人が殖える。そういうふうにこれだけの面積に５千万人ある。そうして年々６０万人殖えるという有様でございます。そこでこれまであり来った事業では、とても仕方がない。しかし、何にも仕事がなくなった道理ではない。人が殖えるだけ、仕事が殖えにゃならん、それを「あう」の「あわぬ」の食える食えぬと云う事は私はないと思う。全体すべての事は発達をせにゃならん。もし発達をせないなれば、日本の前途いかにという事になります。いわんや今日はご承知のごとく世界に最大強国というロシアを打ち懲らして実に連戦連勝の有様であって、この上もない幸福であるが、これより先終局を見ることは長いかも知れん。勝つ事はたしかに見とめがついた。その戦争は勝って世界列国も日本人は驚くべき所の人種ということは今日では各国ともに称賛しているという事を聞いております。今、称賛される以上は誇ってもよろしい。しかしながらこれより戦後の事はいかがでございます。どうしても日本の富、この日本の富は農工商の実業を発達させにゃならん。これが全く発達をせんければ富は思いもよらん。然るに実業界はどういう有様かと云うに、一体の上より云うと外国とは非常の違いがある。戦争では世界人の耳目を驚かしたる所の日本人が実業上の事になると云うと所詮遠く及ばない。誠にこれは遺憾な事であるます。私も実業者の一人でございます。甚だ面目はない。遺憾に感じておりまする。実業上の方面より見れば、日本人は外国人に遠く及ばん。戦争とすれば世界の人を驚かすような働きがある。これは余程不思議でございます。然れば日本人の能は戦争の事より外にないかと云うに、そもそも戦争において命をすてる目ざましき戦争をして国を取る、日本人が外国人より勝れた働きをするなれば、やはり産業上においても自然発達を早くかけにゃならぬ。日本人がこの方よりはいけないことは、何が故にいけないかと云うに余程講究せにゃならん問題だと思う。それは要するに今日の昼の間に諸先生の講話中にもありましたが、戦争をする決心が産業上にない。あれ程の真心がない。この真心を名付けて大和魂という。報徳ではこれを誠心と云う。その誠心が実業上に現れさえすれば戦争に勝つごとく実業上にも勝たにゃならん。実業上の大和魂が不安であるから何と云うても、ものにならんように思う。それはどうかと云うに諸君が熱心に日々研究をなさる処の報徳の道、報徳の教えをこの実業上に直ちに応用して行ったなれば、この戦争と同じようにかつてヨーロッパ人にない所の功績を実業の上に果して発揮することが出来ようと思う、でございますからして諸君は年来報徳の道をご研究になっておりまして何事にも行うておりましょう。しかしなおその上にも大小の区別を論ぜず、報徳の道を信じて実業に従事して荒地を開くに荒地の力を以てすると云うこの意味を応用して、そうして誠心誠意勤勉せられましたなれば、いかなる事業も遂げられんことはどうしてもなれと自分は確信致します。それから自分の事を申しましては甚だおかしいようでございますが、近頃は私はある自分の嗜（す）き云う上より少しこの器械につきましていささか工夫を致しました。それは２，３年この方発明が出来ました、その内もっともまだこれは確かに例証を挙げまして申すことは出来ません。今年中くらい掛かりますが、どうか有益であろうと思う。常にハンゼシメンショードそれは石炭と申すことであります。当時電気が非常に盛んでございます。その電気の基は石炭でございます。それ故にこの石炭を作らにゃならん。電気はいずれも石炭が必要でございます。もっとも水の原動力もある。しかし土地によりましてはことごとく水を引いて応用することは出来ない。石炭については新聞にもだいぶん出てきますが、我が国の石炭は九州北海道等の石炭が沢山あって堆積しておって大いに売るにも困るということは４，５年前の事であります。然るに各方面より近頃工業が盛んになりまして、石炭の消費が非常に殖えて来まして船舶の費消する高も大変な事になりまして、近来全く九州あるいは北海道の石炭の堆積もなくなりまして、今日掘って明日積み出すような訳になりました。需要一方になりましてその処で石炭は何れの方面に向かっても近頃不足をつける傾向になりまして、だいぶんその不足を唱えるようになりました。大洋中より石炭を採らにゃならんと云うておる。こういう事になりました。こういう事になれば前途誠に考慮を要する事になります。石炭は人為で出来るものでない。どうしても地層によって掘る、それを掘らにゃ作ることは出来ない。それはどのくらいの年限を経て出来るか、なかなか容易なことで出来るものではない。それほど貴いものでございます。これが又妙なことがあります。どういうことかと云うにこの石炭を分析すれば百の中に八十くらい燃えるものがある。然るにそのどれだけ燃やしているかと云うにまず普通燃えるに五分即ち半分でございます。全国中の工場でその統計で見れば非常に沢山つかわれているその部分でカスがある。燃えない石炭がつかわれている。燃すべきものは三分の一であります。世界中外国もその通りでございます。そういう事になっておりまする。その事をちょっと以前にある学者から聞きまして、それから明治２９年３０年にかけて外国を調べてみました所が外国でも同じであります。それから自分もどうかしてこれを誰か工夫するものがあろうと思うて人に実は求めておりました。所がそれが出て来ません。それから本来私も専門家ではございません。工夫をしよう考えようと思うことはない、世間に求めておりました。ある時、このランプを点けておりまして、やったではないが、炎がたつと火が赤くなる。どうすればエンが立つ芯の出しようによって油は一つ油でも赤く立ってエンが立つ。又ホヤの掛け様でエンが立つ。そんなことを妙だと感じまして、彼の小さい手ランプあるいは豆ランプのごときホヤのないものは火が赤くなる。ホヤを着せれば火が白くなる。私はこれを始めに感じました。それから段々この事について考えて見ました。これはその温度と空気の量と油と心とを加減して適当に行けばよろしいという事がわかりました。その処で竈（かまど）もかくのごとしと思うて、これは一番工夫して見ようと云うことがその処に起こりました。それで４，５年前でございます。段々工夫に工夫を加えまして、昨年７月ようやく形が出来ました。その効用と云うものは今までの石炭の三分の一を用いて足りまする。この事柄を細かに申し上げれば大変でございます。要するにちょうどこのランプのようなもので、またこの竈のようなもので火が燃えて煙りになる。その燃えても煙りにならぬと云う事が自分の理想でございます。それを大学その他の工学博士に鑑定して見て貰いました。確かによろしい理論的にも適（あ）っているが、今それの実験中でございますから本年中には確かに計算が出来、方法が出来ましょうと思う、これを工夫した原因は何んかと云うに、やはり報徳の道であって倹約という事が頭にございます。世の中に石炭というものが出来ている。その出来ているものは空しく失わんことが倹約でございます。織物にしてももしこれが手置が悪く粗末にすればある一部が切れる。もう着物にならん。又着物にしても注意して大切に悪くなれば洗い張りをして手置きをよくすれば５年も１０年も一つものを着る。もしその手置きを怠れば１年か２年で、もう着物にはならなくなる。倹約はその処でございます。人工を加えて出来るものを捨ててその用をなさで終ることは極く不経済なことであります。それでございますから、この石炭の事も倹約と云う道に教わって、倹約と云うことの頭より見れば煙突より出る。濛々として雲の上に立つ様なものが出る事も甚だ勿体ないものとこう感じます。別に工夫して銭を儲けようという事じゃない。それを工夫して空しく煙りにせずば大いに利益のあること、わざわざ煙りにするのは実に勿体ないことであると思う。大きな考えを以て来て人生の上に及ぼしたなれば大変なことである。石炭に限らず何事も三分の一とか、あるいは半分を倹約することになれば、十年のものは二十年もつかえる。人生の進歩の上にも関係する処の問題と思うて、つまり倹約思想から段々研究しましたのが･･･また公然社会に公然発表して見ません故に確かなことは申されません。しかしこれまでやって来たのは、原因は勤勉という事の頭より出て来ましたので、そこで工夫してやったのが勤勉でございます。とにかく教えを聞いた所の勤倹というに基きましてかかる、結果に至ったのでございます。これも先輩の諸先生方に薫陶されましたものが頭の底に残っておりましてかような事になったものかと思います。しかしながら私のこれまでなし来ったことは変則でありまして、こういうふうに諸君にやってよろしかろうということは申されません。ただ私がこれまで実行して来たもとの考えの起こりがこの道を信じて。それに基いて来たということを申し上げたのであります。どっと変則と思いますから諸君もそういうふうにおやりなさいとは云われません。ただ何事にも使う精神は同一でございます。何職業も違った事はない。例えば駄菓子屋をやるにしても、よくこの考えを緻密に致してそうして一生懸命に勉強して、一生懸命に勉強するものが少ない年が年中何事も一生懸命になりませんと全力を注いで仕事をすることができない。この精神さいあってしたなれば、いかなる大事業も出来る事と私は信じておりまする。思うに二宮先生のごときその人であろうと思う。たとえ学問があっても智恵があっても一生懸命に全力を注いで事をなさんものは充分な効果を得ることは出来ない。故に私は諸君と共にこの精神を以て報徳の教えを実行致したいと思うて、長い事を申し上げて甚だ恐れ入りました。これでご免を蒙ります（拍手喝采）

  2020年01月19日

• なにやらクリスマスプレゼントを頂戴したような

  Ｋ先生「黒糖から見た戦前沖縄糖業」「戦前北海道甜菜糖業の黎明期から展開期」の二論述の御恵与誠に有難うございました。　何やらクリスマスプレゼントを頂戴したような嬉しさでした。　十二月十五日（日）袋井市の山名コミュニティーセンターで第6回報徳講座を開催しました。講座タイトルは「鈴木藤三郎と鳥居信平」についてで、今回は藤三郎と信平の近親者が講演するとあって、参加者四十三名、講師スタッフ十二名、計五十五名と盛況でした。一、まずＩ先生の「It's a small world.出会いの不思議と大切さ」二、Ｔ先生（鳥居信平の近親者）の「二つの地下ダム（二峰圳と力力渓水圳）」三、Ｔさん（鈴木藤三郎の近親者）の「鈴木藤三郎から私まで」四、私（一市民(^^)）「徳島県技師鳥居信平」私は同封の『八田興一と鳥居信平増補版』で徳島県における鳥居技師の新事実と鈴木正錬氏の「二峰圳の工事概要」を紹介し、講演会後には懇親会を森町のＭさんに肝煎りしていただいて楽しく行いました。今回の講演会で特筆すべきは、Ｔ先生が講演するとあって、『水の奇跡』著者Ｈさん、台湾から（たまたま萌訪日中の）丁教授（地下ダム研究の第一人者）、林副教授がＴ先生と一緒に来られ、また大阪市立大学Ｓ教授など、ちょっとした「鳥居信平研究会」の趣きとなりました。Ｋ先生のご都合がつきますならば、「報徳講座」において、台湾製糖会社と鈴木藤三郎についてお話を賜る機会があればと存じます。　そしてＩ先生のご講演にありまうように「出会いの不思議と大切さ」が新たに生まれればと思います。ありがとうございました。どうぞよいお年を

  2019年12月22日

• 「正錬は信平の義父で、信平から直接工事について聞くか手紙を貰ってそれを記録したのであろう。現地で見た人にしか書けない臨場感がある。」

  『八田與一と鳥居信平増補版』より「二峰圳工事の概要（万隆農場）」より「地理教材研究第六輯」（地理教材研究会 編 (目黒書店, 1926)）に「二峰圳工事概要（万隆農場）」鈴木正錬著が掲載されている。鈴木正錬氏は大正2年の『職員録』に「県立掛川中学校教諭鈴木正錬」とある。袋井出身の鳥居信平の事業に注目したのであろうか。「二峰圳工事概要」は、二峰圳工事の概要が丁寧に叙述されると共に、現地住民の雇用について貴重な証言が記載されていて興味深い。「この工事に初めて現地住民を雇用しその労力によったが、現地住民は極めて質朴頑強で、水底を潜って土砂をすくい上げ、河岸の崖を駆け登る動きは、台湾人労働者のとうてい及ぶことができない。コンクリ工事のハンドミキサー作業にも慣れ、よく指揮者の命令に服従し時間と規律とを確実に守らせるなど、労働者として価値があることを一般に知らしめた。その雇傭延人員は６万２百人に達し、頭目は技師技手を敬愛し親密の交際を結んだ。これは台湾における新しい試みの一つとして成功したものということができよう。」「工事の概況はまず水源で川幅百八十間を川床以下平均十八尺に堀下げて掘割を作り、ここに地下水取入暗渠を伏せ込んだ。この掘割作業の際、現地住民は男女の別なく、涌水中に入って土砂・玉石を掘り出し、バスケットに入れて頭上に載せながら駆け回る勇敢で敏捷な動きは非常に興味深かった。掘割工事は、その底部に基礎コンクリートの工事を施し、その一端に高さ八尺の粗石コンクリート堰堤を築いた。これもまた現地住民が涌水中において工事を行った。」また地下ダムの構造について次のように説明している。「地下水取入暗渠の構造は、コンクリート及び粗石コンクリートにて作った三角形の桶管で、その大きさは三角形の底辺六尺、高さ六尺で、斜辺に若干本の桁を並べ、桁の大きさは長さ九尺・幅六寸・厚さ八寸で、鉄筋コンクリートで作ったものである。また桁と桁との間隔は二寸ずつあけて吸水の用に供し、その間隔より土砂がにじみ入るのを防ぐため、桁全体の上には粗朶束を積み重ね、その上に土砂を盛り、暗渠を埋め込んだ。また暗渠の垂直壁には円管を伏せ込み、頂部よりも暗渠内に水を吸い込ませる装置を設けた。」取入水量は、乾燥期（冬季11月～翌年3月）は地下水毎秒29立方尺を取入れサトウキビの灌漑を行い、湿潤期（夏季6月～9月）は地表水（渓流）を毎秒105立方尺を取入れ水田灌漑の用に供する。なお雨期出水に際しては濁水を取入れ、沈泥作用によって土地の改良をも行った。導水路は、不慮の洪水に備えるため余水吐を設けた。雨期の多量の出水に備えるため処々に水門を設け、余水を水路外に放流させる装置をも施したと、現地調査に基づく工夫がされている。＊「袋井出身の鳥居信平の事業に注目したのであろうか。」を「正錬は信平の義父で、信平から直接工事について聞くか手紙を貰ってそれを記録したのであろう。現地で見た人にしか書けない臨場感がある。」とに今度訂正しよう。

  2019年12月17日

• 甫田（ほでん）を田（たつく）る無（なか）れ　維（こ）れ莠（はぐさ）驕々（きょうきょう）矣

  江原素六先生は、次の言葉を紙片にサラサラと書かれて、留岡幸助先生に渡された。無田甫田維莠驕々矣「留岡君、かような語が詩経にあるが、君は何と思わるるか？」「先生何という意味ですか？」「無田甫田は甫田を田（たつく）る無（なか）れと読むのじゃ。甫の字は補の字と同じ意味で一言で言えば手のかかる田を作るなということじゃ。手のかかる田を作ると、換言せば手に余る仕事をすると何事も成功せずして終わる。手に適うただけの仕事をすればよいということじゃ。維れ莠驕々矣というのは、手に余る田を作ると莠（はぐさ）が生えて茂ってどうにもこうにもならなくなる。余り仕事を遣り散らすと纏まりがつかなくなる、というのが詩人の教えである。」「留岡君、僕は貧乏であるから餞別にすべきものを持たぬ。これを餞して君の北海道行きを祝したいと思う。」留岡先生は、江原素六先生の言葉を、この上もなく有難く聴いた。（私は時として仕事を遣りすぎる癖がある。　先生は私のこの弱点をよく知ってこの語を餞別にくだされたのだ）留岡先生は、北海道に着くと、厚くて長い赤タモの板に能筆家に頼んでこの言葉を刻んでもらい、これを名人に彫刻してもらった。その板の額は、家庭学園の望の岡の礼拝堂に高く掲げられて永久の訓戒を垂れているという。　甫田（ほでん）を田（たつく）る無（なか）れ　維（こ）れ莠（はぐさ）驕々（きょうきょう）矣☆江原素六は鈴木藤三郎を惜しむ言葉を送った、堂々たる弔辞である。留岡幸助は鈴木藤三郎の盟友を任じた。たとえ人知らずとも、この両雄に信頼された鈴木藤三郎の偉大さを思う。最も尊敬したる人　　貴族院議員　江原素六（写真）　　◎毫も欠点なき人　鈴木君が亡くなったそうだ。誠に惜しいことであった。自分は最も鈴木君を尊敬する者の一人であった。知っていたの何のでない。最も古くからの友人で、君も自分を信じてくれていたと思う。１４日に遠州で本葬式があるそうだから、自分は是非会葬するつもり。行かなくっては心が済まぬ。森町へは浜松で下車するとよいかね。ナニ岡田君が行かれると、然らば電話で問い合わすとしよう。　どの点に最も感心したかと、どの点もない、一の欠点もない。全身悉く敬服すべき人物であった。自分は徹頭徹尾賞賛していたので、君が衆議院に出るとき、自分は極力運動をしたが、このくらい心持のよいことはなかった。世には表向き褒めておいても、しかしこういう欠点があるというようなこともあるが、自分の同君に対する推奨は、決してそんな類ではなかった。君が発明の才に富んでいたことは勿論であるが、然しそれは君の人物に対しては一の余技に過ぎなかった。真に惜むべき人　本会評議員家庭学校長　留岡幸助（抜粋）　　◎慰問の夕その後鈴木氏の大失敗の噂を耳にしたので、早速予はこれを訪問せんがため、黄昏時（たそがれどき）から自転車を飛ばして、小名木川の家を訪問したのである。時は一昨年も将に暮れんとする１２月２３日の晩の事でした。その時番頭が出て来て、「実は非常な場合でして、誰にも会われないのですが、あなたがいらっしゃったことを伝えますと、非常に喜ばれてお会いするとのことでした」といった。それから部屋に通ると、すぐに鈴木氏が出て来られ、老母（おばあさん）や、養子や、番頭まで出て来て、いろいろ精神上の話が出た。その時、鈴木氏がいうのに「昨日１３０万円の責任を引き受けて会社を出てしまった。自分はこれまで１０年ごとに大失敗をして、今回で３回目である。これを航海に譬えると前2回は難破したのであったが、まだ船に乗っておったからよかったが、今回は船まで取られたのであるから、大いに弱った」と嘆息しておられたのであります。そこで自分がいうのに「それは君にも似合わぬ弱音を聞くものかな。一体これまでいろいろ専売権を得た発明は誰がしたのか、君の頭脳（あたま）がしたのではないか、すれば頭脳が残っておる間は大丈夫でないか」と励ましたことであった。「ただ遺憾に思うのは、鈴木は始めから山師であるという世評である。もし自分が真に山師であるならば、自分が最大の株主になるような事はしないはずである」といって、世評に対する不満の意を漏らした。　そこで自分はいうのに、「それは君の平生にも似合わぬ繰言である。天下の人が皆、君を奸物であるといっても、それは皆利害の関係から君を評するのである。しかし自分のごとき、君とは何ら利害の関係がない人間が、君と共に公益のために尽くさんがために交わっておるのである。それ故自分は、自分の経営する家庭学校の事業のためには君を煩わすことをしないのである。これは公益をもって交わろうとの考えがあるからである。自分が聞くに、英国のクロムウエルは、多年奸雄と定（き）まっておった。ところがカーライルが出て、その雄勁なる筆を揮（ふる）って、クロムウエルは千古の大忠臣で、真に社稷（しゃしょく）のためにその身の毀誉を顧みなかったのであるといって、冤（えん）を雪（そそ）いだのである。君もこの際、泛々（へんへん）たる毀誉褒貶を眼中に置かず、前途の事を考えられた方がよかろう」といって慰めたことであった。ちょうどその際クロムウエル伝の翻訳が出たから、翌日その書籍（ほん）を贈って置いたことである。その際自分は、ちょっと横を見ると、老母が私を拝んでおるのが眼に入ったが、その当夜の光景は真に厳粛な光景で今もなお眼前に見るごとき心地するのである。☆12月15日（日）午後1時半から袋井市で第6回報徳講座を開催する。「鈴木藤三郎と鳥居信平」がテーマである。

