『熱源』川越宗一
明治から昭和の樺太にまつわる壮大な物語です。フィクションですが、登場人物はほとんど実在する人で、当時の樺太の歴史、知らなかった事実が次々と突き付けられます。当時、誰のものでもなかった樺太(サハリン)少数民族がそれぞれの生業で平和に暮らしていたのに和人とロシア人が奪いあい、樺太・千島交換条約でロシアの領土に。現地の人が作った学校ではロシア語が教えられる。その後、日露戦争がはじまり学校は破壊される。日本が勝利し、島の南半分が日本領土になり再び作られた学校では日本語が教えられる。そして、第2次世界大戦。ソビエト連邦が1945年8月9日、参戦。8月15日以降も日本の降伏を知りながら樺太を侵略する。日本に奪われた島だから、という理由で。日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。生まれ育った地がなくなってしまうという、同じ境遇の二人が樺太で出会い、それぞれの民族の名誉のために奔走する。文明による同化に翻弄されるアイヌ、ニブフ、オロッコ。アイヌの文化を後世に残そうと北海道と樺太を調査研究する学者「金田一京介」南極探検隊の隊長「白瀬矗」のアイヌへの真摯な思い。それを支援した「大隈重信」は「強いものが生き残る」と言いながらもアイヌ民族や文化に対して尊敬の念を抱く。ただ生きているだけなのに、「アイヌのような少数民族は劣っているのでいずれ滅びる」という西洋の白人至上主義的な傲慢さが日本人の中にも浸透しつつある時代だった。その中で、「金田一京介」「白瀬矗」「大隈重信」の活動には日本人として救われるものを感じる。熱源 [ 川越 宗一 ]