富嶽三十六景プラス十景
歌川広重(初代)の風景画が好きで、東海道五十三次の街道めぐりや名所江戸百景を見て回る時など、なるべく同じ構図から眺めて新旧の風景を比べてみたりしています。富士山が世界文化遺産に登録されたこともあり、今度は葛飾北斎の風景画、富嶽三十六景を見てみました。富嶽三十六景では様々な場所の風景が描かれており、江戸市中のみならず昔は色んな場所から富士山を見られたようです。最も遠い場所では「尾州不二見原」とあるので、尾張国(愛知県西部)からも富士山が見えていたことになります。東海道五十三次では、遠江国見付宿(静岡県磐田市)が最西端とされており、宿場の名前も京都方面から江戸に向かう途中で初めて富士山が見えたことに由来しています。尾州不二見原桶の中に富士山を描き出してみせる葛飾北斎のセンスは素晴らしいと思います。それにしても気になるのは、こんなに大きな桶を作って、一体何に使うつもりでしょうか。実は北斎の富嶽三十六景の絵は46作あって、厳密には「富嶽四十六景」なるのでしょうが、その46枚の中でも、富士山だけを構図に描いたものは意外と少ない気がします。有名な「凱風快晴」(赤富士)と「山下白雨」の2枚くらいかも知れません。復刻浮世絵葛飾北斎「凱風快晴」(富嶽三十六景)【楽ギフ_のし宛書】復刻浮世絵葛飾北斎「山下白雨」(富嶽三十六景)【楽ギフ_のし宛書】例えば「上総ノ海路」とかはこんな風でした安宅船と思われる船が大きく描かれており、房州の山並み(?)の向こうに、気が付けば富士山があったという感じでしょうか。ところで葛飾北斎の富嶽三十六景と歌川広重の東海道五十三次・名所江戸百景では場所がかぶるところもあったりします。例えばその1つに江東区西大島にあった五百羅漢寺があります(名所江戸百景の記事→こちら)歌川広重「名所江戸百景 五百羅漢さざゐ堂」同じ五百羅漢寺でも、ここでは葛飾北斎の方がいいと思います。葛飾北斎「富嶽三十六景 五百らかん寺さざゐどう」やはり富士山は小さく描かれていますが、この構図で気になるのは右下の方に描かれた行商人風の夫婦です。富士見客を中心に描きながらも、富士見どころではない人がいたりして、なかなか興味深いと思います。さらには東海道五十三次でも、葛飾北斎と安藤広重がかぶる場所がいくつかあります。葛飾北斎「富嶽三十六景 東海道金谷ノ富士」東海道島田宿と金谷宿の間、大井川の構図です。ここでは葛飾北斎の富嶽三十六景よりも歌川広重の東海道五十三次の方が印象的で好きなのですが、広重の方はこんな感じです。歌川広重「東海道五十三次 島田」歌川広重「東海道五十三次 金谷」実際に東海道をめぐった印象でいくと、葛飾北斎の方がリアルな感じがして、広重の方はデフォルメされている気がします。それだけに広重の方が印象深いのかも知れません。ところで葛飾北斎の富嶽三十六景では、やはりこの一枚が素晴らしいと思います葛飾北斎「富嶽三十六景 神奈川沖波裏」波についてはデフォルメもいいところですが、その荒波の中でも魚を求める漁師たちの姿が感慨深いと思います。(富士山は水平線のかなた)葛飾北斎の描いた46枚の富士山、同じ場所からもう一度見てみるのもいいかも知れません。復刻浮世絵葛飾北斎「神奈川沖浪裏」(富嶽三十六景)【楽ギフ_包装】