  2019年12月12日

• 「日本近代産業の指導者と報徳」と「実業と報徳」

  「日本近代産業の指導者と報徳」by村松敬司（「尊徳開顕」より）安田善次郎（１８３８－１９２１）　一介の商人から身を起し、一代にして巨富を積み、かつ金融大財閥を築きあげた。無学歴、無資本にもかかわらず、至誠、勤労、分度、推譲を身をもって実践し、遂に大成したのである。少年時代より、尊徳に似て好学心が強く、野良仕事に出る時も懐に書物をしまい持ち、暇さえあれば読書し、夜は蒲団の中で天井に向かって字を指で書き覚え、また尊徳のごとく独力をもって家を興さんと決意して奮闘した。彼は次のごとく述べている。「真心をもって事に当る。たとえ他人の事であれ、自分の利害を見るごとくする精神である。」「言によらず行ないをもってした。世には口の人、筆の人もあるが、私は口や筆の力よりも行ないの力の強いことを信じたからもっぱら行ないをもって身を処し、かつ部下を率いてきた。よし生涯華やかなことは少ないにせよ、行ないの力ほど大きな結果をもたらすものはない。これは私の事業上、処世上根本の法則として、今まで一貫してきている。」「虚飾を避けて実益を収むること。」「私の資産を作った一大原因は『分限を守る』という決心を堅く実行したのである。・・・私はそのむかし鰹節屋をはじめた時から、我が生活は収入の１０分の８と決め、いかなることがあってもこの規則を越えたことがない。」「二宮尊徳翁の教えにも分限論はよほど懇切に説いてある。翁の説は１０分の５をもって生活し、その余を蓄えよとしてある。10分の５では少し無理があるように思われるが、とにかく分限の必要は申すまでもないのである。貧しきは分限を守るが、富むとそれを乱しやすい。それではとうてい産を保つことはできないのである。」明治４１年１２月（京都報徳講演会）実業と報徳　　　　衆議院議員　鈴木藤三郎君述　より抜粋諸君、報徳の道は至誠、勤労、分度、推譲というので、最も推譲をもって要となし、いかなる身分の人でも、日々夜々生涯一日も欠かずに推譲を致さねばならぬ。こういうことになっております。二宮先生の推譲ということは、普通の譲に一歩を進めて推して譲る。すなわち催促のないことをこの方から致す。それが推して譲るという意味になっておるようであります。この報徳の教えを専らに致しますれば、他（ひと）を益し、しかして自分を益するのであります。これを農業にたとえますると、一番手短かで分かりやすい。それで二宮先生も農業の例を引かれて教えを立てられております。お百姓が田圃を耕うんして得る所の物を得んとするには、どう致しますか。ナスがなったら肥料をせよという農民ではナスは実らない。その実らぬナスに肥料をすれば嫌でも応でもナスは実る本来人生社会に推譲くらい自他の利益なものはないと申してよろしい。それで、至誠を以て本と為し、勤労を以て主と為し、分度を以て体と為し、推譲を以て要と為す。これを報徳の四綱領という。その内で至誠と勤労、これは申すまでもなく、誠を以て勤労をしなければ人道の根源が立ちませぬから大切の事でありますが、また分度推譲は最も要義であります。推譲を永く行っておりますれば、自他を益して富者は永く富を保ち、又貧者にして永く推譲を行っておりますれば富を致しまして、社会に貧者はなくなってしまうのでございます。いかなる人でもこの推譲が出来るということは、すなわち分度によって出来るのである。人おのおのその天分によって度を立て、貧者は貧の天分によって度を立て、その分度外を推譲して往けば、年々歳々絶えず永続的に実行することが出来ますけれども、分度を立てなければ出来ませぬ。それで分度論ということを報徳会の先輩が著述したことがあります。人はその収入の半ばを以て活計を立て、その半分を分外として、その半分を又二つに分かって四分の一を他用として慈善等に向かって推し譲り、それからその四分の一を家の為に貯蓄する。己の取る事業の繁盛を願うならば、報徳の分度推譲を実業に行う、これが一番確かに発展の出来る道と存じます。農工商いずれをやるにも一人では出来ませぬ。いかなる事業でも上下相和し貧富相和して一つの仕事をしなければならぬ。それで二宮先生の教えにも、天地相和して万物を生じ、男女相和して子孫を生じ、貧富相和して財宝を生ずと言われてございます。すなわち万物を生ずるも相和するにあり。子孫を生ずるも相和するにあり。又財宝を生ずるも相和するにあって、相和するということは一番肝要である。その相和するということは何によって相和するかと言えば、すなわち推譲にあります。推譲なかりせば直に争論を起しまするが、互いに相推譲あれば相和して往きます。それから推譲を為すには是非とも分度を立てなければ常に行う事が出来ませぬ。又二宮先生の教えに事業に対して推譲を行えば、こういう結果を為すということが歴然と教えてあります。先師曰く『荒地を拓くには荒地の力を以てす』と。荒地を開拓するに、その初め一段開墾をするだけの費用は資本金として是非必要でございます。その資本金は一円で出来ますか五円で出来ますか存じませぬが、それだけの資本を以て初年に一段の地を開く。それから取り得た米を仮に一石と致します。ここに分度を立てますると、その半ばすなわち五斗を以て明年の食料とし、五斗以上は食わぬという分度を立てます。しかしてその残る所は分外の物とし、それを明年の経費とし、残り一石を推譲してその翌々年の開墾費に充てます。そういうことにして段々積算して往きますると、６０年にして２４億４４３万４７５１町余の田が開ける。かくのごとくただ一人が分度推譲すればほとんど世界一の田地を一人でもつことになります。これは決して漠然たる議論ではございませぬ。数字のことでございますから誰がやって見てもこういう数字が現れて来る。分度を立て推譲をするということは実にかくのごとく有利なものでございます。これは開墾ということでございまするが、この道理を商工業に応用致しまするならば、たとえ微力なる身分の商人でも一代に大きな商人になることは雑作もない。又どんな小さな職人でも一代に大きな工業家になること、やはり雑作もなく出来べきことで、えらい人傑でなければ出来ぬということではない。難い事を平々凡々な人でも出来るように二宮先生が工夫発明して置かれたのでございます。具体的に商業で申しますれば、何商を問わず商業の方法が、年々得る所の利益をただ訳もなく経費に使ってしまいますれば、何十年経ちましても漸く元通りを維持するに過ぎませぬ。然るにこれに分度を立てます。分度を立てて然うして分度外の財を以て我が商業の為に推譲する。客の方でまけろと言わぬでもこのほうから進んで推譲を致す。かくのごとくにして年々歳々推譲を致しますれば、その商売は年一年に栄えて来ます。それに従って推譲が厚く出来ます。こうすると願わず求めずして商業が盛んになるのは申すまでもありませぬ。然うして推譲は人を益することが前（さき）になってしこうして後に己が得るということでありますから、分度を立て推譲をして為す富ならば、何ほど富ても人道において差支えはありませぬ。かように天下の人が分度を立てて推譲をすれば貧乏人はなくなります。無資産でただ体を以て生活している人はいかがかと。これにも分度推譲が出来ます。しかし無資産の者は収入の分度とか金銭で推譲することは出来ませぬが又別に仕方があります。人に使われる人は日に幾らとか月に幾らとかいうものを得まして、朝何時に出て夕何時に帰るという約束をする。使われるのはすなわち天分で、勤める時間を約束したのは度でございます。それで推譲はどうするかというに、普通約束だけの仕事をしていただけでは推譲になりませぬ。それを勤務時間中に一生懸命余分に勤勉をする。それだけが推譲になります。この推譲を明けても暮れてもやったならば、いかなる人でも前の位置にいることはありませぬ。否が応でもその人は上へ昇って往きます。すなわちその人は昇進栄達を致して往くのでございますから、天下何人も行えば自他の利益であります。かくのごとく至誠、勤労、分度、推譲は実に偉大なる功徳をもっております。すべての人が分度推譲を怠りなくやりさえすれば、６０年に２４億余町歩を開墾することが出来るという訳でありますから、すべての方面にいる人々がこれを実行したならば、我が国が今日２０何億の借財があるといって心配するに及びませぬ。一番必要なものは衣食住で、これが豊満でなければ何事も充分には出来ませぬ。それを円満にさせるのが報徳の道である。至誠、勤労、分度、推譲を各方面の人々がやりますれば、何程の財貨も湧くがごとくに確かに数字で現わして往けます。でありますから天下万人が報徳の道をやれば何百年を期して、金銭財貨は水のごとくになって、そうすると人間に真誠に心が出て来て、金銭より水の方が貴いということになる。もしもこの水が１０日なかったらどうなります。人は皆死んでしまいましょう。これほど貴い水を与えても恩とせず受けても徳と言わぬのはどういう訳か。それはどこを掘っても湧いて来るからである。金銭財貨もこれと同じで、これが国家社会に沢山あったら水より以下であります。これを要するに社会を円満に発達させるには天下の富を造る、天下の富を造るには、報徳の趣旨に基いて、至誠、勤労、分度、推譲を上下通じて日々夜々実行するということが本と考えます。

  2019年11月30日

• 人たるものは祖先の遺徳に報いる心がけが必要であることを知ると同時に、その実を挙げなければならない。これがすなわち報徳の行いである。

  二宮先生語録巻の１【６２】およそ人たる者、父母・兄弟・妻子無きあたわず。 すなわち衣・食・居の道一日も無かるべからざるなり。 それ一家を治むるや、易きに似て難し。 伝にいわく、 一家仁なれば一国仁に興り、 一家譲なれば一国譲に興る　と。 仁・譲は国家を治る本なり。 人の初めて生まるるや、生まるるゆえんの恩無きあたわず。 その既に長ずるや、長ずるゆえんの徳無きあたわず。 その恩を念いその徳に報いる者、人の道なり。 才学・技芸、田禄・職業皆これ一家を経理するゆえんの資なり。 その資財を私し、独りこれを一家に用いて、これを人に推さずんば、すなわち何の仁譲かこれ有らん。 その分内を約しもって余財を生じ、これを推し、もって人をすくう。 これをこれ仁譲という。 すなわち我が生長の恩愛に報いるなり。 王侯これを行い、士民これにならわば天下太平なり。【62】の注には、鈴木藤三郎の「職務本位」を載せました。藤三郎は「現代の人間は天地の恵みと祖先の遺徳で開明に浴している。だから人たるものは勤労し人の幸福となるべきことを開拓し、全世界が楽土となるよう努めなければならない」と説いています。「たらいの水」とは「天地の恵みと先人の遺徳」でいただいたもので、私たちは後の世の人に、この水を満たすよう努めなければならない、これが報徳で、人間の道であるということになります。１　「金次郎の教えで有名な「たらいの水の話」というのがありますね。水を自分のほうに引き寄せようとすると向こうへ逃げてしまうけれども、相手にあげようと押しやれば自分のほうに戻ってくる。だから人に譲らなければいけないと。けれども、この話には実は前段があるんです。人間は皆「空っぽのたらい」のような状態で生まれてくる。つまり最初は財産も能力も何も持たずに生まれてくるというのが前段にあるのです。そして、その『たらい』に自然やたくさんの人たちが水を満たしてくれる。その水の有り難さに気づいた人だけが他人にあげたくなり、誰かに幸せになってほしいと感じて水を相手のほうに押しやろうとするんです。そして幸せというのは、自分はもう要りませんと他人に譲ってもまた戻ってくるし、絶対に自分から離れないものだけれども、その水を自分のものだと考えたり、水を満たしてもらうことを当たり前と錯覚して、足りない足りない、もっともっととかき集めようとすると、幸せが逃げていくんだというたとえ話だと教わったんです。」（「二宮尊徳の残した教え」中桐麻里子「致知二〇一三年九月号」）２　「今日世間に現存している人間はいかなるものでも、天地の恵みと祖先の遺徳とによって現代の開明に浴しているのです。すなわち学問でも、教育でも、政治でも、宗教でも、また農工商その他人間社会における一切の事物はことごとく我らの祖先が数千年前の有巣時代穴居時代より今日までに、経験工夫のかずかずを積みて遺されたる賜物であることは、だれも熟知のことです。然らば天地の恵みは申すまでもなく、祖先の遺徳の大なることは、到底言葉で言いあらわすことのできることではない。故に人たるものはこの大恩徳を報いる心がけが必要であることを了知すると同時に、その実を挙げなければならない。これがすなわち報徳の行いである。然らばいかなることを為してこの大恩徳に報いることができるかと申せば、現代の我々は倍々勤労を積んで、人の幸福となるべきことを拓（ひら）き、祖先の遺徳に加えてこれを後代に譲り、子々孫々、またかくのごとくにして、数百千代の後には、この世界をして、ついに円満無欠の楽土となすようにつとめること、これがすなわち右申す大恩徳に報いるゆえんでして、また、実に人間仲間に、一貫した人生の大目的でなければならない。」（「職務本位」鈴木藤三郎）

  2019年11月15日

• 人民と共に天地の間に充満する、いまだに所有者がない財宝の開発に勉めて、会社のため、国家のために鋭意専心実行していくことを希望する

  明治三十四年十二月付「両得農業法草案」は次のような語を以て結ぶ。「この方法を実行すれば、会社及び農民の両者間において二万六千円の実利を生ずる。もしそれこの方法を会社は今後買収した土地にあまねく施すときは、その利益はますます大きくなるであろう。二宮先師訓に曰く、『天地が和して万物が生ずる、男女が和して子孫が生ずる、貧富が和して財宝が生ずる』と、まことにこの言葉の通りである。元来会社はこの趣旨にのっとって、人民と共に天地の間に充満する、いまだに所有者がない財宝の開発に勉めて、会社のため、国家のために鋭意専心実行していくことを希望する。」台湾製糖株式会社と鈴木藤三郎初代社長鈴木藤三郎は鳥居信平の故郷袋井市に隣接する森町の出身です。一八五三年遠州地方の代表（遠州報徳七人衆）が日光で二宮尊徳に面会し遠州の報徳が公認され、遠州から三河にかけて報徳が広まりました。藤三郎は一八七六年（明治九）正月に実家で『天命十か条』という本を見つけ、二宮尊徳の報徳の教えを研究し、その「荒地の力をもって荒地を興す」の方法を家業の菓子製造販売業に適用し五年で十倍の売り上げとなったことから「二宮尊徳の報徳主義は人間万物に応用して最も有効に活用できる」と確信します。後に氷砂糖製造法を発明したり、精製糖工場を設立するなど、「発明王」、「砂糖王」と称されました。一八九五年（明治二八）台湾が日本に帰属し、井上馨(かおる)、児玉総督、後藤新平による台湾の振興政策として台湾製糖株式会社が設立されます。一九〇〇年（明治三三年）創設発起人会が開催され、それに先立って鈴木藤三郎と山本悌(てい)二(じ)郎(ろう)による実地調査が行われます。創設発起人会で鈴木藤三郎が台湾製糖の初代社長に選任されました。工場地は藤三郎らの調査の結果、台湾南部の高(かお)雄(しゅん)「橋(きょう)頭(とう)」が最適地として選ばれました。藤三郎は社有地農場の買収を提案し、報徳の教えに則(のっと)って、両(りょう)得(とく)農業法を案出し、会社と農場の農民双方が得をする農業法を目指しました。藤三郎自ら工場建設に従事し、また修理工場の建設＝自助の精神による会社運営を行いました。台湾製糖は台湾最初の近代的製糖会社でした。『台湾製糖株式会社史』には、次のように記されています。「鈴木藤三郎氏は、工場建設地選定その他の要件取調のため、山本悌二郎氏を同伴、明治三十三年(一九〇〇)十月一日、新橋駅を出発し、三日神戸出(しゅっ)帆(ぱん)、七日台北(たいぺい)に到着した。十三日まで同地に滞在の上、総督初め諸官に面会し打合せを行い、十月十四日基隆(きーるん)出帆、安(あん)平(ぴん)に上陸し十六日台南到着、三日間同地に滞在後、実地踏査にとりかかった。初めは工場を麻(ま)豆(とう)付近に置く予定であったが、先ず高(かお)雄(しゅん)に出た。次いで鳳(ほう)山(ざん)に至り、それより万(ばん)丹(たん)、東港を経て、糖業地の南端の枋(ぼう)寮(りょう)に到着した。当社は当時既に土地を所有し、自ら耕作する目(もく)論(ろ)見(み)を立てていたから、枋寮以北の大原野について、特に注意して踏査検分した。枋寮と石(せつ)光(こう)見(けん)との間には蕃界(ばんかい)に接して原野があり、石光見より阿(あ)緱(こう)街（現屏(へい)東(とう)市）付近にかけても大原野が横たわっている。この大原野を通過し阿(あ)里(り)港(こう)に出で、下(か)淡(たん)水(すい)渓(けい)を渡って手巾寮に至り、蕃(ばん)薯(しょ)寮(りょう)を過ぎ、山を越え関(かん)帝(てい)廟(びょう)に出で、台(たい)南(なん)に帰着したが、この行程に費した日時は二週間に及んだ。更に北上し、大目降、曾(そ)文(ぶん)渓(けい)を経て･･･それより塩(えん)水(すい)港(こう)に出で新(しん)営(えい)商に至り、軽便鉄道で台南に帰着した。この間十一日を要し、前後を通じて二十四、五日間にわたる踏査に、一行の苦心は実に容易ならざるものであった。その踏査区域は、現在殆んど全部が当社の採取区域となっている台湾南部の糖業中心地帯である。その上、当時の石光見、阿緱付近の大原野、即ち現在当社の阿(あ)緱(こう)及び東港両製糖所区域たる万(まん)隆(りゅう)及び大(だい)晌(しょう)営(えい)その他の大農場付近を特に注意して検分している先見の明に対しては、われわれに驚きの眼をみはらせるものがある。以上の如き実地大調査を終えて、鈴木藤三郎が帰京したのは明治三十三年十二月二日であった。」工場は最初、総督府の調査に基づいて麻豆付近が考えられていましたが、鈴木、山本の踏査の結果、曾(そ)文(ぶん)渓(けい)、橋(きょう)仔(し)頭(とう)の二か所が候補地となり、運搬及び水に便利がよいことから橋子頭に決定しました。一九〇一年（明治三四）二月一五日建設工事に着手します。工場の設計設備に最も力を注ぎ、その実行を指揮したのは鈴木藤三郎でした。藤三郎は欧米諸国の技術者の助言援助等に頼ることなく、北海道紋(もん)鼈(べつ)の甜(てん)菜(さい)糖(とう)工場で製糖技術を修得した齋(さい)藤(とう)定(じょう)雋(せん)氏らを用いて実際の仕事を進めました。「鈴木社長の英断にはまことに感慨深いものがある。」と『台湾製糖株式会社史』」に記されています。「建設工事　創立の二箇月後、即ち明治三十四年二月十五日、早くも建設工事に着手したが、工場の設計設備に、最も力を注ぎ、かつその実行を指揮したのは当時の社長鈴木藤三郎氏であった。氏は我が国に於ける新式糖業のなお渾沌(こんとん)たる時代に斯界(しかい)に身を投じて刻苦勉励、遂に我が国製糖界に於ける最高の権威者と称せられるに至った人である。即ち明治十年頃氷糖製造に志し、次いで精製糖製造の研究に進み、自ら精製糖工場を創設し、漸次発展して明治二十八年、日本精製糖株式会社となるにあたり、その専務取締役兼最高技術者として重きをなしていた。氏の砂糖精製に関する知識と経験とは、当社の事業たる甘蔗分蜜製糖にも役立つ訳ではあるが、何分甘蔗を搾って分蜜糖を製出した経験は全然なく、かつ又工場建設に参考となるべきものは何もなかったので、西暦一八八八年、ロンドンにおいて出版されたロック、ニューランド共著「砂糖論（シュガー）」一冊を得て、その中にある一小図版を参考として設計図を作成し、しかも当時一般の習わしであった欧米諸国技術者の助言援助等に頼るが如き策を採らず、ただ北海道紋鼈の甜菜糖工場に於て製糖技術を修得していた齋藤定雋氏、その他を用いて、実際の仕事を進めたのであるが、鈴木社長の英断にはまことに感慨深いものがある。」　原料のサトウキビの買入は、当初から懸念されていました。工場付近には旧来からの現地の人が経営する製糖所が三十数か所あり、その所有者は農民をそそのかし会社にさとうきびを売ることを妨害したりしました。　藤三郎は両得農業法を考え、会社も農民も共に利益となることを会社の方針としました。「サトウキビ栽培については、農民を誘導して品種の改良、肥培耕作方法の改善を講じようとして、並々ならぬ苦心を払ったが、旧来の習慣を墨守する頑迷固陋な彼等は容易に之を実行せず、従って土地を所有しても、その効果は直ちに顕れ難かった。ここにおいて鈴木社長は、農民にも利益を与え、同時に当社も利益を挙げつつ甘蔗農業を進歩せしめようとするいわゆる「両得農業法」を案出した。明治三十四年十二月付の「両得農業法草案」は次のような語を以て結んでいる。「この方法を実行すれば、会社及び農民の両者間において二万六千円の実利を生ずる。もしそれこの方法を会社は今後買収した土地にあまねく施すときは、その利益はますます大きくなるであろう。二宮先師訓に曰く、『天地が和して万物が生ずる、男女が和して子孫が生ずる、貧富が和して財宝が生ずる』と、まことにこの言葉の通りである。元来会社はこの趣旨にのっとって、人民と共に天地の間に充満する、いまだに所有者がない財宝の開発に勉めて、会社のため、国家のために鋭意専心実行していくことを希望する。」このように、台湾製糖株式会社は創業の初めから農民との共存共栄を図りつつ、土地所有を社是として進んで来たが、現在では約五万甲に垂んとする広大なものとなり、いよいよその真価を発揮せんとしている。創立当初に樹立せられた大方針を顧みれば、今更ながら当路者の先見卓識に敬服せざるを得ない。」「当時、資本金百万円を超える事業会社は、内地においても大会社の部に属していた。いわんや台湾においては、かかる資本を擁するものは未だ類例を見なかったのであるから、当社経営の成否は、ただに新企業たる新式糖業の将来、ひいては国家経済の上に大なる影響を及ぼすのみならず、新領土経営上の試金石ともなり、台湾統治の上にも密接な関係を持つものとして重要視されていた。従って児玉総督初め官辺においても、その経営に対しては少なからず後援斡旋された訳で、当社の負える使命はまことに重かつ大であった。かかる使命と期待とは幸いにして着々その実を挙げ、台湾新式糖業の先駆会社としての目的を十分達することが出来た。」とあります。『台湾製糖株式会社』の結語（三四四頁）に、「当社は明治三十三年、砂糖の輸入防止と、将来自給自足を達成するという国家大局的な立場から日本最初のサトウキビ製糖の大会社として設立された。農事方面では、原料のサトウキビの獲得を安全、有利にするため、土地を社有にし、各製糖所に農場を付設し、サトウキビ農業の進歩改善に努力した。工場方面でも、機械・製糖方法において発明考案を実施し、早くから科学的な工場管理法を実施した」、「創立当初より本島人との間に共存共栄の実を挙げることを大方針とした」とあります。鈴木藤三郎が台湾製糖株式会社に「報徳の精神」「発明考案」の実施をもたらしたのです。

  2019年11月02日

• 九州産業大学が「報徳産業革命の人 : 報徳社徒鈴木藤三郎の一生」と「シナリオで読む砂糖王鈴木藤三郎の報徳」を蔵書としていただいた。「鈴木藤三郎氏顕彰プロジェクト」の前進

  九州産業大学が「報徳産業革命の人 : 報徳社徒鈴木藤三郎の一生（鈴木藤三郎氏顕彰:第1集）」と「シナリオで読む砂糖王鈴木藤三郎の報徳」を蔵書としていただいた。「鈴木藤三郎氏顕彰プロジェクト」が前進していくようで喜ばしい。九州産業大学図書館6件１《クラーク精神》&札幌農学校の三人組 (新渡戸稲造・宮部金吾・内村鑑三) と広井勇, 2刷.二宮尊徳の会, 2016 (ボーイズ・ビー・アンビシャス:第1集).２ 札幌農学校教授・技師広井勇 (いさみ) と技師青山士 (あきら) : 紳士 (ジェントルマン) の工学の系譜.二宮尊徳の会, 2014 (ボーイズ・ビー・アンビシャス:第4集).３シナリオで読む砂糖王鈴木藤三郎の報徳. 二宮尊徳の会, 2018.４八田與一 (はったよいち) と鳥居信平 (とりいのぶへい) : 台湾にダムをつくった日本人技師.二宮尊徳の会, 2017.５『報徳記』第一巻(『報徳要典』準拠全ルビ原文(朗読・輪読用)、現代語訳、資料集).地福進一編. 二宮尊徳の会, 2014 (報徳記を読む:第1集).６報徳産業革命の人 : 報徳社徒鈴木藤三郎の一生.二宮尊徳の会, 2011 (「二宮尊徳の会」鈴木藤三郎氏顕彰:第1集).「報徳産業革命の人　鈴木藤三郎の一生」2019年10月7日現在全１５６図書館国立国会図書館　１図書館都道府県立図書館　３７図書館北海道　岩手県　秋田県　宮城県　山形県　茨城県　埼玉県　東京都　千葉県　神奈川県　長野県　新潟県　静岡県　富山県　福井県　石川県　愛知県　岐阜県　三重県　京都府　奈良県　兵庫県　和歌山県　大阪府　島根県　岡山県　広島県　徳島県　香川県　高知県　福岡県　長崎県　佐賀県　鹿児島県　沖縄県市町村立図書館　６６図書館（北海道）札幌市、帯広市、様似町、佐呂間町（青森県）八戸市（岩手県）盛岡市、奥州市、花巻市、一関市（宮城県）石巻市、気仙沼市、白石市、大崎市、亘理町、加美町（福島県）郡山市、相馬市、南相馬市、会津若松市（栃木県）日光市、栃木市、真岡市、那須烏山市、鹿沼市（茨城県）水戸市、筑西市、桜川市（群馬県）館林市（千葉県）野田市（東京都）江東区（神奈川県）横浜市、鎌倉市、秦野市、小田原市、平塚市、厚木市、伊勢原市、南足柄市（山梨県）甲府市（静岡県）静岡市、浜松市、裾野市、磐田市、袋井市、御殿場市、掛川市、御前崎市、菊川市、焼津市、藤枝市、森町、吉田町、川根本町（富山県）射水町（石川県）金沢市、羽咋市（福井県）あわら市（愛知県）豊橋市（兵庫県）尼崎市（高知県）高知市（長崎県）長崎市、佐世保市（佐賀県）佐賀市（宮崎県）小林市（鹿児島県）薩摩川内市大学図書館　５１東京大、京都大、東北大、九州大、弘前大、岩手大、福島大、宇都宮大、埼玉大、新潟大、福井大、金沢大、静岡大、滋賀大、静岡産業大、神戸大、徳山大、愛媛大、高知大、長崎大、佐賀大、鹿児島大、鹿児島県短大、東海大、東農大、東農大ｵﾎｰﾂｸ校、北海道教育大、宮城教育大、上越教育大、大阪教育大、大阪市立大、早稲田大、慶応義塾大、東洋大、拓殖大、法政大、駒沢大、鹿児島純心女子大、鹿児島純心女子短大、北星大、青山学院大、敬和学園大、金沢学院大、神戸学院大、西南学院大、玉川大、高崎経済大、聖隷ｸﾘｽﾄﾌｧ大、同志社大、武庫川女子大、高野山大、関東学院大、関西国際大、獨協大、立命館ｱｼﾞｱｱﾌﾘｶ、駒沢大、酪農学園大、水産大学校、静岡理工科大、首都大東京、桐蔭横浜大、浜松学院大、静岡県立大学、九州産業大学、大倉山精神文化ｾﾝﾀｰ

