ベンジャミン・フランクリン著 プーア・リチャードの暦
ベンジャミン・フランクリン著プーア・リチャードの暦 真島一男訳第4章 若い商人への助言わが友のA君、B君、あなたがたのご希望にそって、いくつかのヒントを書いてみましょう。これらは、私自身の役に立ってきたものですし、もっともこれを守ればの話ですが、あなた方にもお役に立つことでしょう。時は金なり Time is money.ということを覚えておいてください。一日働けば10シリングかせげるのに、外出したり、家の中で何もしないで怠けていて半日過ごすようなことがあれば、遊びのためにたとえ6ペンスしか支払わなかったとしても、それだけを支出したと勘定するだけではたりません。ほんとうは、そのほかに5シリングのお金を支払っているか、むしろ捨てているのです。Remember that time is money. He that can earn ten shillings a day by his labour, and goes abroad, or sits idle one half of that day, though he spends but sixpence during his diversion or idleness, it ought not to be reckoned the only expence; he hath really spent or thrown away five shillings besides. 信用は金なりということを覚えておくことです。だれかが、支払い期日が到来しても、そのお金を取りにこないで私の手もとに残しておくとすれば、私はそのお金の利子を、あるいはその期間中にそれでできるものを彼から与えられたことになります。もし大きい信用をおおいに利用したとすれば、それは、少なからぬ額になるでしょう。 お金は繁殖し子を生むものということを覚えておいてください。 お金は、お金を生みます。 生まれたお金は、またさらに多くのお金を生みます。 さらに次々と同じことがおこなわれます。 5シリソグが6シリソグとなり、さらにそれをまわすと7シリング、そして3ペンスというように、どんどん増え、ついには100ポンドにもなるのです。 お金の額が多ければ多いほど、回転させることによって生まれるお金は多くなり、利益はやつぎばえに増えるのです。 逆に一匹の親豚を殺せば、それから生まれるはずだった子豚を末代にもわたってまでも、殺してしまうことになるのです。5シリングのクラウン硬貨を殺せば、それでもって生み出されてくるはずの数十ポンドのお金を殺してしまうことになるのです。 1年に6ポンドということは、一日にすれば1グロートにすぎないことを覚えておいてください。このわずかな金額(毎日無意識のうちに無駄遣いされているのです)を集めて、信用のある人は自分の信用で安定的に財産を築いていき、100ポンドにしていくのです。 資本は、実業家によって活発に活用され、大きな利益が生まれてくるのです。 支払のよい者は、他人の財布にも力をもつという諺があることを覚えておいてください。 約束の期日にキチンと支払うことが評判になっている人は、友人がさしあたりは余分に持っているお金をいつでもかき集めて借りることができます。 これは時には大変役に立ちます。 勤勉と質素は当然のことですが、すべての取引で時問をキチンと守り、法にしたがって行動することは、青年が世の中で成功するうえで一番大切なことです。 ですから、借りたお金の支払いは、約束の時間より、一時たりとも遅れてはいけません。 さもないと、友人はあなたに失望して、以後あなたの前では財布の口を永久に締めて永久に締めてしまいます。 実にささいなことが信用となって、大きなことへと発展します。 お金を貸す人は、朝5時あるいは夜8時にあなたのハンマーの音を耳にすれば、あと6カ月支払いを延期してくれるでしょう。 しかし、働らいていなければならない時間なのに。ビリヤード場であなたを見かけたり、居酒屋であなたの声が聞えたりすれば、早速翌日には取り立てに来て、準備も整わないうちに全額を返却してくれと言ってくるのは目に見えています。 さらに加えて、几帳面であることは、あなたが自分の借金を決して忘れていないあかしとなります。 あなたは注意深いだけでなく、正直者であると評価され、あなたの信用は増すでしょう。 自分の手もとにあるものは、みんな自分の財産と思ったり、そういう生活態度をとったりしないように気をつけなさい。 こういうところに、信用のある人がとかく陥りやすい、「わな」があります。そうならないように、支出・収入の両方を正確に、ずっと記帳することです。 細かく記帳するのは、初めは苦痛なことですが、良い結果が生まれます。どんなにささいな支出、積み重なれば、莫大な額になることに気づくでしょうし、そんなに苦労しなくても、これからは何を節約すれば良いかがわ分かるようになります。 富者への道は、もしそれをお望みならばですが、簡単なことなのです。 要するに取引のやり方と同じことなのです。 それには二つの言葉が大切です。 勤勉と倹約です。 時間とお金を決して浪費することなく、この二つを最大限に活用することです。 勤勉と倹約がなければ何事も成就しません。 勤勉と倹約があれば何事も成就します。 正直に働いてお金を得、得たお金は貯金する(必要な支出は別ですが)、そういう人は、必ず裕福になります。 正直な努力に祝福をお与えくださる神のつかさどるこの世界において、そうならないはずがありません。 ある老商人より☆鈴木藤三郎は、米欧旅行に行く前に、最新の製糖技術を知り、製糖機械を買い付ける目的のほかに個人的に「欧米において貧困より身を起し、終に偉大なる人物となった人のやり方が、あたかも二宮翁と同一の思想を呼吸したもののように思える」これはどうしたことだろうかと、こんな疑問を持っていた。鈴木藤三郎は「二宮尊徳先生と余が欧米観」という文の中かで米欧旅行の目的について、こう述べる。「余は至って単純な目的を以て、即ち西欧の製糖事業はドウいうふうに発展しているかというごく単純な目的を以て洋行したものである。ただ幼少より尊徳翁の末流を汲み、機に臨み、折に触れて、観察して見たいと思っていたことは、西欧の偉大なる人物と、わが尊徳翁とはドンナ差があるであろうかということであった。未だ以て精密ということは出来ないが、ともかく余の管見する所に由ると、欧米において貧困より身を起し、終に偉大なる人物となった人のやり方が、あたかも二宮翁と同一の思想を呼吸したものではなかろうとかと、コウいう感想を抱くこともしばしばあるので、余の欧米観もまた従って道徳を主として経済を説かれた二宮翁の流儀に傾かざるを得ないのである。」と記した。欧米において貧困より身を起し、終に偉大なる人物となった人のやり方が、あたかも二宮翁と同一の思想を呼吸したもののように感じられたのは「勤勉と倹約」の精神において共通するものがあったからである。さらに藤三郎はその西欧と報徳の「推譲」に共通するものを見出している。マックス・ウェーバーが西欧とアメリカにだけあるとした「資本主義の精神」は実は日本において遠州地方を中心に発展した「報徳の精神」という共通のエートスをもった考え方があったのであり、日本資本主義がまるで自生のものであるかのように発展できた理由でもある。