植物のスイッチ・・・花が咲く瞬間
花が咲くスイッチ が 解明されました。 発表は2019/4/3の記事。 最近ですね。 こうした仕組みを利用して、希望するタイミングで花を咲かせることもできそうですね。花咲か爺さんも現実になりそうです。 さて、植物からフェレットに移すとこれまで紹介しているようにフェレットにもスイッチがたくさんあり、中では健康状態を管理し、病気の時に有益なスイッチがあります。 そしてそのスイッチを入れるには様々な方法があることを紹介しています。 花が咲くスイッチのように現在進行形で優秀な研究者様が生物の仕組みを解明していただいているので少しでも私たちの生活に活かせるといいですね。 保険的にコピペ花を咲かせるスイッチが押される瞬間 ~フロリゲン複合体の動態を解明~ 阿部 光知(大学院総合文化研究科広域科学専攻 准教授) 発表のポイント花を咲かせるスイッチであるフロリゲン複合体の詳細な解析によって、植物が花を咲かせる仕組みを解き明かした。フロリゲン複合体の可視化に初めて成功し、フロリゲンが機能する細胞を特定した。また、フロリゲン複合体は花芽の形成開始時期に一過的に形成されるものであることを見出した。フロリゲンは花を咲かせる時期の決定に重要な因子である。したがって、フロリゲン機能の解明は開花の人為的制御に直結し、農産業へ大きな波及効果をもたらすことが期待される。 発表概要「フロリゲン」(注1)は、葉で作られた後、茎の先端(茎頂)へと運ばれ花芽の形成を開始する小さなタンパク質である(図1)。これまで、フロリゲンを茎頂で受けとり、花芽形成を開始するパートナーの存在が報告されてきた。しかしながら、フロリゲンがどの細胞でパートナーと出会い、花芽形成を開始するスイッチをオンにしているのかは未解明であった。 図1. フロリゲンを介した花を咲かせる仕組み植物は、日長情報を葉で感知し、花成ホルモン・フロリゲンを作る。フロリゲンは維管束篩部を通って茎頂へと運ばれ、受容体に受け取られた後に花芽形成を開始する。 今回、東京大学大学院総合文化研究科の阿部准教授らは、フロリゲンとそのパートナーが作るタンパク質複合体を可視化することに初めて成功し、葉から運ばれてきたフロリゲンが茎頂のどの細胞で受けとられ、花芽形成を開始するのかを明らかにした。さらに、フロリゲン複合体の動態を追跡することによって、フロリゲン複合体は花芽形成の開始から一週間程度しか作られない、一過的なものであることを明らかにした(図2)。図2:植物の発生とFT-FD複合体の動態植物の発芽後の発生段階は、茎頂分裂組織で葉を作り続ける「栄養成長相」と花芽を作り続ける「生殖成長相」に大別できる。栄養成長相から生殖成長相への転換は、FTタンパク質によって引き起こされる。栄養成長相の茎頂分裂組織にはFDタンパク質しか存在しないため、花芽は作られない。花を咲かせる日長条件下では、FTタンパク質が葉から茎頂分裂組織へと輸送され、FT-FD複合体が形成されることで花芽形成が開始される。その後、FD遺伝子の発現量が徐々に減少するため、FT-FD複合体は形成されなくなる。FT-FD複合体が作られなくなっても茎頂分裂組織において花芽は作られ続けるが、FT-FD複合体とは別の因子が関わっていることが示唆される。 フロリゲンは、多くの植物種が共通にもつ強力な「花咲かホルモン」であり、現在では果樹の育種期間短縮などに利用されている。フロリゲン機能の理解がより深まることによって、今後は花を咲かせる時期を人為的に制御することが可能となり、農産業に大きな波及効果をもたらすことが期待される。 発表内容研究の背景植物は、環境からのさまざまな情報を利用して花を咲かせる適切なタイミングを決めている。なかでも、日長の季節変化を植物が感じて花を咲かせる「光周性花成」現象は、電照栽培(注2)などの形で産業利用されてきただけでなく、古くから多くの研究者の興味をかりたててきた。光周性花成において不可欠な役割を担っているのが、花成ホルモン「フロリゲン」である。花を咲かせる日長条件の下で育てられた植物では、葉でフロリゲンが作られる。フロリゲンは維管束篩部を通って葉から茎頂分裂組織(注3)へと運ばれ、花芽形成を開始する(図1)。こうした「フロリゲン説」は、1930年代から現在に至るまで、光周性花成を理解するうえで基盤となるモデルとなっている。2005年の阿部准教授(当時:京都大学大学院理学研究科・助手)と京都大学大学院生命科学研究科・荒木崇教授(当時:京都大学大学院理学研究科・助教授)らの報告を契機として、シロイヌナズナのFLOWERING LOCUS T(FT)タンパク質がフロリゲンの実体であることが明らかになった(注4)。日長に応じて葉の維管束篩部で作られたFTタンパク質は、茎頂分裂組織で待ち受けるFDタンパク質(注5)とフロリゲン複合体(FT-FD複合体)を形成し、花芽形成の開始に必要なAPETALA1(AP1)遺伝子の発現をオンにすると考えられている。しかし、AP1遺伝子がオンになり将来花芽になる細胞へFTタンパク質が運ばれ、FT-FD複合体が実際に形成されている証拠は現在まで得られていない。FTタンパク質は小さなタンパク質であるため、緑色蛍光タンパク質(GFP)のような大きなタグを付加することによって、FTタンパク質本来の挙動が生体内で正しく再現されない可能性があるからである。したがって、花を咲かせる仕組みを理解するためには、FTタンパク質本来の挙動を再現した上で、茎頂でのFT-FD複合体機能を詳細に解析する必要がある。 研究内容本研究では、まず、改良BiFC法(iBiFC法、(注6))によってシロイヌナズナの茎頂分裂組織でFT-FD複合体が作られる細胞を可視化し、FTタンパク質がFDと一緒に機能する細胞を特定することを試みた。