  2019年10月07日

• 静岡県立大学が「報徳産業革命の人 : 報徳社徒鈴木藤三郎の一生」を蔵書としていただいた

  静岡県立大学が「報徳産業革命の人 : 報徳社徒鈴木藤三郎の一生」を蔵書としていただいた。本年4月5日に報徳博物館から回収した本を寄贈したものである。1.図書シナリオで読む 砂糖王鈴木藤三郎の報徳2.図書報徳産業革命の人 : 報徳社徒鈴木藤三郎の一生「二宮尊徳の会」鈴木藤三郎氏顕彰3.図書札幌農学校教授・技師広井勇 (いさみ) と技師青山士 (あきら) : 紳士 (ジェントルマン) の工学の系譜ボーイズ・ビー・アンビシャス4.図書『報徳記』第一巻(『報徳要典』準拠全ルビ原文(朗読・輪読用)、現代語訳、資料集)報徳記を読む5.図書米国留学中の内村鑑三の日記と手紙 : 内村鑑三から新島襄、広井勇あて書簡 : 宮部金吾・新渡戸稲造往復書簡抜粋ボーイズ・ビー・アンビシャス出版者: 二宮尊徳の会 2013/106.図書《クラーク精神》&札幌農学校の三人組 (宮部金吾・内村鑑三・新渡戸稲造) と広井勇 : boys be ambitiousはいかにして現実化されたのか日本の近代化・合理化の一源流「札幌農学校精神」, 2刷ボーイズ・ビー・アンビシャス出版者: 二宮尊徳の会 2016/11　「報徳社徒　鈴木藤三郎」とは、鈴木藤三郎氏本人が、報徳全書を今市の報徳二宮神社に寄贈したときの願文による。彼はこういって二宮尊徳先生の存霊に捧げた。　　願文報徳社徒不肖藤三郎誠恐誠惶謹で二宮尊徳先生の神霊に白（もう）す恭(うやうやし)く惟（おもんみ）れば先生畢生唱道し給へる報徳の教義は洋の東西を論ぜず人種宗教の如何を問はず古往今来幾千万歳を経るも凡そ世界に生存する人類に於て貴賎貧富男女老幼の別なく允に克く遵守せざる可からざる要道にして若し之れ無くば人道廃頽して民衆安息すること能はざるなり先生の世に在すや憂国の至誠外に溢れ熱血の注ぐところ感奮興起せざる者なく済世恤民の良法諸州に亙（わた）って其効実に顕著なり而して其実践躬行の跡は歴々として先生の遺書に存し其書殆ど万巻を以て算す然りと雖も之を知る者多からず知らざれば行うこと能わず行はざれば世を済（すく）ひ民を理すること能はず是猶名玉を懐中に蔵するが如し豈痛惜せざるべけむや是を以て令孫尊親先生の允許を得て之を謄写せしめ全部九千巻を得たり之を二千五百冊と為し文庫一宇に収め併せて之を神社に奉納し衆庶の熱覧研究に備ふ将来幸に有志の士之を繙（ひもと）き明晰なる識見を以て先生の教旨を解釈し熱誠以て之を世に拡張し忍耐以て実践して息（や）まざらば民風頓(とみ)に興り富強期して埃(ま)つべし仰ぎ冀（こいねがは）くば先生が神霊の冥護に依り人類必至の要道たる報徳教義の広く天下に普及し真正なる文明の実を見るを得んことを不肖藤三郎誠恐頓首頓首敬て白（もう）す明治四十二年五月三十日　　　　　　　報徳社徒　鈴木藤三郎　九拝　報徳社徒、不肖藤三郎は誠に恐れ謹んで　二宮尊徳先生　の神霊にもうしあげます。　うやうやしくおもんみれば先生が生涯唱道された報徳の教義は、洋の東西を問わず、人種や宗教を問わず遠い昔から今日まで幾千万年を経ても、およそ世界に生存する人類において貴賎・貧富・男女・老幼の別なく、まことによく守らなければならない要道であって、もしこの報徳の道が無ければ人道はすたれてしまって民衆は安らかに暮すことができないものであります。先生が世にいますときは、憂国の至誠が外にあふれ、熱血の注ぐところは感動して奮いたって復興しない者はなく、世を救い、民を憐れむ良法は諸州にわたって、その効果は実にあきらかでした。そしてその自ら実践された跡は歴然として、先生の遺書にあり、その書は約１万巻を数えます。しかしながらこれを知る者は多くありません。知らなければ行うことができません。行わなければ世を救い民を利することができません。これはあたかも見事な玉を懐の中におさめているようなものです。どうしてひどく悲しまないわけにいきましょうか。このために先生の孫にあたる二宮尊親先生の許しを得て、これを写させて全部で９，０００巻を得ました。これを２，５００冊とし文庫一棟に収めて、あわせてこれを神社に奉納して人々の熱覧し研究する用意をしました。将来幸にして有志の士があり。これひもといて明晰な識見で、先生の教えを解釈し熱誠をもってこれ世に拡張し、忍耐によって実践しやまなければ、人民の気風はすぐにもおこって富強はその後に来ることでしょう。仰ぎこいねがわくば、先生の神霊が冥護してくださって、人類の必ず行うべき要道である報徳の教義が広く世界に普及され、真正な文明が実現するすることを見ることができますように。不肖藤三郎、誠に恐れ敬って申上げます。　明治４２年５月３０日　　　　　報徳社徒　鈴木藤三郎　九拝

  2019年09月07日

• 県立周智高校　と　一坪農業

  【県立周智高校100周年　一藤の藤】学校の歩み （１）　開学当時　農林業発展を願い産声　中日新聞　2006年11月1日 「地域の発展は、人材を育成することにある。世を推譲して社会有益の事に散ぜざるべからず」。日本が近代国家の仲間入りを目指した一九〇六年、地元の実業家福川泉吾、鈴木藤三郎両氏が私財をなげうち、前身の周智農林学校を設立した。　当時、私立の農林学校は全国でも珍しく、地域の発展を願った両氏の気概がうかがえる。　両氏は、二宮尊徳の教え「報徳」の忠実な実践者だった。校訓を「誠実」に、建学の精神を「至誠、勤労、分度、推譲」と定めた。その教えは、同校の指針となり、現在も受け継がれている。　初の入学生は二十三人。「人として各般の才能を斉一に発達せしめ、もって快活進取の気象に富める健全なる農業家たらしめむとするに在り」を教育目標に、全国から教師を迎え入れ、教育環境の充実を目指した。特に農業実習に力を入れ、各地の農業試験場を訪ねて最新の農業技術を学んだ。　開学の年、校内に一株のフジの木が記念植樹された。当時の学校所在地名が「森町字一藤」だったことから「一藤の藤」と命名し、学校のシンボルとなっている。　毎年春になると薄紫の花を咲かせ、同校玄関前の庭に鎮座する両氏の銅像とともに、生徒たちの活躍を見守り続けている。学校の歩み （２）　開学から終戦まで　戦火激化で勉学遠のく2006年11月2日　一九〇六（明治三十九）年四月、「私立周智農林学校」として誕生した学校は、一二（明治四十五、大正元）年、郡に学校運営を移管され「周智郡立周智農林学校」と改称した。二二年には、郡制の廃止に伴い「県立周智農林学校」と改称し、新たな歩みをスタートさせた。　県に移管された翌年、二階建ての新校舎が完成。二九（昭和四）年には校歌が制定された。校歌の作詞は「夕日」「村祭」で知られる葛原しげる氏、作曲は「汽車」の大和田愛羅氏が手がけた。「誠実を不断の杖（つえ）として」「勤労己が乗る船にして」などの建学の精神が込められ現在も歌い継がれている。　四五年、終戦を迎え学校にも平穏が戻った。戦後の学制改革で校名を「周智農業高等学校」と改め、中学校の併設や定時制課程が設置されほか、山間部の春野地区に犬居分校（現・県立春野高校）が開設された。学校の歩み （３）　戦後の昭和　時代の花形に機械科を2006年11月3日１９６１年（昭和３６）年当時の正門と校舎 　戦後の混乱期、高校も激動の時代を迎える。一九四九（昭和二十四）年、隣接していた「県立森高校」との統合の方針が、県から打ち出された。地域住民は「両校の特殊性がなくなる」と、現状維持を陳情したが認められず、両校は統合。「県立周智高校」と改称した。　新高校には農業科と普通科が設置されたが、校舎は分離したままで、両科の特徴が生かされない学校運営に、生徒や地域の不満が高まった。四年後、両校は分離独立。高校は、再び「県立周智農林高校」の校名に改称することになった。　高度経済成長期に入ると、工業が花形産業として注目された。新たな時代を迎えた高校は六八年、これまでの農業、林業、家庭の三科を、園芸、生活、機械の三科に再編。校名が現在の「県立周智高校」になったのはこのときだ。新設された機械科への期待は特に高く、崇高な意識を持つ機械技術者の養成に力を注いだ。　校名は変わったが、地域の年配者の多くは今でも、地元の農林業の発展を目指した時代の高校に愛着を込め「周智農林」と呼んでいる。　七〇年代には、老朽化した木造校舎や実習棟が取り壊され、新校舎の建築ラッシュが始まる。鉄筋四階建ての本館校舎、実習棟や体育館、格技場などの施設が次々建てられた。七十周年を迎えた七七年には、記念事業として合宿施設を備えた生活館が新築されグラウンドが改修されて施設は一層充実していった。　機械科で学んだ第七十四回生の山本薫さん（４３）＝掛川市寺島＝は「実習授業が多く、ものづくりの基本を学べた。今の仕事（製造業）に役立っている」と話す。　昭和が平成になるころには、卒業生は七千七百人を超えた。学校の歩み （４）　平成の時代　農・工・商の専門課程に2006年11月5日　社会全体が“多様化”を求める平成に入ると、高校も時代の要請に沿った変革の波が押し寄せた。高度経済成長期の真ただ中に設置した園芸、生活、機械の三科を、一九九一（平成三）年から生産科学（農業）、電子機械（工業）、流通経済（商業）に再編した。一つの高校が農・工・商の専門課程を持つ、全国でも数少ない新しいタイプの職業学校に生まれ変わった。　授業も柔軟性に富んだカリキュラムに変更。他学科の授業を受けられる総合選択制度や二年進級時に他学科に移行できる転科制度、隣接する県立森高校との学校間連携授業などユニークな試みを実践している。　二〇〇〇年からは、文部科学省の「キャリア体験等進路指導改善事業指定校」として、生徒が希望する地域の事業所に出向き、実際の就業を体験する「インターンシップ」を導入。「職業選択に役立つ」と生徒から好評だ。　実習棟も新設され、最新のコンピューターを備えた情報処理室や植物バイオテクノロジー実験ができる生物工学実験室などが整備された。より専門的な学習環境が整い、全国産業フェアへの参加や県生徒研究論文コンクール、農業クラブ全国大会で連続上位入賞するなど、生徒たちの学力向上につながっている。　流通経済科で学んだ第九十二回生の会社員藤岡洋絵さん（２５）＝森町飯田＝は「社会人になった今、母校で学んだ帳簿の管理、データ処理などは最強の武器になっています」と胸を張る。　また慣れ親しんだ制服も一新。生徒や教諭らの投票で、男子の詰め襟学生服、女子の濃紺色制服から、男女ともブレザースタイルに変わり、華やかな雰囲気になった。　一世紀の歴史を刻んだ学校は十一月十日、記念式典や祝賀会を開き、節目の年を祝う。周智高生になって　一年・生産科学科 谷沢翔太さん　周智高生になって約半年が過ぎ、いろいろな体験をしました。生産科学科の授業ではスイカを育てました。毎日畑に行き、除草や害虫駆除などに汗を流し、大きな果実が実ったときは、仲間とともに収穫の喜びを知りました。これからも、農業のすばらしさを学んでいきたいと思います。部活動　幅広い活躍　地域に密着、郷土芸能部2006年11月7日　百年目の学びやには、九の文化部と十一の運動部が活動している。生徒たちは思い思いの部に所属し、充実した高校生活を送っている。　郷土芸能部は、地域に密着したユニークな活動で知られる。国の重要無形文化財に指定されている森町の伝統舞楽を継承しようと、一九九六年に同好会として発足。地元の舞楽保存会の指導で、隣接する県立森高校と合同で活動している。　県代表として全国高校総合文化祭に参加しているほか、二〇〇二年静岡国体の開会式や静岡市のグランシップ五周年記念事業に出演するなど、活躍の場は広い。　地域住民の期待も大きく、村松香奈衣部長（三年）は「森町に受け継がれている伝統芸能を、これからも守っていきたい」と決意を話す。　ロボット製作などに取り組むメカトロニクス部の活動も活発だ。県高校生ロボット競技大会などに毎年出場し、〇六年の大会では二位に輝いた。また、全国産業フェアーなどのイベントに参加し「ものづくりの周智」を全国に知らしめている。　十二月の大会に向け、藤根誠部長（二年）は「工夫を凝らしたロボット製作に取り組んでいます。上位入賞を目指します」と母校百周年の記念になる成績を意識する。　運動部は、どの部活動も人手不足に悩んでいるのが現状だ。開校以来、全国レベルの活躍はないが、それぞれ目標を掲げて練習に取り組み、ひたむきに汗を流している。　野球部は一九四九（昭和二十四）年に創部。ここ数年、夏の県大会で勝利から見放されているが、過去の大会ではベスト１６に計四回進出するなど活躍した時代もあった。　新メンバーをまとめる大石慶祐主将（二年）は「甲子園出場を目指し、日々の練習に励んでます」と意欲を燃やしている。クラブと生徒会　専門知識を自主的に習得　技術交流や研究も活発に2006年11月8日　農・工・商の三科がある高校は、それぞれの科に「クラブ」と呼ばれる生徒組織を持つ。各科の生徒たちが、自主的に各分野の専門知識や技術を習得することが目的で、全生徒が所属する。　農業クラブは長い伝統を誇る。全国組織の日本学校農業クラブが結成された一九五〇（昭和二十五）年に発足し、年間を通じさまざまな農業に関する研究活動を行っている。　全国大会につながる各種技術競技会への参加や県内の高校農業クラブとの交流も盛んだ。愛媛県が会場となった今年の農業クラブ全国大会に出場したクラブ長の坂口裕美さん（三年）は「全国のクラブ代表と交流でき、有意義な時間を過ごせました」と話す。　ボランティア活動にも力を入れ、地元の公共施設に花のプランターを設置するなどして、地域に貢献している。　工業、商業クラブは九二年に発足。工業技術鑑定競技会や電卓、簿記、ワープロの技術を競う商業コンクールなど各種校内大会を開いている。各種資格取得に必要な勉強会なども開き、生徒の進路選択の幅を広げる役割を担っている。　毎年十月に開く文化祭「抱茗祭」は、生徒たちの学びの成果の発表の場だ。それぞれ趣向を凝らした作品展示や研究発表を披露するほか、授業で取り組んだ加工食品や花などを販売し、地域住民から好評を得ている。　今年の文化祭のテーマは「絆（きずな）」。創立百周年を記念した各種イベントをはじめ、近隣の中学生を集めたロボット教室などを開き、高校生パワーを見せつけた。　文化祭を仕切った生徒会長の阿部時徳さん（三年）は「いろんなことに挑戦できる学校です。これからも生徒全員が何事にも果敢に挑戦し、自分の夢をかなえてほしい」と期待を込める。未来へ　式典を前に　新たなスタートへの糧2006年11月10日　創立百周年を迎える高校は二〇〇九年三月末、隣接する県立森高校と統合し、全日制総合学科の新設校として新たなスタートを切る。　新設校が掲げる教育目標は「生徒の個性の伸長を図り、社会の変化に主体的に対応し、地域社会の発展に寄与する人材を育成する」。人文社会、自然科学、食品園芸、機械技術など七系列、計百五科目の中から生徒が自主的に選択履修できる「総合学科」を設置し、生徒が設定した履修計画に合わせて必要な単位を取得する「単位制」を導入する。　施設は、両校の敷地約五万二千平方メートルに、校舎や体育館など延べ床面積約一万五千平方メートルの建物を計画。建設工事や維持管理は、民間資金活用による社会資本整備（ＰＦＩ）方式を試みる。　新たな時代に即した最新の教育環境を備えながら、周智高伝統の農・工・商の実習授業を積極的に取り入れる計画だ。　統合に向け高校は、地域の小、中、高校の校長らで教育研究懇談会を組織。進学を希望する地域の子どもたちや住民らの意見を吸い上げ、より良い新設校の形を模索している。村田清一校長は「両校の建学の精神を生かしながら生徒の将来を見据え、多様な選択肢が広げられる高校を目指したい」と話す。学校統合で、百年余の歴史に幕を閉じる周智高。創設者の福川泉吾、鈴木藤三郎両氏が思い描いた「地域の発展は、人材を育成することにある」の精神と校訓「誠実」は、新たな学びやに集う未来の生徒たちを通じて息づいていくことだろう。（文中敬称略　この連載は袋井通信部・夏目貴史が担当しました）☆鳥居信平を調べるため、東京大学農学生命科学図書館に行ったときに、面白い資料を見つけた。「台湾農会報」第一巻七月号に「一坪農業の歌」というのが載っていた。「周智農林学校長山崎徳吉氏」とある。「これは明治44年7月、当時静岡県周知（ﾏﾏ）農学校長たりし山崎徳吉氏が織田氏（浜松市の織田利三郎氏、小学児童の一坪実習を提唱された）のために作ったもので、全部は甚だ長いものであるが、その一部だけに止める。なお織田氏は輸出農産物として、生姜、糸瓜、蕃椒（とうがらし）、落花生の四品に着眼し、静岡県生姜、糸瓜、蕃椒、落花生同業組合を組織し、その組合長として活躍した。また工場を設けてこれら四種農産物を加工して、主に米国に輸出しておったから、当時の一坪農業もこれら作物に重きを置いておった。氏は明治41年5月28日『夙（つと）に心を農工の改良、物産の増殖に注ぎ、ひろく内地を跋渉し、遠く欧米各国を遍歴し、斯業（しぎょう）に資するところすくなからず、殊に力を生姜、糸瓜（へちま）、蕃椒、落花生の栽培製造に竭（つく）し、土性を相して試験地を設け、あるいは模範製造所を置き、以て成績を公衆に伝え、あるいは需用の状況、製品の適否を調査し、以て産額の増進、販路の拡張に務め、他方経営、一郷、風従、遐邇即俲（かじそっこう、遠近すぐにならう）、今や利沢地方に被り、多額の産出を観るに至る。その実業に尽瘁する三十年一日の如く、真に洵（まこと）に公衆の利益を興し、成績著明なり云々』とて勅定の藍綬褒章を賜い、その善行を表彰せられたのである。第一章　朝起き朝起きー掃除ー肥料（こやし）ー独立自営ー一坪農業ー戊辰詔書一、　朝起き千両、二千両朝とくおきて、箒とり庭のすみずみ、門のそと心をこめて、掃除せよ二、　掃き集めたる、塵のなか小石は拾いて、雨落（あめおち）に竹ぎれ木ぎれは、選（え）り出して湯殿の口に、積んでおけ三、　塵と土とを掃きわけて塵はそのまま、肥料（こやし）小屋土は集めて、畦（うね）となし、これに糸瓜（へちま）を、作るなり四、肥料（こやし）の小屋は、畑（はた）のすみ四本の杭の、前たかく後（うしろ）をひくく、屋根ふきてその三方を、とりかこふ五、小屋にたまりし、塵あくたよく搔きならし、水肥（みずこえ）を上よりそそぎ、踏み付けて又新しく、載せておく六、かくて日々、たんせいの甲斐あらわれて、二三尺つもれば上下、きり返し灰ふりかけて、混ぜ合わす七、これぞ一坪、農業に使ふ大事の、肥料（こやし）なる肥えたる土地と、瘠せたる地多き少なき、加減せよ八、独立自営の、少年は二本の腕は、細くとも肥料（こやし）を作る、はじめより人の力は、からぬなり九、さても一坪、農業は僅かの土地に、仕付けして日曜ごとに、手入れする楽しみ深き、農の業（わざ）一〇、作るしなじな、多かれど春は糸瓜（へちま）や、生姜（しょうが）の根南京豆に、唐辛子秋は大根、蕪（かぶ）、みずな一一、戊申詔書の、一節（ひとふし）に勤倹産を、治むべし華（か）を去り実に、就くべしといとも尊（とうと）き、仰せ言（ごと）一二、遊びさわぎて、いたずらに月日おくらば、山吹の花のみありて、実はなきぞ実のなき花を、なにかせん一三、吾等（われら）明日（あす）より、朝はやく塵ばき集め、肥料（こえ）つくり花も実もあり、愉快なる一坪農業、こころみん

  2019年07月29日

• 一坪農業の歌

  「台湾農会報」第一巻七月号に「一坪農業の歌」というのが載っていて、図書館でたまたま目にはいって面白かったので、コピーしてきた。「これは明治44年7月、当時静岡県周知（ﾏﾏ）農学校長たりし山崎徳吉氏が織田氏（浜松市の織田利三郎氏、小学児童の一坪実習を提唱された）のために作ったもので、全部は甚だ長いものであるが、その一部だけに止める。なお織田氏は輸出農産物として、生姜、糸瓜、蕃椒（とうがらし）、落花生の四品に着眼し、静岡県生姜、糸瓜、蕃椒、落花生同業組合を組織し、その組合長として活躍した。また工場を設けてこれら四種農産物を加工して、主に米国に輸出しておったから、当時の一坪農業もこれら作物に重きを置いておった。氏は明治41年5月28日『夙（つと）に心を農工の改良、物産の増殖に注ぎ、ひろく内地を跋渉し、遠く欧米各国を遍歴し、斯業（しぎょう）に資するところすくなからず、殊に力を生姜、糸瓜（へちま）、蕃椒、落花生の栽培製造に竭（つく）し、土性を相して試験地を設け、あるいは模範製造所を置き、以て成績を公衆に伝え、あるいは需用の状況、製品の適否を調査し、以て産額の増進、販路の拡張に務め、他方経営、一郷、風従、遐邇即俲（かじそっこう、遠近すぐにならう）、今や利沢地方に被り、多額の産出を観るに至る。その実業に尽瘁する三十年一日の如く、真に洵（まこと）に公衆の利益を興し、成績著明なり云々』とて勅定の藍綬褒章を賜い、その善行を表彰せられたのである。第一章　朝起き朝起きー掃除ー肥料（こやし）ー独立自営ー一坪農業ー戊辰詔書一、　朝起き千両、二千両朝とくおきて、箒とり庭のすみずみ、門のそと心をこめて、掃除せよ二、　掃き集めたる、塵のなか小石は拾いて、雨落（あめおち）に竹ぎれ木ぎれは、選（え）り出して湯殿の口に、積んでおけ三、　塵と土とを掃きわけて塵はそのまま、肥料（こやし）小屋土は集めて、畦（うね）となし、これに糸瓜（へちま）を、作るなり

