<春、旅立つ君へ>下
http://www.asahi-net.or.jp/~am6k-kzhr/sokuho.htm『カルト被害を考える会』統一協会・カルト問題の=ニュース=から。*櫻井義秀*「カルト」から身を守るために*大学入学の原点忘れずに2012.03.30 北海道新聞夕刊全道 5頁 文化 (全1,789字) 小中高の卒業式には「旅立ちの日に」という歌が似つかわしい。3月は「勇気を翼に込めて希望の風に乗り、この広い大空に夢を託して」(作詞・小嶋登)進む若い人たちの季節だ。 4月、キャンパスであどけない顔つきの新入生を見るたびに存分に学生生活を満喫してほしいと願う。それが勉強であれ、部活であれ、何であってもやりたいことをやりきったものだけが得る経験と、自信をもって卒業してもらえればそれでよい。 ところで、4月から夏休みにかけて大学のキャンパスはカルトの草刈り場となる。なぜなら、親元を離れ、親しい友人もおらず、大学に自分の居場所をまだ確保していない新入生ほど勧誘しやすい若者はいないからだ。 カルトとは、正体を隠した勧誘や承諾誘導の心理的テクニックを用いて市民をメンバーに囲い込み、組織拡大のために勧誘や資金調達に動員させ、それらの違法行為が社会問題とされる団体のことをいう。バイタリティーあふれる若者や資産家の高齢者を狙いうちする団体も多い。心を許せる人がいない人に優しく近づき、この人なら信頼できると思わせておいて活動に誘い込む。 大学では新入生ガイダンスの際に「カルトの勧誘」と注意喚起するが、カルトを名のるカルトはいない。擬装サークルが勧誘してくるので、団体名・活動内容の確認が重要だ。 公安調査庁の調べによると、2011年にオウム真理教(Aleph)が獲得した新規信者200人余りのうち、北海道だけで75人を数えた。信者は青年層が大半とされ、SNS(ブログやミクシィ、フェイスブック等)での書き込みで知り合い、喫茶店で話し込むうちに札幌市の支部に誘われている。オウム事件が風化した現在、この教団に入信する学生や青年が増えているのだ。なぜか? カルトを知らないからだ。オウム事件、統一教会の霊感商法、摂理の教祖による女性信者へのセクハラ等々を知らない学生・大学院生が多い。教団名を出されてもそれがカルトと気づかないのである。 入信の見分け方は難しいが、表面上は礼儀正しくなり、人生観・世界観を級友や親に語り始める学生がいる。短期の旅行と称してカルトのセミナーに参加する。アパートを引き払い、友だち同士で住むと言い出す。学資・生活費と偽って親から金ももらい献金してしまう。組織から友だちを導くようノルマが課され、クラブやクラス、バイト先で勧誘する。そうした姿が友だちや教員に目撃され、大学から連絡を受けた親は驚き、怒り、悲しむ。 親や教員が本人に問い詰めても、物証(カルトの教本や教祖の写真等)がないかぎりメンバーであることは否認される。仮に認めても既にやめたとか、たいしたことがないといい、活動を継続することが少なくない。こうして学生時代をカルトのメンバーとして過ごすとどのような人格が形成され、どのようなリスクを負ってしまうのか? 《1》詐欺、暴力といった違法行為に加担させられる《2》合理的判断能力や市民的規範意識がなくなる《3》自身の全財産を提供するだけでなく、将来も献身・出家と称してカルトの専従者となる《4》教祖や上司に全ての判断を仰ぐ依存的パーソナリティーになる(信仰心と誤解する)可能性が高い-などが挙げられる。 09年、筆者も呼びかけ人となって「全国カルト対策大学ネットワーク」が結成され、現在120大学の教員・学生支援職員がカルトの予防啓発を行っている。学生の信教の自由(特定の宗教を信仰する自由に加えて、宗教を信じない自由および宗教の選択において自己決定権を侵害されない自由も含まれる)を守り、安心して学べるキャンパスを作ることは大学の責務である。また、カルトのメンバーとなった学生を導き、親からの相談にのることも学生相談室の業務である。 カルトに入ってしまった学生には、高校を卒業したとき、大学に入学した時の気持ちを思い起こしてほしい。君は何をしようとしていたのか。その原点こそ、カルトから脱会し、回復する基点になる。 <略歴> さくらい・よしひで 北大大学院教授(宗教社会学)。61年、山形県上山市生まれ。北大文学部を卒業後、同大大学院文学研究科博士課程を中退。04年から現職。著書に「カルトを問い直す」(中公ラクレ)、「霊と金」(新潮新書)、「統一教会」(北大出版会)など多数。 【写真説明】新入生を待つキャンパス。同時に、カルトも新入生を待ち構える 北海道新聞社