旧きよきフランスの時代『怪傑キャピタン』(4)
アンドレ・ユヌベル監督という人は、なぜかジャン・マレーの胸をいたぶることが好きで……宿敵リナルドとの一対一での決闘でも、ド・カペスタン(マレー)は胸を切られている。『ファントマ 危機脱出』でも、ジャン・マレー演じるファントマが……こんな台詞を吐きながら、これまたマレー演じるファンドールの胸に……自分の名前の頭文字Fの焼印を押すというシーンがある。まるっきり『O嬢の物語』(O嬢? 悪い本を読んでるなあ……)で、しかもやるほうもやられるほうもジャン・マレーという1人SM状態。『ファントマ 危機脱出』では、このあとマレーの得意技「失神」も入れるというサービス(?)ぶり。さて、『怪傑キャピタン』の続きを見ると、胸やら腕やらを切られつつも、ド・カペスタンは城の上へ上へとリナルドを追い詰め、お決まりの結末に。このときのマレーの表情は、ゾクッとするほど冷たく美しい。ジャン・マレーという人は、いくつになっても、ときどき思いがけないシーンで、思いもかけない色気を発散させる不思議な役者だ。演技が巧みなのはもちろんとして、こういう「雰囲気」をいつまでも失わなかったことが、マレーが長く第一線で活躍できた理由なのだろう。ジャン・コクトーは、マレーが一時多く撮っていたメロドラマにはわりあい批判的で、「今、XX(=プロデューサー)が撮らせている映画は、君にふさわしくありません」とマレーに書き送ったりしているのだが、この1960年前後の一連の剣豪モノは、そもそも自分が『ルイ・ブラス』でマレーに与えた役だったせいか、非常に気に入っていて、城塞の決闘:「せむしはあの瘤に、ラガルデールの巻き毛と同じくらいの夢を入れて運んでいます。君は2倍素晴らしかった」怪傑キャピタン:「観るのを楽しみにしています」カピテーヌ・フラカス:「いとしいカピテーヌ・フラカス、ぼくは君を愛しています」とマレーへの手紙で、常に関心を寄せていることを示している。そうこうしてるうちに、城内では、フランス人形が……親友のリボンの騎士をかばって死んでしまった。ああ、これじゃ、もうド・カペスタンにはリボンしか選択の余地がなくなった(あ、最初からリボン一本だったっけ?)……しかし、リボンの騎士は実は、ルイ少年王のブルボン家と並ぶ銘菓ババロア、いや名家ヴァロア家の血を引く高貴な貴族の出で、ド・カペスタンは、結果、ルイ少年王のお墨付きで逆玉に乗ることになるのだ(王の友情と高貴な姫の愛を両方手に入れる騎士カペスタン、ホント都合がいいなあ……)。ド・カペスタンが、切られた胸を最後まで押さえてるのがみょ~に気なったりして。ルイ少年王は水戸黄門なみの口上で最後をまとめるのだが……もうちょっと華のある役者はいなんだか?? そう、ユヌベル監督作品で唯一足りないもの、それは「若いイケメン男子」なのだ。エキストラにさえ美少年をずらりとそろえた『ルイ・ブラス』とはえらい違い。主役のジャン・マレーがくわれるのを避けたのか、あるはヘタにイケメンを共演させてマレーのお手つきとなってしまうのを恐れたのか、はたまたユヌベル監督が若い美男子にはまったく興味がなかったのか? ローティーンの女の子にもアピールするような王子様タイプがいないのが気になるところ。『ファントマ』もそうだが、ユヌベル監督というのは、基本的に、どちらかといえば「男性向け」の映画作りをする人かもしれない。それでも、やはりこの監督はベテランのプロ中のプロだと思う。難しいゲイジュツ作品ではない、刺激的なシーンや過激なシーンはゼロの家族で楽しめるハッピーな大人のお伽噺。ストレスの多い現実社会を生きている一般庶民は、結局、こういうたわいもないハッピーエンドの夢物語に救いを求める――そのことを監督も主演俳優もよくわかっている。さて、ここまで読んで「どうして、ド・カペスタンの話なのに、タイトルはキャピタンなんだ?」と思った方。このどうでもいい大いなる謎を解きたければDVDをご覧ください。◆新品DVD★ 0922PUP2 【080918_dvd】 【080925_dvd】 『怪傑キャピタン』