ハルハ河戦争、戦勝80周年記念にプーチン来る!?
このブログで何度かお伝えしている通り、今年はノモンハン事件(ハルハ河戦争)があった1939年から80周年の年になります。これに合わせて、7月に日本とモンゴルの合同シンポジウムがあったりしたのですが、当然のことながら80周年を「祝う」行事は他にもいろいろあります。7月にハルハ河に行った時、日本人が建てた戦没者モニュメント前で皆で哀悼の心を捧げました。その時にそのモニュメントの一部が壊れていたので、ウランバートルからそれを修理するためのモンゴル人が来ていたことは、このブログでもお話ししました。その修理をする建設会社の社長さんが、偶然に今年の冬に新宿で一緒にお寿司を食べた人だったことも書きました。その時に何げなく聞いた言葉が頭に残っていました。「8月末にプーチン大統領が来るから、その時までには綺麗にしておかないといけない」ということでした。その日程のことかどうかは確認はしていませんが、プーチン大統領が9月3日にウランバートルにやってくると聞きました。当然のことながら、ハルハ河戦争祝勝80周年を祝うためでしょう。このこと自体は、日本人としては何か言える立場にはないのですが、残念ながら釈然としないところはあります。なぜか?ハルハ河戦争でソ連がモンゴルを助けて、満洲・日本軍を退けたのはその通りですが、それによってモンゴルは何を得、何を失ったのかも考えないといけないと思うからです。現代史のモンゴル歴史家であるS.バートル氏は次のように述べています。「20世紀のモンゴル国の歴史上、最大のハルハ河の戦闘でさえも、モンゴル人民革命軍は237人が殺され、32人が行方不明となっただけだった。ところがこの戦争に先立つ1年半の間に、「国家反逆罪」で有罪とされた者はその117倍に、処刑された者は88倍の多数にのぼった。特別査問委員会の50回にのぼる会議だけとって見ても、19,895人を処刑したということは、毎日398人を処刑したことになる。」この数字はモンゴル側だけの数字で、しかも一般的にモンゴル人の間で有名な第二次世界大戦後の「粛清」の数字は含まれていません。純粋なハルハ河戦争前の数字です。モンゴルの被害を助けてくれたのがソ連とすると、ソ連はモンゴル人のハルハ河戦争による死亡者・行方不明者を「わずか」269人に抑えてくれたという意味では大きな意味があったのだろうと推察します。ですが、その前にモンゴル人19,895人を処刑せよと指示したのもソ連だったのです。2万人近くを殺しておいて、モンゴルを助けたというロシアもロシアですが、それ以上におかしいのは「ロシアのお兄さんたちのおかげで、モンゴルはハルハ河戦争に勝利した」と喜んでいるモンゴル人は、一体何を考えているのでしょうか?もちろん、こうしたおかしな話に気づいているモンゴル人もいますが、「私たちは、何でも言いたいことは自由に言う」と威張っているモンゴル人の偉い人たちも、ロシアに対しては何も言えないのが現状なのです。それはガソリンという現代のエネルギーの重要戦略物質をほぼ100%ロシアに抑えられているからです。モンゴルが原油産出国なのに未だに原油は100%輸出するだけで、自国内では利用できないことも、もとはと言えばロシアがモンゴルに製油所を設立することを認めなかったことに遡ります。社会主義時代ソ連は「石油精製所建設、水力発電所建設、モンゴル鉄道の輸送力強化事業」など、数多くのプロジェクトに反対してきたのです。2010年まではモンゴルはロシアの国営会社からその会社が勝手に決めた値段でガソリンを輸入するという方法しかありませんでした。現在は中国からの輸入を始めたので、ロシア依存度は95%になりましたが、やはり極端に依存していることには変わりありません。新空港とロシアとは一見何の関係もなさそうですが、実は大きな関係があるのです。モンゴルの評論家、ジャルガルサイハンさんによれば「新国際空港にも燃料調達の選択ができるようになることが期待される。航空燃料に関しては2種類の規格がある。それはロシア規格のTC1と国際規格のJetA-1である。航空会社は両方の規格の燃料を使っているが、1機の航空機の主翼にある燃料タンクに混合して使うことはない。モンゴル政府は日本政府に何度も要望を出し続け、新国際空港にTC-1のみを入れる2,000トン容量の4つの燃料貯蔵タンクを建設した。」のだそうです。つまりモンゴル政府自ら、燃料調達の多様化をできないようにしてるのです。モンゴル国内の有力会社同士が、新空港会社への燃料調達会社になるべく争っていますが、ロシア規格の航空燃料にしたので、どう争ってもロシアの国営会社から買うしかないのです。こうした、一見表立ってはいない舞台でのロシアの政治力は全く衰えていないようです。ハルハ河戦争は日本側が悪い。この見方に私は全く疑いの余地は持っていませんが、それを助けてくれた「ソ連のお兄さん」が、その戦争の100倍近くのモンゴル人を殺し、その後長い間、今に至るまでモンゴルを支配し続けていることを、モンゴル人は一体どう考えているんだろうと、ちょっと不思議に思っています。9月3日に来るプーチンは、お得意の存在感ある言動で、より一層モンゴルの政界を縛り続けることでしょう。