言い訳なし、限界なし
テレビでリーダー・ルカさんが率いるダンス活動を特集していた。そのスローガンは「NO EXCUSES, NO LIMITS(言い訳なし、限界なし)」「全員が生きること、人生に対して愛を持っている。一緒に集まると楽しい。僕にとってダンスは生活するための仕事ではあるけれど、正直言って仕事をしている感じが全然ない」「未知なるものへの恐れを乗り越えて、もっと包括的で、アクセシブルで、異なる能力を持った人たちが参加できて、楽しんで体験できるような社会・暮らしを作っていかなければいけない。それを変えていけるのは障害者自身。彼らは、社会一般を教育していかないといけない。障害をめぐる会話を恐れてはいけない。障害に対する質問にも積極的に答えていくことをしていかなければならない。両者に必要なのは会話。」―ルカさんたちが結成したILL-Abilities(以下、IA)は、かなり多国籍で多様なメンバー構成です。IA結成の経緯、目指していることは?ルカ:結成したのは2007年です。ブレイクダンスのカルチャーには、オールスター的な人物を集めてスーパークルーを作る習慣があるんですが、僕は異なる能力を持った人を集めてバトルやパフォーマンスをしたいと思ったんです。同時に、活動を通してポジティブなメッセージを伝えていきたいという意識もありました。とはいえ、結成時は自分が何をしているのかわからず……いまも半分もわかってないんだけど(苦笑)、でも言いたいことは僕らが掲げているスローガンに結集しています。「NO EXCUSES, NO LIMITS(言い訳なし、限界はない)」。このメッセージを世界中に広げていきたいし、各国の都市を拠点とするメンバーにもそれぞれのコミュニティーで、このメッセージを伝えてほしいんです。―本当に多様な背景、コミュニティーを持つメンバーたちですよね。6か国から8人でしたっけ?ルカ:はい。アメリカ、ブラジル、カナダ、チリ、オランダ、韓国から集まって、これまでに24か国でパフォーマンスしてきました。それまで交流のなかった個人が集まって結成したわけだけれど、単なるダンスカンパニーを超えて、兄弟、家族みたいな関係性になっています。カ:僕はモントリオール(カナダ)で「イルマスク」というグループに所属しているけれど、これはメンバー全員に障害があるのではない、混成のグループです。カリフォルニア拠点のクジョーは、「Soul Control」というグループに参加していて、ここはブレイクダンスにおいて大きなイノベーションを起こした重要なグループ。その他にも、韓国のクロップスは「Fusion MC」に加わっているし、本当に多様です。みんなトップクラスのダンサー、DJたちなんですよね。ルカ:約4年かな。僕は2004年から2008年にかけて世界中を旅して、競技会でバトルしてきた。その過程で出会ったのがクジョーとトミーガンズ。「いつか一緒に何かしようぜ!」って話はしていたけれど、IAにつながるはずっと先のことです。ルカ:たしかにブレイクダンスはローカルなコミュニティーから生まれたカルチャーではあるけれど、同時に世界中のあらゆる場所で踊られているから、あっという間につながることができるんですよ。だから自分が住んでいるのとは違う場所のダンスイベントに参加すると、自然発生的にネットワーキングもできるわけで、これはブレイクダンスを通した交流とも言える。例えば、僕がニューヨークでダンスの練習をしたいと思って「誰か、練習できる場所に連れてってくれない?」とブレイクダンスのフォーラムに投稿すると、すぐに誰かが応答してくれて、ニューヨーク着のバスを降りた瞬間に迎えに来てくれて、そのまま練習場に連れていってくれる。お互いに情報や経験をシェアしあい、協力して高めあうっていうカルチャーが、ブレイクダンスにはもともとも備わっているのだと思います。もちろん地域ごとの違いを強く感じることもあります。IAのメンバーは国籍も出自も違うから、ときにはまるでわかりあえない、あまりにも違いすぎる距離を感じることもある。それでも、僕らの間をつなぎあわせている何かをいつも感じている。一緒にいると、ずっと小さいころからの幼馴染のような気持ちになるんです。いちばん大きいのは全員が生きること、人生に対して愛を持っていることかな。一緒に集まると楽しい、そこだよね。僕にとってダンスは生活するための仕事ではあるけれど、正直言って仕事をしている感じが全然ないです(笑)。社会全般にある未知なるものへの恐れを乗り越えて、もっと包括的で、アクセシブルで、異なる能力を持った人たちが参加できて、楽しんで体験できるような社会・暮らしを作っていかなければいけないと僕は思っています。そして、これは僕個人の考えですが、それを変えていけるのは障害者自身だと思うんです。彼らは、社会一般を教育していかないといけないと思っています。つまり、障害をめぐる会話を恐れてはいけない。障害に対する質問にも積極的に答えていくことをしていかなければならないと思うんです。また、質問する側も、興味があって学びたいと思うならば質問すればいい。それは何も悪いことではありませんから。そう考えると、両者に必要なのは会話なんですよ。私たちはIAのパフォーマンスを「MOTIVATIONAL ENTERTAINMENT」と呼んでいます。モチベーションを高める要素のあるエンターテイメント、という意味ですが、ダンスや音楽を通して、教育的なモチベーションにも触れるような表現をしています。ダンサーだけでなくオーディエンスも、自分なりの思考・やり方を開発できればなんでも可能になるのだということです。