『サテリコン』――テセウス伝説のパロディ
<きのうから続く>どういうワケか、山から突き落とされたブロンド君は、迷路のような決闘場に強引に導かれ、仮面の怪人と戦うことになる。しかし、じーさんのリーカにも負けたブロンド君は、案外弱い。あっという間に地面に叩きつけられ、勝敗は明らかに。物語冒頭では、黒髪君のことを、なんつって蔑んでいたクセに、決闘に負けて命が危なくなったとたん、ブロンド君たら、怪人に向かって、ぬぁんて、色仕掛けで命乞い。リーカで味をしめたか?字幕ではスッパリ抜けてしまっているが、この命乞いの場面、ブロンド君は、怪人に「Caro, Minotauro(親愛なるミノタウロスよ)」と呼びかけている。これは重要なポイントなのだ。つまり、ブロンド君が闘ってる相手はギリシア神話で、クレタ島はミノス王の迷宮に住んでいた、人身牛頭の怪物ミノタウロスのイメージなのだ。これがそのミノタウロス。しかし、なんだろうね? イボイボのついた見るからにいかがわしい棍棒といい、紙粘土かなんかで作ったようなテキトーな仮面といい、遊んでるでしょ、制作者。マジメに解説すると、怪物ミノタウロスはギリシア神話では、アテナイの王テセウスによって倒される。そして、テセウスはミノス王の娘アリアドネと恋に落ちる。さて、ブロンド君を倒したミノタウロスは仮面をとると、けっこう善人そうな精悍な顔立ちの青年で、リーカと違ってソッチ系の趣味はないらしく、と見物人に向かってさわやかに宣言。はあ? それじゃあ何だったの、今までの決闘は??何が何だかわらかにうちに、見物人のお偉いさんからも、「詩人とも呼ぶべき教養ある若者よ!」といきなり持ち上げられるブロンド君。なんで、そーなるの?(もちろん、「まじめ」に解釈すれば、たいしたことしてないのに、突然周囲に祭り上げられてしまう、現代の「にわかスター」を皮肉ったスクリプトだ)。さらに、「アリアドネが待っておるぞよ」と、ミノタウロスを退治してもいないのに、なぜかアリアドネを与えられるブロンド君。もはや問答無用のハチャメチャな展開。さらにさらに、衆人看視の露天ベッドで、ヤル気満々でブロンド君を待っていた「アリアドネ」姫は、ギリシア神話のイメージからは程遠い、厚化粧のオバサン領域の女性。それでも、喜んで(?)身を投げるブロンド君。ところが肝心のものが役に立たなくなったようで、アリアドネは大激怒。「太陽のせい」「もう一度……」と必死にトライ(というのか、そーゆーの?)しようとするブロンド君なのだが、アリアドネは、聞く耳を持たず、「schifo! (汚らわしいわよ!)」と、ブロンド君を罵倒しまくる。どっちかというと、キミの金銀緞子みたいな奇抜なメークのほうが、schifa(胸がむかつく)だと思うのだが、快楽主義のこの時代、そういう男性は一番面目が立たないらしく、金銀緞子化粧のアリアドネに思いっきり蹴り倒され、「わ~!」と派手に溝に落ちてしまうブロンド君。もうギャクでしょ、この展開。テセウスによるミノタウロス退治をパロッたコメディーだとしか思えない。テセウスになれなかったブロンド君は、半ベソかきながら、なぜか黒髪君に……当然、黒髪君には、笑われる。「剣」を失ってドヨヨ~ン状態のブロンド君。「快楽の園」で治療ができるとかで、黒髪君と連れ立って旅立つ(なんで黒髪君までくっついていくんだ?)。<明日に続く>