モンゴルの国家戦略作り
2月までモンゴル国立大学の経済学部長であったKさんが、総理大臣直轄の新しい戦略的な部署へ移ったので、今朝そこへ会いにいってきました。Kさんは慶応大学で博士課程を修了された方で、私をモンゴルへ呼んでくれた人です。後任のDD学部長も京都大学で博士課程終了ですから、二代続けて日本出身で、私としては日本語で話せるし、ちょっと心地良いです。その前任のKさんのオフィスは、私が時々ラーメンを食べに行く日本料理屋さんの向かいにありました。部屋はさすがに立派で、いかにも「偉い人の部屋」って感じです。そこでいろいろお話していただきました。彼がいるのは、National Development and Innovation Comimittee, Government agency of Mongoliaという機関で、彼はそこの会長という立場です。彼の上司は総理大臣だけだそうです。つまり、首相直轄で、他の省庁からは独立した機関といえます。もうすぐ大統領選挙があるので、私は素朴な質問をしました。「大統領が代わっても、首相は代わらないのですか?」と。彼によると、首相は国会の中で一番大きい政党から選出され、大統領は国民から直接選挙で選ばれるとのこと。ですので、国会の選挙がない限りは、首相は変わらないのだそうです。「じゃあ、ねじれが起こることもありますね?」と聞いたら、実際、数年前にねじれが起こったこともあるそうです。この機関は、各省庁の縦割りとは関係なく、国単位での戦略を横串で考えるところです。私が、「そういうのはとても大切ですが、結局他の省庁が反発したり、動かないということはありませんか?」と聞くと、話は全て総理大臣と直接やりますが、その前にはできるだけ各省庁との調整はします、とのことでした。ですが、最終的には総理大臣の意思決定で決めることができるので、今のところは問題ないそうです。彼は「調整型」の人ですから、多分根回しは相当きちんとやるだろうなとは思います。彼の仕事は、今後の国家全体に関わる重要なことほぼ全てと言えます。新設機関にもかかわらず、スタッフは40人以上いるそうです。半分が、各省庁から出させ、半分は新規に雇ったのだそうです。海外の留学経験者なども結構呼び寄せたようです。「なんとか委員会」といっても、ほとんどが既存省庁の出向で、象徴的な外部のお偉いさんをちょっと入れてお茶をにごしている日本よりは随分腰を入れてるなと思いました。彼は「モンゴルは国として今大事な時期を迎えてます。今後の5年をどうするかを、ここで十分に考えて、実行していかなければなりません」と言ってます。なので、鉱山開発から農業、牧畜、工業などの産業、鉄道などのインフラなどなどモンゴルの将来に関わる重要なことは全て関わっていくのだそうです。なるほど、これはすごいな、日本にもこういう組織があればいいのにな、と思いました。日本にもきっと表面的には似たようなのがあるのでしょうが、そもそも小泉さん以後は腰の定まらない首相ばかりで、ほとんど官僚から舐められっぱなしの機関しかないのでしょう。彼のミッションは3つあると言ってました。1つ目は、開発戦略。今後5年間のモンゴルの開発戦略です。私が「開発とは資源開発のことですか?」と聞くと、資源に限らず、牧畜、農業や工業などの全ての産業を考えると言ってました。まずは、これが大きなミッションで、6月までにはドラフトを作り上げたいそうです。2つ目は、競争力向上です。モンゴルという国の競争力強化をしないと未来はないわけで、そのためにはいろんな切り口で考えています。新しい産業を作る、イノベーションを起こす、技術革新などはとても重要で、結果としてモンゴル全体の生産性向上をいかに達成するかを考えます。また、民間だけでなく、政府の構造改革も考えているそうです。更には、地方政府の改革もせねばならないそうです。政府が民間がいかに投資したくなるかのベースを作ることができるかが、今後の重要な課題だと言ってました。民間の支援に徹する政府にしたいと。3つ目は、投資政策です。いわゆる産業政策で、いかにプライオリティをつくるかが鍵だと言ってました。政治家は、なんでもやりたがりますから、そこは特に重要だと。大きなプロジェクト(南ゴビには国際的に有名な資源開発の2大ビッグプロジェクトがあります)にも関わっていくそうです。そして、経済や社会がちゃんと目指すべき方向に進んでいるかどうかのモニタリングも欠かせないと言ってました。彼は、ペーパーを見るわけでなく、自分の言葉で今後のモンゴルの行くべき方向を、力強く語っていました。なるほど、確かにどのポイントも今のモンゴルで必要なことばかりですが、こんなに多くの分野をここだけのスタッフでできるのかはちょっと疑問です。恐らく、関係省庁の手を大幅に借りるのでしょうが、そなると各省庁からの報告書のまとめ屋さんになってしまうだけで、戦略性は大幅に減退するでしょう。この手の組織は、大企業でも同じですが理念と実際との乖離が出てしまわないかどうかは難しいところがあります。上手くいって欲しいですが、既存の勢力の巻き返しも相当あるでしょう。たまには、こういう国家全体の動きを聞きに、また来ようと思いました。