その結果、葉または維管束篩部で作られたFTタンパク質が、茎頂分裂組織内部の細胞群においてFT-FD複合体を形成する様子を可視化することに成功した。さらに、FT-FD複合体が形成されている細胞群の一部において、AP1タンパク質が作られることも見出した。これらの結果は、葉で作られたフロリゲンによって茎頂で花芽形成が開始される一連の過程を、生体内で初めて観察した例である。さらに、iBiFC法を用いてFT-FD複合体の動態を経時的に観察した。その結果、FT-FD複合体は花芽形成の開始から一週間程度しか形成されない一過的なものであり、その原因は、FD遺伝子の発現量が花芽形成の開始をきっかけに徐々に減少するためであることが明らかになった(図2)。加えて、花芽形成の開始から一週間以上が経過し、本来FDタンパク質が作られていない時期にFDタンパク質を強制的に発現させたところ、花の形態に異常が観察された。こうした結果から、シロイヌナズナには、花芽形成開始直後にFD遺伝子の発現量を低下させ、FT-FD複合体の形成を一過的にする仕組みが備わっていることが示唆される。可視化技術によってFT-FD複合体の形成が生体内で観察可能になったことで、これまで不明であった茎頂分裂組織においてフロリゲンが機能する細胞を特定することができた。また、花を咲かせる際に重要なFT-FD複合体が花芽形成開始後しばらくして作られなくなることは、花芽を作り続けるためにはFT-FD複合体以外の未知なる因子が関与している可能性を示唆している。今後、茎頂分裂組織におけるフロリゲン機能をさらに解き明かしていくことが、植物が花を咲かせる仕組みを理解するうえで重要になってくる。 社会的意義フロリゲンは、イネやエンドウ、キクなど多くの作物や花卉にも共通して存在し、花を咲かせるタイミングの決定権を握っている。したがって、本研究で明らかになったFT-FD複合体による花成制御の仕組みは、シロイヌナズナに限定されたものではなく、植物全般に普遍的な仕組みである可能性がある。高い保存性を有し、大きな効果を発揮するフロリゲンの特性を考えると、その機能制御技術が可能になった際には、作物や花卉の栽培において花成をコントロールする手法が現実のものとなり、農産業に多大な波及効果をもたらすことが期待される。 発表雑誌雑誌名 Development 論文タイトルTransient activity of the florigen complex during the floral transition in Arabidopsis thaliana.著者Mitsutomo Abe*, Shingo Kosaka, Mio Shibuta, Kenji Nagata, Tomohiro Uemura, Akihiko Nakano, Hidetaka KayaDOI番号10.1242/dev.171504 用語解説注1 フロリゲン植物が日長の変化に応じて花を咲かせる時に、葉で合成され、茎頂へと運ばれて花芽形成を促す物質。もともとは、1937年にチャイラヒャンが提唱した仮想的物質に対する呼称であった。現在は、シロイヌナズナのFTタンパク質がその実体であることが示されている。また、その他多くの植物種においても、FT相同タンパク質が同様の機能を持っていることが報告されている。↑注2 電照栽培夜が短いと花が咲かない植物(代表例:キク)を栽培する際に、夜間も照明を当てることによって人工的な昼間をつくり、花が咲くのを防ぐ栽培方法。↑注3 茎頂分裂組織茎の先端部分にあり、幹細胞を維持しながら新しい細胞を作り続ける組織。花や葉などを新しく作りだすことから、発生において重要な役割を担っている。↑注4・M. Abe et al., “FD, a bZIP Protein Mediating Signals from the Floral Pathway Integrator FT at the Shoot Apex,” Science 309, 1052 (2005)・P.A. Wigge et al., “Integration of Spatial and Temporal Information During Floral Induction in Arabidopsis,” Science 309, 1056 (2005)・http://science.sciencemag.org/content/310/5756/1880.1.full・http://www.jst.go.jp/pr/announce/20050812/index.html↑注5 FDタンパク質茎頂分裂組織で発現するbZIP型の転写因子。FT-FD複合体を形成し、AP1をはじめとする標的遺伝子の転写を直接制御することで花成を促す。FLOWERING LOCUS D(FLD)とは別のタンパク質である。↑注6 改良BiFC法(improved BiFC:iBiFC法)二分子蛍光補完法(Bimolecular Fluorescence Complementation: BiFC法)は、生体内でタンパク質同士の結合を調べる方法である。蛍光タンパク質を分断した2つの断片を、結合を調べたい2つのタンパク質にそれぞれ融合し、蛍光タンパク質の再構築によって結合を確認する。iBiFC法では、FTタンパク質にわずか17アミノ酸を融合するだけなので、葉から茎頂へと輸送されるFT本来の挙動に影響をおよぼさない。↑―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―