  2019年07月11日

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  浜松学院大学図書館が「報徳産業革命の人　鈴木藤三郎の一生」を蔵書としていただいていた

  浜松学院大学図書館が「報徳産業革命の人　鈴木藤三郎の一生」を蔵書としていただいていた。浜松学院大学図書館には、「遠州報徳の師父と鈴木藤三郎」「 米国留学中の内村鑑三の日記と手紙 : 内村鑑三から新島襄、広井勇あて書簡 : 宮部金吾・新渡戸稲造往復書簡抜粋. (ボーイズ・ビー・アンビシャス:米欧留学篇)」も蔵書となっている。「報徳産業革命の人　鈴木藤三郎の一生」2019年6月7日現在全１５２図書館国立国会図書館　１図書館都道府県立図書館　３７図書館北海道　岩手県　秋田県　宮城県　山形県　茨城県　埼玉県　東京都　千葉県　神奈川県　長野県　新潟県　静岡県　富山県　福井県　石川県　愛知県　岐阜県　三重県　京都府　奈良県　兵庫県　和歌山県　大阪府　島根県　岡山県　広島県　徳島県　香川県　高知県　福岡県　長崎県　佐賀県　鹿児島県　沖縄県市町村立図書館　６５図書館（北海道）札幌市、帯広市、様似町、佐呂間町（青森県）八戸市（岩手県）盛岡市、奥州市、花巻市、一関市（宮城県）石巻市、気仙沼市、白石市、大崎市、亘理町、加美町（福島県）郡山市、相馬市、南相馬市、会津若松市（栃木県）日光市、栃木市、真岡市、那須烏山市、鹿沼市（茨城県）水戸市、筑西市、桜川市（群馬県）館林市（千葉県）野田市（東京都）江東区（神奈川県）横浜市、鎌倉市、秦野市、小田原市、平塚市、厚木市、伊勢原市（山梨県）甲府市（静岡県）静岡市、浜松市、裾野市、磐田市、袋井市、御殿場市、掛川市、御前崎市、菊川市、焼津市、藤枝市、森町、吉田町、川根本町（富山県）射水町（石川県）金沢市、羽咋市（福井県）あわら市（愛知県）豊橋市（兵庫県）尼崎市（高知県）高知市（長崎県）長崎市、佐世保市（佐賀県）佐賀市（宮崎県）小林市（鹿児島県）薩摩川内市大学図書館　４９東京大、京都大、東北大、九州大、弘前大、岩手大、福島大、宇都宮大、埼玉大、新潟大、福井大、金沢大、静岡大、滋賀大、静岡産業大、神戸大、徳山大、愛媛大、高知大、長崎大、佐賀大、鹿児島大、鹿児島県短大、東海大、東農大、東農大ｵﾎｰﾂｸ校、北海道教育大、宮城教育大、上越教育大、大阪教育大、大阪市立大、早稲田大、慶応義塾大、東洋大、拓殖大、法政大、駒沢大、鹿児島純心女子大、鹿児島純心女子短大、北星大、青山学院大、敬和学園大、金沢学院大、神戸学院大、西南学院大、玉川大、高崎経済大、聖隷ｸﾘｽﾄﾌｧ大、同志社大、武庫川女子大、高野山大、関東学院大、関西国際大、獨協大、立命館ｱｼﾞｱｱﾌﾘｶ、駒沢大、酪農学園大、水産大学校、静岡理工科大、首都大東京、桐蔭横浜大、浜松学院大、大倉山精神文化ｾﾝﾀｰ

  2019年06月07日

• 「シナリオで読む 砂糖王鈴木藤三郎の報徳」は

  「シナリオで読む 砂糖王鈴木藤三郎の報徳」は昨年12月袋井市の報徳講演会のテキストで非売品であるが、森の元気屋さんが遠州地方の公共図書館に寄贈していただいたため、遠州地方の図書館に多く所蔵されている。☆譲りの道は人道である。人と生れた者は譲りの道がなくてはならない。この道を勤める者は、富貴・栄誉はこれに帰し、この道を勤めない者は、富貴・栄誉は皆これを去る。少し行えば少し帰し、大きく行えば大きく帰す、私が言うところは必ず違わない。金穀だけでなく、道も譲らなければならない、畔（あぜ）も譲らなければならない、言も譲らなければならない、功も譲らなければならない、二三子(弟子達よ）よく勤めなさい。（二宮翁夜話巻の３【４】）静岡県袋井市シナリオで読む砂糖王鈴木藤三郎の報徳静岡県森町シナリオで読む 砂糖王鈴木藤三郎の報徳静岡県磐田市シナリオで読む砂糖王鈴木藤三郎の報徳静岡県立中央図書館シナリオで読む砂糖王鈴木藤三郎の報徳静岡県静岡市シナリオで読む砂糖王鈴木藤三郎の報徳静岡県菊川市シナリオで読む砂糖王鈴木藤三郎の報徳静岡県掛川市シナリオで読む 砂糖王鈴木藤三郎の報徳

