『彩乃ちゃんのお告げ』 橋本 紡
明日はきっと、いいことあるよ。小学生にして「教主さま」。ふしぎな力をもつ少女、彩乃ちゃんがひきおこす3つの奇蹟の物語。注目の著者が描く優しいファンタジック・ストーリー「誰かの人生にかかわって、ちょっとだけ方向を変える。それでみんな、少し幸せになる」素朴で真面目で礼儀正しくて、一見ふつうの5年生だけど彩乃ちゃんには、見えている。周りの人のちょっとした未来。うまくいかない相手と仲良くする方法。幸運をよぶ少女と迷える人たちのひと夏のできごと。ほんの小さなきっかけで世界はたしかに、変わってく。 (講談社HPより)ある新興宗教の教祖の孫、彩乃ちゃんは小学5年生にして「教主さま」。病を患う教祖の容態が悪化したことから、後継者争いが勃発し、危うい立場に追い込まれた彩乃ちゃんは、身を隠さざるをえなくなった。彩乃ちゃんが身を寄せることになった3つの場所。そこで出会った人達と彩乃ちゃんの交流が3編の連作短編集の形で描かれています。アルバイトをしながら、ただなんとなく日々を過ごし、恋人との将来に迷いを感じている智佳子。大学受験への焦りや迷いから逃避するかのように里山再生のボランティアに明け暮れ、たった1人で石階段の修復を続ける辻村。東京から田舎町に引っ越してきたため、なかなか周囲にとけ込むことができず、両親の小競り合いに悩まされ、不満だらけの小学5年生の佳奈。「教主さま」として、がんじがらめの生活を強いられていた彩乃ちゃんは、色々な人たちとの交流で、これまでにない様々な体験をします。とはいっても、トマトを手掴みで食べるとか、夜遅くにファミレスに行くとか、夏祭りにいくとか本当にささやかなことなんですが、彩乃ちゃんにとっては、どれもこれも新鮮なことばかり。遠慮深く礼儀正しく、大人びたところはあるけれど小学5年生の少女らしい好奇心もいっぱいの彩乃ちゃんがとってもキュートです。彩乃ちゃんは、物事の先を見とおすことができる不思議な「力」を持っている。悩みや鬱屈を抱えていたそれぞれの人たちが、彩乃ちゃんの「力」によって、ほんの一歩前に進むことができるようになる。彩乃ちゃんの「力」は、霊能力とかそんな大げさなものではなく、ちょっとした助言や行動で身近にあるのに気付いていなかった大切なことに気付かせてくれるという、やさしい「力」。「ほんの少しだけ誰かが幸せになる」ということに関わることができることが、彩乃ちゃんの幸せ。ひと夏が終わり、自分の本来の居場所に帰っていくことになった彩乃ちゃん。その姿は、神々しいまでの「教主さま」だけど彩乃ちゃんのポケットには、出会った人たちからもらった、マニキュアとペンダントとビーズの指輪とたくさんの思い出が詰まっている。心がふんわりと温かくなる優しい物語でした。