『日本でいちばん大切にしたい会社』
■あの子たちを、働かせてやってください!!■> 約50名の従業員を抱える小企業で、知的障害者がその7割> を占める会社がある。ダストレスチョーク(粉の飛ばないチョ> ーク)で3割のシェアを持つ神奈川県川崎市の「日本理化学工> 業」である。>> この会社が知的障害者を雇い始めたのは、すでに50年近く> 前の昭和34(1959)年である。近くの養護学校の先生が訪ねて> きて、近く卒業予定の二人を採用して欲しい、と依頼されたの> が、事の始まりだった。>> 専務をしていた大山泰弘さん(現社長)は悩みに悩んだ。雇> うのであれば、一生幸せにしてやらねばならないが、当時十数> 人の会社では、まったく自信がなかった。「うちでは無理です」> と断ったのだが、その先生は2度、3度とやって来て、頼み込> む。3回目には、大山さんをこれ以上悩ませるのに堪えられな> くなって、こんな申し出をした。>> 大山さん、もう採用してくれとはお願いしません。でも、> 就職が無理なら、せめてあの子たちに働く体験だけでもさ> せてくれませんか? そうでないとこの子たちは、働く喜> び、働く幸せを知らないまま施設で死ぬまで暮らすことに> なってしまいます。私たち健常者よりは、平均的にはるか> に寿命が短いんです。>> そこまで言って頭を下げる先生の姿に、大山さんは心を打た> れて「一週間だけ」という約束で、二人の少女に就業体験をさ> せてあげることにした。>> ■「あの子たちを正規の社員として採用してください」■>> 就業体験の話が決まると、子どもたちだけでなく、先生方や> 親も大喜びした。朝は8時始まりなのに、7時には会社に来た。> それもお父さん、お母さん、さらには心配のあまり先生までが> 付き添ってきた。夕方3時頃になると、親御さんたちが「何か> 迷惑をかけていないか」と、遠くから見守っていた。>> 約束の一週間の就業体験が終わる前日、十数人の社員全員が> 「お話があります」と大山さんを取り囲んだ。>> あの子たち、明日で就業体験が終わってしまいます。ど> うか、大山さん、来年の4月1日から、あの子たちを正規> の社員として採用してください。もし、あの子たちにでき> ないことがあるなら、私たちみんなでカバーします。どう> か採用してあげてください。>> これが、社員みなの総意だという。それほどに二人の少女の> 一生懸命の働きぶりは、みなの心を動かしたのである。簡単な> ラベル貼りの仕事だったが、二人は仕事に没頭して、「もう、> お昼休みだよ」「もう今日は終わりだよ」と背中を叩かれるま> で、気がつかないほどだった。ほんとうに幸せそうな顔をして、> 仕事に打ち込んでいたのである。>> ■働くことによって得られる幸福■>> 社員みなの気持ちに応えて、大山さんは二人の少女を正社員> として採用した。それ以来、障害者を少しずつ採用していった> が、大山さんには一つだけ分からないことがあった。>> それは彼らがミスをした時などに、「施設に帰すよ」と言う> と、泣きながらいやがる事だった。どう考えても、会社で毎日> 働くより、施設でのんびり暮らしていた方が幸せなのではない> か。>> ある時、法事の席で一緒になった禅寺のお坊さんに、この点> を尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。>> そんなことは当たり前でしょう。幸福とは、(1)人に愛> されること、(2)人に賞められること、(3)人の役に立つこ> と、(4)人に必要とされること、です。そのうちの(2)人に> 賞められること、(3)人の役に立つこと、(4)人に必要とさ> れること、は施設では得られないでしょう。この三つの幸> 福は、働くことによって得られるのです。>> こう聞いて、大山さんは、目から鱗(うろこ)が落ちるよう> な気がした。「人間にとって『生きる』とは、必要とされて働> き、それによって自分で稼いで自立することなんだ」と気づい> た。>> それなら、そういう場を提供することこそ、会社にでき> ることなのではないか。企業の存在価値であり社会的使命> なのではないか。>> これ以来、50年間、日本理化学工業は積極的に障害者を雇> 用し続けてきた。>> ■65歳のおばあさん■>> 障害者を受け入れたものの、はじめの頃は、どうやって仕事> を教えたらいいのか、苦労の連続だった。普通は設備に人間の> 仕事を合わせるのだが、大山さんは、障害者たちが仕事ができ> るように、一人ひとりの状態に合わせて機械を変え、道具を変> えていった。