  2019年05月23日

• エピソードで語る　報徳に生きた鈴木藤三郎

  エピソードで語る　報徳に生きた鈴木藤三郎　藤三郎、「荒地の力で荒地を興す」を菓子製造業に適用する。藤三郎、「荒地の力で荒地を興す」を菓子製造業に適用する。藤三郎は、報徳の教えを聞いてから、これを自分の身分相当に自分のとる仕事の上に実行したいと思いました。それにはどうすればいいのか。そうだ、二宮金次郎（尊徳）が小田原藩主大久保忠真（ただざね）侯から野州（栃木県）の桜町の四千石の領地興復を命ぜられたとき、殿様に説いた「荒地開拓法」を家業に適用しよう。金次郎：かの桜町の土地はやせていて、人民の怠惰も極まっています。ですからこれをふるい起こすには、仁政をもってし、村民が長年そまった悪い風習をあらためさせ、専ら力を農業に尽すときは、再興の道がないわけではありません。しかしこれまで殿様は彼の地の再復を命ずるのに多くの資金を下されました。だから事業が成功しなかったのです。今後資金はいりません。　大久保侯：廃亡を挙げるのに資金を用いてもなお興すことができない。今、資金を用いないでどうしてこれを挙げることができるのか。金次郎：資金をお下しになると、役人・村民が共に資金に心を奪われ、互いに資金を手に入れようと願い、このためいろいろな弊害がおこってついに成功しないのです。資金がなくて成功する道は、昔からの我が国の開拓の方法、一鍬（くわ）より起こすことにあります。荒れ地を開くのに荒れ地の力をもってし、衰貧を救うのに衰貧の力をもってするのです。どうして財を用いることがありましょうか。大久保侯：荒れ地を開くのに荒れ地の力をもってするとはどういうことか。金次郎：荒れ地一反（たん）を開き、そこから産出した米一石（こく）が有るとします。その半分をもって食料とし、残り半分をもって来年の開田料として、年々このようにすれば、他の財を用いることなく、何億万の荒れ地であっても開き尽すことができましょう。わが日本の国は、開闢（かいびゃく）以来、幾億万の開田も、その始めは異国から金銀を借りて起したのではありません。必ず一くわから始めて開けたのです。今、荒れ地を挙げるのに金銀を求めるのは、その本を知らないためです。いやしくも往古の大道をもって荒れ地を挙げることに何の難しいことがありましょうか。荒地を興すには荒地の力をもって興します。我が国が開闢以来今日までに開けたのは決して外国から金を入れたということはない。やはり我が国は我が国の力で開けたのです。「二宮金次郎はこのようにお答えをして開墾ができあがった。これは農業であるが、しかし天下の事業はすべてこの通りでなくてはならない。この精神をもって、この法に基づいて、どうか自分も実行してみたい」と藤三郎は思ったのです。藤三郎はそこで「至誠・勤労・分度・推譲」の四句の文にしたがい、朝早く起き、夜遅くまで勤労し、出費については、制限を設け無益の費用を省いて分度を立て、一年の利益があれば、これを次の年に送り、次の年の製品を安く売って、いわゆる推譲をしようと決心し、まず毎年の経費を調査しました。その時のことを「余が菓子商で五年間に売上高を十倍にしたる営業法」で次のように語っています。「私の家の経済は養父も別に心得がなかったので、一切不明でした。そこで自分で調査して見ると、家の経費が二百六十円で一年の売上金額が千三百五十円である。これで計算すると現在の純益の割合が二割五分になる。しかし菓子商で二割五分の利益は少し困難である。確実な計算とすれば二割であろうと思った。そうすれば一年の得るところ二百余円で五十円ばかりの不足となる。しかし明治十からは自分という一人の労働が新たに加わる。それだけでなく入費も不整頓であるから、これを整頓すればいくらかの節約が出来るに相違ないと思ったので、二宮先生の仕法に基づいた家政経費調という書類を借りてきて、これを先例として自分の家政を分析してみました。その結果、食物・衣類等経費の項目がおよそ三百余種ありましたが、その中には欠くべからざるものと欠いてもそれほど苦にならないものとがあった。それを一々より分けて、節約の出来る経費がちょうど五十円くらいあることがわかりました。明治十年からは新しい人間になったつもりです。一方では、節約し、他方には、勤労を主とする主義にのっとって朝早くから夜遅くまで働きました。さてその年の暮れになって計算しますと一年の売上金額が千九百円となり、経費は予算の通りでしたから、節約した五十円の外に計算外の利益五十円を得て、あわせて百円の金が残りました。そこで翌年はこの金を二百五十円とするには既に百円が手元にあるから、差引、百五十円を二千円の売上金から残せばよい。二千円に対する百五十円といえば、まず一割の利益を得られればよいから、その分、品物の値段を安くすることが出来る。値段が他の店に比べて安いから、売上高が増加して第二年の終りには三千五百円となりました。従来の商売の値付けの方法は、単にほかの同業者の値段を見て、競争に堪えられるかぎりの値段で売っていましたが、私は荒地主義で分度外を利用して安く売ったので、得意先はたちまちにふえ、売上高が増加したのです。この方法を繰り返して五年間、商業を続けましたところが、五年目には売上金が一万円、利益は僅かに五分取ってもよくなりました。資本金も始めは二百六十円しかなかったのが、五年の終りには千三百円となりました。これで私は「荒地の力を以て荒地をひらく」という主義は何の事業にも応用できる、天下これによっておこらない事業はないという二宮先生の説に一点の疑いもなくなりました。その後、私はこの五年間の帳簿とその着手当時の計算書とを持参して岡田良一郎氏の所へ行って、五か年の実験と検証の話をした時、岡田氏は「自分も多年この道を講じ、自分も行い、人にも勧めたけれども、君のように荒地の主義を商業に応用したもののあることを聞いたことがない。実にこの道の模範である」と激賞されました。」菜の葉の虫は菜の葉を食いつくしました。菜の葉の分度は、しかと守られて狂いはありませんでした。森町の菓子屋は、次に煙草の葉にうつる時が来たのです。藤三郎が氷砂糖の製造を志し、その日夜研究を重ねるに至ったのは明治十五年、彼が二八歳の時でした。「身代わり地蔵」と枡屋（ますや）その頃、氷砂糖は中国の福州から輸入していました。値段も白砂糖の二倍で、品質は色も赤く笹のごみなどが交じっていて、機械的・工業的な生産物ではない。価格が高値で改良の余地は有る。森町本町に薬剤師の岩間善次郎という人が「枡屋」という薬局を開いていました。藤三郎は氷砂糖をどうすれば純白透明なものにできるか枡屋に調べてもらうと、植物性の色素を除去するには骨の灰で濾過（ろか）するのがよいと書いてあると教えられ、最初、骨の炭をつくって砂糖液を濾過しましたが、さっぱり脱色漂白の様子がない。枡屋にもう一度調べてもらうと、蒸し焼きにするのがいいとわかり、脱色漂白の実験を繰り返しました。「どうも才さの家から変なにおいがする」と噂になり、警察から「屋敷内で骨の炭を製造することはまかりならん」と差し止められたこともありました。袋井の山梨という地区にあるお地蔵さまにまつわる昔話（中遠昔話第四十六話「延命身代わり地蔵尊」（袋井市））が残っています。昔、山梨の隣村にしっかり者でかしこい妻がいました。けれどもこの夫は、なまけ者で遊んでばかりいました。妻は夫をなんとかまじめで、働き者の心のやさしい人になってもらいたいと思い、近くにあるお地蔵様に願を掛け、毎夜、夫の寝たあとにお参りをしていました。そして、満願の夜のことです。妻が毎夜出掛けていくことを怪しんでいた夫は、太田川の土手に待ち伏せし、近づいた妻の左肩を刀で大きく切りつけ、あわてて家に帰りました。けれども、家に帰ると妻は何事もなく眠っており、傷もありません。驚いた夫は妻を起こし、さきほどのことを話しました。妻は、お地蔵様に願を掛け、毎夜お参りをしていたことを夫に話し、「それでは先程、肩の所に針をさした様な痛みを感じたのはそのためでしたか」と言ったので、夫はますます驚きました。夫は、「申し訳ない…」と自分の過ちをくやみ、これまでの罪深い数々の行いを詫びて、妻といっしょにお地蔵様にお詣しました。見ると石のお地蔵様の左肩には深々と斬られたあとがありました。二人はびっくりし、思わず胸がいっぱいになりました。それから夫は心を入れ替え、まじめな働き者になったということです。ところで隣村に薬屋があって、この店にある夜「こう薬」を買いに来た客があったそうです。お店の人が、「どちらのお人ですか」と尋ねると、客は「山梨」と言い、「お名前は」と聞くと一言「地蔵」と言って姿を消したということです。このお地蔵様は、薬が効いたのか、左肩の傷はすっかり治っているとか…。この「隣村に薬屋」とあるのが、森町の「枡屋」という薬局のことです。氷砂糖製造法の発見　明治十五年（一八八二）十月、宇都宮の宿屋で聞いた結晶の法則は藤三郎には、二宮尊徳の神霊の加護とも思えた。藤三郎は次のように語っている。「これを聞いて、はたと心に覚りました。そうなると、一日も早く家に帰りたくなりまして、東京に道連れを残し一人で遠州へ帰りまして、早速この原則に基づき、今まで付けよう付けようとしていたのを、反対に取ろうという考えで実験にかかりましたところ、果して程無くごく小さな結晶を見ることができるようになりました。その時の嬉しさはなかなかお話することができません。」　明治十六年五月、藤三郎は急用ができて上京し、実験中の氷砂糖のことは家族に頼みました。藤三郎が氷砂糖の製造を思い立ってから既に七年が経過していました。昨年は、精製用の骨の炭を製造する試験で臭い思いをした上に、終には警察から屋敷内での骨の炭焼きの実験を差し止められた。家族は皆こんなろくでもないことに凝（こ）るのはもうやめてほしいと思っていた。だから、彼が東京から大急ぎで帰って来たときも、いいつけた氷砂糖の加工を、家中すっかり忘れて放置していた。この数年間、自分が打ちこんでいる氷砂糖の製造に、家の者が全く無関心な事を知って、藤三郎は腹が立つやら情けないやら。そんな心で、この十数日間、かまどの上に置き放しにされた氷砂糖製造容器の蓋を開けて見た。その時、そこに何を見たか？そこには、純白透明な氷砂糖が、数個見事に結晶していた。藤三郎は自分の眼を疑った。いく度も眼をこすって見直した。そこには数個の透明な結晶が輝いていた。藤三郎の目から感謝の涙が落ちました。「特殊なる私立周智農林学校」にその時の喜びが書かれています。「大人はその様子を語って言われた、さよう！ちょうど十六年の五月でした。急に上京せねばならぬ事があって、試験中の仕事を職工に頼んで出掛けました。そして忘れもせぬ二十七日に東京から帰って、早速頼んだ事はと聞くと、職工は忘れてそのままに成っておる。腹が立つやら情けないやらで、小言を言いながら仕掛けてあった釜の蓋を取って見るとどうです！いつの間にか釜の端に氷糖ができているじゃないか、その時の嬉しさは実にお話もできない。」研究を始めてから七年目の明治十六年（一八八三）五月二十七日、藤三郎二十七歳の時でした。狂喜の嵐が静まった藤三郎の頭は、どうして、思いもかけぬ好結果を生じたのか。藤三郎に一つの考えが浮かんだ。氷砂糖の製造容器を上に置いたかまどを、二、三日前までは十日余り夜昼となく焚（た）き続けた。その容器の上に煎餅箱のような重い物を、ずっと積んでおいた。ヒョットすると、容器の上に重しをおいて密閉し、十数日間、相当な温度を与え煮つめたら、糖液が結晶するかもしれないと。今まで熱心のあまり、容器をかまどの上において、二日と放って置いたことはない。一日のうち何回となくふたを開け、中の様子を見るのが常だった。「そうだ、これに違いない」と。藤三郎は、氷砂糖製造法を完成させるまでの苦労を次のように語っています。「私はこの以前から倉の葺きおろしの味噌部屋を片付けまして、これを試験室にあてました。この中で例の試験をしましても、まだ何か物足らぬ所が有ると見えまして、うまくできることもあれば、またできないこともある。発明したのはうれしいが、営業者としては、百発百中で無ければならない。人から資本を借りることもできない。術を極めたというには最後の微細な点まで推し究めなければならない。自分で実験して、詳しく氷砂糖結晶の状況と変化とを知るに限ると。ところが最も困難だったのは温度及び空気の関係です。例えば春はよくできても、夏はできないことがある。いろいろと条件をかえてその状況を目撃したいと思ったのが明治十六年の夏のことです。例の実験室の中に、たくさんの器へ砂糖の液を入れ、握り飯持参で、二週間昼夜ともこの中に立てこもったのです。温度は火鉢を入れて一二〇度から一四五度の間をいろいろとかえてみました。無論丸裸です。苦しくなると実験室の小窓を明けて息をします。じっと見つめていると、砂糖が始めて結晶する時は、電気の作用か、ぱっと美しく光り、それから段々結晶する。器の上の方から固まるのもあれば、下から結晶し始めるものもある。器の大小、形、液の深さによってちがう。温度の高低にもよる。どうするのが最も良いかということが、すっかり分りました。これを見ていると眠いということが無い。裸で握り飯を焼き、梅干を添えて二週間の間、食っていたのです。さて実験の結果、ほぼ氷砂糖の出来方が明瞭になって、みそ部屋を出た晩は家に入って、ぐっすりと寝ました。ところが翌朝枕をつけた頭の半分がむずむずするので、よく見ればはれあがってウミを持っています。医者に見てもらっても、何病か分らない。翌晩は他の一方がまたウミます。医者も手をつけることができない。ジョウロで水を頭からかけると、白いウミが流れる。十一月下旬になってやっとよくなりましたが、頭に髪の毛が一本も無くなりました。あとで考えたら、汗もが一面にできたのをうっちゃっておいたためでした。この病気が全治してから、私はまた前の実験に取りかかりますと、さすがに養父なども驚いて、懲りずにまだやるのかと申したことでした。」福川泉吾と吉川長三郎明治十七年二月、藤三郎は氷砂糖の製品を東京の砂糖問屋、数軒に送りました。問屋から購入の見積書が送られて来ました。予想より高値でしたが、どの店も「製品はまことに結構だが、なにぶん商品のはけ口が狭いので少量にしてもらいたい」とありました。村山仁兵衛（じんべえ）商店からは見積書と一緒に手紙が入っていて、「当店は一番安値だと思う。今後引き続いてお送り下さるのなら、一手販売の特約をしていただきたい」とありました。藤三郎は村山商店に製品の一手販売をたくしました。こうして東京での販売先も開け、採算の見込みが立ちました。しかし東京を相手に製品を送るとなると、今のように菓子製造場の一角での氷砂糖製造では間に合わない。工場を造らなければならない。原料を仕入れる資金も必要だ。そこで藤三郎は、森町報徳社の新村理三郎に相談しました。藤三郎：製品もまず満足なものができ、東京で販売を引受けてくれる特約店もできました。しかし工場を新築する必要がありますが、新村さん、工場を新設する資金を得る方法はありますまいか。新村：いったいどのくらいの資金が要（い）るのですか。藤三郎：工場の新築と運転資金で、まず三千五百円はいります。新村：三千五百円といえば大金だ。しかもこれに充当する抵当はないとなると、容易に融通する者はないでしょう。ただ遠江国（とうとおみのくに）報徳社の社長、岡田良一郎氏は工業振興に熱心な人です。あなたの精神を聞くならば力を貸してくれるかも知れない。藤三郎：新村さんもそうお思いですか。岡田先生は去年の暮れに森町の報徳社の総会の時に来賓（らいひん）で来られて、私が氷砂糖一箱を岡田さんに進呈したところ、翌日、氷砂糖の製造の実地を見に来られて、賞賛し激励してくれました。岡田先生にお力添えいただければ願ってもない幸せです。新村さんにお口添えをいただき、融資をお願いできませんでしょうか。新村：岡田先生なら資力もあり、これからのわが国は工業を発展させる必要のあることを常々熱心に説いています。あなたの事業については、ご自分で視察され、激賞されたくらいですから、お願いしたら、あるいは協力してくださるかもしれません。私のできることは何でもやりましょう。岡田先生のお宅へ一緒に参りましょう。藤三郎：新村さん、それでは、どうぞお願いいたします。私は岡田先生にご覧に入れる書類を大急ぎで作ることにいたします。岡田良一郎氏には氷砂糖工場は成功の見込みが少ないと融資を断られてしまいました。藤三郎は家屋敷まで売り払って資金に充てようと決意しますが、新村氏は親もあることだからといさめます。藤三郎：新村さん、今日はありがとうございました。残念ながら岡田先生のご協力はいただけませんでしたが、私はこう思います。世の中の人が真実に求めながら、いまだ得られないで困っているような新しい事業を起こして、社会の進歩に貢献し、国民に感謝と満足を与えることこそが、真に先人の徳に報いる報徳の教えを奉ずる者の積極的態度というべきではないでしょうか。たとえ、この事業が不幸にして中道で倒れても、報徳の道に尽すならば、二宮先生も決しておとがめはなさるまい。私は決心しました。家屋敷や不用品を売却したら五、六百円ぐらいになると思うので、まずはこれを工場建設の資本に充てようと思います。新村：祖先伝来の財産を売却し失敗したら大変な結果になります。まず十分にご両親ともご相談して、慎重に決めてください。藤三郎：新村さん、分りました。両親とも十分相談してみます。　藤三郎が新村氏と別れて家に帰りついたのは、もう夜も十時のことでした。藤三郎の家から二軒おいた隣が「泉忠（いずちゅう）」という福川泉吾のお宅でした。その家の前を通ると、門口の障子にまだあかりがさしています。その瞬間、藤三郎の脳裏に、福川に相談してみたら、という考えがフと浮かびました。藤三郎：そうだ、そうだ、私が力を貸してくれるように求める者はこの人より外にはない！福川　　才さか、何か用かの。藤三郎　実は折入ってお願いしたいことがありまして、夜分ですがお伺い致しました。福川　　まあお上（あが）んなさい。　藤三郎は、年来の苦労を語って、事業の成績及び予算表を出して、福川氏に助力を求めました。福川氏は詳しく聞き終わって、そのうえ詳細に予算表を点検し、やがて口を開いて言いました。福川：私は、あなたの事業は見込みがあると思います。ことにあなたの事業に対する精神がよい。薄利の予算にもとづいて一生懸命努力したなら、世の中で成功しない仕事はない。それを世間の人は、初めから大層儲かるような予算を立てて着手するものだから、結局費用倒れして、たいていの事業は失敗するのです。しかし、事業の初めに、最低の利益を見て予算を立てるということは、なかなか出来ないものです。よろしい、承知しました。事業にすぐおかかりなさい。資本は私がご用立てしましょう。藤三郎：（涙ながらに）福川さん、地獄に仏とはこのことです。福川：さし当って資本はどのくらいいりますか？藤三郎：これには報徳社の新村さんが初めから心配してくれていますから、明日新村さんと相談して申し上げるようにいたします。　福川泉吾は藤三郎とは軒を並べすぐ近所に住んでいるのだから、この数年来の藤三郎の氷砂糖製造についての熱心さや、それが完成したこと、この事業が有望であることを見抜いていました。藤三郎の人となりも将来のある青年とひそかに望みをかけていたのです。福川泉吾は事業家としても眼がきく上、胆力があり、有望な事業に対してはどしどし融資していました。藤三郎は翌朝、新村氏を訪ね、福川氏が融資を快諾したことを話しました。新村氏は喜んでくれた。そして二人で相談して融資額は最初希望した三千五百円の半分二千円としました。これをもととして十年間で元利を返す事業予算表を作りました。しかし福川の金は融資で、しかも無抵当の借金です。誰か相当な保証人を立てなければならない。森町の城下（しろした）という所に、藤三郎のおいで、吉川長三郎（よしかわちょうさぶろう）という者がありました。藤三郎より四つ年下でした。吉川家はかなりの資産がありましたが、数年前に長三郎の父がなくなり、長三郎が家督を相続しました。ところが、遊びが過ぎて、かなりの借金をこしらえてしまいました。長三郎も、反省し、「どうかしてくれないか」と藤三郎に泣きついてきました。藤三郎は報徳の方法で、吉川家の家政を整理しました。まず、長三郎をはじめ同家の人々に熱心に報徳の道を説いて、その仕法に従って整理案を立てて、これを守らせたので、着々とその効果が現れ、数年で家道は全く復興したのです。そういう関係で、長三郎と家の人々は、深く藤三郎を信頼していたのでした。新村：藤三郎さん、福川さんが工場建設資金を融資してくださる。不足する氷砂糖事業の運営資金は森町報徳社が融資しましょう。藤三郎：新村さん、ほんとうにありがとうございます。吉川：藤三郎さん、保証人のことで困っていると聞きました。私でよかったら、私が保証人になりますが、どうでしょう。藤三郎：長三郎さん、保証人になってくださいますか。自分から協力を申し出てくださったことが、私には有難く思われます。藤三郎は明治町に氷砂糖製造工場を建設しました。明治十七年、藤三郎三十歳の時です。販売も順調でした。品質は優良で価格も安く、注文が殺到するようになりました。静岡県の永峰弥吉大書記官も工場を視察し、国益のためますます努力するように藤三郎を激励しました。氷砂糖製造の事業は森町の名物になっていったのです。藤三郎：長三郎さん、おかげで氷砂糖工場のほうは、予期以上の成績を上げています。この調子ならば、二，三年のうちには東京へ出て、白砂糖を作る精製糖の事業に従事することもできましょう。しかし、それにはこの事業のために、身命財産も投げ出して協力してくれる人がいる。実はあなたに私の事業の協力者になっていただけないかとひそかに考えていたのです。私は、あなたにそれになって欲しいと思う。あなたの気持を腹蔵なく聞かしてもらえませんか？吉川：はい、私で間にあうことでしたら一緒にやらしてください。藤三郎：しかし、精製糖ということは、普通の決心ではやりとげられる事業ではありません。今までも、ずいぶん政府の保護まで受けてやりかけた人もあったけど、みな失敗している。東京の砂糖問屋などは、日本では精製糖事業はできないものだと、頭からきめ切っているくらいです。それほどのことをやろうというのだから、中途で投げ出すくらいなら、初めからやらないほうがいい。やる以上は、財産はもとより命をもかける覚悟でなければならない。あなたに、それだけの覚悟がおありでしょうか？吉川：はい、私も男です。やりかけた以上、どんな困難にもヘコタレないつもりです。藤三郎：それまでに言ってもらえれば私も嬉しい。しかし、中途で家族やご親戚から苦情が出ても困るから、おうちの方や親類の主な人々ともよく相談して、皆さんの同意を得て下さい。吉川：承知しました。さっそく家の者や親戚と相談して、その結果を、お知らせいたしましょう。　長三郎は、すぐに家族はもとより主な親戚を集めてこのことを相談しました。一同に異議はありません。長三郎は藤三郎の所へ、そのことを報告し、それを聞いて藤三郎も喜びました。そこで、新村理三郎に立会人になってもらい、誓約書を取りかわしました。それには、こう書いてありました。一、今後共同出資の責任を藤三郎七〇％、吉川３０％とすること。二　互に毎期の利益は、すべて拡張費に投じて、決してこれを事業外に取り去らないこと。三　この約束は、十か年を一期とすること。明治十九年一月元旦から実施すること。　　「毎期の利益は、すべて拡張費に投じて、決して事業外に取り去らない」とあるのが「荒地の力を以て荒地を開く」という報徳仕法の原理です。吉川は藤三郎の右腕としてその事業を支えました。渋沢栄一との対話横浜の砂糖商、安部幸兵衛は、藤三郎から精製糖事業を会社組織にしたいという希望を聞いて、渋沢栄一に株式会社化の計画を話せば、必ず賛同してくれるであろうと考えて、このことを藤三郎に話した。藤三郎が第三十九国立銀行東京支店長の長尾三十郎に相談したところ長尾も賛同した。安部は、仲介の労をとってくれ、渋沢から明治二十八年八月十七日に面会したいという招きがあった。東京へ出てから七年、まだ四十歳前の藤三郎は、大きな期待をもって出かけた。その席には、浅野総一郎と横浜の砂糖商の増田増蔵と安部幸兵衛がいた。　藤三郎が席に着いて、あいさつが終ると、すぐ渋沢はこう聞いてきた。渋沢：あなたのお生れは、どちらですか？藤三郎：はい、遠州森町でございます。渋沢：最初から砂糖の製造をなさっていられましたか？藤三郎：いえ、若い頃の家業は、菓子商でございました。渋沢：それで、学校は、どちらをご卒業でしたか？藤三郎：ハハ、学校教育らしいものは、私は全く受けておりません。八歳から十二歳まで寺子屋へ行ったのと、二十二、三歳の頃、一年たらず夜学に通っただけです。渋沢：（失望の色を顔に浮かべて）ホホウ、そうでしたか･･････。先年、私のおいに、ガラスびんの製造を熱心に研究した者があり、うまくできるようになったので相当な事業になろうと資本を出しましたが、じき失敗しました。どうもチャンとした学問の力がないと小規模なうちはよいが、少し大きくやり出すとダメなようですな。ことに精製糖事業は私もわが国に必要な事業と考え、先年もその道の学者にいろいろ聞きましたが、ハッキリした説明ができる人もなければ、製造の責任は引き受けようという者もありませんでした。それで私もこの事業は、ひと通りやふた通りの学問でやれるものでないと痛感しました。あなたが、そのほうの学問もあまりなさらずに大規模な経営をされようというのは、少し危険だと思いますな。藤三郎：精製糖事業は、素人がやろうとしても、なかなか面倒なものには違いございません。しかし、私は長年、これを専心研究しました。そして、小規模のものではありますが、十年このかた家業といたしておりまして、その製品は、ここにおいでの安部さんや増田さんが、よくご承知くださっていらっしゃるとおりです。土を砂糖にしようというのなら難しいでしょうが、砂糖を砂糖にする位のことは、大して難しいことではございません、ハハ・・・後年、鈴木藤三郎はこう言っています。「自分は三度、人を信じそこなったことがある。初めは岡田良一郎氏で、次は村山商店で、最後は渋沢栄一氏である」と。藤三郎は三回の失望をむしろ大きなチェンスとして生かしました。岡田氏に氷砂糖工場への出資を断られ、福川氏の協力で森町で氷砂糖工場を成功させます。工場の東京移転の企画を村山商店の番頭に笑われ、「他の援助に頼ろうとするからこんな結果になる。郷里で今の工場を拡張し自力で東京へ出られる日を待とう」と第二工場を建設します。渋沢に賛助を断られ、九月一日に長井氏の別邸で株式会社の発起人会を開きます。同時に「きちんとした学問がない者には協力できない」と渋沢氏に出資を断られて「海外の製糖業視察と最新の機械購入のため」世界視察旅行を計画したようにも思われます。そして帰国後に藤三郎は「日本糖業論」を発表し、日本の製糖業事業の第一人者となったのです。米欧旅行（明治二九年(1896)七月三十一日～八月二十九日）藤三郎は、株式会社を創立し半年も経たないうちに倍額に増資を決議してくれた株主達の信頼を思って責任の重大さを深く感じた。「今回の増資で多額の資金を新設工場に投じなければならない。この際、先進国の製糖業を見学し、新しい知識を吸収すると同時に、最も進歩した機械を買い入れるために欧米へ出かけよう。帰りには南洋方面の原料糖の産地も視察しよう。このことは、会社の将来のために必要だろう。」そう考えて長尾社長や重役に相談すると、皆賛成したので、一か月後に出発することになった。　出発まで、留守中に建築できるよう新設工場の設計もしなければならない。経営上の相談も必要である。視察先を調べ、それへの紹介状など便宜を得る工夫もしなければならない。藤三郎は不眠不休で準備に努めた。藤三郎は、外国語は全く分らなかった。周囲は、当然通訳は同行するものと三井物産や正金銀行の社員から適当な人を選定しようとしたが、藤三郎はひとりで行くことを主張した。ある人：それでは、外国語ができず、通訳も連れずに、何十万円という莫大な機械の買入れなどは、どうするつもりですか？藤三郎：なに、機械の構造やいい悪いは眼で見れば分るし、ことにこっちは買手なのだから、先方で、どんな方法ででも、分らせるように努力するだろうから心配はありません。藤三郎は明治二十九年(1896)七月十四日、横浜出帆の太平洋汽船会社のベルジック号で出発した。陸軍大学校のドイツ語教官だった藤山治一がちょうどドイツへ私費留学のためアメリカ経由でドイツへ行くため同船していたので、在米中の通訳を頼むことができた。アメリカ大陸横断鉄道にて藤三郎は一八九六年七月三十一日にアメリカのサンフランシスコ港に到着します。ゴールデンゲートを通過し、朝の六時に到着し、ホテルから日本の精製糖会社に「無事安着」（Arrived safe）という電報を打っています。また「横浜港を出発して以来、きわめて健康で本日サンフランシスコに無事着きました。ご安心ください。さて航海中はかねがね心配おかけしたところですが案外無事でした。藤山君によって西洋人と毎日談話し、また運動など遊戯もあって面白く過ごしました。時々は波が高く船体が動揺する時も、少しも船酔いをせず、外人も私のことを多年、船旅に馴れているのだろうというほどに自分ながら船旅を満喫し、まずもって海の国の日本男児と少しはホラも吹けそうです」と会社あてに手紙を書いています。藤三郎はサンフランシスコでアメリカの製糖王、スクリップル氏の精製糖工場を見学し、アメリカの産業の巨大さに驚いています。東海岸に向かうアメリカ大陸横断鉄道の汽車に乗車中、藤三郎が自分のカバンを車の中央に置いていたことがありました。するとアメリカ人婦人がそのカバンの上に腰かけ同行の婦人とおしゃべりしました。藤三郎が後ろからカバンを引き寄せると、婦人は腰をとられ転んでしまい怒りました。藤三郎も英語が分らないまま、日本語でやりかえし、同乗の藤山治一は大変困って「この男は少し気が狂っているので」と仲裁し、女性の怒りをなだめたこともありました。藤　山：君はなんであんな失礼なことをしたのかね。藤三郎：失礼なのはあの女のほうだ。カバンの中には、母から貰った大事な守り札とメガネが入れてある。これを女ふぜいの尻に敷かれるは忍ばんと欲しても忍ぶことができなかったのだ。アメリカ精製糖会社にて藤三郎がニューヨークのアメリカ精製糖会社を見学した時に社長は藤三郎との会話で、氷砂糖や砂糖の精製法を独力で工夫してやってきたことを知って非常に興味を持った。そこで藤三郎に聞いた。社長：ミスター鈴木、これは検糖機という砂糖の糖分を検査する道具です。サンプルを決まった濃度の水溶液にしてこの検糖機に入れてのぞくと、サンプルの何パーセントの糖分が含まれているか、すぐ計算できます。あなたは砂糖のサンプルを見て、産地や糖分の含有量はどうやって調べますか。藤三郎：それは眼で見て、なめてみればわかります。社長：えっ、眼で見て、なめてみればわかる？ほんとうですか？藤三郎：はい、日本人は、嘘はつきません。社長：（膝をたたいて）おもしろい、それでは、早速それを一つやってもらおう。技師長、すぐその用意をしてくれたまえ。技師長：社長、そんなことは無理ですよ。社長：なあに君、日本の糖業発達の程度を正確に知っておくのも無駄ではなかろう。技師長、持ってきたまえ。技師長は部下に一つの箱を抱えさせて帰ってきた。箱の中には三十種類ほどの砂糖の標本ビンが入っている。技師長は藤三郎の前のテーブルに一列に並べる。ビンには、ただ番号を書いた紙がはってある。技師長は並べ終るとその標本の産地と糖分量を記入した検糖表を社長に渡した。社長：さあ、一つやってください。藤三郎は一番端のビンを取って、中の砂糖をほんの少し手のひらにあけて、じっと見てからちょっとなめる。藤三郎：これはジャワのなになに工場の製品。純度は八九％藤山治一が通訳し終わるや、藤三郎はすぐ次のビンの中身をいう。藤三郎の実験が十五ほどまでいった時、社長が言葉を発した。社長：オーライ。藤山：どうしたのです？もういいのですか？社長：三十のうち、十五まですっかり当たれば、もうよかろう。実に不思議だ。不思議な人間だ！この検糖表を見給え。産地はもとより含有の糖分量も彼の言ったとおりだ。ミスター鈴木、あなたは一体どうしてこんな不思議な技術を会得されたのですか？技師長：私たちが緻密な検糖機械で精密な検査をして初めて知ることのできるのと同じ結果が、なんの機械も使わないで即座にわかるということは、どうしても理解できない。藤三郎：私は菓子屋の子として育って、四十年以上砂糖の臭いの中で暮らして来た。氷砂糖でも菓子製造でも主な材料は砂糖である。原料糖に含まれる糖分量の多少を見分けることは、営業の死活に関するほど大切なことです。自分の眼で見て、舌でなめて、永年経験をつんでいるうちに自然と正確にわかるようになったので、この技術は秘法ではない。多年の努力経験の集積の結果です。社長：ミスター鈴木、あなたは砂糖の中から生まれてきた男です。藤三郎のアメリカ・イギリス観　藤三郎は「二宮先生と余が欧米観」で英米の感想を語りました。「米国に行って種々の工業を見たが、イヤお話にもならない、ただ驚嘆のみだった。工場は壮大を極め、その文明・器械を以て、その進取の猛志を以て、その偉大な財力を以て、日に新しく計画し組織し三年以前のものは惜しげもなく打ち壊すというありさま。家屋は普通十階、高いのが二十階三十階天空にそびえている。余の目にはただ驚嘆ばかりだった。ここに余は一つの迷いを抱いた。このように物質的に偉大な文明の現象を日本において実現させることができるだろうか、かつ米国がすでにこの通りならば、その本国の英国、世界の富の中心ともいわれる英国では果たしてドンナであろうか。コウいう考えから、余の迷いは失望となり、心の中は一種寂しい愛国的な感情となり、余は米国を去って、英国に移った。」「米国において絶望した余は、英国において救い上げられて、一筋の光明を仰ぎ見ることができた。余はリバプールからロンドンへ上って、まず奇異の感に打たれた。英国は米国と変わって家屋の多くは四、五階で、外見はレンガもくすぶっている。それはまだ良いが、世界第一の都会であるロンドンの市民がぐずぐずしているありさまであることに、むしろ驚かないわけにいかなかった。しかし英国市民の偉大な点は実にその理論にひそんでいることを発見した。早い話が、家はくすぶっていても内に入ると、器物など非常に良く行き届いている。いわば英国は正味の国で、単にそれが住宅の点において現れているだけでなく、その産業を見ても、その工業を見ても、みなその通りである。それから余は少し考える所があって、都会を去って、いなかに行こうと思い、通訳を雇って北部スコットランドへ行った。そのうちに余は英国の偉大なるゆえんを事実によって教えられた。工業において英国は米国と同じく大工場的に経営しているが、ただ英国は二宮先生のいわゆる小より大に及んだものである。具体的にいうと、英国の多くの事業は初め一人が小さい規模で起し、それが次ぎの代には父子合名会社となり、次第に大きくなって合資会社となり、ついに株式会社となったもので、たいてい三、四十年と歳月を経たものである。建築もまたその通りで、一つとして歴史が残っていないものはない。その歴史が実に英国人の誇りで、互いに祖先の苦心経営を以て自家の光栄とする。初め米国を見て、とても日本などでは及ばないと失望していた余も、英国のやり方を見ては再び希望がよみがえった。英国の万事はすべて二宮先生の小より大に及ぶ主義で、この主義をとって行くならば、日本の百事もまた英国をのりこえられない理由はない。果してこの一筋の光明は、余を絶望の淵から救い上げたところのものであった。」　スコットランドの牧草地を見て藤三郎：イギリスの商工業の隆盛は偶然ではありませんね。この見渡すところの草原や丘、すべてが牧草です。食料はすでに足りている。国はまさに富まざるを得ない。イギリス紳士：君はまことによい所に目をつけられた。けれども、君は今から五十年前にはこの原野が、ただ雑草がぼうぼうと生え、いばらが生い茂り、狐やうさぎが昼夜を分かたずに跳躍していた状況を知るまい。現在のようになった理由は、実に私たちの先人の丹精の結果であって、決して自然に恵まれていたばかりではない。藤三郎：なるほど、イギリスの牧草もまた実に歴史的に発達したものなのですなあ。そして同じように商業、工業も先人の勤労で発展し、工業や農業の生産物が一つにロンドンに集まってこの大英帝国を支えているのですね。アメリカ大陸横断鉄道にて　藤三郎は一八九六年七月三十一日にアメリカのサンフランシスコ港に到着します。ゴールデンゲートを通過し、朝の六時に到着し、ホテルから日本の精製糖会社に「無事安着」（Arrived safe）という電報を打っています。また「横浜港を出発して以来、きわめて健康で本日サンフランシスコに無事着きました。ご安心ください。さて航海中はかねがね心配おかけしたところですが案外無事でした。藤山君によって西洋人と毎日談話し、また運動など遊戯もあって面白く過ごしました。時々は波が高く船体が動揺する時も、少しも船酔いをせず、外人も私のことを多年、船旅に馴れているのだろうというほどに自分ながら船旅を満喫し、まずもって海の国の日本男児と少しはホラも吹けそうです」と会社あてに手紙を書いています。藤三郎はサンフランシスコでアメリカの製糖王、スクリップル氏の精製糖工場を見学し、アメリカの産業の巨大さに驚いています。東海岸に向かうアメリカ大陸横断鉄道の汽車に乗車中、藤三郎が自分のカバンを車の中央に置いていたことがありました。するとアメリカ人婦人がそのカバンの上に腰かけ同行の婦人とおしゃべりしました。藤三郎が後ろからカバンを引き寄せると、婦人は腰をとられ転んでしまい怒りました。藤三郎も英語が分らないまま、日本語でやりかえし、同乗の藤山治一は大変困って「この男は少し気が狂っているので」と仲裁し、女性の怒りをなだめたこともありました。藤　山：君はなんであんな失礼なことをしたのかね。藤三郎：失礼なのはあの女のほうだ。カバンの中には、母から貰った大事な守り札とメガネが入れてある。これを女ふぜいの尻に敷かれるは忍ばんと欲しても忍ぶことができなかったのだ。藤　山：なるほど、カバンの中に母上のお守りが入っていたから、あんなに怒ったのか。私の父は佐賀藩の下級藩士で、母は藩主鍋島直大侯の姫君の乳母となって、御殿（ごてん）にあがって仕えた。鍋島家が東京に移ると母も一緒に東京に移った。私が十一歳の時、藩の費用で国内留学生を東京へ出すことになり、私も選ばれて父と共に上京した。母は私を立派に育てたいと思ったが、父には学費を出す力がない。母は私を有馬学校に入学させて、私はここで初めて英語を学んだ。母は私の学業が進むのを喜んだが「女のやせ腕で費用を出すのだから、汝の進級はうれしいが、そのたびごとに六円の教科書代を出すのは辛い」と泣いたことがいまだに忘れられない。後に私は鍋島家の子息の勉強相手となって、日曜ごとに鍋島家に出かけて毎月十円をもらって、母の援助を受けなくてもよくなった。藤三郎：藤山君も、お母様の深い愛情のもとで育ったわけだね。　藤山治一は一八七八年駒場農学校に入学し官費生に選ばれた。駒場に入って二年目、鍋島侯の給費生として三名をヨーロッパに派遣することとなり、成績トップの藤山も選抜され、農業経済学の研究のためドイツ留学し、ベルリン大学に入学した。藤山は農業経済学専修のかたわら動植物学に興味をいだき、ボン大学に移って専ら動植物学の研究をした。それが青木周蔵日本公使に知られ、学費差止めとなった。藤山は帰国を命ぜられ、旅費六百円を受け取ったが、大学に通学していた。数月後、公使館に知られてけん責を受けた。この時の苦学は後に「今から考えてもぞっとするくらいで、三度の食事は二度に減らし、二度の食事も一度に減らし、ラインの流れに身を投げようとしたこともあった」と述べたほどだ。一等書記官の丹羽龍之助が同情し藤山の母に電報をうって六百マルク送ってもらい、それで切符を買い藤山に渡し、帰国を命じた。藤山は帰国後、東京外国語学校、東京山林学校などでドイツ語を教え、一八八七年陸軍教授に任命され、陸軍大学校教官となった。ドイツから招かれたメッケルらドイツ軍武官の教授は藤山の通訳によってなされた。こうした経験が後にドイツ兵書の翻訳やドイツ兵語辞書の編集に役立つ。日清戦争の際は第二軍司令部付を命ぜられた。一八九六年、非職となったが、私費でドイツに遊学し、最新の語学教授法を研究しようと、アメリカ経由でドイツに行こうとして藤三郎と同じ船に乗り合わせたというわけである。藤山治一はドイツ留学時代、学資が無く、汽車に乗った時、切符をなくし、ハイデルブルク大学に入っていた都築氏から時計をもらったのを質屋で二十マルクに換えたことがあった。藤三郎はよく御礼にお金の代りに金時計を進呈しています。これはあるいは藤山の体験談から、換金が容易なように金鎖付きの金時計をお礼に渡したのかもしれません。藤三郎は十一月八日からイギリスに渡って以来通訳を頼んでいる今井友次郎氏と一緒にヨーロッパ大陸の視察の旅に出ます。ビクトリア駅を朝十一時に発車し、午後十二時半にドーバー着、汽船でイギリス海峡を渡り汽車でパリに夜七時着きました。パリではルーブル美術館やノートルダム寺院、エッフェル塔など見学し、オペラも見ています。十一月十八日藤三郎はドイツに向かって出発します。十九日にベルリン駅に着くと藤山治一が出迎えてくれていました。十二月十日ハノーバー近くのケールチング兄弟会社に行き、社長のケールチングの案内で工場を見学します。藤三郎の日記に「当工場の機械運転はすべて電気をもってする。また電気はガスの原動機による。この応用を見ることは欧米到着以来当所が初めてである」と記しています。原動機がボイラーによる時代から、電気を動力とする時代に変わる瞬間に、藤三郎は立ち会っていたのです。ケールチング：君は欧米各国を見学し、見聞が広いだろう。私はまだアメリカを見たことがない。私の工場も新しい技術を受け入れていない欠点があろう。ここに欠けている所を指摘してくれたまえ。藤三郎：欠点はありません。一つ疑問があります。あなたの工場は盛大で完備し、イギリス・アメリカの工場と比較し、少しも劣らない。設計室は大きく、技師は三十一名の多数に上る。これはイギリスやアメリカでも見たことがない。これは一体どういう訳か。ケールチング：君はよいところに目をつけた。私の工場で有給の技師はたった一人だ。その他はみな工科大学の卒業生だ。彼らは自費自弁で数年実地の練習を試み、その後他の工場から招かれるのを待っている。設計室も私の国家に対する義務と思い、多少の装置を設置している。工学士は大学を卒業後、数年実地練習を試み有給の技手となり、一人前となるには、大学卒業後十か年を要するのだ。鈴木：なるほどドイツ工業の発展する理由は決して偶然ではない、砂糖の専門学校のあることを思い合わせれば、社会として教育を組織的に積み重ねてきたからだということがよくわかりました。藤三郎は後に森町に私立周智農林学校を設立します。農業に関する専門学校を作り、人材を育成しようという考えは、ドイツのこの時の体験にあったかもしれません。森の元気屋さん、Sさんと私の三人で初めて台湾の台湾製糖会社の工場跡を、利純英さんに案内してもらっていた時のことです。利さんはかつて製糖会社に勤めていました。森の元気屋さんが利さんに、「藤三郎が台湾に遺した最大のことは何でしょう」と尋ねると、利さんは「それは教育だと思います」と答えました。藤三郎は実業的な教育を重んじるとともに、台湾においても常に工夫改善する精神を残したのです。

