『複製症候群』 西澤保彦
異形の壁に閉じこめられた高校生たち。だがその壁からは逃げ出すわけにはいかない。その壁に触れると、姿形、記憶や考え方まで完璧に同じコピー人間ができてしまうからだ。そんな密空間での殺人事件。犯人は誰?オリジナル人間か、それともコピー人間か!? 西澤保彦が、またまた新たな物語の世界へ読者を誘う。 (「BOOK」データベースより) 西澤さんのSF系ミステリ。今回のネタは「クローン人間」です。世界各国の至るところに、空から七色に輝く円柱型の「壁」が降りてくるという現象が起こる。その「壁」は形状から「ストロー」と呼ばれるようになった。「ストロー」に触れると、その人間の姿形・記憶・考え方までもすべてそっくりコピーしたような「クローン人間」ができてしまう。「ストロー」の中に閉じ込められた数名の男女の高校生たちはたまたま「ストロー」の範囲内に自宅がある担任の女性教師と合流することができ、一時は落ちつきを取り戻すが、隣家での殺人事件、正体不明の男など、様々な出来事により次第に極限状態に追い詰められていく。その結果、次々と「クローン人間」が生まれていき、とうとう連続殺人が起きてしまう。「壁」とはいっても、光の壁であるから通りぬけることはいたって簡単なんだけど、「オリジナル」の人間は外に出られても壁の内側には「クローン人間」が残されてしまうわけです。「クローン人間」といっても、心も体も「オリジナル」とまったく同じ人間なので、傍から見ても差がわからないし本人にさえ「クローン人間」という自覚はまったくない。「同じ人間が2人いるんだから、1人死んだってかまわない」いつの間にかそんな考えが蔓延し、平気で「自分自身」を殺したり、コピーを使ってアリバイ作りをして、誰かを殺そうとしたり。どうにもやりきれない展開の連続です。人の心の中には、相反する感情が存在していることがあり、その時の状況によって、どんな行動をとるかわからない。最終的には、ある意味「元通り」という感じになるんですが単純に割りきることのできないラストでした。考えれば考えるほど、「怖さ」を感じる作品です。