水饅頭
店頭に並べられた水饅頭は透明な葛に餡が透けていて、見るからに喉越しがよさそうだ。「涼しそうな和菓子ですね。」「そうよ。水饅頭と緑茶があれば、暑さを忘れられるわよ。」「とうとう夏が来てしまうんですね。」今、読みかけの、瀬尾まいこの小説、『春、戻る』の一節。主人公の37歳になる女性は、ひと昔前なら、婚期を逸した女性、と表現されてもおかしくないのですが、和菓子屋の跡取り息子と、間もなく結婚を控え、相思相愛でもない相手と、このまま結婚して大丈夫なのだろうか?と、ちょっぴり疑問を抱きながらも、「これでいいんだ。人生ってこんなもの。」と一生懸命言い聞かせて、嫁ぎ先となる和菓子屋に、せっせとお手伝いに通っています。夜の食材を求めて、駅前のスーパーに入ると、真っ先に目に入ってきたのが、『水饅頭』。今迄にも陳列してあったのでしょうが、今日初めて気付きました。小説を読んでいると、色々知らなかったことを学ぶ喜びもあります。和菓子用の『黒文字楊枝』も、知らなかった呼び方です。「へえー、これがあの小説に出てくる水饅頭かァ。」向学のために、買って帰ることに。帰りのバスのなかで、肝心の買う予定の明日の朝食のパンを、買い忘れてしまっているのに、気付きました。明日の朝ごはんは、『水饅頭』にしましょう。