  2019年01月14日

• 下田市立図書館が「シナリオで読む　砂糖王鈴木藤三郎の報徳」を郷土資料としていただいた

  シナリオで読む　砂糖王鈴木藤三郎の報徳1 下田市立図書館 郷土資料 ﾅ/281 ﾆﾉ 111172771 郷土・県内 在架

  2019年01月05日

• 醬油の栞（しおり）

  昨年の7月、森町のMさんから「先日ネットで買いました。３×５㎝くらいの小さなしおりです。」という付箋がついていた。全ルビの文章であるが、ここではルビ抜きで紹介します。これまで鈴木藤三郎については、砂糖王についての資料集はほぼ網羅してきたが、藤三郎の最大（まるで天中殺のような）の失敗である醬油醸造業と乾燥事業については触れることは少なかった。資料集として刊行できるかは、不明であるが、Mさんが収集した資料を含めて、まとめておいていいかもしれない。醬油の栞（しおり）一　日露戦争と鈴木氏の醬油発明　日露開戦の始まる頃であった。我が陸軍糧秣廠長（りょうまつしょうちょう）は鈴木藤三郎氏を招きて陸軍にて多量なる醬油エキスの必要あれど従来のものは品質が悪（あし）くして其の用に堪えざれば完全なる製造機械を発明し呉れずやとの依頼があった、氏は国家の為めと直ちに快諾し夫（それ）より献身的に是が発明に従事し数万の私財を投じて試験を為したる結果、遂に現今の醬油エキス製造機械（明治37年3月特許）を発明して其の器械を自家の鉄工部にて制作し当局の希望（のぞみ）に副え、以て日露戦争中百万の豼貅（ひきゅう：勇ましい兵卒のたとえ）に対し十分の供給を為し得たのである。以上の事実が測らずも動機となって鈴木氏の醬油醸造の発明が遂げられたのである。これより氏は醬油エキスの原料たる醬油は如何（いか）にして醸造せらるるものであるかと云うことを調査する必要が起こったので、学者の著書を読み、又専門家の意見をもただした訊（ただ）した所が在来の醸造方法の宜（よろ）しくないと云う点を発見した、在来の醸造方法は徒（いたずら）に旧慣を墨守せるものにして不完全なるが為め製品に黴（かび）を生ずるのみならず醸造に早くも一年遅きは二年の長年月を要するのである。故に一朝不測の事変に際し臨時需要の激増を告ぐる場合に於（おい）ては在来の方法によりては到底その需要を充たすことが出来ぬのである。氏は夫（そ）れより愈々（いよいよ）醸造方法改良の急務なるを悟り、研究に研究を累（かさ）ね所謂（いわゆる）鈴木式醬油醸造方法及び其の機械を発明し次（つ）いで明治37年4月各（おのおの）之れが特許を得、遂に今日の成功を告げたのである。二　在来の醸造方法と鈴木式醬油醸造方法との比較（其の一）　醬油の醸造は２００有余年来行われて居るが今日の実際を見るに創始当時の旧慣を殆んど其の儘（まま）襲用（しゅうよう）して居るような有様で科学的智識発達し製造工業の盛んなる20世紀の今日に於て醬油の醸造は未だ工業として発達して居ないのである、故に品質の始終一定したる多額の品物を経済的に製造をする事が出来ないのみならず営業者の醸造も又素人が自家用料の醸造も其の方法から云うと全く同一であって、今日地方に於ては此の自家用料の醸造もなかなか沢山で侮り難き勢力を有して居るような訳である。在来の醸造方法を研究するに概略左の七つの欠点があることを見出すことが出来る。一、醸造に一箇年以上の長年月を要す二、諸味（もろみ）の成熟不完全なるを免れず三、職工の員数を多く要す四、広大なる工場の敷地を要す五、製産力に限りあるが故に臨時急激に需要の増加したる場合には殆ど供給不可能なり六、工場甚だ不潔にして且（かつ）不整頓なり七、製品に黴（かび）を生ず然るに鈴木氏の発明に係る新式の醸造方法によれば然るに鈴木氏の発明に係る新式の醸造方法によれば一、二箇月以内の短期間に完全に醸造を為すことを得二、醗酵の方法学理に適合するを以て諸味をして十分に成熟せしむることを得三、諸般の作業は総（すべ）て機械力を応用するが故に大（おおい）に人力を省くことを得四、機械的装置完全せるが故に製産額を如何に大（だい）ならしむるも比較的工場の面積を要せず五、如何に急激に需要の増加することあるも容易に生産力を増加して之れが供給を為すことを得六、工場並（ならび）に作業の方法秩序整然として極めて清潔なり七、製品に黴を生ずることなし以上述べた要旨を対照して見ると新式の醸造方法は在来の醸造方法の欠点を根本的に改良して余りあることが分明である。（続く）

  2019年01月05日

• 日本統治時代から運行され続けてきた高雄臨港線が9月28日を以って廃止

  高雄臨港線さようなら 鉄道ファンが最終列車にお別れ／台湾【観光】 2018/09/29高雄 29日 中央社）台湾鉄路管理局（台鉄）高雄駅が地下化され、10月に開業するのを前に、日本統治時代から運行され続けてきた高雄臨港線が28日を以って廃止された。周辺の鉄道路線の地下化に伴い、今後、列車が市内を走る光景は見られなくなる。同日は、午後5時近くに通過する最終列車をカメラに収めようと、大勢の鉄道ファンが踏み切り近くに詰め掛けた。 同線は貨物線として1908（明治41）年に開業した。本来、高雄港と高雄を結んでいたが、時代と環境の変化に伴って需要が減少。高雄市がライトレール化計画を立ち上げたことを受け、2008年に高雄港－前鎮車場（操車場）区間が廃止された。それ以降、残された前鎮車場－高雄の約5.4キロ区間で職員輸送列車や保守用車両のみが運行されていた。 95歳の祖父と共に訪れた鉄道ファンは、よく家族と一緒に沿線を通る列車を見たといい、「1980年代、さまざまな貨物列車がゆっくりと通り過ぎる光景は思い出深かった」と名残を惜しんだ。 （程啓峰／編集：塚越西穂）これは鈴木藤三郎が橋頭から高雄まで乗ったものであろうか？蕃人（ばんじん）と汽車　ある日、藤三郎は鉄道の工事場へ行った。そのころにはもうすでに、鉄道は八分どおりにできあがっていた。藤三郎は、その工事場から打狗港の方へ行く貨車にのった。機関車があとから押してくる。汽車がようやく速力を早めた頃、どうしたはずみか、機関車と貨車との連結が切れてしまった。「あっ！」と、思うまもなく、貨車は弦（つる）をはなれた矢のように、長い坂道をとぶようにすべりおちていった。貨車にはブレーキがないので、車をとめることができない。かえって、ますます速さが増すばかりであった。この長い坂路をくだりきった所は、打狗の港なので、矢のように走ってゆく貨車は、そこまでゆけば、とうぜん線路から海へころげ落ちてしまわなければならない。藤三郎といっしょに貨車にのこっていた車掌は、まっさおになってしまった。どうしていいかわかならいでいる間に、線路の前方に打狗の港と、青い海とが見えてきた。車掌は、「危ない、危ない。･･････社長、とびおりてください！」と叫んだ。藤三郎も、いまは、とびおりるよりほかしかたがないことを知っていた。彼は、川のようにながれ去る地面をじっとみつめて、「えいっ！」と、力いっぱいに飛んだ。線路のかたわらにとびおりた藤三郎は、腰をうちつけ、左手の骨を折って気絶してしまった。打狗の港から、このことを知った人々がかけつけてきて、骨を折った藤三郎の腕にさとうきびを二、三本あて手拭いでしばりつけて病院に運んだ。藤三郎は、「なあに、腕の一本や二本ぐらい。生命さえあれば、おれはきっとあの工場を、りっぱにやりとげてみせる。」と、痛みをこらえながら、少しも弱音をはかなかった。彼はどんなことがあっても、生命のあるかぎりは、工場のためにつくしたいと考えていた。工場こそ、彼の生命なのであった。幸いに、傷の手当てが早かったので、藤三郎は治って、かたわにならずにすんだ。こうした犠牲をはらいながら、ついに鉄道は明治三五年四月二三日に通じた。　その試運転の日、藤三郎はまだ病院にいたので、吉川氏が藤三郎に代って、汽車に始めてのった。汽車が打狗の駅をすべり出て、黒い煙をはきながらさとうきび畑の中を走り、工場へやってくると、工場の皆は日章旗をちぎれるほどに振って迎え、こんどは、みんながその汽車にのって、打狗へ行き、病院にかけこんで、藤三郎のベッドのまわりをとりまき、「万歳！」「万歳！」と、藤三郎が病気でなければ、胴上げをせんばかりの勢いであばれまわるのであった。　みんなの目にも、涙がうかんでいた。藤三郎の目にも、涙がうかんでいた。（これでいいのだ。）と工場の誰もそう思った。原料がどんどん工場へ汽車ではこばれてくるようになれば、もうしめたものだ。なんの心配もない、雨が降って現地労働者が逃げてしまう心配もない。「社長、早くよくなってください。そして、うんといっしょに働きましょう。」工場の者は、ひとつの心になって、そう言った。「ありがとう。そうだ、いっしょにやろう」藤三郎の目からも、熱い涙がほとばしり出た。工場の者が、本当にそう思ってくれているなら、鉄道が完成したことなどよりも、その気持ちの方が、よっぽどうれしいと思った。「ありがとう。やがて、わしもよくなるだろう。その時は、大いにお互いにしっかりやろう。」藤三郎は、涙でかすれた声で言った。　さとうきび畑を、黒煙をあげて走る汽車を見て驚いたのは、密林や、山に住む原住民たちであった。「何だろう？あれは。」と、びっくりしてしまった。彼らは、機械で走るものを見るのは始めてであった。樹木のあいだから首をのぞかして見ているが、汽車が風をまいてゴウゴウというひびきで近づいてくると、後をも見ずに逃げてしまう。そのうちに、彼らの中の勇かんな酋長（しゅうちょう）のひとりが、その怪物にのせてほしいと、工場にたのみにきた。「それはおもしろい。乗せてやろう。」と、藤三郎は喜んで、その酋長の申しいでを承諾した。いよいよ、その酋長が汽車にのる日、多くの蕃人たちは、酋長と一しょにやってきた。酋長は裸の身体に、きれいな蕃衣（ばんい）をつけて、あたりをにらみ廻すようにいばっている。やがて、汽車のしたくができると、酋長とそれから四五人の蕃人が、おそるおそる座席に腰をおちつけた。汽車は動きだした。それがしだいに速力をはやめて、窓から見る風景がとぶように後へ走り過ぎると、蕃人ちは、酋長も一緒になって、「きいっ！」というような、ヘンな叫び声をあげたかと思うと、床板にうずくまり、一心にお祈りをはじめた。彼らは、こんなに速く地上をとぶものは、どうしても、なにか魔物にちがいないと考えたのである。彼らが熱心に祈りを叫んでいるうちに、汽車は打狗に着いてしまった。「さあ、もう打狗に着いたから、お前たちはおりるんだ。」と、いいきかせると、目をきょろきょろさせて、あたりを見回していたが、こんなに早く着くはずがない。嘘だ。と言って、どうしてもおりようとしない。しかしよく気をつけて、打狗の町や海が窓のそとに見えるのに気づくと、彼らは狐につつまれたように、ぽかんと、長い間お互いに顔を見あわしているのであった。このことが、蕃人の間に噂になってひろがって、それでは、いったい、その怪物はどれだけの力があるのか、ひとつ力くらべをしてみよう、ということになった。　そして汽かん車と綱引きをしたいと申しこんできた。藤三郎はこれには呆れてしまったが、おもしろいのでやらせた。日をさだめて、綱引きをすることになった。その日になると、まわりの山からは、数百人の蕃人が山をくだって見物にきた。藤三郎は、この蕃人たちが、あの鉄道をしいている時、自分たちの命をねらっていたのかと思うと、ヘンな気がしたが、蕃人たちはひどくむじゃきにそんなことは少しも考えていないようであった。蕃人の中から、力じまんの若者が三、四十人えらばれて、綱をにぎった。汽かん車の用意ができて、白旗がふられると、「うんしょ」「うんしょ」と蕃人の若者たちは、顔を真っ赤にし、全身に汗をふきながしながら、力みかえるが、とても汽かん車にかなうはずがなく、やがて、バタバタと前のめりに倒されてしまった。ひっぱっていた若者たちは、汽かん車のものすごい力に驚いたが、見物をしていた蕃人たちは、その若者たちよりも、もっと驚いてしまった。彼らはまさか若者たちが負けるとは思っていなかったのであった。ついに、彼らはカブトをぬいでしまった。そうしてこうしたものを動かす日本人はえらいと言って、それからは日本人を神様のようにして、首狩りをするようなこともなくなった。　そうした原住民たちが、汽車と同じように、それよりももっと驚かされたのは、工場の電灯であった。原住民は、彼らの迷信から、首狩りなどをするのであったが、よく日本人になれた蕃人は、非常におとなしかった。

  2018年09月30日

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  余は何故に六十歳を以て実業界を去るか 　　日本醤油醸造会社社長　鈴木藤三郎

  余は何故に六十歳を以て実業界を去るか　　　　　　　　　　　　　　日本醤油醸造会社社長　鈴木藤三郎　　▽老後にまとう袈裟衣　余は今日社会に対して一の約束をしておく。余は６０歳を一期として断然実業界を去り袈裟衣に身を固めて、一生を天下の布教に暮らそうと決心している。今日においてこんなことを口外するのは、甚だ突飛にも似て、虚言と言わんよりもは、むしろ馬鹿馬鹿しく聞えるかも知れぬが、余は確固不動の決心がある。しかしそれまでの寿命なくんばすなわち止む。いやしくも然らずして命長らえたらんには、必ずや初一念を貫徹して、余が言の虚偽ならざる事を証明する覚悟である。　一体、どうして、そんな考えを起すに至ったか。この事は久しき以前よりの余が希望で、そもそもまた少年時代より種々の境遇におり、さまざまに思想の転変したる結果、遂に余が一生の事業として、ここに帰着するに至った所以である。　　▽餓鬼大将から金儲主義　余の郷里は静岡県、生家は極めて貧困であった。従がって少時より生計の手助けとなっていろいろの仕事を為し、１３歳の頃より駄菓子を背負うて付近の田舎に商いしていった。しかし、貧困の癖に格別家業を励むでもなく、常に金持の息子共を捕らえては喧嘩を吹きかけ、始終餓鬼大将となって方々を暴れ廻ったものである。　無論、喧嘩には負けたことはない。いつも相手を泣かしては意気揚々と引き揚げてはいたが、何分先方は金持のことでもあり、親たちからの苦情が厳しく、親が折れて出なければならぬという具合で、結局自分は常にたしなめられておったようなものである。で、子供心にも貧乏人というのが残念で堪らず、貧乏人の子と嘲られるのが口惜しくて、その為に喧嘩したことがしばしばある。なるべく貧乏人と云われたくない。自分の見すぼらしい姿を人には見せまいと、田舎商いに出かける際には、朝早く霜を踏んで出で、帰りはいつも日暮頃になって家に戻る。あえて家業に精出すという意味ではなく、ただ天秤棒姿を見られるのが忌々しく故で、ある時はわざわざ日暮れを待って帰ったこともある。　要するに貧乏なるが為にいろいろの侮蔑を受け、又様々の迫害をも蒙った。その結果どうかというと、金持は善いもの、貧乏人は詰まらぬもの、何でも金を沢山貯めねばならぬ。金持にさえなれば人間はえらくなれる故、金さえ儲かったら手段の如何は更に問う必要はない、と深く信ずるに至った。かく信ずるに至った後は、余は金儲主義の人物となって、駄菓子屋商をやめて茶業を始め、その他いろいろの事業にも手を出して、ひたすら金儲けのことにのみ腐心しておった。　　▽尊徳翁の教えに迷う　然るに余が２２歳の時、一日ふと二宮尊徳翁の話を聞いた。尊徳翁は余程徳のあるえらい人とは思ったものの、自分の考えとは全然主義を異にしているので種々なる迷いが起きて来て、非常の煩悶に陥った。　それで、その事についていろいろ人とも議論を戦わし、さまざまと研究をして見たが、どうも尊徳翁の主義が腑に落ちぬ。やはり自分の考えがよいものと、相変わらず金儲け一方で働いているうちに、翌１０年の１月1日に至って釈然として翁の主義が解って来たと共に、自分が是までの考えが間違っておったことを悟った。人は金を儲けるだけで決してえらいものでない。金儲けには正当の方法に拠らねばならぬもので、不正のことをしてはよろしくない。不正の金は不浄である、ということをその時初めて知って覚えず冷や汗を催した。あたかも好し、時は正月元旦である。これより生まれ変わって新生面を開かんと翻然自己旧来の考えをなげうって、翁の教えに依拠して世に立たんと決心の臍（ほぞ）を固めると、早や心神爽然として、何とはなしに愉快でならぬ。　その後３２歳まで国元でいろいろの事業に携わり、幾分生計の余裕も出来たので、いよいよ上京するに至った次第であるが、さてひそかに自己の過去を省みると、尊徳翁の教えを守って以来は、心中一点のやましい所は更に無い。人より見ては無論とにかくの非難は免れ得まいが、自身においては大分人間らしく成ったつもり、正々堂々あえて少しも間違ったことはせぬつもりである。　　▽余命を公共の為に捧げん　余はこれまでいろんな事業に手を出した。種々の発明をして精糖の事もやって見たし、今は現に醤油の醸造に従事している。一通りの財産も造ったが、尊徳翁の教えに従ってからは決して不浄の金は貯めぬということを、ここにこれを公言してはばからぬ。しかし余は単に金を儲けるのみが終生の希望では決してない。儲け得たる金をもって、社会公共の為に尽したいというのが、余の一生の目的である。それ故、余は財産の全部を挙げて子孫に遺そうという考えは更にない。資産の三分の二を割いて子孫生計の資に当て、残り三分の一を以て思う存分、自分の志す事業に努力したいと考えている。　それについて一つ深く感じたることは、今日言論の自由ということを何んでもないように人はいうが、なかなか以てむつかしいもの、いろいろの事業に関係しておっては、その事業の為に制御されて、真に自己の意志を透徹し、その主張を実行することは覚束ないものである。他より何等の制限を受けることなく、全然自己の自由に任せて飽くまでその志を貫かんとするには、どうしても社会の事物と全く絶縁しなければ、むつかしいといわんよりはむしろ不可能のことである。それで余は６０歳を一期として断然実業界を去り、すべての関係を打ち捨てて社会の俗事と何ら交通もなき者になりたいと思っている。　然らばなぜに６０歳で隠退するかというと、これにはいささか理由が存する。昔より６０歳を還暦と称し、人の寿命は６０歳を限りとし、６０に至って暦は再び元に帰ってその後の命は人間の儲け年としてある。寿命だけは働かねばならぬ。人間の尽すだけでは尽して天命を全うした上で、余命を携げて社会公益のため、世道人心の救済に一生を終わろうという希望に外ならぬのである。　　▽自ら放言居士と名乗らん　さて然らば社会の俗事と全然絶縁して自由の身となるには、どうすれば一番都合がよかろうか。これには断然浮世を見捨てて、坊主になるのが何よりよろしい。それで６０歳を一期に弥々坊主となった暁には、前にも一寸言った通り、財産の高がいかほど有ろうと、その三分の一は必ず割いて、その内幾分を以て放言寺という寺を建立し、残部をその維持費として一文なりとも他人の世話にならぬ決心である。そして自ら放言居士と名乗って、フロックコートに袈裟を纏ひ、家事には一切容喙せず、無論、その時には妻を持たぬ。全く生れ変った一個の風来坊主として立たんと思う。この考えは、余が３３歳の時に既に起り、深思熟慮の結果に出たるもので、曾（かつ）て自ら６０歳以後のことを想像して描いた絵がある。ここに掲げてあるのが即ちそれで、これも他人の世話にならぬという考えから、自分で多少絵画の心得あるまま、自身で描いたものである。（※）　それで大体の計画をいって見ると、６０歳にして実業界を去り、後の５年間は、家政の整理や、寺の建立やその他の準備に費やして、６５歳より弥々放言坊主となって二宮尊徳翁の提灯持をするつもりである。翁は実に余が一生の最大恩人で、余が今日人間らしい者になったのは、全く翁の御蔭であるから、その御恩返しに是非それをやらねばならぬ。余は幸にも翁の教えを奉じて不正の富はなさなかったが、余が布教の資金にしてもしも不浄金であったらば、いかほど高尚なことを説き、いかに人に恵んだからとて、決して人を感化することは出来ぬ。この点においては余は自らの幸福を喜んでいる。また深く翁に謝さねばならぬ。　　▽金を施して教えを布めん　今日仏教や耶蘇教などの坊主のやっていることは、余は甚だ面白からず思っている。彼らは説教を聞きに来る善男善女の喜捨を仰いで暮らしているではないか。そういうことではよろしくない。余は貧乏人には金を恵んでまでも布教するつもりである。いかにマヅキ余の説教でも金を呉るれば自然人も多く集まり、勢ひ汎（ひろ）く教えを弘めることとなって、余が目的を達する上に非常に効果があると信じている。　こういう風に、フロックコートに袈裟姿の一種変ったいでたちで、放言居士の名乗りを掲げて、独立独歩聊（いささ）かも他人の厄介とならず、他人の喙（くちばし）を容れしめずして、自己の信ずる通り、二宮尊徳翁の報徳教を奉じて汎く天下を行脚し、悪いことをしたり放浪している人物などを救い出し、堕落せる人、迷える者は引き上げ人間の正道につかしめ、共に幸福を喜びたいと希望している。　　▽天下の老人に望みたい　それがためには第一に身体の健全を図らねばならぬ。万端の準備みな整うて弥々坊主となった所で、寿命がなくば折角の希望も水の泡、尊徳翁に報ゆることは出来ない。それで、今よりその心掛を以て常に身体の鍛錬に努め、毎朝必ず冷水摩擦をしている。どうしても隠退後２，３０年は生存せねば十分にその目的を貫徹することが覚束ない故、それまでは是非長らへていたい。また自ら必ず長らへるつもり、前途の光明をおうて平安にその日を送っている。今日なほ俗界の事業に携わっているが故に、何人も真面目にこれを信ずる者はないが、遠からず余が言の虚偽ならざりしことが現れて来ると、深く自ら期する所がある。敢て世評に心を動かすに当らぬと思ふている。かかることは老後の事業として最も価値あることではあるまいか。かつて「実業之世界」に老人は６０にして退隠すべしといふ記事があったが、余は大いに之に賛成する。願わくば天下の老人諸子「四時之序成功者去」の意を翫味して徒らに後進者の御節介のみをせず、皆かくの如き決心と、かくの如き抱負とを持して、社会民衆のために尽力せられんことを切望する。自分は只その標本となりて、偽りなき心事を示さんといふに外ならぬのである。（「実業之世界」明治42年１月１日号）

