『動物園の鳥』(文庫版) 坂木 司
春の近づくある日、僕・坂木司と鳥井真一のもとを二人の老人が訪ねてきた。僕らの年上の友人でもある木村栄三郎さんと、その幼馴染みの高田安次朗さんだ。高田さんがボランティアとして働く動物園で、野良猫の虐待事件が頻発しているという。動物園で鳥井が掴んだ真実は、自身がひきこもりとなった出来事とどうつながるのか――。はたして鳥井は外の世界に飛び立てるのか、感動のシリーズ完結編。鳥井家を彩る数々の家庭料理をご自宅で作れる、簡単レシピ集「鳥井家の食卓」など、文庫版おまけ付き。 『青空の卵』『仔羊の巣』に続く三部作の完結編。前2作は連作短編集でしたが、今回は長編となっています。動物園で起きた野良猫の虐待事件を調べていた鳥井と坂木。そこで坂木は、人生の中で唯一「存在を消したい」とまで考えたことのある中学の同級生・谷越と再会してしまう。鳥井の引きこもりの原因となった中学時代の出来事が明らかになり、鳥井と坂木それぞれが心の中にあった過去の傷と改めて対面することになります。前2作同様、根っからの悪人は登場しません。いまいち好きになれないなーと思う人や超嫌なヤツなどどの人物も鳥井に情け容赦なく「引導」を渡されることで毒気を抜かれてしまい、「そんなに嫌じゃない人」に変わっちゃうんですよね。まるで呪いが解けたみたいに。今回は、最終的に鳥井本人が「引導」を渡される側となり坂木と鳥井の関係にも大きな変化が訪れます。ミステリというにはあまりにも人間関係に重きを置きすぎているので、純粋にミステリを楽しみたいという人には物足りないと感じるかもしれません。みんなが「いい人」で、きれいごとだらけだと言われればその通りだと思うし、ベタ甘な部分もたくさんあるのでかなり好き嫌いがはっきり別れる作品だと思います。でも私は、「成分の99%くらいが『やさしさ』でできている」って感じの「きれいごと」たちがとても好きでした。ラストはちょっと先が気になるような形で終わってしまいなんとなく消化不良というか、寂しいような気持ちになってしまったのですが、密かに隠されていたサプライズのお陰で、満ち足りた気持ちで読み終えることができました。消化不良で終わりたくない方は、あとがき以降も最後のページまで見逃さないようにしてくださいね♪