>> たとえば、数字が読めないために、量りが使えない子には、> 色分けした様々な重りを作って、青い容器の材料は青い重りで> 量って混ぜて、と教える。こういう工夫をして、一人ひとりの> 能力を最大限に発揮させていけば、健常者に劣らない仕事がで> きることが分かった。>> [1]の著者・坂本光司氏が、この会社を訪ねた時、おばあさ> んがコーヒーを持ってきてくれた。「よくいらっしゃいました。> どうぞコーヒーをお飲みください」と小さな声で言うと、お盆> を持って帰っていった。>> 「彼女です。彼女がいつかお話しした最初の社員なんです」と、> 大山社長がぽつりと言った。15、6歳のときに採用されて、> 今は65歳ほどにもなって、腰が曲がり、白髪になっている。> 60歳で定年を迎えたが、その後も嘱託社員として雇われてい> るのである。その50年という年月の重さを思うと、坂本氏は> 涙をこらえることができなかった。>> その後、坂本氏が工場を視察したら、この女性は一生懸命、> チョークを作っていた。>> ■「人の役にたつ」幸福■>> 工場では、健常者の社員たちも実に明るい顔つきをしている。> なぜか、と尋ねた坂本氏に、大山社長はこう答えた。>> 自分も社会に貢献しているんだという、思いがあるから> だと思います。一介の中小企業ではありますが、そこに勤> めて、自分も弱者の役に立っている、社会の役に立ってい> る、という自負が、社員のモチベーションを高めているの> ではないでしょうか。[1,p62]>> ある市役所の市長はじめ幹部役員が同社を視察した後、帰り> のバスに乗り込んだ途端、市長がこう言った。>> 役所で使うチョークは全部、この会社から購入できない> か。それくらいしか、私たちは、この会社に貢献すること> ができないから。[1,p58]>> 「人の役に立つこと」が幸福なら、この会社はこうして顧客に> も幸福のお裾分けをしていることになる。>> ■「社員第一」こそ企業の最大の使命と責任■>> 坂本光司氏の著書『日本でいちばん大切にしたい会社』[1]> には、ほかにもこのような心を打つ「いい会社」が、いくつも> 登場する。それらに共通する点がいくつかある。>> その一つは、これらの会社は、社員とその家族を幸せにする> ことを、最も大切な使命であると考えている、という事である。> 経営の世界では、よく「顧客第一」というが、それは間違って> いると、坂本氏は主張する。>> ・・・自分が所属する会社に不平と不満・不信を抱いてい> る社員が、どうしてお客様に身体から湧き出るような感動> 的な接客サービスができるでしょう? お客様が感動する> ような製品を創れるでしょう?>> ですからいちばん大切なのは、社員の幸せなのです。社> 員と、それを支える家族の幸せを追求し実現することが、> 企業の最大の使命と責任なのです。[1,p21]>> 社員を幸福にするためには、会社は存続し、利益を上げ続け> なければならない。こう覚悟した経営者は、不景気になっても、> 安易に人を切ったりできないので、真剣勝負となる。社員の方> も、会社の存続と発展のために、全力を尽くす。そこから、並> の企業では思いつかないようなアイデアや力が出てくる。>> こういう「いい会社」があちこちで、従業員とその家族、顧> 客や地域を幸せにして、日本を支えているのである。> (文責:伊勢雅臣)>> ■リンク■> a. JOG(354) 道徳力と経済力> 経済発展の原動力は「正直、信頼、助け合い」の道徳力にあ> る。> http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h16/jog354.html> b. JOG(489) 天命と天職 ~ 日本人の仕事観> 天命に仕え、天職を持つことが、 「世の中で一番楽しく立派> なこと」である。> http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogdb_h19/jog489.html>> ■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)> →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。>> 1. 坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社』★★★★、> あさ出版、H20> http://www.amazon.co.jp/>exec/obidos/ASIN/4860632486/japanontheg01-22%22