  2018年07月06日

• 山本君と英国の見聞及び将来日本の事業の前途等に付ついて談話せり

  2015年10月07日 鈴木藤三郎「米欧旅行日記」32　 9月24日　イギリス内地旅行九月二十四日　晴　〔英国〕内地旅行発足午前九時今井氏と両人にてハムステツト・パウラメントヒル１６チヤプマン方を出発して、内地旅行の途に就く。ロンドンセントパンクラスステーションより午前十時五分発気車きしゃにて午後一時ダービー〔Derby〕府に着す、同地シツドランドホテルに投ず。是より中飯して同所精糖器械製造所ジヨージユ・フレツチヤー工場へ行いき、作製所さくせいしょを回覧して午後六時帰宿せり。此この夜、同工場技師ダブリー・スコツト・ヘリヲツト氏来きたり、同氏案内にて市中を見物せり。九月二十五日　雨降り　午前九時よりジー・ハスラム・フワウンドリー及びインジニヤーリング会社（蒸留じゅうりゅう器械きかい製造所　永久スチール）に行いき、蒸留じょうりゅうスチルの製造工場を見る。工長案内して最も懇切なり。是これより正午十二時同地を出発して午後一時ヴアシンガム〔バーミンガム〕に着し、クインスホテルに投ず。茲ここに中飯して直ただちに同地（パイプ捻ねん切きり器械きかい及びバルブ）製造所チヤーレス・ウイン及びコンパニー工場に行いき、場内を見物せり。亦ヱス・ヱー・ダニエル工場へ行いき、捻ねん切きり器械きかいを見る。是これより直ただちに帰宿す。午後五時三十分なり。 此このとき、ホテルにて山本やまもと達雄たつお君に面会す。 （同氏は外二名を伴ひ本日二時に投宿と云いふ）亦また平岡ひらおか実じつノの助すけ氏も当ホテルにて面会せり。此この夜山本・平岡氏と四人にて市中を散[歩]す。2015年10月08日鈴木藤三郎「米欧旅行日記」33　 9月25日～２７日 バーミンガムで山本達雄氏に会う九月二十五日　雨降り午前九時よりジー・ハスラム・フワウンドリー及びインジニヤーリング会社（蒸留じゅうりゅう器械きかい製造所　永久スチール）に行いき、蒸留じょうりゅうスチルの製造工場を見る。工長案内して最も懇切なり。是これより正午十二時同地を出発して午後一時ヴアシンガム〔バーミンガム〕に着し、クインスホテルに投ず。茲ここに中飯して直ただちに同地（パイプ捻ねん切きり器械きかい及びバルブ）製造所チヤーレス・ウイン及びコンパニー工場に行いき、場内を見物せり。亦ヱス・ヱー・ダニエル工場へ行いき、捻ねん切きり器械きかいを見る。是これより直ただちに帰宿す。午後五時三十分なり。此このとき、ホテルにて山本やまもと達雄たつお君に面会す。（同氏は外二名を伴ひ本日二時じに投宿と云いふ）亦また平岡ひらおか実じつノの助すけ氏も当ホテルにて面会せり。此この夜山本・平岡氏と四人にて市中を散[歩]す。 九月二十六日　小雨降、午後晴 午前九時よりヴワミンガムマーチニユー及びスミス会社（ヴァルブコック便器）工場へ行いき、場内を見物す。是これより（設計家）イブン及びミツトン氏事務所に行いき、スパイキ及および洋釘ようくぎ製造の機械図面並ならびに説明を聞く。是これよりアレン・イブリット会社行にいき（銅真中管製造所）工場長案内にて製管場を見る、実じつに此この工場の規模盛大なる、器械きかいの完全なること吃驚びっくりせり。午後一時帰宿す。此この日土曜日なるを以もって工場は午後より皆休業なり。此この日朝、山本氏一行はセツフルへ向ひ出発せり。午後二時より今井氏と市中を散歩見学せり。九月二十七日　月曜　雨風　午後十二時十五分ヴァーミンガムを出発し、午後四時十分リヴワープールに着し、ライムスツリート・ステーション近きノースウエスタアンホテルに投ず。この夕、海岸ハトバを見物す。2015年10月08日 鈴木藤三郎「米欧旅行日記」34　 9月28日～29日　リバプールでボース名誉領事の誠意に感じる九月二十八日　晴　午前九時より当府ブレスノース・ロードジヱームス・ブカナン会社に行いき、事務長に面す〔面会〕して、同所工場を見物せり（骨灰こっかい再焼器製造器）、本日は社長ブカナン氏不在に付つき、後日面会を約して帰る。午後一時よりデエルスツリート十一番地の日本名誉領事ジヱー・エル・ボース氏に面会す。茲ここに外務省藤井君の添書てんしょを渡す。ボース氏最も懇切にして直ただちに製糖所え電話を以て見物許可あらんことを照会す。是これより書記官ヱチ・ウエブスター氏を案内として、電気鉄道に乗り、当地有名なるドック数ヶ所及びハトバ倉庫等を見物す。而しかして午後五時ホテルに帰る。此このときジェムス・バカナン会社の事務長来訪ありて、ブカナン氏と明後みょうご朝ちょう会合の約束をなす。九月二十九日　小雨降午前十時日本名誉領事ボース氏館に行いき、同氏に面会して是これよりボース氏の厚意を以もって書記ウエブスター氏を案内として、地下鉄道に乗込、ポートサンライスワークス工場に行いき、（シャボン）製造を見る、（此この工場は八年前の創設にして規模の広大なること世界第一のシャボン工場なりと云いふ。職工凡すべて二千人許ばかり、器械きかいも皆新式を撰えらみ、亦また工場構内こうないに小学校を設もうけ、職工の児童二百余名就学せり。此この外ほか職工の住家として数百戸の家屋を築設あり、一日の製造高四百噸トンなりと云いふ）、是これより午後三時リバプールに帰り、中飯して亦またリヴブルのグロスヒルド・ヴアロ会社（精糖所）に行いき、是これ亦またボース氏の紹介なるを以もって工場の縦覧じゅうらん〔見学〕を得たり。此この会社にて一日の製糖高二百五十噸トンと云いふ。是これよりボース氏館に帰り主人に謝辞を述て帰宿す。午後六時なり。（因ちなみに曰いわく名誉領事ボース氏は余輩よはいの初しょ面会めんかいといえども極めて深しん切せつに、且かつ製糖工場視察に至りては、何いずれの製糖家も日本人に縦覧じゅうらんを拒こばむも、同氏特に周旋しゅうせんして漸ようやく見ることを得たり。実に此この名誉領事は任を全まったくするの精意〔誠意〕に感ぜり）。 １　名誉領事とは、自国の領事使節が派遣されていない国において、自国及び国民の利益の保護及び外国との文化交流の促進などを図ることを目的として、領事業務を委託するために派遣先国民を任ずる官職、または贈呈される称号。2015年10月08日 鈴木藤三郎「米欧旅行日記」35　 9月30日～10月1日　ベガナン氏と4時間議論する九月三十日　晴はれ　午後九時よりプリンス・ロード五番地ジヱムス・ヱル・ボース氏の自宅に行、同氏の丹精たんせいにて先年より此この所ところには日本古来の絵画其その他た珎器ちんき〔珍器〕・陶器・刀剣等我等われら日本人にも珎めずらしき美術品已而のみ夥か多た〔おびただしく〕陳列ちんれつありて、此この海外異域いいきにありて如此かくのごとき名品を見る、意外の感あり。以てボース氏の日本美術を愛するの深きこと推心すいしんするに足る。是これより十一時ジヱムス・ベカナン工場へ行いき、主人ベカナンに面会して精製糖器械きかいの図面及び説明を聞く。午後三時同氏と共にホテルに帰り、是これより精糖器械の設計上に付きて余よとベカナン氏と義論ぎろん〔議論〕すること七時迄まで。此このとき今井氏通弁つうべん最も勤つとめたり。於是ここにおいて互たがいに要領ようりょう得をえ、而しかしてベカナン氏は尓来いらい〔以来？〕二週間内に製品及び見積書ロンドンの我等われら下宿げしゅくに送ることを約せり。是これより当ホテルでベカナン氏と三人で夕食す。是これより同氏帰宅せり。十月一日　晴　リヴアーブル発　午前九時ボース氏館に行いく。同氏面会して此この頃ころ中ちゅうの厚意を謝す。是これより十一時十分発気車きしゃにて正午十二時マンヂヱスター着、クインス・ホテルに投宿す。是これより当所セーモアロード二十四番地シユガテン雑誌社社長エドワアド・サツトン氏自宅に行いく。主人不在に付つき、是これよりガローエー会社に行いく。主人に面会して気き缶かん〔ボイラー〕の直積ねつもり書しょを受取うけとる。而しかして同社の気き缶かん製造工場を見る。実に大規模の工場にして、毎日大たい気き缶かん数個を製造すと云いふ。是これより直ただちに帰宿す。午後六時なり。 １　鈴木藤三郎は、後に日本精製糖会社に鈴木鉄工所を設置し、精製糖に必要な機械を発明・製作するに至っただけあって、米欧旅行において精製糖機械については感心することは少なかった。九月三十日はベカナン氏と四時間議論し「互いに要領を得た」とある。後に藤三郎は米欧旅行で発明家として着想を得たものとしてボイラーを挙げている。「氏曰く『私がボイラーを研究して見ようと思った動機は、十数年前製糖事業視察の為め欧米巡遊の際、フト考えた事から起こったのである。米国のある砂糖製造会社を参観するうち、ボイラー室を見ると、八フイートに三十二フィートのボイラーが百二十本ずつ水平に三段に積み上げてあった。何事にも世界一だといばる米国の最大工場だけあって、その壮大なるありさまには、私も少なからず驚いた。しかしこれを修繕その他の事情のために一部分取りかえる場合にはどうするだろうと疑った。面積を節するために水平に三重に積んだのは知恵の無い話である。竪（たて）に置いたならよさそうなものだと直感した。しかし私の研究目的は外にあったのみならず、その時までは別にボイラーについて考えた事もなかったので、そのままにして英国へ渡りましたが、何となく片心（かたごごろ）にかかってそれから方々でボイラー室を気をつけて見ることにした。ちょうどその頃はバブコックウィルコックスのボイラーの売出時代で、マンチェスターでその社の技師にも逢ってみたが、新規なものにはとにかく手を出さないで困ると言っていました。　それから帰国の道すがらよくよく考えてみるに、自分はボイラー屋では無いが、乾燥屋である。乾燥の装置ではひそかに一人前であると信じている。熱をほどよく使うという事については決して素人（しろうと）では無い。ボイラーだって原理は単純である。水に熱を加えて膨張せしめるについて、最も有力に最も経済なるもの、すなわち好個のボイラーであらねばならぬ、帰ったら一番ボイラーを製（つく）って見ようと決意した。」（『工業日本』九巻第六号四四頁「快人快語」より）2015年10月08日 鈴木藤三郎「米欧旅行日記」36　 10月2日～10月4日　日本人は既に紡績業で英国を圧倒した工場見学は断る十月二日　曇午前十時シユガケン〔砂糖きび〕雑誌社々しゃ長ちょうヱドワード・サツトン氏来訪に付つき、面会して、同氏に精糖せいとう器械きかい製造所の最も有名なる工場及び精糖家の景況けいきょう等とうを聞きく。同氏懇切に是これ等らの問といに付て自分の所説を述ぶ。是これより数通の紹介状を同氏に得る。是これより当所サルホード街シツト・ヱンド・ガローエー会社（精製家）に行いって、工場の見物を乞こふと雖いえども当社々しゃ長ちょう曰いわく日本人は既に紡績ぼうせきにて英国を圧するの進歩あり。亦また製糖業も将来如何いかなる度迄まで英国えいこくの強敵ならんも不計はからず。依よって工場の縦覧じゅうらんは断然拒こばむと云いふにより、於是ここにおいて我等われら種々製糖業は紡績ぼうせきの比に無之これなく、直接間接と云いうも日英間に利害なき理由を説くと雖いえども頑がん然ぜんとして不許ゆるさず。不得止やむをえず当所去さって是これより気車きしゃにて近在なるハイド村に行いき、チンカー・シエフトン会社（気罐師きかんし）に行いき、工場を見物せり。是これよりダキンフヒイルド村に行いき、ダニエル・アダムソン会社（気罐気械きかんきかい）に行いき、工場を見物して、当社の見積書を受取うけとる。此この工場は当所にてガローヱーの第二に位くらいする最も盛大なり。是これより気車きしゃにて帰宿す。午後五時三十分なり。十月三日　曇午前十時よりグリイン・エンドソン（エコノマイザー製造所）会社に行いき、図面及び説明を詳聞しょうぶんす。是これより（ボールト、ナット器械きかい製造所）サミヱルマースデン及びソン会社へ行いき、ボルトナット製造工場を見る。此この工場は最も盛大にして職工数百人を使用せり。其その内うちスクリウ器械きかいに使用する職工は多く女子なり。余輩よはい当国に渡来とらい以来、鉄工場に於おいて女工を見ること此この工場に於おいて始めてなり。実に英国人の職業熱心なる、女子と雖いえども男子に不譲ゆずらざること往々おうおう如此かくのごとし。是これより帰宿す。此この日ひは土曜にて各工場午後より休業す。依よって此この日ひ午後五時発気車にてマンヂヱスターを出発し、夜十一時三十分（グラス・ゴー）府に着して、セントラルホテルに投ず。十月四日　日曜　曇り小降此日は例の休業なるを以もって他出の要なし。依よってホテルにて是迄これまで各工場で受取うけとりたる機械の積り書及び説明書を取調とりしらべる。2015年10月08日鈴木藤三郎「米欧旅行日記」37　 10月5日～10月6日　山本達雄と将来の日本について議論する十月五日　曇午前九時発気車にてグラスゴー府のセントラル駅を発し、同十時グリーノツク市に着し、ジヱー・アール・ヒユストン（製糖器械製造所）に行いき、主人に面会して渡辺わたなべ専せん二郎じろう氏の添書てんしょを渡す。是これより都すべて製糖器械の図面及び製造工場を見る。亦また主人案内にて当所精糖会社ジーブリウワアスシユガコンパニー工場に行いく。社長懇切に案内して精糖工場内を逐一ちくいちに説明せらる。而しかして亦またヒユストン氏事務所に帰り、於是ここにおいて同氏の設計に係る器械数種の積り書を注文して、午後四時発汽車に乗じ、同五時グラスゴーホテルに帰る。是より明日当所之の工場縦覧じゅうらんの選択をなす。（グリイン・ノート）、気候は大おおいに寒く華氏かしの四十二度ど〔五・五度Ｃ〕以下なり。此夜山本やまもと達雄たつお君・通弁二名当ホテルに着す。十月六日　曇　午前九時当府ダンタス街九十八番地のワツソン・レードロー会社（分ぶん蜜器みつき電業）に行いき、社長に面会して同工場を見物す。此この会社はセントリヒウガル器已而のみを製造する専門家にして、工場には数百人の職工と都すべて特別之の機械を使用せり。是これよりマクヲーニー・ハアビー会社（製糖器械製造所）に行いき、社長案内して工場を見る。是これ亦また盛大なり。是これよりロンドンロードなるダンカン・スチワード会社に行いき、スチワード氏及びダンカン氏に面会して製糖器械設計に付つき、大おおいに研究せり。而しかしてダンカン氏案内して同工場を見物す。是これ亦また大規模にして盛大の工場なり。是これより直ただちに帰宿す。此この夜山本君と当市中を散歩す。而しかして九時ホテルに帰り、同喫煙室に於おいて山本君と英国の見聞及び将来日本の事業の前途等に付ついて談話せり。夜十一時寝しんに就つく。１　山本達雄氏と将来の日本の前途について、どんなことを話したのだろうか。以下「二宮尊徳先生と余が欧米観」より。▲英国観　米国においてほとんど絶望的の闇黒（しっこく）に蹴落（けお）とされた余は、英国において救い上げられて、ようやく一道の光明を仰ぎ見ることができた、と言ったばかりでは分からぬから、追々その理由を説くことにするが、さて余はリバプールからロンドンへ上って、まず奇異の感に打たれた。英国は米国と変わって家屋の多くは四、五階で、外見もレンガも燻（くすぶ）っている。それはまだ良いが、世界第一の都会たるロンドンの市民が、ぐずぐずせるがごとき有様であるのには、むしろ一驚を喫せざるを得なかった。ところが英国市民の偉大な点は、実にその理論に潜んでいることを発見した。早い話が、家は燻（くすぶ）っていても、内に入ると、グワンとしたもので、器物などは非常に良く行き届いている。いわば英国は正味（しょうみ）の国で、単にそれが住宅の点において現れているのみならず、その産業を見ても、その工業を見ても、皆なその通りである。それから余はいささか考うる所があって、都会を去って、田舎に行かんと思い立ち、通弁を雇って北部スコットランドへ行き、そこに三か月ほど滞在した。その中に余は英国の偉大なる所以（ゆえん）を事実によって教えられた。工業において英国は米国と同じくやはり大工場的で経営しているのであるが、ただ英国は二宮先生のいわゆる小より大に及んだものである。これを具体的にいうと、英国における多くの事業は初め一人が小さい規模で起して、それが次ぎの代には、父子合名会社となり、漸次（ぜんじ）大きくなって合資会社となり終には株式会社となったもので、たいてい三十年四十年と歳月を経たものである。建築もまたその通りで、一として歴史が残っていないものはない。その歴史が実に英国人の誇りで、互いに祖先の苦心経営を以て自家の光栄とするものである

  2018年07月05日

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  一世紀の時を経ての　大発見　「福寿界無量の功徳(くどく)有難や母の為とて建てし御仏（みほとけ）」

  2011年07月18日 始発の電車で　静岡県の森町に向かった。森町の観音様に参拝するためである。遠州森駅の一つ手前　綿駅に　森の元気屋さんが　待っていてくれた。駅には　森ホタル　の　竹で組んだ　燈篭（とうろう）　があり、それを見せたかったということだった。その後、森の元気屋さんの案内で　かつて　森町報徳社（報本報徳社本社）の講堂が　かつてあった　駐車場まで行った。ここは森町の観音様のある　庵山（いおりやま）　の麓にある。台湾の　手配を全てやってくてた　サミーさんが待っていてくれた。台湾の台北空港で別れた以来で　サミーさんは台北からマレーシアにビジネスでいったので久しぶりの　懐かしみがある。そこにSさんと　Kさん　が車でやってきて　挨拶をかわす。皆で　和気あいあい話しながら　観音さま　の鎮座する　小山へ登る。 森の元気屋さんが　線香を　サミーさんが　風除け付きの　ライター　を持参し、森町の観音様に　線香をあげ　観音経を一巻全部　読誦して　礼拝する。その後、鈴木藤三郎のお墓に参り、森の元気屋さんが「ちょっと寄っていきましょう」と　随松寺の和尚さんにご挨拶する。その後、お寺の裏手にある福川泉吾氏の墓に小坂を登って参る。藤三郎と泉吾さまは　一緒に周智農林学校を創立した。そして今でも学校が見わたせる場所にある。「森町で一番大きいお墓かね」サミーさんが、「校庭からも　ここのお墓は分るんですよ」と言う。その帰りの下りでのことである。森の元気屋さんが　「ここにも観音とある」と大きな声を立てる。「延寿観音とある。藤三郎が建てた観音様の名前だ」と叫ぶ。そう、現在、福寿観音といいならわされているが、藤三郎は母のためのこの観音様を建てて「延寿観音」と名付けたと　子息鈴木五郎氏の記述がある。開眼には当時の曹洞宗の管長が来て、藤三郎の親孝行に感動して歌を読まれた。その歌の碑もまた　「延寿観音」の由来の碑の隣りにあった。製作が「鈴木鉄工部」ともあった。五郎氏の記述の正確性を裏付ける第一級の第一次史料である。「願主は　鈴木安」とあり、「鋳造　鈴木藤三郎」とある。願主鈴木安｢鈴木藤三郎伝」とあわせると、養母鈴木やすが　藤三郎の実母の供養のために　建てあわせて　養母の延寿の願いという　二人の母への感謝の気持ちがこもっていたのであろうか。一世紀の時を経ての　大発見といえる。「何か　観音様に　導かれた　ようだねえ」と感動することしきりであった。 生母と養母「鈴木五郎伝」２１１ページ明治３４年(1901年)に、藤三郎は鈴木鉄工部で、観世音菩薩の銅像を４体鋳造させた。この原型は大熊氏広氏の作ったもので、御身の丈（たけ）は１丈にあまり、眉間（みけん）の白亳亳（びゃくごう）は藤三郎の金のカウス・ボタンを鋳潰して入れたものである。このうち一体は郷里森町の菩提寺のある一藤山(いっとうざん：森町では庵山と呼ばれている。)に、一体は養母やすの隠棲する鎌倉の別荘に、一体は東京市深川の日本精製糖会社裏にある本邸の庭に、あと一体は翌年８月１５日に台湾の橋仔頭（きょうしとう）工場の構内に建立(こんりゅう)した。この４体は、ほぼ向かい合って建てられていた。森町の一藤山へ建てたのは、実母ちえの７回忌追福のためであった。当時の曹洞宗の管長西有穆山（にしありぼくざん）が、　福寿界無量の功徳(くどく)有難や　母の為とて建てし御仏（みほとけ）という御詠歌を作って、福寿観音と称して、今でも同地方の霊場の一つになっている。

