珍さんのトラブル・ガイド・博多編(その2)
(7)玄海五進法 せーっかく「玄海四進法」を御理解頂いたのですが、実はもうひとつ福岡ならではの数学体系が有りまして、これは福岡というよりは福岡の郡部を中心とする地域で使用されているもので、「玄海四進法」ならぬ「玄海五進法」という体系が有ります。 これは本土の数学にも「ユークリッド幾何学」と「非ユークリッド幾何学」とが存在するのと同様であります。「玄海五進法」を知らずに福岡県の郡部に迷い込みました場合には、殆ど命の保証ができません。万一命は助かっても皆様の大事な左手の小指が玄海灘のフナの食卓にのぼる事は間違えありません。それほど恐ろしい数学ですから、ここから先は心して読んで下さい。 またこの章を読めば、(1)税関で--の章で税関の係員が指を五本出して「これは何本に見えると?」と尋ねた時の正しい解答がお分かりになる事でしょう。先に「玄海四進法」は福岡市内で使用され、「玄海五進法」は郡部で使用されると書きましたが、正確には、口語体の数学の場合は「玄海四進法」を使用し、手で数える数学の場合に「玄海五進法」を使うと言った方がより現実に近いかと思われます。 さて「玄海五進法」ですが、要するに手で数を数える場合に福岡県郡部特に北九州の周辺地域あるいは大牟田あるいは福岡市中心部のパチンコ屋などでは、口で「四」と言う代わりに左手を広げて「四」を示すとチャーンと四千円分のパチンコの玉をくれます。これは決して四百円の間違いではありません。 福岡県は恐らく日本一失業率の高い地域でありまして、これは「ツゥーキィーガァーデッタデッターツゥキガァーデタァーアヨイヨーイ」の三池炭坑が戦後の高度成長期あるいは石炭から石油へのエネルギー革命が起きた時期に、経営者の対応が悪かったため、急に石炭産業自体が没落産業となった結果であろうと推察するのであります。 ところが、民主主義の悪平等が彼らに失業保険あるいは生活保護費の名目で金をバラまいたわけで、当然、自分の体を使って稼いだ金では有りませんから、有り難味が無い訳です。従って見るからに生活保護を受けているキッタネー土着民のババーどもが、くわえタバコで左手を出しては四千円づつパチンコ玉を買っていくわけです。 私のような○○新聞社というチョー・エリート社員ですら三百円づつ玉を買うのに、あの土着民が四千円づつ玉を買うのですから、世の中一体どうなってるんでござんしょうかねー。 ところで、賢明な皆様の事ですから何故、左手を広げたのに四千円なのかという疑問をお持ちかと思いますが、これには深くてくらーい理由が有るのでして、福岡県の郡部を中心として江戸地代からの古い因習がまだ続いているのです。 それは、赤ん坊が生まれるとすぐに左手の小指をブッタ切るという非常に残酷な風習です。また、もし赤ん坊の時に小指を切らなくても、成人式の日までには必ず四本指にするようです。 もし大人になっても小指が残っていると「あいつは五本者だ。変人だ。村の恥だ」と他人から四本指でうしろ指を指されるのです。だからマットーに育った福岡の大人は殆ど左手の小指が有りません。従って会話の時には「玄海四進法」に基づき「イチ・ニ・タクサン」と言いますが、手話の場合には「イチ・ニ・サン・タクサン」という「玄海五進法」を使います。 そういう訳で彼らにとって「五以上」の数は「もうターックサン」になるわけです。ここまで説明すればもうお分かりですね?税関では五本の指を見せられたら「ターックサン」と答えるのが正解です。それと福岡では人前で五本指を出すと、ヘタをすれば、哀れにも皆様の小指は皆様の所有物ではなくなってしまうのです。 これは本当に本当ですが、先日の朝日新聞によれば福岡県の大川市という町では、昨年一年間で、家具製造工場の従業員の指五百本が持ち主の元を離れ去ったとの事です。本土では絶対に信じられない事ですが、こちらでは、日常茶飯事です。ヒョットすると福岡県民の小指はトカゲのしっぽのように、切ってもきってもまた新しい指が生えてくるのではないかと思います。 そんな訳でもしも皆様方の中に、なんらかの精神状態に有る時に「ハーイ」と言って片手を上げるような癖の持ち主がいらっしゃるとすれば、博多に来られた節は是非、左手の小指は内側に折ってホウタイで隠しておく事をお勧め致します。 また、皆様のかわいいお子様には「ムースーンデーヒーラーイーテー」と歌いながら手を開く時に、必ず小指を折り曲げて開くように御指導されるよう御注意申し上げておきます。 以上、「玄海四進法」並びに「玄海五進法」を御理解されたならば、福岡に来られた場合には三以上は「ターックサン」と言うようにしておけば良いという事も簡単に御理解された事と存じます。それでは皆様、「小指の思い出」を追うハメにならないように!