『慎治』 今野 敏
これまで自分が縛りつけられていた世界というのは一体何だったのだろう。慎治は思った。それがすべてだった。そこから逃げ出すことなど考えたこともなかった。学校は校則と成績で縛る。親は、子供を塾に通わせようとする。そこには、いじめがある。暴力や恐喝がまかり通っているが、それを誰も管理できない。慎治は、死ぬしかないと本気で考えていた。14歳、少年は心を奪われた。新・青春小説の誕生。 (「BOOK」データベースより)中学生の慎治は、クラスメート三人からいじめを受けていた。万引きを強要された慎治はビデオショップで万引きをするが店に設置されていたセンサーにひっかかってしまう。気付いた店員に追いかけられるがどうにか逃げきった。たまたまそのビデオショップにいた慎治の担任・古池はその様子を見ていたが、面倒なことを嫌い見てみぬフリをした。万引きが見つかり、この先も続くであろうイジメに耐えられなくなった慎治は「死ぬしかない」と思い詰めるようになっていた。万引きの現場を目撃して以来、慎治のことが気にかかっていた古池が学校内でそれとなく慎治の様子をうかがってみるとどうやらイジメを受けているらしいことに気付く。追い詰められ自殺まで考えている慎治に対して、古市は「自分が死ぬくらいなら、相手を殺せばいい。戦え」といった。「それはできない」という慎治に、「ならば、逃げろ」という。「学校に通う限り、逃げ場なんてない」という慎治の言葉に「死ぬか生きるかの瀬戸際なんだから学校なんて来なくていい。親に怒られるのが嫌なら行ってるフリをしろ」と古池はおよそ教師らしからぬ提案をする。慎治が本当に死にたいわけではなく、別の世界に逃げたいと思っているだけだと悟った古市は慎治を自宅に招き入れる。そこには、慎治がまったく知らなかった世界が広がっていた…。それはもう、めくるめくガンダムワールドが!(笑)古池先生は筋金入りのガンダムおたくだったんです。フィギュア・プラモデル・LDなど、ガンダムだらけ。ガンダムシリーズの歴史について、語る語る…。大抵の人は「ドン引き」になることうけあいなんですが慎治はジワジワとガンダムの魅力に取り付かれていき何もかもを忘れ、プラモデル作りに没頭していきます。そしてある事情から、大掛かりなサバイバルゲームに参加せざるをえなくなった慎治は、チームのメンバーから中国拳法を習うことになります。様々な人達と出会い、色々な経験をしていくうちに慎治は少しずつ自信を取り戻していく。そして、ついにイジメに立ち向かう決意をする―。この作品は、「思いきりオタクな話を書きませんか?」という今野さんの担当者の一言がきっかけで書かれたものだとか。というわけで、この作品にぎっしり詰め込まれているガンダム・プラモデル・サバイバルゲーム・拳銃・拳法などぜーんぶ今野さんの趣味なんだそうです。ですから、あまりにもオタク…いえ、専門的な描写の連続でなんだかすごいことになってます…(笑)つまり、ストーリーは後付けってことなんですねー。そんなわけで、展開はやや強引なところもありますがこれだけのオタクネタを盛り込みながらも、それを「少年の成長の物語」に仕上げた手腕は素晴らしい!という気がしないでもない、かな…(笑)とはいえ、ただのオタク小説とあなどってはいけません。慎治の担任教師の古市のセリフのひとつひとつにけっこう考えさせられるものがあったりしますから。ちなみに本の表紙のガンプラ(ガンダムのプラモデル)は今野さんご自身が作成されたものだそうです。うーん、筋金入りだ…(笑)