『残月記』小田雅久仁
初めての作家さんです。緻密で隙のない文章は三島由紀夫を思わせる。読了にエネルギーと時間を要する。3編とも月にまつわる内容。最初の2編も衝撃的だったが、序章に過ぎない。現実と夢を行き来する描写がとてもなめらかで自然だった。月の砂漠をクジラが自由に動き回るところで、クジラは哺乳類で、昔は陸に住んでいたんだっけ、と思った。2016年から2019年に連載されていたので、新型コロナウィルスが流行する前の作品だが、まるでコロナ禍の今を予測していたようで恐ろしくなった。「月昂」という感染症。潜伏期間が長いというところが、エイズ発症するとインフルエンザと似た症状が出る、感染者は死ぬまで隔離されるというところが、ハンセン病、を思い起こさせる。そして、西日本大震災から長期独裁政権の誕生に繋がる。まるで未来の日本を見ているようだ。ジョン・アクトンの「絶対的権力は必ず腐敗する」を調べたら、「されど民衆はさらに腐敗する」という格言が続く。日本がロシアみたいにならない事を願います。残月記 [ 小田雅久仁 ]