子どもの可能性を開く喜び
子どもの可能性を開く喜び信越教育部女性部長 齊藤 順子 〔プロフィル〕さいとう・じゅんこ創価大学を卒業後、公立小学校に勤務。特別支援教育士。弘仁心理士。1962年(昭和37年)入会。新潟県三条市在住。女性部副本部長。 「ことばの教室」で自立を支援一つの出会いには、人生を変えるほどの力があります。大学4年の時、小学校で教育実習を終えた私に、児童たちはメッセージカードを贈ってくれました。その中に、「算数が楽しかった」との言葉が。書いてくれたのは、実習中、一番時間をかけた男子児童。彼は算数が大嫌いでした。彼と接したのは、わずか2週間。彼の変化に心打たれ、教育の道を歩み抜くことを決意しました。卒業後、地元・新潟の小学校の教員に採用され、通常学級を15年間、特別支援教育を24年間、担当してきました。子どもの自立と社会参加を見据え、その子どもに最も適した教育を提供する――それが特別支援教育の役割です。私は主に、言語障がいの通級指導教室、通称「ことばの教室」を担当してきました。子どもたちの発音の誤りを改善したり、コミュニケーションを向上させたりする仕事です。通教とは、1週間のうち数時間だけ特別支援教育を受ける制度。1こまごとに、子どもが入れ替わります。一人一人、課題が異なるので、きめ細かな学習方法で応えています。子どもの幸福のために、自分に何ができるか試行錯誤の連続でした。 小さな変化を褒める特別支援教育の担当になった頃、「なぜ、教えたことを忘れてしまうの?」と、自分の尺度で子どもと接触してしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。今では、子どもの状況に応じて触れ合えるようになりましたが、当時の私には、多くの人とは異なる、その子に適した学習法が分かりませんでした。「子どもの可能性を開けるように」――。題目を唱える中で、「教育の原点」ともいわれる特別支援教育に携わる姿勢を見つめ直しました。そんな時、「一代の肝心は法華経、法華経の修行の肝心は不軽品にて候なり」(新1597・全1174)との御文を拝しました。不軽菩薩は、一切衆生に仏性があると信じ、どんな人をも敬い続けた菩薩です。御文の続きでは、あらゆる人を敬う振る舞いをする示すことが、釈尊がこの世に現れた根本目的である、と結論されています。子どもたち一人一人に仏の生命が具わっていることを確信し、子どもたちの幸せを願い、寄り添うことが一番大切だと気が付いたのです。不軽菩薩の実践に、理想の教育者像を見ました。次第に、授業で教えたことが身に着くまで時間がかかっても、〝必ず分かってくれる〟と信じられように。授業の終りには、子どもと一対一で向き合って、「ありがとうございました」とお礼を述べ合います。〝教育にとって大切なことを教えてくれて、ありがとう〟――心から、そう思えるようになりました。また、小さな変化を見つけて、すぐ褒めるようになりました。「〝力〟の発音が上手になったね!」――親指を立てながら、感動を全身で表現するようにしています。子どもは、大人の気持ちを敏感に察知します。だから、子どもの成長を心から喜び、たたえれば、必ず通じるのです。こうした積み重ねを通じて、子どもたちが自らの言葉で表現できるように成長する姿に、可能性の豊かさを教えてもらいました。 探求心を燃やして特別支援教育を必要とする学齢期の子どもの数は、ここ10年で2倍に増え、約53万人(昨年度)といわれています。発達障がいなどに対する社会の認識や理解が深まり、診断を受ける人が多くなったこと、学びの場が整備されてきたことが背景に挙げられます。しかし、専門知識や経験豊かな教員の育成が追い付いておらず、児童や保護者の要望に応えきれない課題があります。池田先生が「教司こそ最大の教育環境」と言われているように、学校教育においては教員の姿が子どもの成長に直結します。そこで、自身の経験を若手の教員に伝えるようにと、「おひさまカフェ」という研修会を2年間、隔月で開催しました。経験の浅い教員は、多忙さから心が削られる場合もあります。若い教員を孤立させずに、チームで仕事に当たる大切さを伝えてきました。また、最新の研究や、専門知識を学ぶことも大切にしています。仕事と学会活動の合間を縫って、机に向かい、資格試験にも意欲的に挑戦。これまで、特別支援教育士、公認心理師を取得しました。子どもの気持ちを一層汲み取れるよう、臨床心理学を学び、カウンセリングの研修も続けています。先日、友人から、「なんで、そんなに頑張れるに?」と驚かれました。探求心を燃やして自分が成長してこそ、子どもの可能性を開けると確信しているからです。池田先生は、『わが教育者に贈る」で、「全生徒から信頼される先生」との指針を示してくださいました。この三者からの信頼にこたえ、子どもたちの笑顔が輝く社会を築いていきます。 視点教育は共育日蓮大聖人は「宝や財宝を積んだ蔵でも、鍵がなければ開いて、中の財宝を見ることはできない」(親36・全943、趣意)と仰せです。あらゆる人に具わる仏界を開く、信心の実践が大切であると教えてくださっています。子どもも本来、困難を乗り越え、幸福に生きていく力を持った存在です。その可能性を信じて関わる、齊藤さんの自身の「人間革命」が、子どもの可能性を開く「鍵」となりました。池田先生が、〝教育は共育〟と言われているとおり、大人と子どもが共に成長する中に、真の人間教育があるのです。きょうまで「未来部勝利月間」。受験を控えるメンバーをはじめ、後継の宝をあたたかく育んでいきましょう。 【紙上セミナー「仏法思想の輝き」】聖教新聞2022.12.18