  2018年07月04日

• 私（陳先生）は彼ら（訪台三人衆）の台湾訪問を見守り重視しています。 なぜならば、 彼らは歴史を書きこれらを蘇（よみがえ）らせています。」

  2011年07月18日 日本女子サッカー世界一　と　歴史がよみがえる日今日は　始発の電車　で　静岡の森町　に出かけた。てっきり　青春１８切符が　使えるとばかり　思っていたら　7月20日から使用可能と　駅員さんから　云われ　切符の表示にある　一番高額の１６４０円の切符を買って精算することにしてホームへ降りた。ホームでは　携帯の　ワンセグでテレビを観戦している若者がいた。アメリカに後半１点　入れられた　ところであった。ああ、勝てないのかな　と思いながらも　入線してきた列車に乗り込んだ。メールで静岡に住む友人のH.M君に「会える？森町にいける？」とメールを送ったが、しばらく返事がなかった。静岡に近づいたころ返信があった。「すみません。別室で女子サッカーを見ていてメールに気がつきませんでした。　森町にはご一緒できませんが、駅で途中下車していただけるなら改札口で待ってます。　森町にはいけないので、そのまま通過していただいても結構です。」とあった。H.M君とは、5年前東京の上野公園で再会して　銀座のライオンで　生ビールを飲んで以来、5年ほど会っていない。せっかくだから　会わない　手　はない。開札口で　待っていてくれて　手を挙げて合図してくれる。車で　コーヒーでも　飲めるところと　道路沿いの　コメダコーヒー店に入る。静岡で　数店舗　あるという。ここいらは名古屋の影響があるのだろうか　モーニング　が充実しているように思った。持参してきた　台湾の自由時報の新聞記事を見せて　台湾旅行の話をする。駐車場に車をとめてドアをしめながら　H・M君が言った。「興味ないかも知れないけど　女子サッカー　優勝したよ」「えー、ちっとも知らなかった。電車に乗る前、後半２３分か１点取られたところで、その後知らなかったんだ。何対何？」「2対２の同点で　最後　ＰＫ戦の末３対１　」「すごいね!!!」森の観音様に　参った日を思い出すとき、きっと　あの女子サッカーがアメリカを破って優勝したあの劇的な日として思い出すことだろう。そしてそれは　１００年の時を　経て　鈴木藤三郎　が　森町に建てた　観音様の　由来が分る　第１級の史料といえる　「延寿観音」の碑に　光があたった　歴史的な日でもあるのである。台湾で　私たち日本から訪台した３人について　案内してくださったC先生が　Rさんにこんなメールを寄越したという。 「私（陳先生）は、いつもお二人さんのブログにアクセスして内容を読ませて頂いております。現在忙しく自由時報の記者S氏にあなた達が橋仔頭に来た記事を翻訳しています。彼ら（お二人さんを指して言う）は書けば書くほど、どんどんと多くなり、まるで本を書いているように何章かに分けられています。私が彼らが荷物を預けるときに朝まだ早いうちにアイスクリームを買わされ食べたことを読んだとき、はっと悟りました。このような交流も面白いではありませんか。事実私は彼らの台湾訪問を見守り重視しています。なぜならば、彼らは歴史を書きこれらを蘇（よみがえ）らせています。」講演会には皆さんにこのことを伝えておきます。

  2018年07月04日

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  鈴木藤三郎の事業は地元森町の事業者と報徳社の協力で生長したのであり、 森町の偉人として　世に出たことは誇るべきことであることかもしれない。

  2011年07月18日森町の訪問で　初めて　福川泉吾氏の　お墓参りができた。福川泉吾氏は森町の富豪で、鈴木藤三郎が　氷砂糖の製法を発明しその工場設立の資金を快く提供したのが、地元の富豪　福川泉吾氏である。泉吾さま　と地元では尊敬されていたが、その家は藤三郎の菓子製造の家の数軒先にあった。おそらくは　泉吾さまは　5年間で売上げを１０倍にした　若い藤三郎の勤勉ぶりを、奥様から聞いていたのであろう。藁にもすがるような藤三郎青年の訴えに熱心に耳を傾け、融資を即決する。福川家の墓域には中央の墓をはさんで同じ大きさの大きな泉吾さまとその奥様のお墓があった。そこで私たちは　きっと藤三郎青年を応援し、陰で支え続けたであろう　泉吾さまの奥様にも同じように線香を捧げたのであった。鈴木藤三郎が　氷砂糖工場を運転するにあたって　運転資金を提供したのが　森町報徳社である。そのことを　「鈴木藤三郎氏第３集」の序文で、報本社史料を解読された山中先生が指摘されている。「藤三郎は２１歳のとき、初めて報徳の教えを知りました。１年足らずではあったが、夜学にも通い必死で勉強もしました。氷砂糖の製法研究も始めました。報徳の面では森町報徳社に加入し、家業改善５か年計画を立てて、毎日早朝から精出しました。翌年、周智報徳社発会に伴い（以下報本社文書より）、幹事の一員に推され、毎月の常会の折には、100～150人の参集社員を前にして、報徳記・二宮翁夜話・報徳富国論など報徳の原典ともいわれている書物の読み聞かせや、生活改善に必要な講話などを担当して、熱心に報徳の深化・普及に努めました。このような活動は、東京進出の前年まで続いています。明治１５年、２７歳で家業改善５か年計画完結。商業における報徳の仕法に確信をもちました。翌１６年には７年ぶりで氷砂糖の製法を発明。藤三郎の夢は無限に広がっていきます。藤三郎は報徳社の「無利息貸付」（無利御拝借金）を効果的に利用しました（以下報本社文書より）。明治１８年森町の氷砂糖第２工場新設のため185円40銭、１９年、経営資金に１月252円、４月288円、２１年、氷砂糖工場東京移転建設資金に324円、２２年、経営資金に333円、２４年、東京に鈴木鉄工部設立のため333円の貸付を受けています。事業成績は良好で、毎回拝借後半年から１年で返済。明治２２，２３年には350円ずつ預けてもいます。」鈴木藤三郎は、日光今市に　報徳全書を収める願文において「報徳社徒　鈴木藤三郎」と名乗った。鈴木藤三郎を育て支援したもの、それこそ　森町報徳社　であり　福川泉吾さま　であった。後に　藤三郎は　故郷の恩に報いるため　泉吾さまと　一緒に　周智農林学校を建てる。 「鈴木藤三郎伝」鈴木五郎著５８ページ 藤三郎は今、氷砂糖の製造工場を新築する必要に迫られてきた。（略）新村に別れて家に帰り着いたのは、もう夜も１０時であった。藤三郎の家から２軒おいた隣に、福川という家があった。彼は、その家の前を通って、障子にまだ灯影（ほかげ）がさしているのを見た瞬間に、この福川に相談して見たらという考えが、フト浮かんだのである。溺れる者は藁でもつかむというが、この時の彼の心は、ややこれに近いものであった。信頼し切っていた岡田に断られた以上は、もう確信をもって相談できるところはない。若し少しでも助力が得られたら、拾い物であるとしなければならない。この上は、ただ人事を尽して天命を待つばかりだ。そうした心が、家にはいって、おそい夕食の膳の用意ができているのを見ながら、空腹も忘れて、再び藤三郎を福川宅に行かせた。福川はまだ起きていた。そして、すぐ会ってくれた。藤三郎はいっきに、この数年来の一部始終を語り、いよいよ工場新築の資金を得ようと岡田に懇請していられなかった理由を詳しく説いて、氷砂糖創業予算表やその他を差し出して一覧を願った。　それまで、無言で彼の説明を聞いていた福川は、それ等の書類を手にとって、一つ一つ丁寧に見ていたが、見終わると、静かに顔を上げて云った。「私は、あなたの事業は、見込みがあると思いますな。ことに、あなたの事業に対する精神がよいと思う。薄利の予算に基いて一生懸命に努力したなら、世の中で成功しない仕事はありません。それを世の中の人は、初めから大層もうかるような予算を立てて着手するものだから、もうかりもしないうちから費用ばかりかけて、結局、費用倒れがして、たいていの事業は成功しないのです。しかし、事業の初めに、利益を最低に見て予算を立てるということは、なかなかできがたいことです。あなたの予算の立て方は気に入りました。事業を、すぐお始めなさい。資本は、私がご用立てしましょう。」掛川の報徳の大先達　岡田良一郎に相談に行ったとき、まるで銀行家のような態度で断られた。一緒に口ぞえに伴っていった新村理三郎にとっても面子をつぶされたような気になったにに違いない。その後、森町報徳社は掛川と手を切る。その際に掛川から「報徳を名乗ることはまかりならぬ」と通告を受け、「報本社」と名乗る。この時の絶縁の理由は、無利子貸付　を掛川が　有利子にしようとしたことによる見解の相違だとされているが、おそらくは鈴木藤三郎の融資を断ったことが原因の一つではあるまいか。掛川は　森町報徳社が　断絶する理由が全く理解できなかったのである。鈴木藤三郎を救ったのが　 福川泉吾　であった。しかし、考えてみれば、鈴木藤三郎の事業は地元森町の事業者と報徳社の協力で生長したのであり、森町の偉人として　世に出たことは誇るべきことであることかもしれない。

  2018年07月04日

• 台湾の橋仔頭製糖所にある唐金の観世音菩薩の立像　鈴木藤三郎君を偲ぶためには、真によい記念物が残されている。

  「糖業礼賛」（宮川次郎）より　「橋仔頭観世音菩薩由来記」（１～４頁）　台湾製糖初代の社長は鈴木藤三郎という人である。台湾製糖の創立が明治３３年だが、同人はその以前既に東京府の小名木川い製糖場を開設したというのだから、先覚も先覚、製糖業の大先覚者様々である。　その社長の下に山本悌二郎が支配人として台湾に来て、今の橋仔頭製糖所を開設した。もちろん鈴木社長もやって来ていた。　鈴木という人は非凡の才能があり、台湾製糖を退いてから色々の発明を天下に公にしたが、その中醤油の醸造会社１，０００万円という大規模なものを創設したのである。　今でこそ１，０００万円の会社はザラにあるが、当時では実に破天荒というに近く、しかもその会社は醤油醸造であったし、ことにその醤油は、鈴木新発明の速成醸造に係るのであるから、盛んに投機者流をうならせた。　けれどもそれが同氏挫折の大原因をなし、散々の悲境に立たなければならなくなって没落し、その後再興の機運いたらずして死んでしまった。　爾来糖業界の人―台湾製糖の人でもーの記憶から去って終わったほど、古い話になってしまった。　ところが鈴木氏の子息が、例の京都の一灯園に帰依したと見えて、台北は北投温泉の同じ一灯園宗松弁護士経営の上の湯に来て暮らしていたそうである。もちろん鈴木は自分の子に財産を残すべく、それほど順調の境涯で死んだはずはない。　人生達観すれば空々寂々、達観せずとも真に空虚だらけであるが、糖業界の先覚者の最後は、かくのごとくあまりにみじめであった。しかしただ一つ同人を偲ぶためには、真によい記念物が残されている。それは台湾の橋仔頭製糖所にある唐金の観世音菩薩の立像だ。　かつて鈴木が社長としておさまっていた頃、こういう殺伐な場所に暮らしている社員には、ぜひとも何か信仰の標的がなくりゃならない・・・というところから建立したという。　一説には信仰心を利用して、台湾の農民を引きつけようとした政治加味のものであったともいわれる。何にしても今もって１００幾名かの観音講中があり、台湾人も時々参拝もするし、製糖工場の大煙突に登って避雷針のピカピカを盗む者はあっても、この観音様の額面にある金の星は盗む者がない。　まだ面白い事には、この観音様は東京の方に向いて建てられたのだそうだが、正確に測量すると少し片寄っている。しかしわざと直さないという話だが、それは確かに曲がったままがいい。曲がって建っていることもまた記念づける。　観音様は台石と共に１丈何尺、何でも古鏡を集めて東京で鋳造した３体の一つで、一体は自分の生まれ故郷に、一体はどこかの別荘に、一体は遠路はるばる台湾に運んで来たわけである。けだし鈴木氏は熱心な観音信者であったそうな。　鈴木という人はどんな人か知らない。醤油会社をアテていたらなら、今頃百万長者くらいでなく、千万長者になっていたかもしれない。しかし失敗に終わった彼であっても、当時観音を建立した事だけは、確かに人格的に成功である。　事業よりは心が貴い。橋仔頭製糖所員の御利益の有無は知らないが、永久に鈴木社長のその豊かなる情味を記念して可なりである。「橋仔頭の史蹟を見に」同書１８６～１８９頁　昭和２年３月２２日、高雄州橋仔頭の台湾製糖会社橋仔頭製糖所へ行く。もうだいぶん気候が暖かだ。ここへ来たのは何年ぶりであろう。やはり１０年以上になる。　史蹟保存物としての同製糖所を見ようとしたのが、視察の目的であった。古色を帯びている事務所に行って、所長金子善三郎君をお尋ねしたら白根君が出てくる。しばらくして金子所長の巨体が現れ、机を隔てて対談する。初対面だ。　そのうち屏東視察帰りの日本製糖の小野、土井両君がやって来て、はからずも同じ場所で逢う事になる。工場で佐竹宗助君にお目にかかる。　それから最も古い歴史のあるクラブへ行って談話し、今西裕一君が来て更に話に興が乗り、古い写真を拝見し、各所を見た上、更に墓地に詣でた。その時分はもう陽が薄かった。　クラブの前に建てられた観音像は高さ約４尺、立派な台石共に１丈何尺という立派なものだ。何によりも観音の出来がいい。額の金の星は何匁（もんめ）もあろうというものだ。工場の高い煙突の上の避雷針は盗む者があるが、流石（さすが）にこの金だけは盗まぬそうだ。現在の観音講信者は１００名に及ぶという。何でも無縁の骨を埋めた上に建てたとも伝えられる。像はクラブに正比例した位置ではなく、少し曲げられて都の東京に向かせたものだ。正確に測定して見ると少し違っているが、わざと直さないでいるとの話だ。　クラブもだいぶん古色を帯びている。屋根に上がって見ると周囲に壁があり、銃口が開かれている。その銃口は反対に外に広く開いているのが面白い。地下室―土匪（どひ）襲来の時に女子供を隠す考えだったーは今、炭倉同様になっている。玄関の上の露台は大砲を据える考えだったそうだ。大砲といってももちろん野砲であろう。　工場はハワイの写真を見て、おおよその見当で設計したものらしいと想像されている。天井は余り高くなく、既に一部分は改造されて終わった。しかし台湾最古の新式工場として珍しいものである。土匪が大砲の窓口だと思い誤ったという丸窓を探して一つだけ発見した。屋根近くにある高い空気抜きがそれである。その丸窓は偶然の虚勢となって効能のあったのはあとで分かった事である。もちろん当時は樹木も今のようになく、あたかも城郭のごとくに遠望されたのであろう。　工場内に鈴木鉄工所（社長鈴木藤三郎氏の経営）の結晶缶は、おそらく台湾での好記念物であろう。グラスゴー製の１９０１年というのも珍しい。　なお土匪の防備上、工場敷地の周囲に築造したという土壁は、旧正門の向かって左に２，３間の長さで高さ２尺ほどに残っている。そこに草花が植えてあった。正門のレンガの柱には樹が遠慮もなく太い根を広げていた。会社では皆保存物として残している。こういう保存物は、それぞれ説明書の立て札をする方がいいと思う。　土壁を撤去して塹壕を掘ったというその溝のあるとはちょっと見当たらなかった。小流は敷地の片側をめぐり、敷地は小丘を占め、少しく要害の地と受け取れる。　それから軍隊の駐屯した長屋―壁が恐ろしく厚いーもチャンと今なお宿舎として利用されている。墓地における台湾製糖重役日比孝一氏の墓も最も悲しい記念物である。夜泊まれと無理にいうのをお断りし、心からなるご歓待に感謝して、橋仔頭駅まで送って頂いてお別れした。（昭和２年（1927）４月）

  2018年07月04日

• 鈴木藤三郎（１８５５－１９１３）

  「日本近代産業の指導者と報徳」by村松敬司（「尊徳開顕」より）　鈴木藤三郎（１８５５－１９１３）　彼は静岡県の山村である森町の出身である。青年時代に報徳に接してこれを研究し、家業に報徳商法を応用したところ、成功したため、以後熱烈なる報徳信奉者となった。当時、我が国の輸入品のうち上位にあった砂糖を国産にしようと、政府も財界有力者達も努力したが、いずれも成功を収めなかった。彼は「至誠と勤労と分度と推譲と、これを貫くに命がけの信念と根気さえあれば、天下に必要な事業がならないはずはない。やろう、やろう、大いにやろう」とこの事業に取り組んだ。無学問、無資本から出発し、政府の保護もなく、しかも彼が成功するまでは有力者の支援もなかった。彼は二宮尊徳の教を体して、ついに我が国における近代製糖業業を独力で切り開いた。彼は尊徳の「荒地は荒地の力をもって興す」という教えを守り、「糖業は糖業の力をもって開くの大道なりと信ず、故に俯仰不恥の自信を有す」と述べ、この事業より生じた利益は、「悉皆（しっかい）この事業に投ず。将来ますますこの大道に基き誠心誠意もって国家の一大事業となし、上皇恩に報い奉り、あわせて先師二宮神霊の徳に報いんとするの外他意なし」と固い決意を披瀝している。この会社は、彼が去った後に他の同業会社と合併して大日本製糖会社となっている。彼は国策会社として設立された台湾製糖の初代社長に迎えられ、「砂糖王」と称されたが、在任中「両得農業法」を構想し、その草案の終りに「二宮先師に曰く」として、報徳の自他両全の精神について特筆している。　また彼は郷里に農林学校を設置し、富士山麓に広大な農場を開いている。この農場では二宮尊徳の仕法を、応用して、我が国全産業に対する報徳の経営の規範を完成して、尊徳に報いようとした。　彼は尊徳５０年祭に当り、尊徳の遺書１万巻が未整備であるのを知り、尊親の了解を得て自費でこれを「報徳全書」にまとめあげ、今市の二宮神社に寄進した。彼は４５歳の頃、自分は６５歳になれば、実業界から身をひき、その時私財の３分の２は子孫に譲り、残りは故郷の森町に報徳寺を建て、自分は出家し、その寺で報徳の道を説くつもりだと公表した。ところが自分が育て上げた会社から追放されたが、「私が事業を始めたり、また拡張するのは、報徳の教えを守っているので根拠があるのです。・・・一度事業にしておけば、結局は社会の利益になります。・・・少しも惜しいとは思いません。」明治中後期発明家伝３４鈴木藤三郎は安政２年（１８５５）、現静岡県の古着屋の末子として生まれた。　はじめ太田才助といったが、やがて菓子屋の鈴木家の養子になり、駄菓子の行商や製造を手伝い、家業を継いだ。　子供の頃から才覚があり、明治６年１８歳のときに、静岡で盛んだった茶業に転向して繁盛した。　明治９年、二宮尊徳の『富国捷径』を読んで感じるところがあり、家業の菓子屋に戻って、貯金をしながら、新しい菓子の製造に取り組むようになった。　当時の日本の菓子用砂糖は、精製の度合いが悪く、欧米からの輸入品に数段劣っていた。　とくに氷砂糖は、劣悪だった。　そこで藤三郎は、輸入品を上回る氷砂糖の製造法の研究をはじめた。　明治１０年、２２歳のときだった。　しかし、意外に困難で、何年たっても、欧米並の氷砂糖を作り出すことは出来なかった。　そんな藤三郎に、ある幸運が訪れた。　釜で砂糖を溶かして温めて結晶化しようと苦心していたのだが、あるとき、用事があって外出し、その間の事を家人に頼んでおいた。　ところが、家人はそれをすっかり忘れて、釜の蓋を閉じたまま温め続けていた。　帰った藤三郎は、怒って釜の蓋を開けてみたところ、予想外にも、純良な氷砂糖がいくつか釜の底に出来上がっていた。　明治１６年、藤三郎２８歳のときであった。　藤三郎は、明治２１年に上京して氷糖工場を起工し、翌々年には、純白精製糖の製造に成功をおさめ、評判になり、販売を始めた。　そして短期間に、世間に普及して輸出品を駆逐し、ついには外国に輸出するまでになった。　鈴木藤三郎は、発明家であるとともに起業家でもあり、『日本精製糖会社』を設立して国産糖の普及に貢献したり、元老井上馨の依頼を受けて『台湾製糖会社』を設立して、政府の台湾政策に貢献したりした。　発明家としての藤三郎は、明治三十年代にはいると、砂糖精製そのものだけではなく、ボイラーや乾燥機など機械系統の発明や、醤油製造法の発明などにも情熱を燃やすようになった。　また同時に、明治３６年の総選挙に立候補して、衆議院議員に当選した。　やがて前記企業の社長職を退くと、明治４０年には、新しい企業として『日本醤油会社』を設立したが、これは失敗に終わった。　晩年になっても、北海道に水産工場、東京に澱粉製造所、静岡県に農園を設けるなど、起業家・発明家としての活動を続けた。　大正２年、５８歳で没した。☆鈴木藤三郎は、『斯民』の創刊号（一九〇五年）に「報徳実業論」と題した論稿を寄せている。「道徳を経とし、経済を緯とし、興国安民の活訓を後世に垂れたる者は、二宮尊徳先生なり」という書き出しから始まり、「貧国強兵」の現状を克服するために、報徳実践が必要である旨を説く。そして報徳の教えは、「天徳、皇徳、親徳一切衆庶の徳に報いるに、おのれの徳行をもってするの義にして、その道たるや誠心をもって本と為し、勤労をもって主と為し、分度を立てるをもって体と為し、推譲をもって用と為す。これ報徳の本主体用として、まことにこの道の綱領たり」とまとめた。さらに、「実業の経営者たるものは、その個人たると会社たるとを論せず、報徳の道を修養し、よく本主体用の主旨を悟了し、その精神を応用し、満身の力を事業に集注して、正々堂々この強大なる競走に当らざるべからず」と述べる。　

  2018年06月23日

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