ロバート・ヘンリスンの『イソップ寓話集』における自然描写 その3 鍋島能正
ロバート・ヘンリスンの『イソップ寓話集』における自然描写 抜粋その3 鍋島能正(14号 1986)7.獅子と鼠 において、作者は、6月半ば、朝早く起き出して、ひとり森へ歩いて行った。Sweit wes the smell off flouris quhyte and reid. The noyes off birdis richt delitious The bewis braid blomit abone my heid, The ground growand with gresis gratious. Off all plesance, that place wes plenteous, With sweit odouris, and birdis harmony, The morning myld, my mirth wes mair for thy. 白い花や赤い花のいい薫り鳥たちの、まったく素敵な歌声頭上には花をいっぱいつけている大枝が広がり地面には豊かな草のじゅうたんが敷きつめられていた。その処は、花のいい薫りと鳥の快い調べに加えあらゆる楽しみに満ちていた。しかも穏やかな朝ーだから私の喜びは増すばかりだった。 The rosis reid arrayit rone and ryce, The prymeros, and the purpour viola. To heir it wes ane poynt off paradice, Sic mirth the mauis, and the merle couth ma. The blossummis blythe brak vp on bank and bra, The smell off herbis and the fowlis cry, Contending quha suld haue the victory. 茂みや小枝には点々と赤いバラが見えた。それから、桜草と、うす紫の菫草その音(ね)を聞くと、天国の楽園にでもいるようにうずらと黒うたどりが、浮き浮きした気持ちにしてくれた。土手と山腹には、楽しい花が咲いていた。草花の薫りと小鳥たちの囀りとが、互いにどちらが勝つか、争っているようだった。(私は熱い日差しを避けるために、緑したたる山査子(さんざし)の木陰にうずくまった。十字を切って、じっと両眼を閉じると、心地よい大枝に囲まれて眠りに落ちた。すると夢の中で今までに見たこともない立派な人物が、茂みを通り抜けてやって来るように思われた。) ここで作者(ロバート・ヘンリスン)は、つねに醜い人物の標本のようにひどく扱われているイソップを実に立派な姿に描いて、その口から「獅子と鼠」の物語りを言わせているのは、大いに注目に値する。(続く)