叙々苑の考え方 最終回
焼肉店のメニュータン塩、上カルビそして食後のデザート、会計の時のガムのサービス。。。これらは、叙々苑(じょじょえん)ではじまり全国へ広がったサービスです。創業者、新井泰道かれは中学校を中退している。。。新井”わたしがはじめからこの仕事(焼肉店)が好きだったかといえば、 実はそうでもないんです。たまたま最初に入った(勤めた)のが、 焼肉店だったというだけのことなんです。””うちの家は、とても貧しかったんですよ。””昭和30年代ごろは、まだ日本はそれほど豊かではなかったんです。””私は横須賀の中学校に通っていたのですが、 当時、まだ給食というものがありませんでした。””みんなお弁当を持って学校に行くのですが、わたしは持っていけませんでした。 いまでも強く覚えています。 お弁当の時間になるとね、教室を出て 階段の下でじっと、ひとりで昼食の時間が過ぎるのを待っていました。 水だけ飲んでね。””いま、思うと、映画に出てくるシーンのようですよね。””教科書代も払えないし、定期券も買えないから、今でいうキセルのようなことをしたことも ありました。 そういう生活だったから、一日も早く家を出て、自分で働いて、稼いで、 食べたいものをおなかいっぱい食べられるようになりたいなあと、思っておりました。 それで、中学3年の時、中退し、学生服のまま家を出て、 新宿の焼肉店へ行くことになったんです。 朝は7時45分から、夜は11時までめいっぱい働きました。 休みは一ヶ月に2回、それが普通の毎日でした。 今みたいに、働きすぎるとダメとか、そういう時代ではなかったです。 働けるだけ、しあわせでした。。。。。。。。。。。。たたき上げの新井の話はおもしろい。新井”独立して飲食店を始める場合、 ホールスタッフが独立した店と、料理人が独立した店とでは、 大きな差が出ます。 ホールで修行して独立した方が、店を成功させる確率は圧倒的に高くなります。 なぜ、料理人の店はダメかというと、 料理人は、厨房の中の世界しか知らない。お客様とほとんど会話をしないから、 自分だけの世界で終わってしまうのです。余談だが、確かにすぐれた料理人として、テレビに盛んに登場していた方の店。。。あんがい繁盛していない場合が多い。。。新井”では、なぜホールスタッフがいいかというと。。。””たとえば、お客様が、最初に皿のどの部分から手をつけられるか、””このことがとても重要なんです。 なぜなら、最初に食べたものが良ければ、”美味しい”と感じ、 結果、”このお店美味しいよね。”となるんです。””一方、お肉は同じ部位でも、味は、どうしても少しずつ違いが出ます。 すべて同じというわけにはいきません。””脂の入り方も少しずつ違います。””だから、同じ皿でも、肉は一枚ずつ味は違うのです。””でも食べ続けてゆくと、人間の味覚は慣れてしまって、ある程度の違いがあっても 差は感じなくなるもんなんです。””だから、当店も、はじめのうちは、 いちばん上に、いちばん美味しいお肉を盛り付けておりました。””しかし、現実はそうじゃない。””お客様は、いちばん上からはお肉を取ることはないんですよ。 だいたい2枚目から3枚目の肉のところに箸を入れて引き出して食べます。 だから、叙々苑では、上から2枚目から3枚目の お客様が、最初にお召し上がり頂く確率の高いところの肉に、 ベストな肉を盛り付けるようにしております。” こういうものの考え方は、 残念ながら料理人にはできません。 ホールの人間の方が良くわかるのです。”新井はいう”わたしの人生はマイナスの出来事も多かったと思います。 たとえば、勤めていた焼肉店が突然、倒産してしまったこともありました。 しかし、もし、そのお店が倒産しなかったら、 たぶん私は、今もそのお店で板前として働いていたと思います。 居心地の良いお店でしたから。”。。。。。。。。。。。。。日本人で、叙々苑を知らない人は少ないと思う。しかし、叙々苑をつくった男が、中学生時代、教科書が買えず、昼食時には、水だけ飲んで飢えをしのいでいた男だと知っている人は少ないと思う。 完