『アヒルと鴨のコインロッカー』 伊坂幸太郎
お気に入り度:大学入学のため引っ越してきたアパートで、最初に出会ったのは黒猫、次が悪魔めいた長身の美青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ち掛けてきた。標的は―たった一冊の広辞苑。僕は訪問販売の口車に乗せられ、危うく数十万円の教材を買いそうになった実績を持っているが、書店強盗は訪問販売とは訳が違う。しかし決行の夜、あろうことか僕はモデルガンを持って、書店の裏口に立ってしまったのだ!四散した断片が描き出す物語の全体像は?注目の気鋭による清冽なミステリ。 (本書作品紹介より)すごーく久しぶりの伊坂さん作品。伊坂さんってほんとに、篭城とか銀行強盗とか襲撃とかそういうネタ多いんですよね(笑)作品紹介を読んで、ポップでコミカルな感じのものを想像していたんですが、予想外の切ないストーリーでした。時間軸が交差していくというのも伊坂さんの得意技ですがこの作品も現在と2年前が交互に描かれてきます。「現在」は、引っ越してきた当日、アパートの隣の部屋に住む河崎という男に本屋襲撃の手伝いを頼まれ、断りきれずに片棒を担ぐ羽目になってしまった大学生・椎名の視点で描かれている。「2年前」は、世間を騒がせている「ペット殺し」事件に恋人のブータン人・ドルジと共に巻き込まれてしまうペットショップ店員・琴美の視点で描かれている。そして、このふたつの時間軸が次第に交錯していきます。2年前の物語はしょっぱなから「悲劇」の予感がして現在の物語とリンクしながらストーリーが進んでいくうちに予感が確信に変わっていく。どんでん返しで、その「確信」を覆して欲しいと願いながら読んでいると、まったく別の思いもよらないどんでん返しが終盤に用意されていて、すっかり騙されてしまいました。やりきれないような切ない物語なんだけれど、伊坂さん独特の乾いた感じの文体によって、不思議な雰囲気を醸し出しています。この作品は、ストーリーの流れ(どんでん返し)を考えると映像化は困難な気がするんだけど、映画化されてるんですよね。どういう手法で描いているのか、興味深いところです。