できることを一生懸命に
できることを一生懸命に山口大学教授 小川 仁志 テーマ 物事の優先順位が分かりません 君は饗宴においてのように振る舞うべきだ、 ということを記憶しておくがいい エピクテトスものごとの優先順位が分からないが為に悩む人がいます。本来、手を出すべきでないことを先にやろうとしたり、逆に今すべきことをやらずにチャンスを逃してしまったりということがあるのです。では、いったいどうすればいいのか。そこで参考になるのが、古代ギリシアの哲学者エピクテトス。彼は奴隷だったのですが、解放されてから哲学を志します。その歴史に名を残すストア派の哲学者になりました。ストアはというのは、ヘレニズム期の思想グループで、禁欲主義をモットーにしていました。エピクテトスも禁欲主義を唱えていたわけですが、それは単に我慢するということとは異なります。そうではなくして、どうしょうもないことを求めたり、得られないもののためにエネルギーを注いでも仕方がないと説いたのです。そうして、自分ではどうにもならないことを軽く見よと説いたのです。その一方で、できることについては一生懸命やるように訴えました。それを象徴するのが、料理の比喩です。古代ギリシアの宴会では、大皿に乗った料理が順番に回されていたようです。皆さんも自分の欲しい料理を見つめて、早く回ってこないかなぁとやきもきしたことはありませんか? その時エピクテトスは、自分のところにやってくるまで待ちなさいと言います。それが饗宴の時のように振る舞えということの意味です。つまり、まだ前のほうにある料理を取ろうと思っても、それはかなわないことです。ならば、料理が目の前に来た時さっと取ればいいだけのことです。エネルギーはいざという時のためにとっておけばいいのです。人生の優先順位は、そうやって決めればいいのです。◇エピクテトス(50年ごろ―135年ごろ)。古代ギリシアのストア派の哲学者。著書はのこさなかったが、その言葉は「語録」や「提要」にまとめられている。(おわり) 【先人が伝える人生のヒント16】公明新聞2020.3.26