高慢と偏見 おお!自分が彼に対して自分から助長した不親切な気持ちの一つ一つを、彼に向かってはいた生意気な言葉の一つ一つを彼女は心の底から遺憾に思った。
エリザベスは叔母ガードナーからの手紙で、高慢だと求愛を拒絶したダーシーが末の妹の結婚のために非常な努力と莫大な金銭を与えたことを知り、しかもダーシーがこのことを秘密にしていたことを知る。そしてこの驚くべき善意はあるい求愛を拒絶した自分への愛情のためではないかと自分の内で問い、反問し、自らが偏見でダーシーを誤解していたという心境にいたる。おそらくは第一印象が変容する過程こそがジェーン・オースティンの描きたかったことで、ここで英語における自由間接話法という技法が使われる。『高慢と偏見下52』岩波文庫この手紙の内容で、エリザベスは胸がわくわくし、いったい自分は楽しいのか苦しいのか、よくわからなかった。ダーシー氏が妹の縁組を進めようとして、今までどんなことをしてくれたのか、はっきりしなかったため、彼女はただ漠然とどっちつかずの推測をしていたのであるが、あの人がそんなにまで親切にしてくれるはずはないと思って、推測を助長することを恐れたり、また、恩義にあずかる心苦しさから、推測が当たってはかえって困ると心配していたけれど、今はそれがどこまでほんとうであることがわかったのであった!The vague and unsettled suspicions which uncertainty had produced of what Mr. Darcy might have been doing to forward her sister's match which she had feared to encourage, as an exertion of goodness too great to be probable, and at the same time dreaded to be just, from the pain of obligation, were proved beyond their greatest extent to be true!彼はわざわざ二人のあとを追ってロンドンへ行ったのだ。He had followed them purposely to town,こういう捜索につきものの一切の苦労と屈辱を身にひきうけたのだ。 he had taken on himself all the trouble and mortification attendant on such a research; たとえば、彼としては忌み嫌い、軽蔑しきっているに相違ない女に頭をさげて頼まなければならない場合もあったろうし、なるべく顔を合わせたくないと思い、その名を口にすることは刑罰を受けることの思っている男とも会いーしかも、しばしば会い、道理を説いてきかせ、しまいには買収までしなければなかったのだ。好意も尊敬ももっていない一人の娘のために、あの人はそういうことをしてくれたのである。 in which supplication had been necessary to a man whom he must abominate and despise,and where he was reduced to meet - frequently meet, reason with, persuade, and finally bribe -the man whom he always most wished to avoid, and whose very name it was punishment to him to pronounce. He had done all this for a girl whom he could neither regard nor esteem.心のどこかでは、自分のためにしてくれたのだ、と嘆く声もあったけれど、それはつかの間の希望として、まもなくほかの考えごとで阻止された。自分のためであったとすれば、あの人の申し込みを拒絶した女であるこの自分に対するあの人の愛情は、ウィカムと親類になることを嫌うというごく自然な気持ちより強くならなければならないはずであるが、いくら自分でうぬぼれてみても、そこまでは思いあがれないと気がついたのであった。Her heart did whisper that he had done it for her.But it was a hope shortly checked by other considerations, and she soon felt that even her vanity was insufficient, when required to depend on his affection for her, for a woman who had already refused him, as able to overcome a sentiment so natural as abhorrence against relationship with Wickham.ウィカムの義兄! Brother-in-law of Wickham! このような縁には、あらゆる種類の誇りが反発するに違いない。 Every kind of pride must revolt from the connection.あの人は、たしかになにかとつくしてくれたーどれほどつくしてくれたかを考えるのははずかしいことだけれど。 He had, to be sure, done much. She was ashamed to think how much. ところが、彼は、自分が干渉したことに、そう無理をしないでも信じられるようなもっともな理由を与えた。But he had given a reason for his interference, which asked no extraordinary stretch of belief.彼が、自分はわるかったと感じたということはもっともなことである。 It was reasonable that he should feel he had been wrong;彼は寛大であり、また寛大にふるまうだけの資力をもっている。 he had liberality, and he had the means of exercising it;彼女は、まさか、自分が主として彼にそうさせたのだとは思いたくなかったけれども、自分に対する未練があればこそ、彼はこちらの心の平和に重大な関係をもつ事件に一生懸命になれたのだと、信ずることはできるのであった。 and though she would not place herself as his principal inducement, she could, perhaps, believe that remaining partiality for her might assist his endeavours in a cause where her peace of mind must be materially concerned. (略)おお!自分が彼に対して自分から助長した不親切な気持ちの一つ一つを、彼に向かってはいた生意気な言葉の一つ一つを彼女は心の底から遺憾に思った。 Oh! how heartily did she grieve over every ungracious sensation she had ever encouraged, every saucy speech she had ever directed towards him. 自分としては、高慢の鼻をくじかれたのであったが、彼のことは誇りに思っていた。 For herself, she was humbled; but she was proud of him.